470 九七式暗号機B型のコードネームとか知らないし
私はサユリにゴーサインを出した。
サユリはこくりと頷くと今朝私と話した内容を四人に伝えた。
その内容は、以下の通りだ。
私のコンピューターがグレードアップしたこと。
私の絶対防御を中和しうる謎の男の存在。
事故にはBTAFとその謎の男が関与していること。
蟹江さんたちは目を大きく見開いて真剣にサユリの話を聞いていた。
特に早見さんは食い入るようにこちらを凝視していた。
こ、こわいお……。
サユリは次の事柄を話していいか早見さんに確認すると、敵によるハッキングの内容についても皆に伝えた。
それは、昨日その男の能力でサイバーポリスのコンピューター内にあるデータが改竄されてしまったこと。
そして、BTAFにはフィナの力を無効化する謎の男以外にも未知のスキルを持つ存在があり、その者が余剰次元的干渉により自動運転システムへのハッキングを行ったことなどだ。
但し、七天子やそれを救出したらしい誰か、そしてベルゼ何某についてはここでは口にしなかった。
恐らく七天子について話し出すと殊更ややこしくなってしまうので、伝えるなら後ほどの方がいいと思ったのだろう。
六分割されたモニターには驚愕した表情の四人が映し出されていた。
蛯名さんは眉を顰めながら私に尋ねた。
「その、コンピューターさんとは私たちもお話ができるんでしょうか?」
私は早速、心の中でコンピューターに聞いてみた。
>大丈夫?
>可能です。ただ先程と同じようにお話しする内容はこちらで制限させていただきたいのですが、よろしいですか?
私は満面の笑顔で答えた。
>勿論、よろしいですよ!
>あと一つ、空知さんにつきましては既知の情報に差があるようです。できましたら先日の早見さんたちとの会話の内容についてお話してくだされば説明がしやすくなると思われます。
>ああ、みんなで話した時のやつね。分かった! 聞いてみる!
私はそのことについてサユリに相談してみた。
それを聞くとすぐに、サユリの方から蟹江さんたちに確認してくれた。
「一昨日の晩に話し合われた内容について、空知副社長はもうご存じなんでしょうか?」
すると空知副社長は首を傾げながら蟹江さんたちに質問した。
「なあに、それ。あの事件のことかしら。もしかして、あの後何かあったの? 私にも教えて。」
蛯名さんは蟹江さんに促されて先日早見さんたちと話した内容を空知副社長に伝えた。
ただ、七天子についてはやはり犯罪かどうかなどの疑問が生じる恐れがあったので、協力的な情報提供者ということで敢えて軽く触れる程度にしていた。
蛯名さんはそれを伝え終わると、空知副社長に今まで報告していなかったことを謝罪した。
「すみません。次の社内会議で議題に挙げようと思っていたものですから、お伝えするのが遅くなってしまいました。」
空知副社長は笑みを浮かべて蛯名さんを見た。
「気にしないで。まさかこんなことになるとは思ってもみなかったでしょうからね。私もなんだけど!」
蟹江さんが私に尋ねて来た。
「こんなところでいいのかしら? コンピューターの方は……。」
実は、私は先程からちょっとした違和感を覚えていた。
コンピューターって呼ぶのも何かなぁ。これは……名まえを付けるっきゃない!
私は前から気になっていた事柄についてコンピューターに問いかけた。
>あのさ、いきなりなんだけどピーチってあなたの端末なの? あのボカロボットの……。
>ピーチは端末という類のものではありません。ただ基本メモリーは私のそれを基盤としています。
>そっか、じゃあ姉妹みたいなものね……。分かった。そんじゃあ、あなたの名まえは今からパープルよ!
>パープル……素敵な名まえですね。ありがとうございます。暗号は解読されてしまいそうですが……。
>え?
>いえ、冗談です。
私はみんなに今命名したばかりの名を告げた。
「コンピューターっていうのも何だから、これからはコンピューターのことをパープルって呼ぶことにします!」
サユリは私のアイデアを歓迎してくれた。
「あ、私もさっきから呼び難かったからよかった! 改めてよろしくね、パープルさん!」
「こちらこそよろしくお願いします。」




