45 箱入り娘の旅立ち
さてと。新しい部屋でも増築するかな。
そう言えば前から気になってた『庭』というオプション。
忙し過ぎてすっかり忘れていたが……。
これって外に出られるってやつ?
この部屋の外って一体どうなってるんだろう。
私はゲーミングチェアに座るとポイント変換のフォームを呼び出した。
「お、やっぱりあったか。」
早速『庭』をクリックすると、メッセージが表示された。
【庭の作成について】
庭を作成することにより、あなたは部屋の外に旅立つことができます。
果てしなく広がる空間をあなた好みにカスタマイズしちゃいましょう!
【作成方法】
次の手順で操作を行ってください。
①『玄関』を選択、作成
②『家の外観』を選択、作成
③庭の大きさを設定
④庭周りを選択、設定
⑤外部空間の『景観』を選択、設定
ウヒョ~。結構手間がかかりますよ、これは……。
先ずは①から。あ、『自動』があんじゃん。これでいいや。ぽちっとね。
すると部屋の図面が表示され、今私がいるこのモニター室の左下に部屋ができており、その片隅に玄関らしき長方形が加えられていた。
[現在の私のお家の状態]
寝室(12畳) モニター室(12畳) 居間(36畳)
玄関室(仮)(12畳) 衣裳部屋(12畳) レッスン部屋(36畳)
②家の外観も取り敢えず『自動』でと。
モニターに映し出された家の外観は窓も何もない直方体の箱で、配色は家の壁と同じ桜色となった。
ま、ライフラインいらんからね。後から変えられるみたいだし、これで行こう。
③は庭の形だ。これは家の周りを適当に長方形で囲んでおいた。
掃除しないでいいから広くても大丈夫と。
④は庭の囲いと門か……。
これは周りが見渡せる牧場の様な囲いと、それに合ったシンプルな門を選択した。
後で変更可ってのは強みだね。
⑤さて、問題の外部空間か……。『景観』をクリックすると選択肢が表示された。
・自然
・村
・街
・大都市
まあ先ずは『自然』でいっかな。
・自然A……平地でそこそこ山林がある。池や川も程よい距離にある。
位置等の変更可。
・自然B……山中。周囲は森。池や川が程よい距離にある。位置等の変更可。
・自然C……雪原。林や池、川が程よい距離にある。位置等の変更可。
・自然D……農家。牧場あり。林や池、川が程よい距離にある。位置等の変更可。
・自然E……その他。
うん。ま、無難なところで『自然A』ですかね。ぽちり。
さてと、できたみたいだ。
「早速言ってみちゃうよ。お外へ!」
私は玄関室(仮)に向かいながら思い出していた。
そう言やここに転生してからというもの、私ずっとこの狭い空間に閉じ込められていたんだよね……。
私は寝室を経由して玄関室に入り奥の玄関へと近づいた。
お、結構いい感じの玄関じゃん。広いし、かわいい靴箱もあるし……あ!
「靴、ねえよ!」
完全に靴の存在忘れてたよ。と思いながらも扉を開ける私。
「……!」
そこには懐かしい『外』があった。
私は靴下のまま外に一歩踏み出した。
少し冷たい空気の匂いが人間であった頃の感覚を思い起こさせた。
2歩、3歩と踏み出して上を見上げた時、初めてその存在に気が付く高い青空。
私は思い切り深呼吸した。
「ああ、めちゃくちゃ気持ちいい!」
私は家をぐるりと1周しながら周囲の様子を見まわした。
ゲームの世界でも自然の風景を楽しめたけど、ここは何かこう……本物だ。
少し先に小さな丘や林が見えた。そして、その向こうには山々が広がり緑色の木々を湛えていた。
何かこうなって来ると窓や縁側も欲しくなるよね。
庭もこれじゃあ殺風景だし……。
そう言えば……何か寒くね? ここ寒くね?
今って夏だよね……。
寒暖感知スキル切っときゃよかったかな。
でも、それもちょっとなあ。
取り敢えず今日はこれ位にしておこう。
(後で分かったことだが設定が1月になっていた。)
私が部屋に入ろうとしたその時、突然ピーヒョーという鳴き声がした。
上空を見やると一羽の鳥が右から左の方角へ羽をはばたかせながら飛んでいくのが見えた。
「おお、生き物もいるんだ。」
そう言えば庭の外って出られるんだよね?
私は門の所まで行き、外に出られるか一応確認してみた。
1歩。2歩。
「うん。出られる。」
確認完了。
私はとんぼ返りして家に入り、居間に行くと暖かい紅茶を入れた。
そしてソファーに横になると今後の素晴らしき改装に思いを馳せた。
庭の改装もいいけど、ちょっと外の世界を散策してみるのもいいな。




