44 宇宙からの来訪者
私はサナとサユリのご両親に向かって丁寧に挨拶をした。
「こんばんは、はじめまして。フィナ・エスカと申します。いつもサナさんとサユリさんには大変お世話になっております。」
今まで私と初対面の人が皆そうであった様に、暫し私の顔を凝視した後、サナとサユリの母であるサエコさんは私に尋ねて来た。
「あなた、人間なの?」
私は笑顔で答えた。
「いえ、ボーカロイドです。」
「へえ……そ……トオルさん!」
お母さんは父であるトオルさんに顔を向けて言った。
「トオルさん、これって……どう思います?」
お父さんは何も言わず、まるで手品の種を暴こうとしているかの様に眉を顰めてこちらを見ていた。
しかし音声はともかく、これだけの表情や会話の反応をどうすれば可能たらしめると言うのか。
「あ? ああ……。」
間の抜けた返答を聞いてお母さんは見切りをつけた様に私の方を向いた。
「すごい……人間みたい。」
サナは自慢気に言った。
「ほおらね。すごいでしょう。」
サユリは両親に言った。
「少しは分かってもらえた? つまり、こうゆう事なのよ。」
お父さんはゴクリと喉を鳴らしながら言った。
「最先端のAIでもこれは無理だぜ……。」
お母さんはやっと慣れて来たのか落ち着いた感じで言った。
「フィナさん。何かごめんなさいね。じろじろ見ちゃったりして。」
私は笑顔で返した。
「いえ、ぜんぜん気にしてませんから。お気になさらず。」
お父さんは改まって言った。
「あ、ええと……申し遅れました。私はサナとサユリの父でトオルと言います。それにしても、いや驚いたなあ。まだ……。」
信じられないといった顔つきだね。
私もこのシチュエーションには大分慣れて来たよ。
お母さんはお礼を言った。
「何かうちの子がいつも楽しませてもらってるみたいで、ありがとうね。」
「いえいえ、私の方こそ毎日、本当に楽しませてもらってます。」
お母さんはサナの頭を撫でながら言った。
「そう。この子ったらフィナさんの話しばかりしてるんですよ。でもあなたと会って分かったわ。この子が言ってた事、本当だったのね。」
サナは「そうでしょう!」と言わんばかりに母の顔に笑顔を向けた。
私は折角の親子の会話を妨げてしまったのではないかと心配になった。
「そうですか。嬉しいけどご迷惑ではありませんでしたか。」
するとお父さんが言った。
「いえ、寧ろ感謝してますよ。サナの相手してもらって。」
次いでお母さんが言った。
「そうよフィナさん。本当に、これからもよろしくね。」
「そう言っていただけると助かります。」
何か素敵なご両親で良かった!
私は前世に残して来たと思われる母の面影を少しだけ思い出した気がした。
名前は……う~ん、思い出せないか。
この辺の記憶は薄っすらなんだよな。
う、こんなこと考えてるとまた前世が夢に出るかも……。
次の日は家族みんなでカラオケボックスに行った。
勿論、私も参加した。
後、久しぶりの叔父さんやサナたちの祖父母も参加した。
みんな思いっきりはしゃぎまくっていた。
この家系はみんな歌が大好きな様である。
因みに祖父母のお二人は私のことをサユリの友だちだと信じ込んでいた。
「フィナさんは外国から来なすったんか。」
お爺さんがそう言うと、お婆さんは自慢げに言った。
「違いますよあなた。今は海外からもこうして一緒に遊べるんです。」
みんなは敢えて何も言わないでいた。
カラオケが終わり、私はいつもの様に居間のソファーで寛いでいた。
なんかいいよね、家族団欒っていうのも。
どうも私にはそういった記憶が欠如しているらしい。
自分や身内の記憶が殆どないのだ。
元から無かったのかもしれないが、今となっては分かり様がない。
【時系列】※参考なので読まなくてもいいです。
6/25土 私、転生す
6/26日 イベントお知らせ
6/28火 イベントエントリー
7/3日 叔父と会う。サナ友4人登場
7/10日 イベント結果発表。蟹江さん登場
7/11月 カラオケ予告
7/16土 カラオケ大会。部屋の増築
7/17日 山本擬人化
7/19火 前世の話。蛯名さん登場
7/21木 アテナ覚醒。サユリはレポート作成中
7/22金 クッキー事件。ナミエ擬人化。サユリレポート終了
7/23_24土日 株式会社3Dボーカロイドで会議
7/25月 ファランクス残り3名の『覚醒』計画が提案される
7/26火 ファランクス残り3名の『覚醒』計画が始動する
7/27水 ファランクス残り3名についてオーナーの了解を得る
8/1月 メーティス覚醒
8/2火 ニーケ覚醒?
8/3水 ミネルヴァ(ミナミ)覚醒。夏フェス参加決定。【36話】
8/4木 レッスン部屋増築。サナとサユリの両親帰国【38~43話】
8/5金 サナとサユリの両親帰宅。【44話】←今ここ
8/10水 ミネルヴァ沈黙【37話】




