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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
43/623

43 プロジェクトY

 私は更なる疑問を口にした。

「何で山本はほっとかれてるんですかね。普通あそこまでやったら……。」


 蟹江さんがあからさまに頭を抱えながら答えてくれた。

「まあ、何度も務所送りになってるからね。ただ、ああ見えて山本春子は国家プロジェクトに関与してるのよ。本人は分かってんのか知らないけど。」

「え? 国家……国が絡んでるんですか。」


 蛯名さんが付け加えた。

「そう、負傷者が出てないとは言え被害多数。その尻拭いは国の方がやってくれているんです。」


 蟹江さんが少し困った様子で言った。

「と言っても、国の研究機関からうちの会社がやっていたプロジェクトに参加要請して来た感じなんだけど。」


「へえ、国からなんて凄いですね。何のプロジェクトなんですか。」

『プロジェクト山本春子』とは……。


「AIってほら、サイバネって言うか……人間の思考や好みなんかがベースになってるじゃない。」

「はあ。」

 サイバネ?


「まあ、それだけじゃないんだけど。特にボカロなんかはオーダーの思考や好みに沿って成長して行く様に制御されてるでしょ。」

「はい。それはわかります。私も感化されてますし。」


 蟹江さんは微笑みながら言った。

「いえ、あなたのは多分違う。」


 蛯名さんはその言葉に反応した。

「そうですね……。まあ、フィナさんの思考の元は恐らくコンピュター以外の所から来ている可能性が高いと思われます。」


 蟹江さんもその意見に同意した。

「そうね。どうなってんだかわかんないけど。まあ、そんなこと言ったら私たちも同じなんだけどね。」


 蛯名さんは目を輝かせながら言った。

「はい。大脳の物理的機能や化学反応だけで全てが決まるのであれば私たちはまるでロボットですから。ただ、この謎は今すぐ解明できるものではありません。」

 山本の話から大分高尚だいぶこうしょうな話しになったな……。


 蟹江さんは話しを戻した。

「で、話し戻すけど。それまでのAIは正にロボットで情報の質と量を増やすことが即ち成長だった。勿論それは人間が入力したものだけど。」

「まあ、そうでしょうね。」

 私の世界でもそんな感じだったよ。


「でも、ボカロというプログラムの性質上、品行方正な優等生ばかりのAI群ではどうしても物足りない。対処できない。」

「確かに。当たり前の事ばかり言われても面白くない人もいますよね。」私みたく。

「そう。そこで、AIをよりリアルな人間の思考に近づけようと新しいプロジェクトを立ち上げたわけ。」


 私はなんとなく理解できて来た。

「成程。そこで山本ですか。でもあいつ、逆に普通の人からかけ離れている様な……。」


「ええ、まあこういった実験にはよくある事だけど、その特性を見極めるためにある程度極端な状態にしてあるのよ。」

 この世界の技術が進んでるのはこの人たちのお陰……。


 蛯名さんは目を落として言った。

「まあ、こんな事になるとは思わなかったんですけどね……。」


 蟹江さんは言った。

「そうね、プロトタイプは余りにもひどい出来だったんで凍結したんだけど。」

 ……まさかそれって山本の母親か? 社長の隠し子とか言ってたが……!


 蛯名さんは付け加えた。

「ええ、あれは確かにひどかった……てか非道ひどかったですね。」


 言い直したよ、人の道にあらずって!

「それって、もしかしたら山本の母親ですか?」


 二人は少し考えている様子だった。

「う~ん。まあ、ある意味そうとも言えるかな。このプロジェクトの一環いっかんとして山本たちAIが住む社会というか世界? みたいなもんを創設したんだけど、その場におけるAI相互の思考イメージとしては形成されやすい結果だと思う。あ、よくわかんないか……。」


「つまり、山本のいる"ナビの国"では母親ってことになると。」

 蟹江さんは笑いながら言った。

「"ナビの国"か! いいねそれ。そう、そんな感じ。」


 蛯名さんが追って説明してくれた。

「山本春子はプロトタイプである山本邪神子じゃみこと冒険王子を掛け合わせて作成されたAIですから、あっちの世界では母親にあたるのでしょう。」

 冒険王子? 当たり前の様にスッと出て来たけど……何じゃそりゃーーーっ!


 私は即座に聞いた。

「冒険王子って、ナビゲーター会社の社長のことですか?」


 蛯名さんは即答した。

「いえ、違います。社長の名前はモジャオですし。」


 モジャオって何ーーーっ‼

「あれ、でもナミエさんが以前、山本春子は社長のその……隠し子? って言うか……。」


 蟹江さんはボソリとつぶやいた。

「あ、その件……。」


 蛯名さんがそれに反応した。

「あれは証拠不十分で起訴きそできなかったんですよね。」


 私は聞いた。

「"起訴"って……まだ何かあったんですか?」


 蟹江さんはその件について教えてくれた。

「山本春子が社長を脅迫してナビ会社に入社したって話し。でもそれは証拠不十分で立証できなかった。」


「ほう、そんな事が……。」

 成程、あいつそれで入社できたのか……。


 蟹江さんは報告書を読みながら話しを続けた。

「ええと、報告書によると山本邪神子じゃみこは過去に『春子はモジャオの子どもだ』等と社長をだまくらかした上恐喝きょうかつして金品を搾取さくしゅしていた……だって。ああ、今思い出したわ、これ。」


 蛯名さんが話しをつなげた。

「まあ、山本邪神子はそれで捕まったんですが。今度は山本春子が娘であることを利用したって訳です。」

 あいつ何の為に入社したんだ?


 そんな時、突然携帯モニターに『情報』が表示された。


【報告】

 サナさんとサユリさんが帰宅しました。

 ご両親も一緒です。


 ああ、まだ色々と聞きたい!

 山本の事もそうだけど、冒険王子とモジャオの名前の由来!

 今日眠れねーよ!


 私はサナたちが帰って来たことを伝えた。

「蟹江さん。何かみんなが帰って来たみたいです。」


 すると蟹江さんは思い出した様に言った。

「あ、そう言えばサユリさんのご両親も帰って来るって聞いてたんだけど。」

「はい、4日程こちらにいらっしゃるそうです。」

「一度ご挨拶に行かなくちゃって思ってたのよ。後で電話するから伝えといてくれる?」

「はい、わかりました。」


 眠れねえよ……。

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