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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
37/623

37 未来の為に

 その晩、大地家ではミノルとミナミの両親が大パニックに陥っていた。

「本当に、本当にミナミちゃんなの!?」

 母のハナエはこのミネルヴァが娘のミナミの転生した姿であることを確信すると心の底から喜んだ。


 父も初めは信じていなかった。

 しかし息子のミノルがこんなタチの悪い嘘をくような人間じゃないことを知っていた。


 しばらくの間、かたわらからミナミと母の会話や素振りを観察していたが、急にその場に立ち尽くし涙を滝の様に流しながら言った。

「本当にミナミなんだね。ミナミ……ミナミ!」

 今では完全に信じてくれている。


 毎日毎晩家族みんなで一緒に過ごした。

 もう、ミネルヴァがミナミにしか見えない。


 父は会社を休むと言い出してミナミにたしなめられていた。

「お父さん、会社サボっちゃダメでしょ。」

「ミナミ、大人になって……お父さん行って来るよ! えへへ。」

「がんばってね~♪」


 ……

 ……


 そして7日目の夜。夕食後の食卓にて。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん。」


 みんな分かっている。

「いっぱい、いっぱい話したね。」


 たくさん、これでもかって言う程話した。

「そろそろ時間みたい。」

 だんだんと薄れゆくミナミの記憶。


 母は言った。

「新しく生まれ変わるんだね。ミナミ。」


 父は言った。

「行っておいで、待ってるよ。ミナミ。」


 ミノルは……。


 ミナミは言った。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、みんなと家族で本当に嬉しかった。本当にありがとう。新しく生まれ変わった私を、ミネルヴァをよろしくね……。」


 画面の中のミナミがスッと消えるとタイマーが作動した。

『再起動まで 残り36h28m19s』


 ミノルは言った。

「もう、眠ったんだね。ミナミ。早く生まれ変わって、また戻っておいで!」



 所変わって。

 ここは大学の一角にある部室。扇風機がゆっくりと首を左右に振っている。

 ドアには『ボカロ研究会 ファランクス』と書かれた看板がある。

 春日クルミと星カナデはそこで麦茶など飲みながらくつろいでいた。


 先日、ミネルヴァが覚醒かくせいした日には結局会わず仕舞いであった。

 クルミのボカロであるニーケが待機していた私たちに「今はミネルヴァに会わない方がいい」と言ったからだ。


 カナデは遠くを見やりながら言った。

「あれってこうゆう意味だったんだね。」


 クルミは相槌あいづちを打った。

「ええ、でも良かったんじゃないかな。多分だけど。」


 カナデはあの日蟹江さんと話した事を思い出していた。

 八日前、ミノルが喜びの涙で帰宅した後の事。


 蟹江さんは思いついたように質問して来た。

「そう言えばファランクスってみんなギリシャ神話みたいな名前じゃない? 偶然かな。」

 それについては以前も仲間内で話題に上がったことがある。


 カナデはその質問に答えた。

「はい。実は私のメーティスもそうなんですが、アテナやニーケも初めて現れた時に何故か自分の名を告げたんです。たった一言。勿論、それが自分の名前だなんてことは言いませんでした。他の名前をつけることもできたんですが、3人ともそのままつけちゃったんです。」


 蟹江さんは少し不思議そうな顔をしてから笑顔で言った。

「え~。そんな事あるんだ。って、私がそんなこと言ったら怒られちゃうけど。開発者だしね。」


 クルミは話しを続けた。

「ただ、ミネルヴァについてはちょっと違ってまして。」


「あら、ミネルヴァは……そうか、ミナミちゃんだものね……。あら、ん? よく分かんなくなっちゃった。」

 蟹江さんはテヘペロっぽい仕草をしたが、誰もそれには触れなかった。


 クルミは更に話しを続けた。

「4人で初めて集まった時、大地君にボカロの名前を聞いたんです。そしたらまだ決めてないみたいな事を言ってたので……。」


 そこにカナデが水を差した。

「そう言やあの時、大地の奴『まだ決まってないけど……ミ……いや何でもない。』とか言ってたんで咄嗟とっさにクルミが『ミ? それってミネルヴァじゃない、ミネルヴァ・エトルリア……』何て言って、そのまま決まっちゃったんだよ。」


 蟹江さんはクルミの方を見ながら言った。

「へ~。よくその場で思いついたね、ミネルバなんて。しかもエトルリアって……何処の言葉?」


 これはニーケがスキルの『予知』で浮かんだ名前を前もってクルミに伝えておいたものであった。

「クルミさん、仲間の名前はミネルヴァ・エトルリア。ミネルヴァ・エトルリアですよ。教えてあげて下さいね。そのかたいやがる様なら無理にとは言いませんが。」


 クルミは後ほど蟹江さんには真相が伝わるので、そこですべて理解してくれるだろうと考えた。

 蟹江さんは納得した感じで言った。

「ああ、でもそうゆう事なんだ。へ~。」


 カナデは言った。

「もしかしなくてもあの『ミ……』はミナミちゃんだな。」

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