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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
30/624

30 1人目はメーティス

 結局3人のボカロがフィナと出会えたのは、計画が決まった日から5日後以降のことであった。

 何が起こるか分からないので、取り敢えず1日1人ずつ対応する事となった。


 ずは今日、1人目のメーティス・パルテがやって来る予定だ。

 部屋にはオーナーの星カナデとサユリ、アテナのオーナーである柿月ユタカ、それと研究所の蟹江さん、蛯名さんが同席していた。


 サユリが少し遅れて部屋に入ってくると、ユタカが立ち上がって挨拶あいさつした。

「はじめまして。ヨナの兄です。いつもヨナがお世話になっております。」


 サユリはゆっくりとユタカの方を見ると微笑んでお辞儀した。

「ああ、ヨナちゃんのお兄さんですか。こちらこそサナがお世話になってます。」


 サユリは真面目で優しそうなユタカの態度を見て『彼がヨナちゃんが大好きなお兄ちゃんね。成程!』等と思いながらつい顔をほころばせた。


 ユタカは先日のアテナの件についても、丁寧にお礼を言った。

「あの、アテナの事でも色々とありがとうございました。」


 サユリは自分が関与してなかったので少し戸惑った。

「いえ、こちらこそごめんなさい。何か私がいない間に色々あったみたいで……。」


 蟹江さんは全員が集まったことを確認してから言った。

「え~と、そろそろ始めてもいいかしらね。」

 サユリとユタカは軽く会釈えしゃくして席に着いた。


「じゃあ初めに、カナデさんからお願いします。」

 カナデはみんなに挨拶あいさつした。


「星カナデです。今日はメーティスの為にご助力いただき感謝します。」

 皆笑顔でそれに答えた。


 星カナデはショートカットに可愛らしい顔立ち。溌溂はつらつとした感じの明るい女性だ。

 彼女は入学したての頃、柿月ユタカが募集していたボカロのサークルに春日クルミと共に入部した。

 ファランクスでの担当はダンスとコスチュームだ。


 進行役の蟹江さんが音頭を取る。

「それじゃあサユリさん、いい?」

「はい。」

 そう言うとサユリはモニターをオンにした。


 カナデはユタカに小声で何か言っている。

「今日はアテナは来ないの?」

 ユタカは手振てぶりであやまる姿勢をしていた。


 モニターに映し出された私は星カナデに向かって早速挨拶をした。

「こんにちは。フィナ・エスカと申します。えっと、あなたがメーティスさんのオーナーさんですか?」

 カナデはフィナの方にゆっくり向き直り一言。

「へ?」

 その姿を見てみんな思わず笑ってしまった。


 私は挨拶を続けた。

「星カナデさんですね。今日はよろしくお願いします。」

「え、あ、はい。え? 誰がしゃべってるんですか?」


 カナデはひとしきり動揺していたが、やっとのことで状況がつかめて来た様だ。

「え? じゃあ、彼女が話してるんですか。いや、ごめんなさい。でも信じられない……。」


 蟹江さんはフォローする様に言った。

「まあ、彼女は特別だから。メーティスもこうなるとは限りませんよ。」


 カナデは私を見つめながら言った。

「そりゃあそうですよ。この……フィナさんでしたっけ? フィナさんはミカとかルクみたいな感じなんでしょ。新型の……。」


 ミカとルクは会社がサンプルモデルとして開発したAクラスのボカロだ。

 成程! そう来ましたか~!


 蟹江さんは苦笑しながらも肯定した。

「まあ、そんな感じかしらね。それじゃあカナデさん、よかったら……。」


「あ、そうですね。」

 そう言うとカナデは自分のスマホとパソコンを繋げた。


 しばらくすると、アテナの時と同様な画面配分となり、その右側にメーティスが映し出された。

 ま、今日はかなり人が多いけど……。

 私はモニターのサイズを特大サイズにした。


 すると、いきなりメーティスの方から話しかけて来た。

「こんにちは。私はメーティス・パルテだ。」


 私は落ち着いて挨拶を返した。

「あ、こんにちは。初めまして。フィナ・エスカと申します。」

「そうか。よろしく。」


 メーティスは男装こそしていないものの麗人、かっこいい感じの女性ボーカロイドだ。

 黒い髪の先端は美しく青み掛かり、黒い瞳は眼光鋭くも優しさを秘め、一直線に通った鼻筋の下にあるキリッとした油断なき口元がその芯の強さを物語る。


「素敵な髪ですね。青み掛かってとっても綺麗。」

「そうか。」

「何か憧れちゃいますよ。ホントかっこいいです!」

「そうか。」


 口数が少ないのかな。でもそれがまた良し!

「あ、この前ファランクスのパフォーマンス見せてもらいました。」

「パフォーマンス、そうか。」

「メーティスさんのダンス、ダイナミックな中にも繊細せんさいな動きが散りばめられていて。すごく素敵でした!」

「ダイナミック、繊細、そうか。」


 その時カナデが小さな声で言った。

「あぁ、ごめんなさいね。会話はほとんど練習してないの。最低限の返しができる程度。」


 困り顔のカナデに対し私はニヤケ顔で言った。

「いえ、気にしないでください。」かっこいいからOK!


「柿月君みたいに毎日会話練習頑張っていれば、もうちょっと話せたんでしょうけど……。」

 カナデは済まなそうにメーティスを見つめた。

「ごめんね、メーティス。恥かかせちゃってさ。」


「そうではない。」

「メーティスもういいのよ。」

「いや、そうではないのだ、カナデ!」

「……?」


「カナデ、あなたは会話にこそ、それほど時間をかけていなかったかもしれない。」

「……‼」その場にいる全員が目を見張った。

 いきなりスラスラと話し出したメーティス……!

 あ、来たよコレ……。


「しかし、それはあなたがダンスパフォーマンスを何よりも大切に考えてくれていたから。そうではありませんか?」

 カナデはまるで人間の様な表情で生き生きと語り出したメーティスを微動だにせず見つめている。


「私たちに恥をかかせまいと、より高みへと追及の手をゆるめなかった。あなたの努力と優しさ、すべて私たちに伝わっていましたよ。カナデ!」

「メー……ティス?」


 カナデは彼女たち『ファランクス』を最高に輝かせるための完璧なダンスを目指し、毎晩徹夜してでも頑張り続けた日々を思い出していた。


「ほら、カナデ。私の大切なカナデ。自信を持って! 私たちをもっと光り輝かせて!」

 メーティスの優しい眼差しがカナデを包み込むと、カナデの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


 先程からかたわらで見ていたサユリは言った。

「良かったですね。カナデさん。」


 カナデは目をこすりながら言った。

「はい、はい! でも、まだ信じられない……。」


 蟹江さんは立ち上がり拍手した。

「おめでとう!」


 ユタカもそれに続いた。

「おめでとう!」


 蛯名さんもその隣で……。って、ちょ! これちょ! ま!

 ただただ号泣していた。


 ふ~。例の最終回かと思っちゃいましたよ。

 最後にっこりしながら「ありがとう」っていうやつ。

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