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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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29 アテナの決断

 夏休みに入った。

 サナは久しぶりに地球へと帰還した両親と旅行を楽しんでいた。

 しかも、海外旅行! ま、両親の勤務先なんだけどね。


 私はというと昨日からずっとアテナと共に過ごしていた。

 あれからもチョクチョク連絡を取り合っていて、業界の話なんかも教えてもらっていたのだ。

 通常バージョン(つまり2.5頭身ではないVer.)のアテナはこの日も私の居間に来ていた。


 私は気になっていた事を彼女に質問した。

「ねえ、結局あれ、どうなったの?」


 アテナはソファに座り紅茶を味わっていた。

「ああ、あの話ね……。」


 あの後、蟹江さんはアテナのオーナーでありヨナちゃんの兄である柿月ユタカと連絡を取ってくれた。

 そして話し合いの結果、私とアテナの『事態』についてはしばらく内密にすることとなった。


 アテナはメンテナンスと検査を兼ねてという名目で、しばらくファランクスをお休みしていた。

 会社の方では蟹江さんが中心となり連日会議が行われていた。

 勿論私の前世の話はせられていたが。


 先程の会話に出て来た『あの話』というのは、ファランクスの残り3名を覚醒かくせいさせる試みについてであった。


 アテナはその美しい瞳に私を移した。

「私は覚醒できて本当に嬉しかったし良かったと思う……。」

「うんうん。」

「でも、他の3人も私と同じとは限らないでしょう。」

「確かにね。」


 確かに難しい問題だ。3人にとっては余計なお世話かもしれないし、蛯名さんの言ってた『万が一』もある。

 その『万が一』というのは、蛯名さんの仮説に由来するものだ。


 蛯名さんはアテナの覚醒の理由について次の3通り(①、②、③)の可能性を考えていた。


① 私が元人間であった事により生じた膨大ぼうだいな情報がそのままアテナのAIに反映されてしまったというもの。


② 私が呼び水となり他の誰かがアテナとして転生したというもの。但し、私と違って前世の記憶が大きく欠落している。例えば記憶喪失の様に名前や住所は思い出せないが、言語など生活に必要な事柄はすべて覚えているといった状態だ。

 私も自分の元の名前は思い出せてないし。


③ 第三者が作為さくい的に私たちをこの様な状態に仕立て上げたというもの。前世の記憶も錯覚または偽造であり、そう思い込ませられているものとする。


 ところで、先程の『万が一』だが、例えば②であれば転生者が善人であるとは限らないということ。

 悪意がある人間が転生してしまい、ボカロと言えどもスキルを使いこなし電脳の世界を荒らしまわる事だって考えられる。

 また、③であれば相手の策略に乗っかる事になりねない。


 先日、蟹江さんが中心となって開かれた会議には株式会社3Dボーカロイドの各研究開発部の主任が集まった。

 初めにフィナとアテナの会話から『覚醒』に至るまでの映像を全員で見た。

 いつもの様に皆驚き疑ったが、落ち着いて来ると会議の必要性を理解した。


 会議中は様々な意見や質問が飛び交った。

 しかしいずれにしても、もう少しデータが欲しいという結論に至ったのだ。

 そこで白羽の矢が立ったのがファランクスの残り3名であった。


 これは4人のユニット、ファランクスを存続させる上でも必要な事であった。

 アテナだけをソロにするといった手もあるが、アテナ自身がそれを望んでおらず、オーナーであるユタカもまた同様な考えを示していた。


 アテナは自分の考えを私に話した。

「私としては、3人に覚醒かくせいしてもらいたい。きっと私と同じだと思うから。」

「そうだね。きっと大丈夫だよ。だってアテナの仲間だもん。」


 アテナは私の方を見て決意を固めた様な表情をした。

「私、あの3人ともっと深く語り合いたい。繋がりたい。喜びを分かち合いたい!」

「うん! 女は度胸よ!」

「え、何それ?」


 おっとっと。ちと古かったようで……。

「あ、いや、いいです……。」


 私とアテナは早速さっそく蟹江さんに連絡を取った。蟹江さんは「そう。」とだけ言うと、少し考えてから話しを続けた。

「これは私たちにとっても大きな仕事となります。仮に何かあっても責任はすべて私たちにあります。」


 蟹江さんは真剣な表情で話しを続けた。

「アテナ、私たちを信じてくれてありがとう。あの3人については全力でサポートします。だから安心して待っていて欲しい。」


 アテナはそんな蟹江さんに手伝いを申し出た。

「こちらこそよろしくお願いします。けど、私も全力でお手伝いさせていただきます!」

「そう……。じゃあ遠慮なく手伝ってもらいます。ありがとう!」

 二人は成功への執念を確認し合った様だ。


 ファランクス残り3名のボカロはメーティス、ニーケ、ミネルバ。

 オーナーはそれぞれ星カナデ、春日クルミ、大地ミノル。


 3人には最近研究中の表現支援プログラムの一環として紹介していた。

 まあ、嘘ではないかな。


 3人はユタカとアテナが成り行き上この試みに参加していることを聞かされた。

 するとほぼ即決そっけつで自分たちも共に参加することを表明した。

 しかし課題も多く、メーティスは無口、ミネルヴァは会話にならない。ニーケに至っては会話を全くしないとのことであった。


 方法としては先ず初めにボカロ3人のバックアップを取る。

 これは、もし失敗してデータに不具合が生じた時、元に戻せる様にしておく為だ。


 次に研究所内で3人のボカロにフィナの歌とダンスの映像を見せる。

 これで『覚醒』すれば手間暇かけずに済むはずだ。


 後日、この試みは大方おおかたの予想通り失敗に終わった。

 やはり『覚醒』にはフィナとの会話が必要不可欠な様だ。


 最後に1人ずつ日を分けてフィナとの会話を試みる。

 アテナの場合はすぐに覚醒したが、他の3人についてはどうなるか予測できないので、仮に『覚醒』できなかったとしても会話の後もしばらく様子を見ることにする。


 コミュニケーションの場所はサナの部屋、つまりサユリの自宅で行われることになった。

 これは成功した時の条件をなるべく変えない方が良いという考えから来ている。


 サユリは両親が不在の為、近所に住んでいて面倒を見てくれている祖父母と、フィナと顔見知りの叔父ススムに了解を取っておいた。

 最も祖父母は「パーティかい。パリピかい。」とよく分かっていない様だったが……。


 そして、『覚醒』にはどうやら「フィナとの会話」、「切っ掛け」、「オーナー(またはそれに近しい者)」の3要素が不可欠だろうとの結論から、オーナーにも立ち会ってもらうことになった。


 バックアップ作業は本社の研究室で行われたが、それでも約80時間ほどかかった。

 間違いは絶対許されないので確認作業にかなりの時間をいたとのことだった。

【人物紹介】

 私 … 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【前世】

 ヨシエ … 前世で地下アイドルユニットを組んでいた仲間

 スミレ … 前世で地下アイドルユニットを組んでいた仲間

 カナ … バイトの仲間。新人


【私のオーナー】

 サユリ … 私のオーナー。大学生。サナの姉。しっかり者

 サナ … 私のオーナー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【サナの友だち】

 山梨ユキナ … サナの友だち。9歳。優しい。母は料理上手。兄にサダオがいる

 栗木ミナ … サナの友だち。9歳。元気。

 桃園マナミ … サナの友だち。9歳。おしゃれ。

 柿月ヨナ … サナの友だち。9歳。物静か。兄のユタカはアテナのオーナー


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … オーナーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … オーナーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … オーナーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア … オーナーは大地ミノル


【私のナビゲーター】

 斎藤節子 … ナビゲーター。部長

 C73EHT-R… 通称ナミエ。新米ナビゲーター。

 山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手


【株式会社3Dボーカロイド】

 蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。2児の母

 蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子


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