252 救出なるか【他世界の話】
非天レイカはビーマにグリミドとアーカレッドの状況を確認した。
「二人は幻惑に囚われていると言う事ですか?」
ビーマはそれに応答した。
「はい、その通りです。多岐に亘る敵と同時に闘わなければならない状況下で自らを疑似の四次元生命体と化しているんです。」
北守カズミは「う~む……」と唸った。
「思い切って二人の事を引っこ抜いちゃうとか出来ないのかな? 力尽くで。」
ビーマは少し残念そうに答えた。
「長きにわたる闘いで全ての可能性が複雑に絡み合ってしまっています。単純に引っこ抜くと言うわけには……。」
非天レイカは担任の海野ランに尋ねた。
「海野先生、その仮想四次元空間で絡み合っている部分だけを切り裂く事は出来そうですか?」
海野ランは手をポンと叩いた。
「成程、そんで直ぐ様二人の構成部分だけ修復しようってのか。ソヨギの能力を借りれば何とかなりそうだが……どうだろう、それで行けるかなビーマちゃん。」
ビーマはニッコリと微笑んだ。
「ふう、良かった。皆さんがその方法を見つけてくれて助かりました。」
ビーマから発する事の出来る情報は、ここに居る三次元生命体たる者たちの情報成熟度によって変化する。
例えば今回のこの方法もビーマから伝えたところで「○○○○○○、○○○○○○」の様に情報が封鎖されてしまうのだ。
海野はクロートーに尋ねた。
「となると、私たちも彼女たちが捉えられているその仮想空間にダイブしないとダメって事ですか?」
クロートーは首を横に振った。
「いえ、ここは所詮同じ仮想空間の中ですから、そのダイビング装置を使わなくても中に入る事は出来ます。そうですね……。」
そう言うと、クロートーは目の前に扉を出現させた。
「この扉の向こうはもうここの仮想空間となっています。」
北守カズミは苦笑いした。
「仮想空間のミニチュア空間の中の仮想空間か……ややこしいな!」
扉の中には海野を先頭に非天レイカと北守カズミの三人が入る事となった。
三人はゼウスから授かった能力、『絶対防御』を各々展開した。
扉に入るとそこには見慣れた宇宙空間が広がっていた。
北守カズミは特殊能力『加力』で海野の能力『四文字』と非天レイカの特殊能力『罰』の威力を底上げした。
非天レイカは特殊能力『視・極』と『重・極』を使ってグリミドとアーカレッドの状況を目の前の空間に可視化した。
そこには無数の球がこれまた無数の細い管で繋がり合い、それらが複雑に絡まり合っていた。
この『極』と言うのは非天レイカの特殊能力の一つで、短時間だが保有する能力をパワーアップさせる技だ。
例えば『視・極』であれば物事の状態を見抜く能力『視』をパワーアップさせたものとなる。
この可視化されたいイメージもまたミニチュア模型であり、本物でもあった。
つまり、模型全体がこの『重・極』によって本物と関連付けられているのだ。
四次元的事象を三次元的に可視化する方法は、彼女たちの尋常ではない力があったればこそ可能とし得た。
北守はその模型を凝視した。
「何だか赤い毛糸玉が絡み合ってるみたいだな。少し白い毛糸も混じってるけど。」
非天レイカは皆にこの模型の構成を簡単に説明した。
「……で、白い部分がグリミドとアーカレッド、赤い部分が敵の勢力を現しています。」
北守カズミは目を剥いた。
「うわ、おいおい。そんじゃあ殆ど真っ赤って事は……成程、取り込まれてるってのはこう言う事か! しかもこれ、かなりの速さで動き回ってやがる。身体強化してても目が追っ付かないレベルだぜ! 二人はこんな激しい闘いをずっと続けて来てたってのか!?」
その時アトロポスから連絡が入った。
「先程のハジュンの動きから算出した予想。その赤い部分が消滅してから復活するまでに約5分。それまでに何とかして。」
非天レイカはそれに応答した。
「アット先生、ありがとうございます。今、海野先生が準備してくれています。」
北守カズミは質問した。
「なあ非天、お前の能力で白い奴だけを消し飛ばすんじゃダメなのか?」
非天レイカは海野の状態を気にしながら答えた。
「北守、ここを見て。白と赤が重なっている箇所があるだろう。他にも同じような箇所があちこちに見受けられる。恐らく三次元的には白と赤、どちらとも言える状態なんだろう。下手に能力を行使して白い部分まで損傷させるわけには行かない。」
北守カズミは納得した風な事を言った。
「成程ねえ。量子的な何かってやつか。」
非天レイカは海野の方を見た。
「海野先生、行けそうですか?」
海野は冷や汗を垂らしながら答えた。
「ああ、大丈夫だ。ただ、かなりの量なんでな。もうちょっと待ってくれ…………ん? おっと、これは…………試してみるか。」
海野の能力『四文字』は普段、三次元生命体として具現化された敵に対し、あらゆる回避の可能性を潰しつつ殲滅すると言った機能を持っていた。
これはある意味、四次元への介入であり、それらの情報を解析、蓄積する為にはそれなりの時間を要するものだった。
しかも、今回の敵は四次元生命体としての機能を持ち合わせており、いつもとは勝手が違っていた。
海野は凄まじいエネルギーを体内に宿し、その身体は激しく振動したり点滅したりしていた。
「よし、では行くぞ……。ソヨギ、例のやつ頼む!」
帝ソヨギは固有能力『執着を離す口』を発動させて赤い部分と白い部分をある程度引き離した。
「これでいいかしら?」
非天レイカと北守カズミは身構えた。
「ありがとうございます。それでは海野先生、お願いします!」
海野はその激震に耐えながら叫んだ。
「全ての可能性を貫け! 魔四文字!!!!」
激しい振動と共に海野の両腕からプラズマ状の発光体が出現した。
北守カズミはその言葉を聞いて小躍りした。
「魔四文字!? そうか! ここへ来て新しい能力が発動したんですね! 凄げえ!」
海野から発せられた光の塊が先程可視化された赤と白の模型を包み込むと、それらは見事に霧散した。
これによって赤でもあり白でもあった不確定な部分もどちらかの色に確定した。
非天レイカは空かさず特殊能力『罰』を発動させた。
この能力『罰』は一体の敵だけをフルパワーで消滅させるというものだ。
一体と言う括りであれば、それが霧散していようがエネルギーの状態であろうが、全てを消滅させる事が出来る。
非天の能力によって赤い部分が消滅すると、白い部分だけが露呈した。
北守カズミは特殊能力『廃力』を使ってその白い部分の能力を一時的に無効化した。
するとゆっくりと蠢いていた白い部分がピタリと制止した。
そして暫くすると、それはすっと消え去ってしまった。
時を同じくして、クロートーが声を上げた。
「戻りました! グリミドが! 戻って来ました!」
ケラシスも叫んだ。
「こっちもだ! アーカレッドが戻って来た!」
ゼウスは歓喜した。
「よし、成功だ! 次の準備に取り掛かるぞ!」
その瞬間、アルキオネウスの様子が急変し、凄まじい勢いで藻掻き出した。
帝ソヨギは能力『感知の光』で蛇代ヨウコの『マーキング』を支援し、能力『拘束の蔓』で敵の動きを封じ、能力『決起の鐘』で生徒たちを鼓舞した。
だが、アルキオネウスの猛攻はさらに加速し、ぎりぎりの攻防が始まっていた。
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




