25 居間での死闘
午後11時。
サナはもう就寝している。
サユリもやっとレポートの提出が完了し、今は部屋で爆睡中。
私は2.5頭身バージョンでソファーにだらりと横たわっていた。
2.5頭身の方がソファーを広く感じられていい気分。
しかし、何だったんだろうか、あのアテナの変貌ぶりは……。
これは蟹江さんに言っとかにゃならん案件だよね、やっぱり。
今も、そしてこれからも無視し続けようと思っていたが、向かい側のソファにちょこんと横たわり、勝手に人のファッション雑誌を読み漁っている山本の姿があった。
「ん?」
山本が何かを食べている。
「あんた何食べてんの、それ。」
「えあ? いたの。うまいねぇこれ。」パリパリむしゃむしゃ。
「ちょ! ちょ! まってよ! それ私がとっといたクッキー!」
「ふ~ん。うまいよ。」パリパリむしゃむしゃ。
「食ってんじゃねーっ!!」
私は山本からクッキーの缶を奪い取った。
「あ、私のクッキーが!」
「お前のじゃねえ! これはなぁ2カ月に一度しか手に入らない超高級クッキーなんだぞ!」
「いいじゃない。ケチ臭い。」
「なんだと~。あ! こんなに喰いやがって! おまえ等こうしてくれるわ!」
私は山本の両ほっぺたを引っ張った。
「何すんら~!」
山本も私の両ほっぺをつねり返した。
「らいたい何れお前が居間にいるんらよ! ここは私らけの楽園なんらぞ!」
「いいじゃんよ! 私らって寛ぎたいんらよ~!」
私たちはほっぺたをつねり合いながら二人でゴロゴロと転がった。
「らいたい、お前仕事終わらせたのか?」
「ふん、あんなの5日れ終わらせてやったわい! ふん!」
「5日って……。」
その時、天からナミエさんの声がした。
「山本さん、お電話です……って、ちょっと! 何やってんすか!?」
私はその状態を維持しつつナミエさんに応えた。
「あ、ナミエさん。ごめんまさい。今ちょっと手が離せなくて……。」
このほっぺた、死んでも離すものか!
「はい、見えてますので……。」
山本は少し上の方に向かって言い放った。
「おい、何だよ! 電話なら待たせとけ! このスットコロッコイ!」
間違いなく怒り心頭であるだろうナミエさんが声を震わせながら言った。
「フィナさん、私も擬人化してもらってよろしいでしょうか。」
「え、れも。」
「口頭で許可さえいただければ結構です。後はこちらでやりますから。」
「わかりました。ろうぞ、許可しまふ。」
すると、床に転がる私たちの足元に美目麗しい女性がスッと現れた。8頭身?
しかし美しいであろうそのマスクは雪女と般若をミックスさせた、そんな形相になっている。
「こん、ナミエ……ひ、ひさま……! 裏切るのくわあああ?」
ナミエは山本の頭部をガッと鷲掴みにした。
そして自分の顔の正面に山本の顔面を向かい合わせる様に持ち上げた。
「あ、ひ!」
山本は短い両手を面前でクロスし、顔を背けた。
「や~ま~も~と~せ~ん~ぱ~い……!」
容赦のない冷血で鋭い眼光は山本を恐怖のどん底に突き落とした。
「さ、戻ろうかな~。電話だっけ?」
ナミエの殺意に満ちた眼球が怯える山本をギロリと睨みつける。
「ごみんなさ~い。もうしませ~ん。うぇ~ん。」
こいつ、本当に涙流して泣いてるよ……。
ナミエは山本の頭を鷲掴みにしたまま、ノッシノッシと2、3歩進むとスッと消えた。
最後に山本の断末魔の様なものが聞こえた気がした。
「ナミエさんグッジョブ! そして山本、グッドラック!」
私は右手の親指を立てながら渾身の笑顔で2人を見送った。




