249 家に帰ろう【他世界の話】
先週の休日、非天レイカを除く五人の生徒たちはそれぞれ帰省し家族や知り合いと共に過ごした。
成功すれば暫くは会えなくなるからだ。
普通の十二歳なら自分だけ会うべき家族がいない事を悲しんだりするものだ。
しかし、非天レイカは寧ろ皆が自分に気を使って帰省しない事を憂慮した。
五人が帰省したのは教師に進められた事もそうだが、そんな彼女に気を遣わせまいとの思いからでもあった。
歌寺ミナモなどは唯一の家族である母がマネージャーである事から週に三度は会っている。
それにも拘らず「飼い犬に会いたいから」等と言ってわざわざ帰省したのもそんな理由からであった。
だが、何だかんだ言ってもまだ十二歳だ。
帰省した彼女たちはそれなりにスッキリした顔をしていた。
また、非天レイカはそれを見て一人安堵の表情を浮かべた。
彼女たちにとっては三年以上の別れとなるが、次にこちらへ戻って来る時間帯は、今日この出発した時間とほぼ同時刻である為、本人たち以外には気付かれる事はない。
だから生徒たちは家族や友人に悟られぬ様、こっそりと暫しのお別れをしたのであった。
そしていよいよ本日、作戦決行の日。
目標はGmUに気付かれる事なくグリミドとアーカレッドを救出し、他世界の地球へと避難する事。
成功する確率は正に五分と五分であった。
全員がダイブを完了しゼウスの元に集合した。
段取りとしては実験時の行程を基礎として次の通りに進める。
①『真空崩壊』の準備をする。
帝ソヨギとアトロポスはゼウスと共に総指揮及びサポートを務める。
ビーマは仲間及び交換装置を自分の絶対防御下に置きハジュンの攻撃から守る体制を整える。
また、ハジュンが十三壁に接触できない様にバリアを展開する(十三壁がこちらの存在に気付いて動き出せばGmUも連動してしまう為)。
但し、元々十四壁は互いのテリトリーに危害を加えられない様になっている為、飽くまで予防策。
②ビーマが情報を操作し、ハジュンがその姿を出現させて戦闘態勢になる様仕向ける。
ハジュンはこの三次元世界に接触するための仮想媒体であるアルキオネウスの姿で出現するが、その数や大きさは不明。
③蛇代ヨウコがアルキオネウスの位置を把握し、マーキングする。
④鳥山イツキがアルキオネウスを第四階層から空間V1へ転送し、V1に常駐する歌寺ミナモが空間交換装置を使って敵のいる空間ごと真空崩壊させる。
新たにアルキオネウスが出現しても、順次この手順で真空崩壊させて行く。
アルキオネウスは数や形状を変化させて来る恐れが極めて高いので、その時は鳥山イツキが空間交換装置の数や形状を調整して行く。
これは、アルキオネウスの動きを封じる事によってグリミドとアーカレッドの探索妨害を行わせないのが目的だ。
⑤アルキオネウスの動きが封じられるのを見計らって、蛇代ヨウコはビーマのサポートの下グリミドとアーカレッドの存在位置を確かめる。
⑥グリミドとアーカレッドの位置が分かった所で非天レイカ、北守カズミ、海野ラン、クロートー、ケラシスの五名は奪還に向かう。
ゼウスはGmUに気付かれない様、絶対防御システムを最大にして維持する。
⑦グリミドとアーカレッドを奪還した後、ゼウスは究極スキル『転生』を用いてZ組の生徒たち六人を『他世界γ63の地球』へと転送する。
『転生』とは言え死ぬ必要はなく、元の世界に戻る事も出来る。
⑧転送後はあちらの世界で来るべき最終決戦の日まで待機する。
こちらの世界に残ったゼウスたちはGmUに成り代わりこの世界を統治する。
また、ハジュンやGmUがどの様な状態になるか分からないので臨機応変に対応する。
ビーマは両世界を自在に移動できる為、他世界へ移動した後は連絡係を担う。
但し、伝達できる情報の制限がかなり大きくなる。
例えば、非天レイカたちに転送の三時間後の元の世界の情報を伝えれば、彼女たちの帰還は三時間後以降となる。
また、下手をすれば帰還不可能になったり、数年後の未来へ帰還しなければならなくなってしまい、ダイビング装置に眠る身体の安全が危ぶまれる事態となる。
始めは皆緊張気味だったが準備作業を進める中で徐々にいつもの調子を取り戻して行った。
香々美フジコが空間V0を真の真空状態にし、全員がそれぞれの配置についたところで交換装置K0とK1が動き出した。
空間V0で待機中の香々美フジコと鳥山イツキは第四階層から十三壁の球状領域とクロートーたちが張り巡らせたアリの巣状の絶対防御領域を除いた交換可能領域を再度確認した。
この交換可能領域であれば何処であっても仲間を巻き込まずに空間を交換出来るのだ。
因みに十三壁とは十四壁からアルキオネウスを除いた十三体であり、第四階層の周囲を取り囲む様にそれぞれが球状の領域を保持していた。
十四壁とはGmU直下の強力な十四体のギガントたちの事である。
鳥山イツキは腕を組みながら香々美フジコに聞いた。
「やっぱり十三壁の領域の裏側まで行く事になるんだろうな。どこまで大きくなると思う?」
香々美フジコは第四階層の3D画像を動かしながら答えた。
「どこまで大きくなっても数字を大きくすればいいだけだから……。どちらかと言えばどんな形状を取って来るかが問題かも。宇宙全体に広がる無数の高エネルギー粒子とかね。」
鳥山イツキは「う~ん」と唸った。
「そうなって来ると、やはり蛇代の探知能力に頼るしかないな。」
香々美フジコは薄っすらと笑みを浮かべた。
「まあ、少しくらい取り零しがあっても大丈夫。相手の気をこちらに向けるのが私たちの目的なんだし。」
鳥山イツキは「うんうん」と頷いて見せた。
「しっかし、本当にこんなんで五次元生命体の気を逸らせるのかね……。まあ、あのビーマちゃんが言った事だから信用するしかないけどさ。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




