242 敗北濃厚【他世界の話】
担任の海野ランが神妙な面持ちで非天レイカに声を掛けた。
「今日はこれで切り上げだ。取り敢えず教室に戻ろう。話したいのは私だけではないだろうしな。立て直しだ。」
他の生徒たちも漸く落ち着きを取り戻して来た様だ。
歌寺ミナモは首筋や額の汗をハンカチで拭った。
「何だったの……あれは? スピーカーじゃなくて直接頭ん中に声が響いて来た……。」
蛇代ヨウコはその言葉に頷いた。
「びっくりした。ホント久し振りのびっくり。まだ、心臓がドキドキ鳴ってるよ。」
鳥山イツキは香々美フジコの方を見た。
「やっぱりあれだよな……。私たちが探そうとしていた……。」
香々美フジコの顔も珍しく紅潮していた。
「うん、あれだ。あれの一部って言ってた。」
Z組の生徒たちは教室に戻ると直ぐにも会議の準備を開始した。
そして、モニターの前の大机を挟んで自分たちの椅子を並べるとそこに座った。
中央の巨大モニターには第四階層に張り巡らされた通路の全体図が映し出されていた。
また、向かって左側のモニターからは二人の教師とゼウスが、右側のモニターからはモイラの三姉妹が顔を覗かせていた。
海野は全員いる事を確かめると今回の事について話し出した。
「さて、先程の件についてだが……。正直言って私たちも驚いている。まさか、いきなり調査対象がしゃしゃり出て来るとはな。」
副担任の帝ソヨギはなるべく俯かない様に努力した。
「不安を煽る様で申し訳ないんだけど、絶対防御を超えて来た敵に対して今後どう対応すべきかを考えないと。」
ゼウスは掌で後頭部を撫でた。
「ああ、前代未聞だよ。僕の絶対防御が破られるなんて。アルキオネウスを乗っ取ってる奴。あれはコンピューターの外側からあの仮想世界に働きかけているとしか考えられない。」
アトロポスはポツリと呟いた。
「グリミドとアーカレッドの事も心配。」
クロートーも不安そうな面持ちだ。
「そうね。二人はGmUに取り込まれたわけではなかった。恐らく『悪の消滅』を追求するあまり触れてはならない所にまで達してしまったんだわ。そしてGmUごと捕縛されてしまった。まあ、アルキオネウスの口ぶりからすると二人は捕縛されている事にすら気付いてないのかもしれないけど。」
ケラシスは神妙な面持ちでクロートーを見た。
「やつはその……触れてはならない領域ってやつの番人と言った所か? 私たちの事を三次元生命体とか言っていたが……。」
北守カズミは呆れ返った表情で問いかけた。
「つまりあいつは四次元生命体って事か? 何だそりゃあ……そんなもん本当にいるのか?」
非天レイカは軽く頷いた。
「そうだな。ただ私たちも見方によっては高次元生命体だ。ただ何らかの理由によって三次元空間までしか感知する事が出来ない。アルキオネウスが言いたかったのはその様な意味だろう。また、三次元空間に時間軸を加えれば四次元時空となるわけだが……敢えて三次元生命体と呼んだのは時間軸が向こうの世界と共通だからなのかもしれない。」
香々美フジコはその考えに言及した。
「もし非天が言う様に時間軸が共通なら、過去改変の危険性は考えなくていいのかもしれない。それなら敵が高次の存在である場合に憂慮すべき事案が一つ解消される。」
鳥山イツキは今までの話から推察した。
「つまり敵さんは四次元、またはそれ以上の次元まで把握出来得る存在ってわけか。」
蛇代ヨウコは以前考えた事を思い出していた。
「それってさ、漫画やアニメとかでも聞いた事あるけど、普通なら勝てるわけないよね。主人公が実はあちら側の出身者だったとか、仲間がそれを何とか出来ちゃうご都合主義満載のスキル持ちとかじゃないとさ。」
歌寺ミナモは子馬鹿にする様な顔付で右手の指をパッと横に振った。
「創作物の話してどうすんのよ。つまりは二次元平面がどう頑張っても三次元の立体には成れないって事でしょう。そんな事より、勝算はあるの?」
香々美フジコはその言葉に反応した。
「う~ん、どうだろう。向こうにとって私たちは敵ですらないでしょうからね。」
歌寺ミナモは香々美フジコを不安気に見つめた。
「じゃあ、どうすりゃいいってのよ。あんたがそんな事言ってたら、もう負け確定でしょうよ。」
香々美フジコは話を続けた。
「ここで一つの疑問。あの高次元生命体は何故わざわざ私たちとコミュニケーションを取ろうとしたのか。何故その必要があったのか。」
そこにいる全員がその疑問について考えを巡らせた。
もし相手が次元の違う格上の存在なのであれば自分たちの事など放置しておけば済む事だからだ。
同じ三次元の物体なのであれば例えば蠅も払おう。
だが体積もエネルギーも持たない『二次元平面』がどう動こうと、我々はそれに気付く事すら出来ない。
仮に気付けたとしても何一つ当たり障りの無い『それ』に対して、わざわざエネルギーを注ぐ者はいない。
観念でしかない『それ』には触れる事すら出来ないのだから。
だが逆に、二次元平面が動くためにはそれを含む立体が動かなければならない。
仮にその二次元平面に意思があったとしたら自分が動いてる事には気付けても、自分を含むその立体が動いている事に気付く為には高度な思考が要求されるだろう。
つまり普通であれば、二次元までしか感知できない生命体が三次元的な運動を感知する事など出来る筈がないのだ。
ところが、中には自分たちの感知できる次元の範囲を何らかの方法で超越してしまう者も存在する。
グリミドとアーカレッドは正しくそれを成し遂げてしまったのだ。
そしてどうやらそこの番人に目を付けられてしまったらしい。
歌寺ミナモは思い当たった事を口に出した。
「私たちと話してみたかったとか?」
蛇代ヨウコはぷっと吹いてから大笑いした。
「何だそりゃあ! ぎゃはははは! もしかしてミナモのファンだったりして! 有り得る~!」
歌寺ミナモは顔を真っ赤にして蛇代ヨウコを睨みつけた。
「あんたねえ、その細い首ギュってやるよ……。 本当にギュギュウゥゥって!」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




