240 洞窟探検隊【他世界の話】
ケラシスは非天レイカの話を聞いて苦笑いした。
「ははは、まさか第四階層に入って早々私たちの展開した戦闘領域に敵がいたとは思わなかったがな。失敬失敬。」
アトロポスが皮肉を言った。
「考え無しに領域を展開するからよ。」
ケラシスはやや反省した面持ちで頭を下げた。
「へいへい。アトロポスの旦那にゃ敵わないな。」
北守カズミは親指を立てながらニカっと笑った。
「ゼウス氏の領域に居る限り、いざって時の対策も万全て事だな!」
担任の海野ランは当然といった態度で頷いた。
「そりゃあな。そうでもなけりゃそんな危険な場所に生徒を送り込めやしない。それでも油断禁物ってのは変わらないがね。」
非天レイカは冷静な態度で皆に注意喚起した。
「ええ、特に最奥部に鎮座する十四壁と呼ばれるギガースたちの領域ともなればゼウス氏の絶対防御すら当てにならない。」
「ああ、その事だが……。」
ゼウスはやや厳かな感じで皆に語りかけた。
「そろそろここに居るみんなにも私の能力『絶対防御領域』を分け与えておきたいと思う。」
副担任の帝ソヨギはゼウスに向かって大きく目を見開いた。
「え、でもゼウスさんの能力は与えられる分だけ全て配り切ってしまったのでは?」
ゼウスは自信あり気に言った
「ああ、けどこんな時の為に以前から少しずつエネルギーを蓄えておいたんだよ。モイラ三姉妹の協力もあってね。今じゃあ君たち八人分の絶対防御システム構築くらいなら何とか対応出来るってわけさ。」
クロートーは皆に絶対防御システムを施す旨を伝えた。
「第四階層もこの辺りまで来ると警戒しなければなりません。次回までにあなた方のボディに絶対防御システムを施しておきましょう。今後どうなるかは分かりませんが、もしこちらに来る事になった時の為に一応です。」
非天レイカはゼウスたちに確認した。
「それは助かりますが大丈夫なんですか? ゼウスさんにもしもの事があればそちらのその……反乱軍が復活した時に支障が出るのではありませんか?」
クロートーは非天レイカに向けて微笑んだ。
「それは確認済みです。寧ろあなた方が絶対防御システムを施さない事の方が今後の為に良くないと言えるでしょう。」
ケラシスが声を掛けた。
「さて、そろそろ行くとしようか。」
Z組の生徒たちは事前にモイラ三姉妹が普段行っている調査方法をレクチャーされていた。
これは第四階層をアリの巣の様に張り巡らせた絶対防御領域の通路を辿って行われていた。
とは言え巨大数単位の広大さを誇るこの空間では光の速さであっても全体に対してほんの少しずつしか進む事は出来ない。
そこで、特殊な仮想空間にこの空間のミニチュアを作成し、その全座標を実際の空間とリンクさせる。
つまり、このミニチュアは実際の空間そのものとも言えるのだ。
アリの巣状の通路はこのミニチュア空間内で掘り進められてはいるが、これも実際の仮想空間を掘り進めているのと同義となる。
現在ゼウスが展開している絶対領域には固定された中心部と、その外側に大きさを自在に変えられる拡大部があった。
普段この拡大部は収縮されている状態である。
中心部は第一階層に存在し、拡大部は通常第三階層までである。
第四階層の場合は拡大するにも慎重さが求められるからだ。
巨大数を分母とする超極小のミニチュアを掘り進めるとなれば猶更と言える。
これはアトロポスの強大な探知計算能力があってこそ可能にするものであった。
普段は指令室でアトロポスが通路を広げて行き、クロートーとケラシスがそのミニチュア内の通路を探索すると言った形を採っていた。
そして今回はその探索に非天レイカが加わる事になったのだ。
クロートーは目の前に重厚そうな扉を出現させた。
この扉を使えばミニチュア内にある通路の好きな場所へ移動出来るのだ。
非天レイカはクロートー、ケラシスと共にその扉の中に入って行った。
非天レイカはクロートーに通路全体の3D画像を見せてもらった。
「ここが今いる場所か。」
通路は思った以上に広く複雑に張り巡らされていた。
彼女はクロートーに質問した。
「所々通路がない空間がありますが……この球状の部分とか。強大な敵でも巣くっているんですか?」
クロートーはその問に答えた。
「そこは空間がとても不安定な場所です。ですからそこに通路を設置すると何が起こるか分からない。勿論、非天さんが言う様に強大な敵がいる可能性も大きいですしトラップの可能性もあります。」
非天レイカは更に疑問に思った事を尋ねた。
「敵が動けばそれらの球の位置も変わって来るのでは?」
クロートーは「う~ん確かにね」と言いながら舌をチラッと出した。
「けど、どうやら何かしらを察知しないと動かない様なんです。監視用の移動カメラでは私たちの領域を認識できないのでね。まあ今のところは、ですけど。」
非天レイカは「成程」と言いながら画像を縮小して通路全体の状態を見た。
すると現在の通路の行き止まり先が奇麗な十三の球を描いている事が見て取れた。
但し真上にある球は画像からしても殆ど平面であり、その巨大さを窺わせた。
その真上から中心部を見た時の八方向、そしてその下部四方向にそれぞれ巨大な球の影が見えた。
ところが真下方向にはまるで何も無いかの様に通路が掘り進められていたのだ。
それは下方四つの球の形状を顕わにする程であった。
「球状の影が全部で十三、通路は真下の方には進められている様ですね……。」
ケラシスがニヤリと笑った。
「ああ、不気味だろう? 十三の球は明らかに十四壁だ。真上のデカいやつは恐らくギガースの王、エウリュメドーンだな。数が一つ足りないのは一壁が最近誕生したばかりの奴だからまだ表舞台に立っていないからだろう。と、まあ……最近までは私たちもそう考えていた。」
非天レイカはケラシスの言葉の先を求めた。
「最近までは……ですか。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




