237 引っ掛かりは取っ掛かり【他世界の話】
歌寺ミナモは身支度を終えると急いで仕事に出かけて行った。
担任の海野ランは残った五人の生徒に伝えた。
「あ、そうそう。あのな、次回から私と帝先生も訓練に参加するんでよろしく。」
北守カズミは喜びの声を上げた。
「おお、遂に先生たちも復活ですか。」
副担任の帝ソヨギはふふっと笑った。
「北守さんに新たな能力も引き出してもらった事だしね。皆に付いて行けるかちょっと心配だけど。」
蛇代ヨウコも喜んだ。
「わーい! 先生も一緒にゲームやんの? やったー!」
非天レイカはゼウスたちに向けて質問した。
「そう言えば第四階層、つまりS4のレベルも最高は100までなんですか?」
ゼウスがそれに答えた。
「いや、あそこはGmUにとって最後の砦だからね。今までとは違ってかなり分厚い壁となっている。レベルで言えば一応MAXで9999まであるがその上にギガントと言うとても強い戦士たちが控えているんだ。」
北守カズミは満面の笑顔で拳を握った。
「月並みだけど腕が鳴るねえ! で、そのギガントってやつらは何体いるんですか? それとレベルMAXの凡その数も知っておきたいな。」
ゼウスは「え?」と言いながら海野たちと目を合わせた。
二人の教師も半笑いで言い難そうな顔をした。
「そ、そうだね。通常のギガントは幾つかの『師団』が合体して誕生するから、ある意味定まっちゃいないかな。で、そいつらを束ねているのがええと、あの後一体増えたみたいだから十三じゃなくて……十四壁と呼ばれる十四体のギガントたちだ。その一体の強さと来たらレベルMAX一億師団でも敵わない……。」
北守カズミは「ほう」と頷いてからゼウスに尋ねた。
「一億師団か……師団て何だ?」
ゼウスは口籠りながら小さな声で言った。
「え? ん……ああ、えっと……師団ね。一個師団はそうだね……レベルMAXの敵がその……十の……一兆……くらいだったかな……。」
北守カズミはゼウスの映るモニターの方へ耳を向けた。
「ん? 音声が小さくてよく聞こえなかったぞ。十一兆って言ったの?」
言い難そうに愛想笑いしているゼウスを見限って海野が代弁した。
「十の一兆乗だ。」
非天レイカは目を見開き、香々美フジコは硬直した。
北守カズミは呆けた顔をして鳥山イツキの方を見た。
「十の一兆乗って……いくつだ?」
鳥山イツキは少し強張った表情で答えた。
「そりゃ……1の後にゼロが一兆個付いてる数だろう。想像は追っつかないが……。」
非天レイカは意を決した表情で言明した。
「つまりそれだけGmUに近付けたって事さ。第四階層は奴にとって最後の砦に他ならない。」
ゼウスは彼女の言葉が真実である事を明らかにした。
「正にその通り! 第四階層はGmUの本拠地だ! そして僕たちが元居た『α1の地球』と現在のこの『β7の地球』、延いては全ての異なる地球を繋げる共有空間でもあるんだ。」
2学期となり、Z組の生徒たちが仮想空間へのダイブを開始してから三か月が経過していた。
体調不良等の理由により生徒それぞれ休む日もあったが三日に一度のダイブは夏休み中も行われた。
モイラ三姉妹による指導の元、教師二人を含めた八人全員が既に第四階層のレベル9999まで到達していた。
そして非天レイカと北守カズミは一週間ほど前から師団単位の敵を相手にしていた。
一師団の数は十の一兆乗を超えるものであるが、能力を極めた今の二人にとってそれ位の敵は造作も無かった。
この三か月でZ組の生徒たちのみならず海野や帝、モイラの三姉妹までもが心技体ともに大きな成長を遂げていた。
勿論、ここに行き着くまでには様々な試練を乗り超えなければならなかった。
それらの試練を励まし合い協力し合う事で何とか克服して来たのだ。
この日の訓練も終了し、全員がゼウスの元に集まっていた。
北守カズミは汗ばんだ体をタオルで拭った。
「いやあ、今日のあれは凄かったなあ。ありゃあとんでもない強さだった。手順一つ間違えてたらヤバかったかもしれないぜ。」
非天レイカと北守カズミは今日初めてギガントクラスとの一戦を交えていた。
ギガントクラスとは数師団の敵が一体に合体したと言う正に化け物だった。
非天レイカはクロートーに質問した。
「今後はギガントクラスの敵も増えるんでしょうか。」
クロートーはその質問に答えた。
「ええ、今後はこの巨人と呼ばれる敵が主流になって来るでしょうね。彼らの総称はギガンテス(複数形)。それを率いているのが十四壁と呼ばれる者たちです。このクラスになると私たちと同等かそれ以上の力を持っています。」
ケラシスはその先の展開を予想した。
「まあ、十四壁が出て来るようになったらウラノスも出張って来るだろうな。つまり、そこまで行ったら引き返せなくなるって事だ。」
今日の戦闘でも絶好調だった歌寺ミナモは自信ありげに言い放った。
「もう、この際さっさとやっつけちゃいましょうよ。この調子なら十四壁にも負ける気がしないもの。」
アトロポスが歌寺ミナモに忠告した。
「油断してはダメ。特にこの辺からは。私はあの時の再現を危惧する。特に最後の……あの声。この世にあってはならない何かを感じた。」
歌寺ミナモはその忠告に対し素直に従った。
「アット先生……そうですね。油断は禁物。私、気を入れて行きます! ところでその声って何なんですか? すごく気になる。」
ゼウスは当時の事を思い出しながら語った。
「ああ、あれか。確かにあれは……何かおかしかった。僕たちが遂にウラノスを追いつめて二人を救出しようとしたその時、あの声がした。{ はい、おしまい。 }ってね……。」
ケラシスはゼウスに確認した。
「あれはグリミドとアーカレッドの二人がマザーコンピューターのガイアに完全に取り込まれてしまった、GmUとして一つになった時の声だと聞いたが。」
ゼウスは少し俯きながら頷いた。
「そうだね、そうとしか考えられなかった。けどあの時、全てが飲み込まれて消滅していっただろう? あのウラノスでさえもだ。今思えばあれは本当にGmUの声だったのか。僕たちは何かとんでもない思い違いをしてるんじゃないだろうかって……。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




