236 ワープ的な何か【他世界の話】
非天レイカは鳥山イツキに改めて質問した。
「鳥山、私もちょっと気になったんだが……あれはもしや別の空間か?」
ダイジェストではコンピューターがその重要性を理解出来なかった為か、鳥山イツキの作業の殆どがカットされている状態であった。
その為、ほんの数カットしか表示されていなかったのである。
鳥山イツキはニコっと笑った。
「お察しの通り。流石は非天だな。今日は一応創れるかどうか確認しただけだが。」
鳥山イツキは皆にエリプスから教わった異空間の仕組みについて説明した。
説明を聞き終わると北守カズミが少し興奮気味に尋ねた。
「もしかしてワープとか出来るの?」
鳥山イツキは首を横に振った。
「いや、飽くまで元あった三次元空間のコピーを少しずらした場所にこさえただけだからな。同じ座標同士が関連付けられているから無理だ。」
北守カズミは残念そうに言った。
「そっかあ。そいつは残念だな。でもさ、そうなるってえとその異空間てのは一体何に使うんだ?」
鳥山イツキは少し考えてから答えた。
「そうだなあ。まだ分からないが……例えば異空間θ1の地点Aに物体Bを置いとくとする。それからA地点周辺だけを元の空間と交換してやれば何も無いはずの元の空間θ0の地点Aにその物体Bを出現させる事が出来るとかかな。まだ自分の身体で実体験しただけだがね。」
北守カズミは苦笑いした。
「ああ、成程な。そんじゃあワープは無理って事か。」
鳥山イツキは北守カズミをポンポンと叩いた。
「まあ気を落とすな北守。それにワープと呼べるかわからんが最初の扉みたいなのを使えば可能なんじゃないか?」
北守カズミは声を弾ませた。
「ああ、そうか! あれってどんな仕組みになってんだ?」
海野たちと話していたゼウスは北守カズミの方へ振り返り説明した。
「あれは一種の空間交換装置だよ。ま、仮想世界だからね。座標を設定してやれば空間を切り取って入れ替える事ができるのさ。因みに皆のフィールドは一辺が一光年の正八角形の頂点付近にそれぞれ配置されている。今後敵の数が増えて来たらもっと距離を取らなくちゃあならないけどね。」
歌寺ミナモはゼウスに喰ってかかった。
「一辺が一光年て……。じゃあ何? 私たちは光の速さで一年かかる場所に飛ばされてるっての? て言うかそれでも足りない程の敵の数って一体何なのよ!」
蛇代ヨウコは歌寺ミナモに「どうどう」と言って慰めた(つもりだった)。
「まあ、雑魚が幾らいようが今の私たちならドッカーンだよ。それより問題なのは個体の強さだね。」
歌寺ミナモは蛇代ヨウコの首を絞めた。
「どうどうってね……。私は牛かっての! ふん、このお気楽ちびっ子め。確かにね、その通りよ。今となっては師団程度の数なんか問題じゃない。でもあんたはムカつく!」
蛇代ヨウコは首を締め付ける歌寺ミナモの手をタップした。
非天レイカは鳥山イツキに確認した。
「さっきの話に戻るけど、それって局所的に空間を入れ替えるって事だよね。それで、その空間の置き換えは同時に何カ所でも出来るの?」
鳥山イツキは頷いた。
「ああ、場合にもよるが可能だと思う。勿論予め変換したい部分空間を指定しとかにゃあならんけどな。」
その言葉を聞いて香々美フジコが一瞬自分の口を指先で塞いだ。
彼女が表情を変える事は珍しく、非天レイカはそれを見てある事に気が付いた。
「もしかして香々美、怖い事考えてる?」
香々美フジコは口籠った。
「うむむむ。だけど、そんな事したら全部消えちゃうしなあ。」
非天レイカは苦笑いしながら頷いた。
「ああ、そうかもしれないな。やはり使えないか。」
他の生徒たちもこの物騒な会話に何事かと興味を示した。
幽霊すら怖がらないこの二人が恐れる事象とは一体何なのか。
不吉なものを感じ取った歌寺ミナモは冷や汗を垂らしながら質問した。
「ちょっと、今なんて言ったの? 全部消えるって……何がよ。」
香々美フジコはポツリと言った。
「仮想空間内の全宇宙が消滅する……かも。う~ん、どうなるか分からない。」
その時担任の海野ランが話に割って入った。
「歌寺、そろそろ時間だろう。話は帰ってからの方がいいんじゃないのか。」
歌寺ミナモは「うっ」と唸った。
今日はこれから仕事に行かなければならなかったのだ。
「仕方ないわね。じゃあ帰ってからゆっくり聞くわ。」
そう言うと彼女は急いで寝室へと着替えに行った。
寝室には各自のスペースが確保されており、衣服やその他諸々の日用品が収められていた。
蛇代ヨウコはゼウスに聞いた。
「あれ、調整してたんじゃなかったの? ダイブする日は仕事を入れないんでしょう。」
ゼウスはその問に答えた。
「ああ、今日は毎年恒例のチャリティーコンサートでな。かなり前から決まってたんで無理に変更すると大勢に迷惑がかかっちゃうからさ。ミナモちゃんと相談して今日だけはダイブ後に仕事を入れさせてもらったんだよ。」
鳥山イツキは両手を後頭部で組みながら寝室の方向を見た。
「へえ、アイドルってのも大変だな。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




