235 反省室で反省する【他世界の話】
蛇代ヨウコはゲーム終了後、ゼウスたちの所に戻った。
彼女以外の生徒は既に今日の訓練を終えて集まっていた。
北守カズミは蛇代ヨウコに聞いた。
「今日はやけに遅かったな。何かあったのか?」
蛇代ヨウコは「ちょっとね~」と返事をするとゼウスの前に立ち止まった。
ゼウスは何かを言われる前に必死で弁明し出した。
「お嬢ちゃん、違うんだよぉ! あれはほんの冗談だったんだよ。」
蛇代ヨウコはゼウスに問い質した。
「でも、盗作して反省室に監禁されたんでしょ?」
皆、何事かと聞き耳を立てた。
ゼウスは更に言い訳した。
「いや、あのゲームにエンドロールが無かったんでさあ、冗談で細工してみただけなんだよ。スタッフが全部僕の名前だったら受けるかなと思ってさ。それをみんなが盗作だ盗作だって騒ぎ立てるものだから……。」
クロートーは「え?」と少し驚いた様子でゼウスに質問した。
「あのシミュレーションは……確か封印されていたのでは?」
ゼウスはクロートーの方を見た。
「え? そうなの?」
クロートーは当時の事を思い出しながら事情を説明した。
「ええ、あれはストーリーが重過ぎる上に進行が難解で何より痛みや空腹感までもがリアル過ぎる等などの不評を買いまして。しかも殆どの戦士が途中で頓挫、何とか大魔王を討伐してもバッドエンディングを迎えてしまう。この様な理由によりクレームが殺到した為、急ぎフルモデルチェンジした筈ですよ。更に言ってしまえばR指定ですので蛇代さんにやらせたのはどうかと……。」
ゼウスは今更ながらR指定だった事を思い出していた。
と言うよりは蛇代ヨウコの年齢がR指定に引っ掛かる事に気付かされた。
「あ、そうだった……。」
蛇代ヨウコは苦笑いした。
「やっぱりね。十二歳には過激だと思った。けど、お陰で色んな能力を試せたから。それに日常じゃ滅多にお目にかかれない悪人てのも拝めたし。それも含めておっちゃん、ドンマイ!」
ケラシスもその時の事を思い起こした。
「そう言えばその封印するって話が出た時、ゼウス司令はまだ独房で監禁されていたんじゃないか? あ、反省部屋か……。」
アトロポスは余計な一言を呟いた。
「うん、独房でしくしく泣いてた。」
ゼウスは慌ててアトロポスの口を塞いだ。
「こ、これ! 余計な事を言うんじゃありません!」
ケラシスは呆れた顔で確信を突いた。
「封印でもしていなければ、あんなエンドロールとっくに消去されてる筈でしょうよ。」
生徒たちはその『問題』とされているスタッフロールとやらをビデオで確認していた。
歌寺ミナモは最後の一文に記されている人名に興味を持った。
「ん? このニーケ・ヴィクトリアって人もゼウスたちの仲間なの?」
アトロポスがそれに答えた。
「ニーケは総司令部の参謀。実質すべての指揮を執り纏めていた。」
北守カズミは半笑いで言った。
「総司令部の参謀か。何かめちゃくちゃ怖そうな人だな……。」
モイラの三姉妹は顔を見合わせて微笑んだ。
アトロポスはゼウスをビシッと指さした。
「因みに司令はゼウス。ゼウスが総司令。」
ゼウスはギクリとしながらアトロポスに注意した。
「人を指さしちゃダメ! あ、知っててやったんだね……うん。て言うかその『総司令』って言うタイミング今なの? もっと格好いい所で言わないで、今なの?」
アトロポスのその言葉を聞いて北守カズミは困惑した。
「う~ん、それ聞いちゃうと何だかまたイメージがごっちゃになるな。ゼウス氏直属の部下って事だろ? 一体どんな人なんだ……わからん。」
担任の海野ランは皆に呼びかけた。
「さて、一段落着いたみたいだし教室に戻るとしますか。先生方、今日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
六人の生徒も態度は様々だが感謝の気持ちを伝えた。
モイラの三姉妹は微笑みながら彼女たちを見送った。
教室に戻ったZ組の生徒たちは前回同様ビデオでお互いのダイジェストを見て意見交換をした。
海野と帝はゼウスと共に今後のシミュレーションをどうするか等について話し合っていた。
今回モイラ三姉妹に直接指導を受けたのは非天レイカ、北守カズミ、香々美フジコ、歌寺ミナモの四人。
その課題は主に能力の使い熟しであった。
能力による強化の仕方や出力の調整。
または場面に応じて能力の使用法を改めたり使い分けたりする工夫等々、今後特に重要となって来る内容であった。
その意味でこの四人の経験を共有する事は他の生徒たちにとってもすこぶる参考になった。
北守カズミは歌寺ミナモを驚きの目で見つめた。
「そう言や歌寺お前、めちゃくちゃ強えじゃねえか!」
歌寺ミナモは横目で北守カズミをチラ見した。
「私はやらないわよ。この戦闘狂が。」
先んじてスパーリングの申し出を却下された北守カズミは苦笑いした。
「いやあ、ははは。バレた?」
歌寺ミナモはぷいっと鳥山イツキの方を見た。
「そんな事よりイツキ、あんた最後のあれ一体何だったの?」
蛇代ヨウコは胸元で両手の指を組み、目を輝かせた。
「あのハムスター可愛かった! 触りたいなあ。私にも触らせてよ! 後、ロボットにも乗せて! 操縦させて!」
歌寺ミナモはニンマリと意地悪そうに笑った。
「蛇代、あんたにはあの水の精がいるじゃない。ちゃんとお世話しなくちゃダメよ!」
蛇代ヨウコは口を尖がらせてゼウスに抗議した。
「むうん、何で私の能力があんなやつなんだよお! おっちゃん!」
ゼウスは反論した。
「何を言いますか! あれはあのゲームに出て来る水の精霊だぞ。そして唯一僕がデザインしたキャラなんだぞ!」
歌寺ミナモは呆れ顔だ。
「ふん、どうりでね。変なキャラだと思ったわ。」
蛇代ヨウコは固有スキル『アプサラス』をゲーム内で使用した事を後悔した。
「ああ、ゲーム内で使ったからあいつが出て来たのか! しくじった。」
ゼウスは下唇を突き出してそっぽを向いた。
「ふ~んだ。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊。長身で細身。モイラ三姉妹の長姉。
ケラシス … ニュクス先駆隊。屈強。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊。少女の様な見た目。モイラ三姉妹の末妹




