218 S4【他世界の話】
北守カズミは敵を間近で目視した。
身長190㎝ほどの黒い甲冑の巨体が彼女の目の前で非天レイカをいきなり攻撃して来たのだ。
だが振り下ろした拳を非天レイカに受け止められたその瞬間、黒甲冑はスッと何処かへ消えてしまった。
非天レイカは咄嗟に現じさせた踏板で両足を踏ん張りながら弾き飛ばされた身体を固定させると、能力『視』を使って敵の現在地を確認した。
「もう一体いる様だ……。強いぞ、北守!」
北守カズミはあまりに唐突な強敵の出現に思わずニヤけてしまった。
「ああ、分かってる! ……そこだ!」
先程とは形状の違う黒甲冑が北守カズミの背後からいきなり襲い掛かって来た。
彼女の延髄を確実に狙って来た水平手刀を躱しながら北守カズミは渾身の回し蹴りを敵の脇腹に命中させた。
カウンター気味に入った蹴りは敵を一瞬怯ませた。
そこへ空かさず連打を打ち込み、何とか敵を打ち倒す事が出来た。
「たかが一体倒すのに40発も打ち込んじまった……。こりゃ確かに今までのやつとは比較にならんな。」
非天レイカの方もどうやら敵を片づけた様だ。
「これが本当の敵か……こんなのが徒党を組んでやって来たらかなり骨が折れるな。」
クロートーは二人に告げた。
「今のはこの第四階層に於いて最弱の一兵卒に過ぎません。しかも通常は少なくとも万単位の数で襲って来ます。」
二人は予想していたとは言えこの現実に固唾を呑んだ。
「この闘い方ではもう通用しないか。」
「ああ、やっと本気が出せるってもんだ。」
クロートーは二人に指示した。
「敵も己の持つ全能力を最大限に活用して来ます。しかもこれは実戦。つまりあなた方の命綱であるτファウンデーションを引き剥しに掛かって来るのです。安全装置があるとは言え何が起こるか分かりません。二人とも全力で掛かりなさい。」
ケラシスは二人に助言した。
「先ずは強化能力を使ってみろ。」
北守カズミは基本能力である『強化』を発動させた。
特殊能力にもそれらしい能力『加力』があったが先ずは一つずつ使用して身体に馴染ませる事にした。
非天レイカもそれらしい能力を一覧から探してみたがどれが「強化」と言う言葉にそぐうのか悩んでいた。
どうにもそれらしいものが見当たらないのだ。
クロートーはその様子を見て彼女にアドバイスした。
「取り敢えずその『重』と言う能力を使ってみたら?」
非天レイカは指示通りそれを発動させた。
すると彼女の身体が一度多重分身したかの様になり、直ぐ元に戻った。
クロートーはゼウスに領域を少しだけ広げる様に伝えた。
ゼウスの絶対防御領域を広げる毎に更なる強い敵がこちらを認識し、襲い掛かって来るのだ。
二人は先程の経験から迫り来る敵に全力で向かって行った。
敵は先程と同じ位のレベルだ。
北守カズミが近づくと敵はパンチを繰り出して来た。
「!?」
遅い……先程とは打って変わって随分と遅く感じる。
北守カズミは敵のパンチを余裕で躱しながら懐に飛び込んだ。
と、同時に拳を腹部に打ち込んだ。
彼女の拳は敵の腹を易々と貫通し、敵は一瞬にして粉砕した。
「これが『強化』ってやつか……凄げえ!」
非天レイカは前回との違いを確認すべく、先ずは両腕を交差して頭上から振り下ろされた敵の拳を受けてみた。
するとその拳が彼女の両腕に当たるや否や敵の繰り出した右腕は粉砕してしまった。
そして次に繰り出された彼女の敵腹部への蹴り一撃で先程あれだけ苦心した相手は跡形も無く消滅してしまった。
非天レイカは改めて能力の有効性を認識した。
ケラシスは二人に次の課題を提示した。
「二人とも少し出力を下げてみろ。」
二人は言われる通り能力の出力を下げてみた。
ケラシスは二人をじっと観察しながら言った。
「どこまで下げられるか試してみろ。」
二人は能力が停止する寸前まで出力を下げた。
ケラシスは腕を組みながら頷いた。
「それでいい。それじゃあ先程の敵と対峙した場合の出力はどれ位が適切か。」
二人は先程の敵を想定して出力を加減してみた。
「よし、それじゃあ今度は敵がここに居ると仮定してその攻撃を右腕で弾いてみろ。大事なのは当たる瞬間当たる部位のみの出力を上げる事だ。」
出力の調整は自分への負担を様々な意味で減らす事が本来の目的だ。
しかし、底の知れない強大なエネルギーを持つ彼女たちの場合は違う意味を持っていた。
一つは出力を加減する事で仲間を巻き込まずに立ち回れる様にする事。
一つは出力を絞る感覚そのものを掴む事だ。
これはエネルギーを波状に出力したり、蓄えてから放出する事にも繋がって来る。
大きなエネルギー程指向性に乏しく扱いは難しい。
だが、その大きなエネルギーを一方向に向けられたならその威力は単なる爆発とは桁違いの威力となるのだ。
二人はケラシスの指示通り何度か受け身の練習をしてみた。
そのセンスの良さに流石のケラシスも感心しクロートーと顔を見合わせた。
「どうだ? 実戦でもやれそうか?」
北守カズミは質問した。
「先生、攻撃について何かアドバイスはありませんか?」
ケラシスは軽く微笑んだ。
「攻撃については実戦の中で自分なりの形を見つければ良い。特に二人の場合はな。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持
<反乱軍オリュンポス>GmUから仲間を奪還し正常化を目指す組織
ゼウス … 総司令。敗戦後ガイアの中に隠れ潜む。
クロートー … ニュクス先駆隊『運命の三女神』。モイラ三姉妹の長姉
ケラシス … ニュクス先駆隊『運命の三女神』。モイラ三姉妹の次女
アトロポス … ニュクス先駆隊『運命の三女神』。モイラ三姉妹の末妹




