214 力を開く【他世界の話】
次の日の朝。
ホームルームの時間となり担任の海野ランと副担任の帝ソヨギがモニターに現れた。
海野ランは全員いる事を確かめた。
「昨日はお疲れさん。体調は変わりないか?」
北守カズミは肩をぐるぐると回しながら元気に返事した。
「全く問題ありません。寧ろ鈍っちまってる。あんだけ暴れたのに何かこう……勉強した後の疲労感みたいなんだよな、あそこに入った後ってさ。」
蛇代ヨウコは「そうそう」と言って頷いた。
「何かゲームした後の疲労感みたいな感じと似てる! いい気分!」
帝は笑顔で生徒たちを見た。
「まあ、実際は身体じゃなく頭の中で闘ってますからね。」
非天レイカは右手を挙げた。
「そう言えばちょっと聞きたい事があるんですが。」
海野は非天の方を見た。
「お、何だ?」
非天レイカは二人の教師に質問した。
「先生たちの訓練はどこまで進んでいるんですか?」
海野と帝は顔を見合わせた。
「ああ、その事か。そうだな、丁度いい。今の内に話しておこうか……。」
海野が少し言い難そうにしていると帝が代わりに話し出した。
「私たちはS3ランクのレベル100まで到達しました。けど、それ以上のランクへは進めませんでした。」
非天レイカは表情を変えずに問うた。
「第四階層には行けなかったって事ですか?」
帝は小さく頷いた。
「ええ、私たちをQCに結びつけている疑似τファウンデーションは私たち自身の細胞を使用した特殊なものなんです。これによって私たちは自身を成長、つまり人元との連携を強化させる事が出来るんです。ちょっと時間はかかりますけどね。」
非天レイカは眉間に皺を寄せた。
「それもゼウス氏が研究員を操って作らせたんですか……凄いな……。」
蛇代ヨウコはニンマリした。
「ま、あんだけのゲームシステム考えたんだから凄い人だよ。見掛けだけじゃ分かりませんな、ヲタ業界にありがちだけど。」
帝は軽く微笑んだ。
「ふふ、そのお陰で肉体を持たない私たちでも自らの能力を開花する事が出来たんです。けど残念ながらこの特殊なτファウンデーションには寿命があります。一定以上の大きなダメージを受ければ一瞬でその寿命が尽きてしまう。そして第四階層に接触した瞬間にそこが私たちにとって危険な場所だと分かりました。」
歌寺ミナモは少し心配そうな面持ちで質問した。
「もしその特殊なτファウンデーションの寿命が尽きちゃったら……どうなるの?」
海野は笑顔で答えた。
「心配はない。そうなった時は通常のτファウンデーションに移行する様ゼウス氏がシステムを組んでくれている。」
歌寺ミナモは少しホッとしたが顔には表さなかった。
「心配とかじゃありませんし……。まあ、そんなこったろうとは思ってましたけどね。へえ、あのおっさんもやれば出来るじゃない。」
蛇代ヨウコはニヤリとしながら少し意地悪な目つきで歌寺ミナモを見た。
歌寺ミナモは少し顔を赤らめながらそのしかめっ面を背けた。
非天レイカは海野たちに確認した。
「けど、何らかの方法で先生方の能力……まだ顕現されていない力を引き出さなけりゃなりませんよね。それの寿命が尽きる前に、と言いますか……。」
海野はそれについての答えを導き出すために蛇代ヨウコに問うた。
「ああ、その通りだ。で、蛇代。私たちの残された能力についてなんだが……どう思う?」
蛇代ヨウコはダイブ中既に八人の能力についてある程度分析していた。
「あ、分析してたのバレちゃってます? 先生たちの能力って攻撃型でも音楽型でもなくて何て言ったらいいのかな……。」
鳥山イツキも自分なりにある程度の分析を済ませていた。
「ま、統率型って感じか?」
蛇代ヨウコは笑顔で鳥山イツキを見た。
「そう! それそれ。だから戦闘よりも寧ろ多くの『情報』によってその潜在能力が引き出されるんだと思う。」
海野は帝の方を見た。
帝は海野に向かってゆっくりと頷いた。
海野は再び生徒たちの方に向き直った。
「私たちと同意見だ。お陰で確信が持てたよ。さてと、そこで北守。」
北守カズミはいきなりの指名にドギマギした。
「え、私?」
海野はニヤリとしながら北守カズミを見た。
「ああ、そうだ。ここでお前の能力が必要になって来る。」
北守カズミは素っ頓狂な声を出した。
「は? はあ……。」
蛇代ヨウコはニコリとして北守カズミの方を見た。
「うん、カズミンの固有能力『開力』だね。」
海野はニヤけながら言った。
「ああ、正直北守には似付かわしくない能力かもしれないがな。お前には攻撃型の能力の他に潜在能力に干渉する力ってのが備わっているのさ。そいつを使って私たちの内に秘めた力を引き出してもらいたい。」
北守カズミにはまったく思い当たる節が無かった。
「う~ん、そうは言われましてもね……。蛇代、なんだよその『開力』ってのは……?」
蛇代ヨウコは北守カズミに文句を言った。
「もう! 自分の能力ぐらい確認しといてちょ! ま、カズミンはゲームの説明書も一切読まないからそんなこったろうとは思ってたけど……。」
北守カズミはふくれっ面の蛇代ヨウコを見ながら苦笑いした。
「はは、まあ読まなくても何とかなってたからさ……。」
海野も苦笑しながら北守カズミに確認しておく様に指示した。
「まあ、後日確認しといてくれ。お前らの闘いを見て私たちの経験値も多少上がってるはずなんでな。それを使って現状引き出せるモンを引き出してくれればいいんだ。」
北守カズミは自信無さげに言った。
「はあ、よく分からないけど……やってみます。」
帝は笑顔で言った。
「ええ、お願いしますね。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持




