197 眠る救世主【他世界の話】
「その為にも!」
ゼウスがグルリと一回転して海野のガードを擦り抜けながら前に出て来た。
「その為にもGmUに取り込まれたあの二人を覚醒させるしかないのですよ!」
皆ゼウスの言葉に注目した。
「あ……。」
いきなり全員に注目されたゼウスは照れた。
担任の海野ランが話の続きを催促した。
「照れんでいいから続きを言え!」
「ああ……年甲斐もなく照れちゃったよ。えへへ。」
ゼウスはそう言うとゴホンと咳払いをしてから話を続けた。
「二人の名はグリミドとアーカレッド。とんでもない天才姉妹だったよ。悪の蔓延る僕らの世界をあっと言う間に救っちゃったんだ。」
皆の真剣な目がまるで自分を睨んでるかの様に見えてゼウスはちょっとドギマギした。
「で、でだ、僕を含めた多くの科学者はその稀代の天才であり救世主でもある彼女たちに付いて行く事にしたってわけさ。その後世界は見違える様に良くなって行った。けど、人には寿命ってもんがあるんよね。そこで、僕たちは未来永劫平和を維持する為に様々な試みを行ったのさ。」
非天レイカは「成程」と言って頷いた。
「その一つがQCによる管理であり、もう一つが疑似τ(タウ)ファウンデーションの作成だったわけか。」
ゼウスは「そう」と言って話を続けた。
「二人の姉妹は率先してQCへのダイブを試みて見事に成功させた。僕たちも続々とダイブに成功し、いよいよ次の段階へとステップを進めたのさ。ところがここで問題発生。」
蛇代ヨウコはニコニコ顔で言った。
「うわっ、お約束!」
非天レイカはポツリと言った。
「さっき言ってた二人が取り込まれたって事象か。」
ゼウスは皆に問いかけた。
「まあ取り込まれたと言うよりは二人がそれを望んだと言うか……。マザーコンピューターのガイアは取り敢えず置いといて、先ずはウラノスの方だね。こいつは簡単に言っちゃうと『悪』を殲滅する為のプログラムなわけだけど、そもそも何で僕たちがこんなもん作ったのか分かるかい?」
歌寺ミナモは思い当たる考えを述べた。
「ああ、何となく分かるわ。悪を裁くって言っても相手は人間。だから情も移るし、そもそも人間に平等な判定は無理なんじゃないかな、厳密には。それに自分の手で人に罰を与える様なもんでしょう? 訓練もされてない真面な神経じゃキツ過ぎると思う。」
海野はやれやれと言った顔つきをした。
「まあ、概ねそう言った所だが、改めて……お前らホントに中1なの?」
帝ソヨギは海野の方を見て薄ら笑いを浮かべた。
「ま、あなたも大概だったけどね。」
ゼウスは話を続けた。
「その通りだね。けどそんな事言ってもさ、管理者としては何だかんだで拘わらなきゃならない。ましてや人元の研究を進めていた僕たちは否が応でも『悪』の本質ってやつに近づかざるを得なかったわけだ。で、その解は高次元になる程複雑化し狂暴になって行った。そしてある時、二人のリーダーはすべての判断をガイアとウラノスに委ねてしまったんだ。」
鳥山イツキは難しい顔をして腕を組んだ。
「ウラノスか……。『悪』を根絶やしにするって事を追求すればそれは人間そのものの消滅って事になるわけだな。」
帝は静かな口調で言った。
「極論だけど一理あるわね。どんな人間にも『悪』の可能性が潜んでいるわけだから。」
海野は「そうだな」と言いながら鳥山イツキを見た。
「何があったか分からんがその姉妹は『悪』をとても憎んでいた。つまり『悪』を消し去る為なら人間など消滅してしまっても構わないって考えが潜在的にあったのかもしれないな。それがウラノス引いてはGmUの目標に反映してしまったって事だろう。」
北守カズミは質問した。
「GmUは自分を正義だとでも思っているのか?」
非天レイカは今まで集めた情報からの考えを述べた。
「いや、ウラノスは己の方向性を正義としていない所にその本質が見え隠れしている。飽くまで『悪』を滅する一機能として振舞っているからね。そして今や傀儡となった二人を『悪行を赦されし唯一無二の絶対的存在』として立てている。それが奴らの大義名分みたいなもんになってるんだろう。」
鳥山イツキは「そうだな」と言いながら非天レイカに顔を向けた。
「災害で人が苦しむ事になってもその災害を『悪』とは呼ばないのと一緒か。まあ擬人化する事はあるがな……。で、GmUの人間部分である二人は唯一無二の必要悪って感じで奉られてるわけだ。」
ゼウスは一瞬真面目な顔をした。
「うん、その時は二人ともまだ完全に取り込まれていたわけではなかったからさ。だから僕らも二人を救出すべく電脳世界で戦っていたんだ。そのガイアやウラノスたちとね。」
「けどある時、遂に二人は完全に取り込まれてしまったって事か。」
北守カズミにも話の流れが掴めて来た。
ゼウスは自分の過去を語った。
「二人は高次になる程に複雑化、凶悪化する『悪』の脅威に生身の人間である自分たちではとても対応しきれないと悟ってしまったのかもしれないね……。遂には自らガイアとウラノスに取り込まれGmUとして一体化してしまったんだ。僕たちはそうなる前に彼女たちを救いたかったんだけど……。二人が眠りに付く事で人間的な良心を欠いたGmUは僕たちを人元ごと葬り去ろうとしたのさ。いやもう僕と言えば仲間を逃がす事だけで精一杯だったね。で、僕自身は元々ガイアの防御システムの一部を住処としていたからさ、そこに戻って機を窺う事にしたってわけ。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持




