193 夢無き時間軸【他世界の話】
珍しく香々美フジコが意見を言った。
「私もそんな感じだと思う。ただ……。」
香々美フジコが意見を言ってるのが珍しいのか皆が注目していた。
「GmUは本当にただのプログラムなのかな。何か人間味を感じるんだけど……。う~ん、先生たちとはちょっと違う形で……。」
ゼウスは香々美フジコの鋭い指摘に目を剥いた。
非天レイカは「成程……」と呟いた。
「そう言えば先生たちはどうやって今の状態になったんですか? 失礼とは思いますが良かったら教えてください。」
海野ランは「あっはっは!」と大きな声で笑った。
「流石あんたらだね。話が早い早い! ああ、気にしなくていいよ、私たちの身体の事は。」
帝ソヨギがニコニコしながら言った。
「そうね、まあ簡単に言っちゃうと私たちはQCに繋ぎ留められてるのよ。」
生徒たちは皆「どゆ事?」と言う顔をした。
帝ソヨギはニコっと微笑むと話を続けた。
「さっき非天さんが言っていた人間の元なんだけど……。すべての人にその人間の元があると仮定して、それ自体またはそれらの集合体をゼウスさんたちの世界じゃあ『人元』と読んでるらしいの。で、彼らによれば人間の身体には大脳を中心として二次元体、つまり曲面状の情報素子が張り巡らされていると。そしてこの情報素子を繋ぎとめる役割を担っているのが人間のDNA情報に内包されるτ(タウ)ファウンデーションと呼ばれる基礎地群。その二次元体を通して我々は『人元』と情報交換を行っているとの事です。」
歌寺ミナモが青ざめた顔でぼやいた。
「何かグロいわね……。ちょっと気分悪くなって来た。」
帝は「あら、ごめんなさいね。もうすぐ終わるから」と言って話を先に進めた。
「それじゃあ私たちの話に戻るわね。身体が極度に衰弱したり大きな損傷があったりするとこのτファウンデーションが機能しなくなってしまうのよ。つまり身体から『人元』が離れてしまうんです。これが人元論的な意味での死です。ところが『人元』の解析が進んだ世界ではQCのプログラムを利用して疑似のτファウンデーションをつくり出す事に成功してしまった。つまり私たちをこの場所に至らしめるのは正にその疑似τファウンデーションってわけ。」
鳥山イツキは難しい顔をしながら呟いた。
「う~ん、雲を掴む様な話だな。ただまあ先生方が実際そうゆう状態にあるって事は満更絵空事ってわけでもなさそうだ。」
北守カズミはワクワクした目で非天レイカに質問した。
「非天がさっき時間軸がどうのって言ってたが……まさか過去に戻れたりも出来ちゃうわけか? ほら、スーパーヒーローがめっちゃ速いスピードで時間を巻き戻しちゃうみたいなやつ。」
非天レイカは大教室の前にある電子ボードに計算式を書いた。
「確かに特殊相対性理論T=T'(1-(v/c)^2)^(1/2)の式を使って計算すると物体の速度が早い程にその物体の内部に於ける時間の流れ方は遅くなる。まあ、実際は速さと言うより加速や重力による時空の歪みが起因しているんだが……。」
北守カズミはボードに書かれた式と睨めっこしながら呟いた。
「ええと、^2は2乗するって事だろ? ^(1/2)は平方根か。Tが物体内部の時間、T'が物体外部の時間。うんうん。そんでcが光の速さ(光速)でvが物体の速さか……。」
非天レイカは一つ頷いてからボードに計算を書いて見せた。
「そうだ。例えば速さvが光速cの60%の時はv=0.6cだから、これを計算すると……T=0.8T'って事になる。例えば観測者(物体外部)の時間がT'=10時間経った時に、物体内部の時間はT=8時間しか経ってないって意味だ。v=cなら物体内部の時間は止まる。」
鳥山イツキは作業着の腕を捲りながらボードに書かれた式を凝視した。
「だがちょっと待てよ。その式で行くとv>cの時Tは負の数の平方根、つまり虚数になっちまうな。てえ事はだ、物体が光速を超えた所で時間はマイナスにはならない。虚数になっちまうだけだ。つまり過去には行けないって事か?」
蛇代ヨウコが北守カズミの方を見てニヤけた。
「ふんふん。光より速く移動しても時間は遡れないって事か。つまり過去には行けない。残念だったねカズミン。」
北守カズミは「ちっ」と舌打ちした。
「でもさ、そうするとその物体は一体何処に行っちまうんだ?」
非天レイカははそれに答えた。
「まあ、実際『虚数時』と言って時間を虚数で表す場合も多い。時間と空間の対称性を成立させるのに有効だからな。」
鳥山イツキは「成程!」と言って頷いた。
北守カズミは眉を顰めた。
「つまり光の速さを越えるとどうなるんだ?」
非天レイカは首を横に振った。
「それは分からない。だがもし他世界に移動できるとしたらその世界における過去や未来には行けるのかもしれない。それとゼウス氏の言う通り『人元』ってのが次元を突き破った存在なら死後生まれ変わったら過去に行けるのかもな。まあ私たち目線だが。」
北守カズミはドヤ顔で蛇代ヨウコを見た。
蛇代ヨウコは「う~ん」と唸った。
「でも死んだら過去に行けても意味無いんじゃない?」
香々美フジコが考えを述べた。
「ミンコフスキー空間。その虚数時を四元数に拡張して……例えば行先の異世界が遠くにある程時間旅行は自在になるのかな。」
海野ランは「ほう!」と言って笑った。
「そうだな。つまりはそうゆう事だ。ただしその移動ってやつには制限がある。」
非天レイカは言い切った。
「異世界に移動できるのは『情報』のみ。物質の移動はGmUの科学力でもまだ不可能……。」
海野ランは「天晴!」と言って喜んだ。
「ただ、その『情報』ってやつの中でも不確定な情報、つまり確率的な幅のある『情報』でなければトンネル効果は期待できないって事だ。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【研究員養成学校中等部 Z組】
<生徒>
非天レイカ …… Z組を復活させた。大卒。
北守カズミ …… 格闘家。スポーツ好き。
香々美フジコ …… 寝るの大好き。学年主席。
歌寺ミナモ …… 芸術家。アイドル。
蛇代ヨウコ …… プロゲーマー。身長120㎝位。
鳥山イツキ …… 工作大好き。職人気質の超美少女。
<教師>
海野ラン …… 担任。青い瞳、ブロンドの髪。
帝ソヨギ …… 副担任、教務主任。おかっぱ、眼鏡を所持。




