187 心ってもんが無いんだよ!【他世界の話】
新システムが導入されてから更に10年が経過した。
全人口は20年前の70%未満にまで減じていた。
だが、多くの人々が他人の為に己を捨てて奉仕する事を何よりの喜びとして毎日を過ごしていた。
脳内チップ等、GmUから与えられたテクノロジーによって欲求や感情も制御出来る様になっていた事も大きくそれに貢献していた。
神聖善人の世界。
この地球に於いてもGmUは優秀な人材を選出していた。
その中でも特に才覚のある者はGmU直轄の研究施設職員として推薦された。
さえt、GmUの支配する世界となってから20年。
この期間に生まれた子どもたちを世間ではG世代と呼んでいた。
そして、このG世代の中にもGmUのお眼鏡に適う者は存在した。
適正のある子どもたちはこの研究施設の研究員養成学校に入学する資格を与えられた。
ここはその研究員養成学校中等部の特待クラス『Z組』の教室である。
3人の生徒たちが思い思いに暇潰しをしていた。
ある者は寝っ転がりながら雑誌を読み、ある者はゲーマーズチェアに座ってパソコンのモニターを眺め、ある者は何か機械らしきものを溶接していた。
この養成学校中等部には特に優秀な者を集めた特待クラスが設けられていた。
特待クラスにはA組、B組、C組が存在し、それぞれ学習形態が異なっていた。
A組は通常の学校と同様に授業を受けながらカリキュラムを進めて行くシステムだ。
B組は授業が無く独学で学習を進める事が出来る。
但し、週に一度レポート等を提出して学習状況を報告しなければならない。
分からない事等はサポートセンターで教えてもらう事も可能だ。
C組はこれら二つを生徒の個性に応じてバランスよく織交ぜたものだ。
生徒たちは殆どの最先端資料や施設にアクセスしたり見学に行ったりする事が許されていた。
その為、特にB組などでは泊りがけで各所を転々とする生徒もいた。
勿論すべての費用は学校持ちだ。
生徒たちはこの3つのクラスを自由に選択する事が出来るし変更は何度でも可能だった。
彼らの多くは人々に役立つ人間と成る為に日夜学習に勤しんでいた。
G世代の子らにとってはそれが当たり前の事であり、嘗ての『悪』がのさばる世界については文献や資料で知るのみだった。
では、先程の『Z組』とは何か……。
このZ組も一見B組の様な自主勉形態を取ってはいるが一つ違う所があった。
それは彼女たちがこの部屋に軟禁されていると言う事だ。
軟禁とは言っても学校内のみでの話だが。
生徒は女子ばかりで6人。
非天レイカ、北守カズミ、香々美フジコ、歌寺ミナモ、蛇代ヨウコ、鳥山イツキ。
何れも中学1年生だ。
Z組の教室前方にある大きなモニターから二人の女性が映し出された。
一人は青い瞳のブロンドヘア、鋭い目が眠そうにしている。
もう一人は黒のおかっぱヘアで眼鏡をかけた真面目そうな容姿。
ブロンドの女性が欠伸をしながら挨拶した。
「おっはよ~。ねむ……。だる……。」
おかっぱの女性が「ちょっと」と言いながらブロンドの肩を突く。
「おはようございます。あら、今日は3人しかいない……。」
ブロンドがかったるそうに言った。
「あ~ん? まだ寝てんのかよ……。誰か起こして来いや。」
3人の生徒は誰一人動こうともしない。いつも通りだ。
金髪が「おいこら! 聞いてんのか!」と怒鳴ろうとすると教室後方の扉が開いた。
そしてそこから3人の少女がぞろぞろと入って来た。
ブロンドは「ちっ」と舌打ちすると文句を言った。
「遅えんだよ、毎日よ! ったく、うっざ!」
おかっぱ先生が「ちょっと」と言いながらまたもや金髪の肩を突く。
「全員揃ったわね。え~体調悪い人はいませんか? ん、大丈夫ね。はい、みんな元気っと……。」
ブロンドは遅れて入って来た3人に警告した。
「お前ら遅刻したんだから分かってるよな……。」
タンクトップの女生徒、北守カズミは一応って抗ってみせた。
「ちょ、ちょっと待って! 私は起きてた。トレーニングに夢中になってて遅れただけですから。」
スウェット姿の香々美フジコはまだ眠そうにしていた。
片手に枕を抱きながら目も半開きだ。
「私も起きてましたよ~。お布団さんが放してくれなかっただけですよ~。」
ブロンドの担任は目を細めた。
「お前まだ寝るつもりかよ……。却下、却下だ! 遅刻は遅刻。罰則は受けてもらう。」
北守カズミは唇を尖らせてぼやいた。
「せめて朝飯だけにしてくんないかな。一日中マズ飯なんてありえねえし……。」
このマズ飯とは校内の罰則の一つで、ほとんど味のしない食事が供給されるというものだ。
栄養価諸々はほとんど変わらないが兎に角食欲が起きないのだ。
非天レイカは不貞腐れた顔で北守カズミをチラ見した。
「朝っぱらから勝負しようなんて言うからだ……。」
おかっぱ先生が目を凝らして北守カズミをよく見るとタンクトップの下から赤い痣の様なものが見え隠れしていた。
「ちょっとあんたたち、またやってたの?」
流石のおかっぱ先生も呆れ顔だ。
非天レイカの首筋にも赤い擦った様な跡が付いていた。
金髪は片目を瞑って渋い顔をした。
「またお前らは朝っぱらから……。それが遅刻の原因かい……。」
北守カズミは
「あ~あ、飯をわざわざマズくするなんて……今の科学には心ってもんが無いんだよ。心ってもんが! サプリかっての。」
ゲームの方が一段落して様子を見物していた蛇代ヨウコは手を叩きながら「きゃひゃひゃひゃ!」と大笑いしていた。
椅子でファッション雑誌を眺めていた歌寺ミナモは小さな声で文句を言った。
「蛇代、うるさい。」
鳥山イツキは溶接面を外しながら何事も無かったかの様に宣った。
「先生、タングステン減って来たんで補給の方お願いしやあす。後、アルゴンガスの方もそろそろ切れかけてますんで……後一本しか無いんで。ってか、この前注文した部品まだなんすかねえ。大分前に発注したんすけど……。」
超美少女には似つかわしくない言動だ。
物凄い形相で肩を震わせているブロンド。
その傍らでおかっぱ先生が引き攣った笑顔を携え一筋の汗を垂らしていた。
「海野先生がブチ切れそうなので私たちはそろそろ引き上げます。バハハ~イ!」
二人の教師はモニターから消え去った。
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子




