173 Dr.って……あんた博士なの?
冥土センケツは文章を読み返した。一体どういう事なのか。
トップ? が……直接コンタクトを取って来た。
今まではと言えば仕事に関する機械的なやり取りだけに終始していたのだが。
冥土はその様な単純なやり取りだけだったからこそ、ある意味警戒を解いていたのだ。
冥土が困惑していると文章がもう一行付け加えられた。
>どうでしょう。私たちと手を組みませんか?
冥土は相手の真意を測り兼ねていた。
>手を組むとは?
>ご推察の通りここ最近コスパルエイド社と3Dボカロ社及びサイバーポリスへのハッキングが不可能となっています。原因はまだわかっていません。それを追求したいのです
冥土は嫌な事を思い出し苛ついた。
>今まで失敗した分の金でも返してくれるのか?
>場合によっては全額返金致します
「何!? はは……本当かよ……はは……。」
冥土はまだ信用しきれていなかった。
>手を組んだらって事か?
>話しを聞いていただければそれだけで結構です。もし宜しければこの添付ファイルを開いてください
そこには添付ファイルのリンクが貼られていた。
冥土はファイルのインストールに抵抗を感じた。
>安全なのか? 変なモンでも入ってるんじゃないだろうな
>今までも仕事上とは言え、お互いの信用があったからこそ滞り無くやって来れたものだと自負しております。私たちは秘密を厳守し、あなたにご迷惑をかけない様、努めてまいりました。勿論、その点についてはこれからも同じです。この件を受けるにせよ断るにせよ、この関係が今までと変わる事は一切ありません。
冥土は考えた。
そうだな、金が返ってくるかもしれないし話だけでも聞いてみるか。
>ファイルを開くとどうなるんだ?
>私と直接会話が出来ます。顔はお見せできませんが
冥土は無言でリンクされたファイルを開いてみた。
するとソフトがインストールされ起動した。
「はは……。今までのソフトとどう違うんだ?」
使い方やデザインも今までのやり取りに使っていた一般の通信ソフトと然程変わりはなかった。
冥土がその長方形の枠を眺めていると一文が表示された。
>インストールしていただきありがとうございます。
すると明らかにCGと思われる美しい女性の顔が映し出された。
サソリを模した髪飾りとイヤリング。
CGとは言えかなりリアルだ。
その女性は一礼するといきなり話し出した。
「少し気持ち悪いかもしれませんが、ある程度こちらの表情が分かった方が良いかと思いこの顔を表示させていただきました。」
CGとは言え殆ど人間に近いその顔はにこやかに微笑んだ。
確かに声だけよりはこっちの方がいいか……。
「ああ、初めましてって言った方がいいのかなぁ? はは……。」
顔は微笑みながら言った。
「ある意味そうかもしれませんね。私は……そうですね、Dr.Gとでもお呼びください。」
「はは……Dr.Gか……。で、要件は?」
「そうですね。では、先にお伝えしておきたい事から申し上げます。私たちのテクノロジーはある意味、かなり進んでいます。そして私たちの有する情報の中から勝手ながらあなたが関わって来た仕事についてある程度の内容を把握させていただきました。今よりはそれを踏まえていただいてのお話となります。」
これは冥土にとって想定内の事柄であった。
まあ、あれだけの仕事が出来るって事はそう言う事だよな……。
冥土は少しつっけんどんに言った。
「ああ、で?」
「私たちの仕事をお手伝いいただければ、それなりの報酬をお支払いいたします。」
「はは……。成程ね。けど、私もいろいろ忙しくてねえ。はは……。その辺も調べはついてんだろう?」
「はい。思うに、あなたの仕事はリスクの大きさに比べて得られる報酬が少額に感じられますが、どう思われていますか?」
成程、確かにその通り。今の仕事は足が付けば即逮捕ってのが多い。
しかも、利用した奴らや商売敵からも狙われる可能性が高い。
この前なんか仏の関係者とやらに危うく嗅ぎつけられる所だった。
冥土はDr.Gの話しに興味を示した。
「はは……。どんな仕事だ?」
「はい、実はQC関係の仕事、つまりあなたが先程手を引こうとしていた3Dボカロ社関連の仕事の事ですが、これらはすべて私たちが受注していたのです。」
盗聴器でもついてんのか? 何故手を引こうとした事を知っている……。
冥土は訳が分からなくなった。
「はは……。何だって? じゃあ、自分たちでやりゃあ済む話じゃないか。はは、はは……。何で他に頼む必要があるんだぁ?」
Dr.G(のフェイス)は表情を変えずに理由を話した。
「簡単に言いますと、私たちには所謂『実体』が無いからです。」
冥土は怪訝な顔をした。
「はは……。AIか何かって事かい?」
Dr.Gは即答した。
「そう思っていただいても構いません。但し、誰かが私たちを使って事を進めているわけではありません。寧ろ私たちが人間を使っていると言った方がいいでしょう。」
冥土はその言葉に多少なりともムカついた。
「あん? ……私もコンピューター様に使われるって事かい。はは……ふざけんなよ……。」
Dr.Gは手と顔を横に振った。
「いえいえ、滅相もない。仲間にそんな事はいたしません。」
冥土は先程Dr.Gが言った『人間を使っている』と言う言葉が妙に引っかかっていた。
「仲間……仕事仲間って事か? はは……。正直、信用ならないなぁ。」
Dr.Gは真面目な顔をして言った。
「いえ、そう言う意味ではありません。仲間と言うのは……そうですね、あなたが最終的に成し遂げようとしている事。それと私たちが成そうとしている事が同じ方向を向いていると言った意味です。」
冥土は動やもすれば油断を誘い兼ねない彼女のあどけない顔立ちに少し寒気立った。
自分がやろうとしている事……こいつにはそれが解かるってのか?
誰に話す訳も無い、我が内に秘めた『審判の日』。
Dr.Gの真意を見抜く為、冥土は単刀直入に質問してみた。
「成そうとしている事ってのは何だい?」
Dr.Gは満面の笑顔で返答した。
「ターゲット全員を処刑する事です。これ以上ない苦痛を与え続け、その果ての『鬼虐殺』でしょう? ご期待に添えると思いますよ。」
冥土は呆気に取られた間の抜けた表情を隠せなかった。
彼は『鬼虐殺』と言う自分だけの言葉を常日頃から使っていたからだ。
無論、口から発したりはせずに内心だけで。
「……何で、解った……?」
Dr.GのCGフェイスはサソリのイヤリングをひらひらと揺らしながら無邪気な笑顔で答えた。
「蛇の道は蛇、同じ穴の狢だから……ですかね。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所
小橋レイナ … 社長、代表取締役
黒木ナナ … 副社長。1児の母
【警視庁サイバーポリス】
早見ライザ … 特殊犯罪対策室の室長
和田サトシ … 特殊犯罪対策室研究部のリーダー
【ルンファー】
南宮大学「アイドル研究会」の女性ボーカロイドユニット
研究会顧問は台場タエコ
(株)ノアボカロシステム 芸能事務所に所属
ユメ … マネージャーは月影ユメ。ナビは阿弓セレーネ
アメ … マネージャーは火柱アメ。ナビは囲井ヘスティア
ミン … マネージャーは水野ロウ。ナビは魚住アンフィトリテ
カヨ … マネージャーは木陰カヨ。ナビは花城フローラ
ミア … マネージャーは金城ミア。ナビは宇佐美アフロディーテ
モモ … マネージャーは日土モモ。ナビは耕崎ガイア
サン … マネージャーは日土ミカン。ナビは天童エオス




