158 肝心な時に限って噛む
月影ユメたちを乗せた小型バスは宿泊先のホテルに向かって高速を走っていた。
身バレを心配する先輩たちを金城ミアが済まなそうに見ていた。
「申し訳ありません。父の会社を救ってくれた事が仇となってしまって。」
木陰カヨは金城を諭した。
「それは私たちが決めてやった事。言わば必然だったのよ。」
火柱アメも木陰に同意した。
「そうだよ。そんな事思っちゃダメ。それより今やれる事を考えよう。」
金城は少し元気を取り戻した。
「そうでしたね。わかりました!」
日土モモは金城に言った。
「ホテルに着いたらモモタンたちも呼び出して意見を聞いてみましょうか。」
月影は張り切った口調で言った。
「久しぶりに『七天子』集合ね!」
Vユメに憑依した月影がそこから更にセレーネと合体した状態を皆は『月天子』と呼んでいた。
また、火柱、水野、木陰、金城、ミカン、モモの6人も既に同様の合体に成功していた。
そして、それらの状態をそれぞれ火天子、水天子、風天子、法天子、土天子、日天子と呼んだ。
名前の由来は古文書に記された術の名前に因んだものだ。
そして『七天子』とは、この7人が集まったチーム名だ。
これは警察に情報提供する際こちらの団体名があった方が何かと都合が良かったからだが月影たちはこの名前を案外気に入っていた。
当初、事件をすべて暴くには月天子が一人居れば充分であった。
ところが、とある組織が関与し出してからと言うもの簡単には行かなくなってしまった。
セレーネの能力に対抗し得る何者かが立ちはだかる様になってしまったのだ。
その正体は未だに謎だが月影たちは『ミュラノス』と呼んでいた。
これはセレーネが初めて彼らに接触した際に発生した文字列から取ったものだ。
ミュラノスによる最初の妨害は暗号解析に関するものであった。
この暗号解読合戦は熾烈を極めた。
月影にはそれが激しい戦闘シーンとしてイメージされた。
月天子がこの戦闘を辛うじて勝利した時の最後のキーワードが「myOuranos(ミュラノス)」であったのだ。
その後もミュラノスとの戦いは熾烈を極めたが新たに加わった六天子の参戦により最近では大分有利な展開が見込まれる様になっていた。
ホテルに到着した。
顧問である台場タエコは自分の部屋に荷物を置くと、生徒7人が宿泊する大部屋へ移動した。
この部屋にはとても広い和室があり、7人はここに布団を敷いて寝る予定だ。
リビングの大テーブルには椅子が10脚あり、台場が部屋に入った時には全員ノートパソコンをその机上に開き準備を完了していた。
また、備え付けの大きなモニターには既に7人のナビゲーターが映し出されていた。
セレーネは事前に7人の考えを纏めておいてくれた。
全員が席に着くとセレーネは皆に告げた。
「私たち7人で話し合った結果、サイバーポリスの早見ライザさん、及び和田サトシさんの両名に正体を明かすのが賢明ではないか、危険を最小限にできるのではないかという結論に至りました。」
台場はその意見に頷いた。
「私もそれを考えてました。セレーネさん、もしそうするとしてデメリットを教えてくれますか?」
セレーネは返答した。
「はい。デメリットはサイバーポリスの早見さんと和田さんから何らかの形で私たちの情報が漏洩する可能性があると言う事です。」
木陰が頷いた。
「成程。漏れるとしたら不完全たる我々人間からって事ね。」
セレーネは話を続けた。
「人間からって事で申し上げますとサイバーポリスも人の組織。そしてお二人もその組織の一員である事が情報漏洩の確率を引き上げています。」
火柱は父親から聞いた話を思い出した。
「確かに組織ってのは融通が利かないからね。早見さんたちは上司に私たちの事をどう伝えてるんだろう。」
セレーネはその質問に答えた。
「最初は『謎の情報提供者』として報告していました。しかし二件目以降は敢えて『情報提供者』と言った言葉は使用せず『自分たちの調べでは……』と言い方を変えています。そしてこれはお二人が私たちの安否を気遣っての策です。」
月影は涙目で叫んだ。
「早見さん、和田さん! 何て良い人なの! 信じよう! お二人を信じよう!」
台場は決意を込めた声で言った。
「その事から推察してお二人は私たちを庇ってくれている。つまり私たちが非合法な手段で情報を取得している事を知りながら、それを何とかしようとしてくれているのかもしれない。けど、これがまだどう転ぶか分からない以上、約束通りすべては私がやった事にしてもらいますから。みんなもその積りでね。」
水野は親指を顎先に付けて机上を眺めながら少し考え込んでいた。
「台場先生、申し訳ありません。けど、そうですね……。早見さんたちがそこまで考えてくれているのであれば二人から漏洩する確率はかなり低くなると思われます。」
セレーネは少し微笑んだ。
「ええ。通常であればここにいる皆さんから漏洩する可能性の方が数百倍高いと言えます。また、あのお二人が私たちを検挙する確率はかなり低いと考えます。問題は組織と言う条件下の元どの様な作用が働くのかですが……。」
金城は「うわ~」と言いながら首をすぼめた。
「漏洩する確率、私がかなり引き上げてるよ……。」
日土モモはにやけながら言った。
「うん。それは言えてるかも。」
金城はふくれっ面でモモを睨んだ。
「普通は『そんな事ないよ!』って否定する所でしょ。モモの意地悪。」
日土ミカンが水野の方を見て確認した。
「セレーネの言った『通常であれば』ってのは組織が絡んでない状態って事ですかね?」
水野はその言葉に頷いた。
「うん、その部分が大きいと思う。他にも人間関係や習慣、信条や癖なんかも関係すると思うけど。今までの言動から考えてもお二人には尋常じゃない危機管理意識があると言えるでしょうから。」
火柱はその意見に同意した。
「流石は警察官ね。金城もそうかもだけどユメ、見習いなさいよ。」
月影はムッとした顔つきで火柱に文句を言った。
「何よ! アメちゃんこそ見らないなさいよ! あれ、何か違う?」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所
小橋レイナ … 社長、代表取締役
黒木ナナ … 副社長。1児の母
【警視庁サイバーポリス】
早見ライザ … 特殊犯罪対策室の室長
和田サトシ … 特殊犯罪対策室研究部のリーダー
【ルンファー】
南宮大学「アイドル研究会」の女性ボーカロイドユニット
研究会顧問は台場タエコ
(株)ノアボカロシステム 芸能事務所に所属
ユメ … マネージャーは月影ユメ。ナビは阿弓セレーネ
アメ … マネージャーは火柱アメ。ナビは囲井ヘスティア
ミン … マネージャーは水野ロウ。ナビは魚住アンフィトリテ
カヨ … マネージャーは木陰カヨ。ナビは花城フローラ
ミア … マネージャーは金城ミア。ナビは宇佐美アフロディーテ
モモ … マネージャーは日土モモ。ナビは耕崎ガイア
サン … マネージャーは日土ミカン。ナビは天童エオス




