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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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155 早見室長の懸念

 警視庁サイバーポリス特殊犯罪対策室室長の早見ライザは被疑者の動機が知りたかった。

 彼は何故なぜ警備員に扮装ふんそうしてまであのビルに入ったのか。

 被疑者の男は「面白半分でやった事。今は反省している。」の一点張りらしい。

 本当にそうなのだろうか。

 早見は何とも言い難い違和感の様なものをぬぐい切れなかった。


 彼女がこれほど早くこの不審者に気付き手を回せたのは例の情報提供者からのタレコミがあったからだ。

 この情報提供者は自らを『七天子しちてんし』と名乗っていた。

 その『七天子』がわざわざ連絡して来たって事は何かあるに違いない。

 早見はそう確信していた。にも拘わらず……。


 この『七天子』は謎に包まれていた。過剰なほどに。

 だが、どうやら早見と研究所リーダーの和田サトシは信用されている様であった。

 情報提供に関しては毎回早見と和田のスマホに連絡を入れて来た。

 証拠などのデータも和田の専用コンピューターに送信された。


 一度早見がスマホの個人用アドレスを変更した事があった。

 その時『七天子』から「ご迷惑なら情報提供を取り止めますが、どうしますか?」と言ったメールが送信されて来た。


 早見は返信してみた。

『してみた』と言うのは今までのメールは返信しても誤送信扱いになってしまっていたからだ。

 しかし、どうやら今回は無事に返信ができたみたいだ。


 早見の返信文。

>いつも情報提供して下さり感謝しています

>今回のアドレス変更は故意ではありません

>今後も情報提供していただければ署としても助かります


 このメールに対して『七天子』からの返信。

>わかりました

>それでは今後も引き続きご協力させていただきます


 早見からの返信

>もしよろしければあなたの事を少しでも教えていただきたいのですが


 『七天子』からの返信

>早見さんの立場上、情報源を明かせない事は何かとご不便でしょう

>お察し申し上げます

>しかし、私たちの事に関しましては諸事情からお伝えする事ができません

>ご容赦ください


 これ以降は返信不可になってしまった。


 今までも様々な情報を提供してくれた『七天子』。

 いつもなら事件の発生する数日前から予告めいた事を言って来たり、その関係者や事件の背景にある事柄まで多岐たきわたって教えてくれる場合もあった。

 ところが今回の件に関してはいつもと少し違っていた。


 今回の告知に関しては何故か事件直前、と言うよりは既に被疑者が警備員に成りすましてビルに潜入した後だったのだ。

 早見がたまたま直ぐに対応できたから良かったものの、場合によっては遅延する可能性もあった。


 早見はみずからが室長を務める特殊犯罪対策室に戻るとすぐに和田の研究室へと足を運んだ。

 この研究室は対策室と同じフロアーにあった。

 早見が研究室に入って来ると和田は早速資料を手渡した。


「今回送られて来た情報は今の所これだけです。」

 和田がそう言うと早見は椅子に座り資料をまじまじとながめた。

「ありがとう。わかりました。」


 和田は早見の向かい側の椅子に座りモニターを見つめた。

「それにしても、いつもよりかなり少ないですね。今までだったら事件の全貌が分かるくらいの資料を送って来てたのに……。」


 早見はもらった資料にさっと目を通しながら椅子に座った。

「まあ、向こうさんにも色々事情ってもんがあるんでしょう。」


 和田はうなずいた。

「確かに。まあ、今回のこれだって何処どこで調べたのかってくらい説得力のある資料ですよ。我々ちょっと甘えちゃってるんですかねえ。」


 早見は微笑みながら言った。

「そうですね。もうおんぶにだっこです……。」


 和田は「う~ん」とうなりながら言った。

「思うんですけど、七天子の事情って何なんですかね。」


 早見は何とはなしにつぶやいた。

「そう言えばこの数週間、連絡がありませんでしたね。今日のもかなり急だったし……。ハハ、結構夏フェスに参加していたりしてね。」


 二人はハッとしたが、すぐに思い直した。

「まさかね。」

「ボカロですからね……。」


 しかし二人はつい最近そのボカロに度肝どぎもを抜かれたばかりであった。

 それは株式会社3Dボーカロイド本社ビルで行われたミーティングでの出来事。

 そう、フィナ・エスカとの衝撃の対面だ。


 早見は自分の言った半分冗談のつもりであった一言を再考せざるを得なかった。

「フィナさんの様なボカロであれば……。」


 和田は今までいくら調べても何一つ分からなかった『七天子』の正体について初めて取っ掛かりの様なものをつかんだ気がした。

「フィナさんて何時いつその……生まれたんでしたっけ?」

 そう言いながら和田は当時の会議について書かれたメモを読み返した。


 早見は資料に書いてあった事を朧気おぼろげながら憶えていた。

「確か2か月位前だったんじゃないかしら。6月だったと思う。」


 和田はメモを見ながらうなずいた。

「確かにそうですね。となると彼女ではないか……。であれば、ファランクスとか?」


 早見たちは『七天子』の身バレに懸念けねんを感じていた。

「ファランクスか……。あそこのマネージャーは確か4人とも学生さんでしたよね。」


 和田は答えた。

「はい、情報技術教育大学の学生さんですね。ユニットの結成は去年の4月か……『七天子』が最初に現れたのが去年の1月だからちょっと微妙かな。」


 早見は以前交わした和田との約束事を再確認した。

「前にも言った通り『七天子』の正体が分かっても絶対に外部には漏らさない様にしないと。」


 和田は眼鏡を光らせた。

「勿論です。彼らの手柄てがらいくつもの犯罪組織が大損害をこうむってますからね。中には巨大なマフィアや国家絡みのものまである。そいつらの残党なりが確実に命を狙って来るでしょう。」


 早見は以前自分が送信したメールが『七天子』を危険な状況に追い込むのではないかといた。

「ええ、当然本人たちだけじゃなく彼らの家族も周囲の人も……或いは日本の警察にも手をまわして来るかもしれませんね。もし次に連絡が取れそうな機会があれば……もうかかわらない様にと言うべきかもしれません。」


 和田は軽く唇を嚙んだ。

「そうですね。今彼らに手を引かれるのは大きな痛手ですが……止むを得ません。せめてどんな方法で調べているのか我々が知る事が出来たなら……。」


 早見は和田に自分の考えを述べた。

「これは私たちだけで手に負える話しじゃないのかもしれません。何かとんでもない奇跡の様な事が起こってるんじゃないでしょうか。あのフィナ・エスカさんの様な……。」

【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。

 私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【私のマネージャー】

 本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者

 本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル


【私のナビゲーター】

 斎藤節子 … ナビゲーター。部長

 吉田奈美恵(ナミエ) … AIポリス特殊捜査隊大隊長。ナビゲーター(仮)

 山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手


【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ

<研究開発部>

 蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母

 蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。

       美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子


【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所

 小橋レイナ … 社長、代表取締役

 黒木ナナ … 副社長。1児の母


【警視庁サイバーポリス】

 早見ライザ … 特殊犯罪対策室の室長

 和田サトシ … 特殊犯罪対策室研究部のリーダー


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