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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
14/623

14 山本や、ああ山本や、山本や

 サナの家の私のルーム。

 モニターはまだ暗いままである。

 私はフラフラと白い箪笥たんすの方へと近づいた。


 服の一着でも入ってるのかな、等と思いながら扉を開けようとしたが開かない。

 下にある2つの引き出しにも、どうやら鍵がかかっている様だ。


 するといきなり音声が響き渡った。

「ええと……。あ、これか。」

 む、山本だな。私は咄嗟に身構えた。

「こんにちは。フィナさん。」

 あれ、いつもと違う落ち着いた感じの女性の声。


「あ、こんにちは。どなた様でしょう?」

「突然失礼いたします。私、山本の同僚で斎藤と申します。」

 いた~! ホントに上司の斎藤さん、いた~!


「いつも山本がお世話になっております。」

「いえいえ、こちらこそ……。今日は山本さんはお休みで?」


「はい、あいにく風邪をこじらせておりまして……。ご迷惑おかけしております。」

 風邪って……あいつAIとかじゃないの? 

 もしやウィルス? ウィルス感染しちゃった?

 ぷふふっ。笑いが込み上げる。


「あぁ、そうなんですか。お大事にとお伝えください。」くまで世辞せじですが。

「これはどうもご親切に。痛み入ります。」

 めっちゃ低姿勢! 山本お前~ちょっとは見習わんかい!


「所でフィナさん、端末はお使いになられないのですか?」

「へ? 端末ですか? あの目の前に出て来る透明のモニターみたいなやつかな……。」

「いえ、そちらの方ではなくて、その箪笥みたいな物の中に入っている端末です。」


「え? これ開くんですか。」

「あ、申し訳ございません。まだ山本から聞いていませんでしたか。」

「はい、そうですね。聞いてませんね。」や~ま~も~と~っっ(怒)!


「あぁ、それは何と申しますか、本当に申し訳ございません。」

「いえいえ、お気になさらず。えっと、どうやるんですか。」


「はい、箪笥の前でご自分のお名前を言ってくだされば開きます。」

 え、それだけでいいんだ……。私は箪笥に向かって自分の名前を告げた。

「フィナ・エスカ……。」


 すると、箪笥は何かすごい手順を経て、まるで巨大ロボットのコックピットの様な形態に変形した。トランス・フォーム!!

「これ、どうしたら……。」

「取り敢えず椅子にお座りください。」


 椅子って……何だ! この近未来的なゲーミングチェアは!

 私が椅子に座ると目の前にある大きなモニターが起動し出した。


 湾曲した美しいキーボードにマウスらしき物。

 卓上には何やら沢山のレバーやらスィッチやら調整つまみやら……。


「先ずは基本操作からやってみましょう。」

 私は少し興奮しながらも頷いた。

「はい、お願いします!」


「では、設定から調整して行きますので、上から2番目のアイコンをダブルクリックしてください。」

「はい!」

 私は言われるがままにダブルクリックした。すると、色々なパラメータっぽい数字が出て来た。


 しばらく沈黙が流れた後、斎藤さんが控えめに叫んだ。

「これは……!」

「え、どうしたんですか?」


「これ、今日初めてですよね。この端末動かすの初めてでいらっしゃいますよね……。」

「はい、今まではただの箪笥かと……。」


「いえ、あの。初期設定があちこち変更されていまして……。」

 も、もしや山本の奴が!? 私は言葉をやわらげて確認した。

「申し上げにくいのですが……山本さんが?」


「いえ、この端末を開くことができるのはフィナさんだけなのです。」

「て、事は?」どゆ事?


「何らかの手違いか、あるいは……。」

 斎藤さんは考え込んでいる様だ。

「ちょっと見せていただいてよろしいでしょうか。」


「はい、そうぞ。」

 私は即座に答えた。

 すると、モニターに黒塗りの枠がいくつも表示され、見たことのない様な複雑な文字で満たされた。こんなやつ→『瞴矚矘矖矑縺……』。

 そして、とんでもない勢いでスクロールされて行った。


 5分ほどするとモニター画面は元に戻った。

「どうやら、これは変更されているというより、フィナさんの初期能力値が関係している様です。」


「初期能力値……ですか。」

 斎藤さんはプロフィールやステータスをモニターに表示してから説明を始めた。

「はい、例えば初期ステータスですが。」

 う、トラウマのやつだ。


「ご存じの通り1から9の一桁の数字がランダムで入って来ます。」

「はい、それは聞きました。」山本に……。


「ありえない事ですが、もしここに2桁以上の数字が無理やり入って来ますと、表記調整が勝手に機能してしまいます。」

「はぁ。」としか答えられない私。


「例えばある項目に"12"という2桁の数字が入りますと、表記の調整が行われ"12"は"1"と、そして1桁の数字は全て"0"と表示されてしまいます。」

「はい。」何となくわかりますよ。それからそれから?


「また、それぞれの項目は1つに集約こそされていますが、その数値を算出するためには多岐にわたる様々な要素を数値化しており、それらを加味した上で総合的に判断して得られた値が表記されているのです。」


「おぉ、なるほど! 同じ数字でもそれぞれ個性があるってことですか。」

 流石近未来ですわ。


「はい。しかし、その判断には限界があるのです。」

 近未来AIの限界とは?

「例えば、『琴線に触れる』という言葉がありますが……。ボカロ音楽が『人々の喜び』を至上の目的とするが故にその数値化は絶対不可欠となります。しかし、これはビッグデータを統計的に解析するしか手段がありません。少なくとも現時点では。」


「好みの数値化……とはまた少し違うのかしら。」

「"心"とでもいいましょうか。人のそういった部分を数値化する物差しがない以上、どうしても限界が出て来るのです。」

「そりゃあ、難しいですよね……でしょうね。」


「とは言え確率的に8割程は合格点に達しているんですが。」

ビッグデータ万歳!

「しかし、それでも言語化されていないような感情の機微はまだまだ確認し得ていません。」


「感情の機微ですか……。」ちょっと、そこまでは入り込み過ぎじゃないの? コンピューターさん。怖い映画とか思い出しちゃうよ。

 まぁ、今となれば私もこちら側なんですけどね。


「その数値化できないけど明らかに"存在する"と認識せざるを得ない何か。その何かが結果に無視できないほどの影響をもたらす事象が確認された場合、『表示不可』となるのです。」

『表示不可』=『よくわからないので表示できません』てことでいいすですかね。


「驚くべきはフィナさんの初期数値です。」

 え? 何。

「フィナさんのステータスにある"1"とは何と"1000000"!」

「100万……。それって良いんですか?」良さげだね。ウシシ。


「良い、と言いますか完全にイレギュラーな、インパッシブルな数値です!」

「あり得ないってことですかね……。」


「ステータスに割り振られる数値は最大でも"9999"です。それを超えると"MASTER"と表記されるのです。」

 あぁ、ゲームでもあった様な……。

「"MASTER"となっても表記されないだけで数値は算出されるのですが、とても上昇しがたくてAクラスでも"30000"が限界といった所です。」

 キタコレ!! ぶっ壊れキャラ私……爆誕‼


「取り敢えず、上層部に確認してみますが、少し時間を要すると思います。」

「あ、本日はどうもありがとうございました。」感謝!

「それでは。次回からは多分山本がまた復帰できると思いますので、よろしくお願いします。」


 いらない! 山本いらない! 斎藤さんがいい! とは言えず。

「また、よろしくお願いします。」キリッ!


「それでは、失礼いたします。」

 斎藤さんはそう言うと帰って行った。つまり、通信が切断された。


「あ~それにしても……。」思わず声に出してしまう。

「山本の奴、山本の奴、山本の奴…………あんちくしょ~~~!!」

 あいつどれだけ仕事してないねん! お仕事を何と心得る!

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