13 アイドルユニット『ファランクス』
サナは今、友だちのユキナの家に来ている。
ユキナは優しく大人しい感じの少女でサナの幼馴染。因みにお金持ちである。
ユキナの家には他にミナ、マナミ、ヨナが来ていた。
5人は1階の広いリビングでユキナの母が作ってくれたお菓子を食べながらお喋りをしていた。
ミナはお菓子をバクバク食べながら言った。
「やっぱ、ユキナのママが作るお菓子は最高だわ。」
それを聞いていたユキナの母は嬉しそうだった。
「そう言ってくれると作った甲斐があるわ。ミナちゃんはいつも食べっぷりがいいわね。」
マナミは張り切って食べているミナの方を向いて言った。
「ちょっと、そんなに慌てて食べると 零すでしょ。」
ヨナは何も言わず黙々とお菓子を味わっている。
サナはそんなヨナの方を見て言った。
「ねえ、ヨナのお兄さんてボカロのオーナーだよね。」
ヨナはサナの方を見ながら頷いた。
「うん。アテナ・グラウクス。クラスはN。ファランクスっていうユニットのメンバーやってる。」
学校じゃ滅多に聞けないけど、めっちゃかわいい声。
サナは姉のサユリがフィナのことを少しおかしい様なことを言っていたのが引っ掛かっていた。
そこで他のボーカロイドのことを知りたいと思ったのだ。
「へぇー。どんな歌を歌ってるの?」
するとヨナはスマホをポケットから出してポツリと言った。
「観る?」
お菓子をむさぼりながら聞いていたミナは身を乗り出してきた。
「あ、私も見たい。ファランクスって最近デビューしたんだよね。」
ユキナが気を利かせて言った。
「じゃあ、今テレビつけるから。ヨナちゃん送信できる?」
「うん。大丈夫だと思う。」
ヨナがスマホをテレビの方へ向けると、動画が転送され出した。
マナミはファランクスについて評した。
「ネットのCMでちらっと観たけど、めっちゃダンスがかっこいいんだよね。」
転送が終わり、動画が流れ出した。
軽快な音楽とともにファランクスの4人が登場すると、ミナが騒ぎ立てた。
「かっけー!」
ユキナもそれに見入っていた。
「4人の動きがすごい合ってる!」
ボカロユニットのダンスは人間でもやればできるかもしれない程度で調整されている。
空中に浮遊するなど、あまりにも人とかけ離れた動きを入れるなら、それなりに納得できる流れを作らなければならない。
例えばコミックバンド系でありえない動きをおもしろおかしく表現することを売りにしているユニット等がある。
しかし、正統派アイドルユニットとなれば、人が同じ動きをして楽しめるものであることが基本となる。
ファランクスはそのギリギリの所を突いてくるスリリングでアクロバティック一歩手前のダンスが1つの売りとなっている。
ミナは興奮しながら言った。
「ヨナのお兄ちゃんがオーナーなんだよね。これ。」
ヨナは少し顔を赤らめて言った。
「お兄ちゃんの大学のサークルで作ってるって言ってた。」
ヨナの兄ユタカはサナの姉サユリと同じ学年だった。
ただ、サユリは小学校から私立の女子校に通っていたので接点はなかった。
最近はあちこちの大学や専門学校等でボカロ育成を目的としたサークルが乱立し、起業する学生も少なくない。
町おこしや中小企業のネット宣伝にも比較的安価で済ませられることもあり、地元出身のボカロを起用する場面が増えている。
但し、特別な場合を除いてはネットドラマ以外の女優業を行わない等、細かい取決めもある。この様に飽くまでボカロの域を超えないことが暗黙の了解となっている。
サナはファランクスのパフォーマンスを観て「かっこいい」とは思った。
しかし、フィナのそれとは明らかに違う。
パフォーマンス後の談話形式のインタビューにしても、フィナに比べればロボットの様だった。
やはりお姉ちゃんの言ってた事は……。
フィナは普通のボーカロイドじゃない。そう思うとサナはついにやけてしまった。




