119 株式会社コスパルエイドの重鎮
私たちは国際会議場を出て道の反対側にあるイベントホールへと向かった。
出入り口付近には既に大勢の人が押し掛けていた。
モールにある受付窓口にも人は並んでいたが、そこは思ったほど混雑はしていなかった。
もう殆どの人が受付けを済ませて自由に歩き回ったりお目当ての会場へと向かっている様だ。
私たちはどうやらかなり前の方の席らしい。
来賓用の座席スペースとして最前列から7列目までの約300席が確保されていた。
最前列はスタッフ用として空けておかなければならず、背の低いサナたちは前から2列目の席に座った。
しかも真正面!
そして、その後ろにはユキナの母と兄が座った。
私とファランクスのボカロボットはと言えば、何と最前列の席だ!
席には私たちを置く台が既に用意されてあり、周りが見渡せるようになっていた。
「いいの? こんな特等席うちらで独占しちゃって……。」
左側には3Dボカロ社関連の人たちと芸能事務所ツイストーラスの社員やスタッフ数名が座っていた。
右側は他の芸能事務所及びマネージャー用のスペースらしいが、ほとんど誰もいない状態であった。
きっとみんな忙しいのだろう。
100人はいると思われる来賓の方々は既に中央4列目より後ろに座っていた。
海外の人もかなり多く見受けられた。
待つこと15分、いよいよ開演10分前となり、場内アナウンスが入った。
「本日はご来場いただき誠にありがとうございます。間もなく第2回ボカロ祭サマーバージョンが開演されます。開演に先立ちましてご来場のお客様にお願い申しあげます……」
お決まりの禁煙やスマホ、無許可の撮影、録音、録画に関する注意事項が流れた。
これを聞くといよいよ始まる感がハンパない。
会場のライトは消え、巨大モニターに映し出された変形する幾何学模様の光だけが辺りを照らしていた。
そして5分前になると乗りのいい曲が流れ出し私たちの高揚感を更に高めた。
さて、今から30分ほど前に遡る。
黒塗りの高級車から一人の人物が現れた。
彼の名は十勝ジュンイチロウ。
3Dボカロ社の親会社である株式会社コスパルエイドの会長である。
十勝会長は3Dボカロを立ち上げた発起人でもある。
そして姪の蟹江ジュンに頼み込んで3Dボカロ研究開発部に入社させたのも彼であった。
十勝会長は3Dボカロの開発を現在に至るまで陰日向となって支えて来ており、今回の夏フェスは彼にとってその成果を計る大きな機会であった。
十勝会長はそこらで散歩しているお年寄りの様なラフな恰好をしていた。
違いと言えば首からぶら下げているカードケースの中が関係者用のグレイの認証カードである事くらいだろう。
十勝会長は側近らしき男と共にイベントホールへと歩き出した。
ホールのエントランスに近づいた所で彼は後ろから呼び止められた。
「お爺ちゃん?」
十勝会長が振り返るとそこには孫の十勝エイトが怪訝な顔をして立ち尽くしていた。
十勝会長は笑顔で声を掛けた。
「おお、お前も見に来たのか?」
十勝エイトは少し驚いた表情で返事をした。
「はい。興味があったもので……。お爺ちゃんは招待でもされたんですか。」
十勝エイトは何も聞かされていなかった為、事情を呑み込めていない。
十勝会長は一言告げた。
「よかったら一緒に来なさい。」
祖父のいきなりの誘いに十勝エイトは状況が把握できないまま反射的に返事をした。
「はい。」
十勝エイトは取り敢えず同行することにした。
十勝会長は座席に着くまでに自分と3Dボカロの関係を簡単に説明した。
十勝エイトは少し面喰っていたが、言われてみれば思い当たる節が幾つもあることに気が付いた。
十勝会長宅には市川電算はじめボカロの事務所となっている会社のカレンダーやポスターがあちこちに掲示されてあったし、グッズなども置かれていたりした。
中には所属するボカロの形を模した物やイラストの入ったグッズもあった様な気がした。
そう言えば市川ココナと市川カナデのDVDを見かけたこともある!
あの時は「誰のだろう。何でこんな物がここにあるんだ?」と思ったが成程、今合点がいった。
彼らが来賓用の座席場所に到着すると蟹江さんがすぐに気付いて近寄って来た。
「あれ? エイト君じゃない。久しぶり。」
コスパルエイドの空知副社長も彼らに気が付くと、十勝会長の方に近づいて来た。
「あ、会長。お疲れ様です。」
会長という言葉に3Dボカロの社員一同振り返り畏まって一礼をした。
十勝会長は手をパッパッと振りながら告げた。
「ええからええから。こんな狭い所で。みんな座ってて。ありがとさん。」
蟹江さんは躊躇無く十勝エイトに質問した。
「今日はお爺ちゃんに連れて来られたの?」
「いえ、偶然そこでばったり出会いまして……。」
「え? じゃあ自分で観に来てくれたんだ。嬉しい!」
十勝エイトは周りの目もあって少し恥ずかしそうに言った。
「はい。ちょっと興味がありまして……。一人で見て回るつもりだったんですけど。」
蟹江さんはグレイの認証カードをエイトに渡しながら言った。
「もしよかったらここで見て行けば? 席空いてるから。」
十勝エイトは蟹江さんが3Dボカロの社員らしい事に少し驚いている様だった。
「はい。じゃあ最初だけここで見させてもらいます。後で他の場所も見て回りたいので。」
蟹江さんは笑いながら返事をした。
「研究熱心だね。わかった。そのカードがあれば自由に行き来できるから。」
十勝エイトはお礼を言いながら祖父の隣りの席に座った。
「ありがとうございます。では、そうさせてもらいます。」
その光景を覗き見していたミナは目を輝かせた。
「3Dボカロ関係の人って何かイケメン多い。ウフフ。何でだろう?」
ユキナはクスリと笑い、マナミは呆れた顔でミナの顔をまじまじと見つめていた。
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【本田家】
本田トオル … サナとサユリの父。国際宇宙ステーションの研究者
本田サエコ … サナとサユリの母。国際宇宙ステーションの研究者
三好クレハ … 本田家の家政婦
本田ススム … サナとサユリの叔父。トオルの弟
【サナの友だち】
山梨ユキナ … サナの友だち。9歳。優しい。母は料理上手。兄にサダオがいる
栗木ミナ … サナの友だち。9歳。元気。
桃園マナミ … サナの友だち。9歳。おしゃれ。
柿月ヨナ … サナの友だち。9歳。物静か。兄のユタカはアテナのマネージャー
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
ナミエ … 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。
新米ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
卯月カナメ … 第2研究開発部主任。
白鳥マイ … 第3研究開発部主任。天才。息子1人
熊谷トシロウ … 第4研究開発部主任。妻死去。息子1人娘1人。酒好き
午藤コウジ … 第5研究開発部主任。柔道4段。妻、息子1人
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
未木タツヤ … 第7研究開発部主任。バンドVo.、ビリヤード
龍崎アヤネ … 第8研究開発部主任。文句大好き。彼氏あり
<本部>
金本センタロウ … 社長。ボカロ協会会長。空知モモエの幼馴染
波岡ギンペイ … 営業部部長
営業部社員 … 炭田ヒサエ、塩谷リュウイチ、海原セレン
銅崎ササエ … 人事部部長
人事部社員 … 白木ジン、水谷テナ
鯛島テツコ … 経理部部長。研究開発部担当
経理部社員 … 浪江リョウ、加硫ナツエ
【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所
小橋レイナ … 社長、代表取締役
黒木ナナ … 副社長。1児の母
須賀ユウタ … 専務。2児の父。車とバイク好き
佐山クロウ … 営業担当。体格がいい
大村マツリ … 営業担当。ナイスバディ。おしゃれ
下尾ライト … 制作担当。プラモデルが好き
竹ヒマリ … 制作担当。絵やイラストがうまい
栗原ユウヒ … イベント担当。妹と同居。バツ1
小宮山ネイネ … キャスティング担当。投資家
【株式会社コスパルエイド】大手IT企業。3Dボカロの親会社
十勝ジュンイチロウ … 会長。代表取締役。蟹江さんの叔父。十勝エイトの祖父
川上リョウ … 社長
空知モモエ … 副社長。金本社長の元上司で幼馴染
宗谷マサコ … 取締役
【ボカロ協会】3Dボカロの金本(会長)、蟹江、蛯名も所属している。
市川タクマ … 理事。(株)市川電算の会長。出資者
杉田サラ … 副理事。西方大学の元教授
若益エイガ … 初期。(株)若益水産会長。出資者
大峰ダイタ … 西方大学理工学部の准教授
田所マリア … グラシア大学情報通信技術の元教授。1児の母
須田ユウキ … 放送事業者協会の理事
加藤アリシア … 国際音楽大学声楽科の教授
北野コウゾウ … (株)ムーンレコード情報メディア研究部所長。出資会社
【北都大学アイドル研究会】
十勝エイト … 代表。(株)コスパルエイド会長の孫
日高レンジ … 幹事
旭川セル … 会計
石狩ユキ … 幹事。アマチュアアイドル系バンドのボーカル




