111 同人会場はどんな感じ?
その後暫く談笑は続いた。
皆一先ず元気そうだ。
最後に明日の簡単な打ち合わせを済ませると波岡と炭田は隣りのホールへと移動した。
途中あちらこちらで知り合いに捕まったが何とか目的の場所に辿り着いた。
炭田は満足気に辺りを見回した。
「去年と比べて大分バージョンアップしましたね。いろんな所で。」
波岡は昨年の夏フェスを思い出していた。
「そういえば前回は思ったより人が多くて少しチケット売り場が混雑してたなあ。」
炭田はそれについて問い合わせた。
「そうね。でも今年はスマホやカードで決算できる機械をたくさん入れたって言ってたから大丈夫じゃない?」
波岡は頷きながら答えた。
「そうそう。今年は予想以上にお客さんが来るかもしれないからって鯛島さんが色々準備してくれたんですよ。警備員も増やしたって言ってましたしね。」
「あんまり多い様だと来年から前売りもしないといけないかもしれませんね……。」
炭田は同人誌即売会用に整然と設置されている長机を見渡した。
「わあ、綺麗に並べてあるわねえ。」
波岡は会場全体を見遣った。
「こっちもだいたい終わってるみたいですね。そう言えば塩谷君は何処にいるんだろう。」
二人は周りを少し見渡したが見当たらない。
炭田が一言呟いた。
「帰っちゃったんですかね。作業終わってるみたいだし。連絡取ってみますか?」
波岡は会場の奥に目を凝らした。
「取り敢えず奥の方まで行ってみましょう。作業中かもしれないし。」
この会場は二つのホールを連結して使用しており、手前側7割は同人誌即売会、奥の方3割はコスプレ用のスペースとなっている。
何故コスプレ会場を設けることになったのか。
それは昨年景気づけの為にと塩谷が知り合いの伝手でレイヤーさん(コスプレをする人)を数人呼んで同人誌即売会の受付などをしてもらったのが発端であった。
その写真や映像を3Dボカロの公式サイトに乗せてしまった為、多くの問い合わせが寄せられ実現に至ったという経緯だ。
今年は許可証がある人以外の館内での撮影は禁止されているが、昨年はボカロの撮影や録音についてのみのお断りだったので受付けのレイヤーさんを撮影した人も多かった。
その映像がSNS等にアップされるとそれはそれで話題となりコスプレの問い合わせに拍車がかかったのである。
因みに同人誌即売会を行おうと計画したのもこの塩谷であった。
去年の段階ではまだ3Dボカロもそれ程知られておらず企業ブースへの参加も少な目だった。
そこで空いたスペースを利用して同人誌の即売会を行った所、予想以上に好反響を得たのだ。
昨年の場合は来場者の半数以上がお目当てのボカロを見る為だけに来ていたので、この同人誌即売会はついでに見て回るのに打って付けだった様だ。
炭田は笑みを浮かべた。
「今年も塩谷君張り切ってるみたいね。」
波岡は前を見ながら少し心配そうな顔をした。
「何か連日徹夜続きみたいだけど大丈夫かな。」
二人が会場の奥の方へ歩いて行くとコスプレのスペースへと到着した。
「あ、あれ。違うかな……。」
よく見ると塩谷は一番奥の更衣用ブースの辺りで話し込んでいた。
波岡が声をかけると塩谷はにこやかに手を振った。
「あ、お疲れ様です。」
波岡は周囲を見渡しながら状況を確認した。
「だいたい終わった?」
塩谷も周りを眺めながら答えた。
「ええ、後は警備とかその辺ですかね。一般の人を写し込まない様にするとか逆に無断でスマホ撮影しない様にとか……。」
波岡は塩谷の方を向いて言った。
「ああ、そうゆう事か……。まあ、大丈夫なんじゃないの? そんなに人来ないんでしょ。こっちの方は。」
塩谷は腕を組みながら考え込んだ。
「ええ、その予定だったんですが……。ちょっと調べてみたら結構有名なレイヤーさんが何人か入ってまして……。」
炭田は少し驚いた顔をして尋ねた。
「レイヤーさんてコスプレする人でしょ。そんな有名人なんているの?」
波岡もそこに疑問を感じたらしく「うんうん」と頷いた。
塩谷は二人に昨今のレイヤー事情を語った。
「はい。最近じゃプロとして活躍してる人もいますし、テレビなんかにもよく出てます。」
波岡は少し驚いた表情で塩谷を見た。
「へえ、そんな有名な人が来るの。」
塩谷はニコリと微笑んだ。
「まあ、そこまで有名な人は来ませんが動画配信なんかですごい人気のある人とかが来る予定です。」
今回のコスプレ参加者について、レイヤーと同人誌即売会サークル参加者は事前の申し込みが必要である。
コスプレや即売会参加の呼びかけは自社(3Dボカロ)のホームページに小さく紹介記事を載せただけであった。
しかもボカロ限定(但し夏フェスに参加していないボカロでも可)。
にも拘らずたくさんの応募があり、必要ないと思われていた抽選とやらを行う羽目となったのだ。
その結果レイヤーは一日50組、同人誌即売会は一日400スペースを抽選で選出したのであった。
この50組というのは例えばソロのボカロであれば1人1組だが、ファランクスの様に4人のユニットであれば4人(まで)で1組といった具合だ。
レイヤーさんが来るとなればカメコさん(写真を撮る人)も当然受け入れるべきで、このエリア内だけ撮影可能とした。
カメコさんには許可証を500円(ライブを見る場合は別途入場料2千円が必要)で販売することになった。
因みにレイヤーさんも参加費は1人500円だ(当日払い)。
但しレイヤーさんの場合は出歩き自由でライブ鑑賞もフリー。
肌の露出が多い場合は上から何か羽織る等の気配りをお願いしていた。
この500円は認識カードと注意事項を記載したミニ冊子の代金であった。
まあ、お金出してまで撮影しに来る人はそんなにはいないだろう(と、この時は思われていた)。
認識カードは当日会場に来る人全員に入場料と引き換えで配布される。
このカードはペラペラの材質で使い捨てだが優れものだ。
所持してないと会場内のあちこちに設置してあるセンサーですぐに検知されてしまう仕組みだ。
この認識カードは全部で7種あり、それぞれ色分けされていた。
ピンク …… コスプレを許可された人【郵送済み】
オレンジ …… スタッフ、警備員等、報道陣【配布済み】
黄色 …… 指定場所での撮影を許可された人
緑 …… 親同伴の子ども【無料】
青 …… 一般客
赤 …… 同人誌即売会スタッフ(1スペースにつき二人まで)【郵送済み】
グレイ …… 社員、来賓、関係者【配布済み】
波岡と炭田は「へええ。」と感心した。
塩谷は話しを続けた。
「そうしますとカメコさんが予想以上に来ちゃうかもしれないんです。まあ、結構広いから大丈夫だとは思うんですが……。」
波岡はニコリとしながら塩谷の考えを肯定した。
「うん。大丈夫大丈夫。こんだけ広いんだから。」
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
ナミエ … 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。
新米ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
卯月カナメ … 第2研究開発部主任。
白鳥マイ … 第3研究開発部主任。天才。息子1人
熊谷トシロウ … 第4研究開発部主任。妻死去。息子1人娘1人。酒好き
午藤コウジ … 第5研究開発部主任。柔道4段。妻、息子1人
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
未木タツヤ … 第7研究開発部主任。バンドVo.、ビリヤード
龍崎アヤネ … 第8研究開発部主任。文句大好き。彼氏あり
<本部>
金本センタロウ … 社長。ボカロ協会会長。空知モモエの幼馴染
波岡ギンペイ … 営業部部長
営業部社員 … 炭田ヒサエ、塩谷リュウイチ、海原セレン
銅崎ササエ … 人事部部長
人事部社員 … 白木ジン、水谷テナ
鯛島テツコ … 経理部部長。研究開発部担当
経理部社員 … 浪江リョウ、加硫ナツエ
【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所
小橋レイナ … 社長、代表取締役
黒木ナナ … 副社長。1児の母
須賀ユウタ … 専務。2児の父。車とバイク好き
佐山クロウ … 営業担当。体格がいい
大村マツリ … 営業担当。ナイスバディ。おしゃれ
下尾ライト … 制作担当。プラモデルが好き
竹ヒマリ … 制作担当。絵やイラストがうまい
栗原ユウヒ … イベント担当。妹と同居。バツ1
小宮山ネイネ … キャスティング担当。投資家




