11 空(ソラ)の上に死(シ)。怖いよ
結局しょうもない会話で終始してしまった。
お、何やら通信が入ったようだが。これどうやるんだろ。
モニターの右上には「着信中」の文字が映し出され、中央にはマイクを円で囲んだようなアイコンが表示されている。更にアイコンの下には親切にも「タッチ」と書かれている。
素直にアイコンをタッチすると、モニターにサユリが映り込んだ。
「あ、うまく行った。」
「何か部屋の様子がいつもと違うみたい?」
「そう! ここ私の部屋。」
「パソコンを移動したの?」
「ううん。私の部屋のパソコンと直接繋げたの。ホットラインてやつ。」
「あぁ、これで気兼ねなく私と連絡取れるってわけですね。」
「うん。あの子に聞かれたらまずいこともあるしね。」
なるほど。さすがお姉様! やることが先手先手。
「ところで、さっきの話なんだけど。」
「あぁ、友だちに知られると周りにばれますね。どうしましょう。」
「そうね……。ただ、これ見てくれる。」
するとモニター画面に枠が表れメールの文章らしきものが表示された。
「ん、どれどれ……。」
内容を読むと、そこにはとんでもない内容が書かれていた。
どうやら、私の『ドレミ……』を聞いただけで実力を見抜かれてしまったらしい。
『フィナ・エスカは本当にクラスZなのか。と言うかボカロなのか』
『音声はまるで人間の吹き替えの様である。しかし、チートは不可能に近い。一体何なのだ。まるで夢でも見ているようだ』
『何度も何度も聞き直したが、これはボカロの限度を既に超越している』等など。
メールは10通程来ており、内容は私の『ドレミ……』を絶賛したり疑問視してるものばかりだった。
因みにメールと言ってもボカロオーナー専用のフォームなので身バレはしない。
喜んでいいのか? なんせ競い合ってる相手はAIだからなぁ。
で、メールの締め括りは決まって『フィナ・エスカと是非会わせて下さい』というものだった。
「あれ、何か大変な事になってます?」
「そうだね。」サユリは考え込むように言った。
「迂闊だったわ。たかが『ドレミ……』と侮ってしまった。」
「ご両親に相談するとか……。」
「そうなんだけど……ちょっと無理かな。」
「ご不在?」
「今、2人とも宇宙ステーションに行ってる。」
えーーーっっ! ここに来て衝撃の事実! ただのお家ではないと思ってたけど……。
「そ、そうですか……。」
「次に帰還するのはいつになるかわからないし……。」
かっこいい……『帰還』だって。
「他に頼れそうな人は居ないんですか。クラスPの先輩とか。」
「いっやぁ重すぎるでしょ。だけど……うん。あの人に聞いてみよう。」
「あの人」というのはサナとサユリの叔父で、2人の父の弟に当たる人物だった。
何を隠そう2人にこのソフトを贈ったのはこの叔父さんであった。
サユリの話しからすると、どうやらすぐに連絡が取れた様であった。
しかし、叔父さんも通常のショップで購入したらしく、この状況に全く心当たりがないらしい。
当然の事ながら話を聞くだけではどうにも信じられない様で、取り敢えず次の日曜日に見に来るとのことだった。




