10 仕掛けて来るAI
さて、あれからイベントのエントリーも無事終了。
私の歌った「ドレミファソラシド♪」も無事送付してもらった。
ただ、100曲以上歌っても私のステータスはまったく変化しなかった。
ウンとかスンとか言わんか~い!
サナは友だちを呼んで一緒に歌いたいと姉のサユリにお願いしたが却下された。
「大勢で歌うと近所迷惑になるでしょ。」
「じゃあ小さい声で歌う。」
「踊ったりもするでしょう。それに盛り上がって来ればだんだん声も大きくなるし。」
「え~。じゃあ見せるだけならいいでしょう。フィナを見せるだけ。」
サユリはサナの駄々にタジタジしながらも、必死に誤魔化した。
「そうだ! サナ! もうちょっとクラスが上がればカラオケBOXでみんなと一緒に歌えるよ。フィナと一緒に。」
サナは私の方に向き直り、いきなり振って来た。
「フィナ。フィナもみんなと一緒に歌いたいでしょ?」
「うん、勿論だよ!」
私はアイドル調の喋り口でそう応えた。
それを聞いたサナはそれ見た事かと言わんばかりに姉の方を見返しながら言った。
「そうでしょう。ほらね、お姉ちゃん。」
私は空かさず言葉を加えた。
「でも、ここじゃあみんなと楽しめないな~。せっかくみんなと歌うんだったら思いっきり歌って騒ぎたいよ!」
するとサナは決意を固めたように言った。
「じゃあ、がんばってクラス上げる。」
私はちょっと嬉しくなって言った。
「頑張ろう! 私も頑張るよ!」
「お姉ちゃん、どうなればカラオケ……」
「あぁ、クラスがXやYに上がると『通信』てスキルが付くはずだから、それでカラオケBOXに送信できるはず。多分今回のイベントでそこまでは昇格すると思うよ。」
取り敢えず結果発表の7月10日(日)までは延ばせたか……。
「あ、サナ。そろそろ塾の時間じゃない?」
「あ! 今日テストだ……。」
「え、大丈夫なの?」
「うん。簡単だから大丈夫。」
つくづく普通の会話だなあ。異世界よ、お前それでいいのか?
その後サユリは「ちょっと自分の部屋に戻るわ。」と言って部屋を出て行った。
通信の途絶えた部屋で私は少し上の方に向かって話しかけた。
「おーい、居るんだろう?」
「……。」
「だんまりかよ。上司に言いつけるぞ。」
「はいはい。居ますよ。」
うわ、やっぱりいたよ。
「何よ、その態度は。」
「あなた……あんたのせいで上司に怒られたんだからね!」
「何だそのツンデレっぽい言い方は。」
「あなたをあんたに言い換えた事には突っ込まないんですね。」
「いや、もういいよ……。」諦観。
そんな細かい所まで突っ込めるか!
突っ込み所が多すぎなんだよ!
そんな私の気持ちを他所に、山本春子はいきなり核心を突いて来た。
「スキルのこと聞いても解りませんよ。」
「おぉ、先回りして来たか。そして電光石火で話し終わらせて来おった!」
山本春子は開き直った口調でぼやいた。
「あんたみたいなイレギュラー見たことも聞いたこともないし。」
私は己が怒りを抑えて冷静に彼女を窘めてみた。
「あぁ、それは……そうみたいだね。ゴメンよ。でもさ、努力? もっと努力しようよ担当者として。」
すると山本春子は意味あり気に声のトーンを落とした。
「あなたも上司と同じことを言うんですね。言い方まで斎藤さんとそっくり!」
「だいぶ変わった逆切れだが……斉藤さん? 上司の名前、斉藤さん!?」
ホントかよ、斉藤って……!
音声はやや厭味ったらしくも得意気に、しかもかったるそうな声で返事をした。
「違いますよ。さ・い・と・う。難しい方の斎ですよ!」
分かるかーっっ!
「て、ことは……。」
「はい?」
「あんたにも名前ってあんの?」
「あ、申し遅れました。私、ナビゲーターの山本春子と申します。」
申し遅れすぎだろ!
自己紹介は一番最初ね!
これ社会人の基本だから!
てか、山本春子って……! ふつう! F・U・T・U・U! ふつーっっ!
いやぁ、はぁはぁ、ホントいろいろ仕掛けて来るなぁ。
「あ、上司の斎藤に呼ばれましたので席を外します。」
「あ、社会人っぽいセリフ吐いてやがる。うぬぬ、あいつ……山本春子め……。」




