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39.反逆の余波

「でも驚いた。『傲慢』とは言えアスタロトさんに食卓で喧嘩を売るとは」

「司くんが喧嘩を売るとかいうのも珍しいけど」

「それ以外言いようがない事態だったよな」


ようやく静かな食事となった個室で、落ち着いて食べ物を喉に通す。驚いたのは人間だけでなく七罪の全員だったようなので、これは天災レベルの事件ではないだろうか。


「彼は前からボクに不満を抱いていたようだからね。遅かれ早かれこうなるとは思ってた」

「……食事時はやめてください。そこは個別指導で」

「個別じゃ意味がないんだろ。全員いっぺんに『学んでもらう』って腹積もりか」


魔界料理を口に運びながらダンタリオン。魔界と人間界の食材は当然違っているが、いまのところ怪しそうなものは出てこない。ふつうにおいしい。

秋葉が勘弁して、とばかりに言うとアスタロトは笑みを返しただけだった。むしろ言葉を返されたのはダンタリオンの方で。


「個別だということ聞かないのは目に見えてるだろ? どっちにしてもちょっとおいたが過ぎたよね」

「すみません、俺は魔法戦になると広範囲で庇うのは無理があると実感しました」

「ツカサ、城内じゃ安全は保障されてたはずだ。アレは対象外だから謝るより管理者に謝罪を要求しろ」

「困ったら今度は近くにいる七人の誰かを盾にしていいから」


……効率はいいだろう。彼らは悪魔なので魔法から魔法で身を庇うことはできるわけで。そもそも七人に攻撃されることは司にとっては首尾範疇ではない。

なんとなく納得した三人は、今度はそうしようと思いつつ次の疑問。


「そういえば、レヴィが二重人格だったらしいですけど」


のど元過ぎれば最大の疑問はそちらになる。


「あぁ、そうみたいだね。報告書にも記載があった」

「マジか。オレは見たこともないぞ」

「一人称が『俺』になりかつ、妙に冷静っぽい感じだった」


いつもは「僕」で、一歩引き気味でずるいだとかお前たちだけとか、嫉妬発言をしているのでそれがデフォルトだと思っていた総員。


「ボクも『そっち』とは話したことがない。いつものレヴィは性格上、引っ込み思案なところがあるから」

「悪魔が引っ込み思案とか」

「そこは言ったボクも違和を感じてやまないけど、とりあえずイメージと伝承が混在してしまった結果ではないかと、推論してはいる」


?


もう人間の持つイメージで具現化してしまったということは明確であるが、二重人格になる意味が分からず疑問符しか出てこない。

アスタロトがすぐに答えを出さずに食事を続けているので、しばらく記憶という名の知識をたどっていたらしきダンタリオンの方からそれが続いた。


「あれか。悪魔としてのレヴィアタンと、終末の獣としての大蛇レヴィアタン」

「違う」


あっさり否定。


「……悪魔としてのレヴィアタンは実在してないんでしょう? サタンみたいに」


忍が言うとアスタロトは食事の手を止め、顔を上げた。


「いい線だね。するとどうなるか」


なぞかけが始まってしまった。嫌いではないので、考える。秋葉と司も素直に考えている。


「本人、終末の獣がどうとか言ってなかった?」

「……あ。じゃああれだ。レヴィはオリジナルが黙示録の海獣って自覚がある。つまり」


ここから先は、忍が神魔が現れたこういう時代に突入してから得た知識でもある。


「メスである」

「はぁ!!?」


この部屋に入って一番大きな声でリアクションをもらった。秋葉がものすごく驚いた顔をしているが、ダンタリオンは「あぁ」と得心したようだった。


「伝承の方な。レヴィアタン……リヴァイアサンは元々一対のつがいだったと言われる。けど、あまりの驚異に繁殖することのないよう雄は神によって殺された。だから、存在するなら雌しかいないという話」

「……オレが言っていいか? マジで?」


前置きしてから、ぞんざいな言葉で返す秋葉。ダンタリオンに対してはこうである。


「俺も全く詳しくないんですが……じゃあなんで彼は男性の姿なんですか」

「人間世界、こと日本に関してはオスのイメージしかないからだろ」


忍は知っている。多分、某大手の超有名RPG。そこで彼は「幻獣王」として登場している。レトロゲームの世界であるが、何度もリメイクされたり再販売されているので、故に知っている人も多いだろう。やったこともある次第。


「日本人の仕業かぁ……」

「えっ。何、どういうこと?」

「一木くんなら分かると思う。森ちゃん家で二人で早解きしたことあるから、司くんも知ってるはず」

「あぁ、あのRPGの……」

「RPG!? ていうか、早解きとかお前、何やってんの!?」


つっこみどころが多すぎて、混乱気味の秋葉。一木というのは一般武装警察の、秋葉を先輩と呼んで慕う後輩であるが、中二病を罹患している。絶対やってる。絶対知ってる。


「大分前の話だよ。シリーズは今も続いている。ワールドワイドで展開されてたし世界中の近世のイメージがそれで定着してしまっているかもしれない」

「……ゲームって怖いな」


それで話題が収束した。こうなると一種の宗教というか布教活動されてしまった情報に近い。天使勢の宗教の歪曲さを誰が叩けるであろう。


「日本人の影響力かは不明だけど、その辺りの情報の混乱が本人にとっても二重人格になり得る要素だったんだろうね」

「それでも『あたし』とかおねえキャラにならなくてよかったよな」

「私はおねえな人と友達になってみたかったけど、あの外見でそれはない」


こちらも感想が混乱している。

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