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嵌められ勇者のRedo Life Ⅱ  作者: 綾部 響
9.歌う妖精たち
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一触即発!?

突如沸き起こったエスタシオンのメンバーとマリーシェたちとの対峙!

俺の目の前で、一体何が起こってるんだ!?

 俺の眼の前には、マリーシェの背中。

 そしてそんな彼女の左右には、サリシュとカミーラ、バーバラが居並んでいる。

 マリーシェの正面には、「エスタシオン」のミハルが。

 彼女の左右にもトウカ、カレン、シュナが並び立ち、まるで睨み合う様に対峙していた。

 いや……これはまさか、戦いの前兆なのか!?

 無言で見つめ合う8人の少女たちからは、今まさに開戦しようかと言わんばかりの雰囲気が発せられている!

 余りの緊張感に、俺とセリルは声すら出せないでいた……んだが。


「……どなたかは知らないけど、あなたには聞いていませんが」


 そんな沈黙を破って、トウカがマリーシェに口火を切ったんだ。その声音はとても友好的ではなく、どこか好戦的にすら聞こえる。


「……それゆぅたら、ウチ等の事をあんたに教えてやる謂れもないわなぁ」


 そしてサリシュが、まるで売られた喧嘩を買うみたいに挑発的な返事をした。

 奇しくも2人とも、美しい黒髪を持ち肌は抜ける様に白い。口調や性格に違いはあれど、どこか似た風情を持つ2人が互いに睨み合っている。


「でもさぁ。あたい等、あんたに聞いてるんじゃないんだよねぇ。って言うか、アレクと話してるんだから出しゃばらないでくれない? って感じなんだけどぉ?」


 2人の高まる緊張感を受けても、カレンにはどこ吹く風と言った風にその口調は明るく軽い感じだった。もっともその口にした内容としては、完全にこちらの神経を逆なでしているんだが。

 ……何? 何で? 何がどうなって今に至ってる!?


「私たちの事を聞きたいのだろう? それなら、私たちがそなたらに答えてあげると……そう言ってあげているのだ。そして、丁寧に教えてやる謂れはないとも……な。そんな事も理解出来ないのか?」


 それに対するカミーラの言い方もまた、売り言葉に買い言葉だ!

 急激に高まる険悪な空気に、唯一和平的と言って良いシュナがオロオロとし。


「……み……みんなぁ。……ちょ……ちょっと……落ち着こうよぅ」


 か細い声で宥めに掛かったんだ……が。

 そんな声じゃあ、多分誰にも聞こえないだろう。


「……一番……アレクの眼を引いてたくせに」


 と思ったら、確りとバーバラに聞かれていたみたいだ。

 しかも彼女は、何故かシュナに対して攻撃的な台詞をぶつけていた。

 何故!? 何でそんな言い方をする!?

 そしてその時、何故だか俺にはシュナの眼鏡がきらりと光を放った様に感じたんだ!


「……あ……あなたに……あなたに言われたくありません! こ……この……オッパイオバケ!」


「……なっ!?」


 喧嘩を売られた形になったシュナは、眼に涙を湛えながら……反論した!

 奇しくも、互いに目を見張るほどのスタイルを持つ2人が対峙する。瞬間的に頭へと血が上ったシュナが考えもなしに放った言葉だったんだろうけど……。

 でもそのセリフは……火に油を注ぐみたいなもんだ。

 顔を真っ赤にしながらも戦士の気迫でシュナを睨みつけるバーバラに、シュナの方は怯えた様な瞳でそれでもその視線を真っ向から受け止めている。

 ……確か、彼女達は「歌人」だったよな?

 もしかしたらこの4人は、何らかの形で戦いの場に赴いた事があるのかも知れない。そしてひょっとするとそのレベルは、俺たちと同等かそれ以上とも思えたんだ。


 しかし……なんでこんな事になってるんだ?

 元々は、ミハルが俺にお礼だか冒険者の事を聞きたいだかを話に来ただけだろうに。それがなんで、こんな一触即発の空気になってんだよ。


「お……おい。もうその辺で……」


「ミハル! トウカ! カレン! シュナ! 一体何をしているの!」


 さすがにこのままだと喧嘩になりそうだと思った俺が止めに入ろうとしたんだが、その役目は後から現れた人物に取られちまった。

 まぁ、そんな事は一向に構わないんだけどな。……というか、むしろお任せします。


「「「「マ……交渉管理人(マネージャー)ッ!?」」」」


「……マネージャー?」


 突然出現した人物に「エスタシオン」は驚きの声を上げ……って言うか怯えてるのか、あれは? そしてマリーシェが、頭に疑問符を浮かべている。

 普通に冒険していたら、まぁ「マネージャー」なんて職業に出会う事なんて無いだろうから、彼女達が知らないのも無理はない……か。


交渉管理人(マネージャー)」って言うのは正にその名の通り仕事に対して依頼人(クライアント)との交渉を図り、依頼(クエスト)の報酬を決め、更にはその中での約束事を決定する役職だ。

 特に金銭事と仕事内容に影響を与えて、出来るだけ優位な条件で依頼を決める役割を果たしている。

 更に上位の職業ともなれば、所属している店舗や団体の運営や経営の管理、予定の調整や人材の手配から配置に運用など、その活躍の場は多岐に亘るものが多い。

 殆ど戦いには無縁な職業だけど、場合によっては魔物との戦闘に参加する事もあり、女神の祝福を受けてレベルを得ている職業でもあったな。


 そして「エスタシオン」にそう呼ばれた女性は、俺が以前にも見た「交渉管理人」と同じ様な、何とも切れる女性(・・・・・)と言った雰囲気を纏わせていた。

 キリッとした立ち姿に、どこか厳しい印象を与える顔立ち。

 ブラウンの髪をびしっと短くまとめ上げ、眼鏡の奥からは冷たい印象を受ける黒い瞳が輝いていた。その掛けている眼鏡が、出来る敏腕マネージャーってイメージを醸し出している。

 年齢は……俺たちよりも明らかに上だな。10は年上だろうか?

 そして年相応に、その姿は女性らしいスタイルをしていた。

 うん。まさに大人の女性って感じだな。……なんて事を考えていたら。


「……アァレェクゥ。……何を見ているのだぁ?」


 うおっ! いつの間にか後ろに回ったカミーラが、今までに聞いた事の無い声音と話し方で俺に声を掛けて来た!

 いや、怖い! 怖いよ! って言うか、知らない間に俺の後ろに回り込んで考えを読むのは止めてよね? 流行ってんの?


「もう。4人とも、遅いから心配して来てみれば、何を騒動なんて起こしてるのよ? しかも、こんな天下の往来で言い合いも何も無いでしょうに」


 腕を組んで4人を叱りつけるその女性は、どこか呆れているみたいだった。それもそのはずで、気付けば俺たちの周囲には遠巻きに人だかりが出来ている。

 それでなくとも、街の大通りで騒ぎを起こせば嫌でも人目を引くだろう。

 しかもそれが、8人の少女……その内4人は、さっきまで中央広場で歌会(コンサート)を開き多くの耳目を引き付けていた女流歌人(アイドル)達なんだ。これが注目を浴びずにいれる訳なんて無いよな。

 現れた女性には「エスタシオン」の4人も頭が上がらないのか、さっきまでの威勢なんて掻き消えてシュンとしちまってる。

 あんなに威勢の良かった彼女たちの行動を抑えつけちまうなんて。……実はこの女性は、怒るとかなり怖いんじゃあ無いのか?

 実際、この女性の立ち居姿には隙が無い。

 俺から見ればまだまだなんだけど、それでもある程度の修羅場を潜ってきたみたいに感じられたんだ。


「……ごめんなさいね。私はこの娘達のマネージャー……保護者をしているセルヴィエンテ=ディーナー。セルヴィと呼んで下さい」


 改めて俺たちへと向き直ったセルヴィは、優雅な仕草でこちらへ頭を下げてきた。もっともその動きと声音は、どうにも事務的だったんだけどな。


「こんな所で立ち話も何ですし、宜しければこれから食事にでも行きませんか? この娘達もあなた方の話を聞きたい様ですし、勿論お代はこちらが支払いますので」


 うぅん、まさに大人の対応。

 こうも主導権を握られちまったら、マリーシェ達には言い返す事も出来ないだろうなぁ。


「すみません。俺たちはもう食事を済ませましたし、明日はここを出発しなければなりません。せっかくの申し出ですが、今日のところは辞退させて頂けないでしょうか?」


 だから俺が一歩進み出て、セルヴィにそう断りを入れたんだ。

 実際明日はここを朝早く発たないとならない。今の俺たちには時間に猶予なんて無いし、他の何を置いても成し遂げなければならない事がある。


「あら、年の割には丁寧な対応、痛み入るわね。それじゃあ、ゆっくりとお話しするのはまたの機会という事で良いかしら? ……あなた達も、それで良いわよね?」


 ニンマリと笑みを浮かべたセルヴィが、話をそう纏めに入った。

 エスタシオンの4人に、彼女の意見に逆らう様な気概は見当たらない。

 そしてこちらの方も、セルヴィに気圧されて反論する意気も持ち合わせていないみたいだった。


「それで構いません。……まぁ、また出会えればという事になるんでしょうが」


「ふふふ……そうね。それではこれで失礼します」


 俺が了承するとセルヴィは満足そうに頷いて、軽く頭を下げるとクルリと踵を返して歩き出した。これで、この話は終了という事になる。


「……あのマネージャーを感心させちゃうなんて、アレクって凄いですね」


 立ち去り間際にミハルが俺に小さく、楽しそうに囁き掛けて来た。


「私たち、あと数日はここで歌会(コンサート)を開くんです。だから、アレクたちとは出発がずれちゃうけど、きっとどこかで会いましょうね?」


 それだけを言うと彼女は、眩しい程の笑顔を俺に向け、そのままクルッと背を向けてセルヴィの元へ歩き出し。


「ふふふ。中々興味深い人ですね。また会いましょう、アレク」


 そしてトウカは、どこか含みのある笑みを浮かべてミハルに続き。


「またねぇ! 今度は、ゆっくりと会おうねぇ、アレク!」


 カレンも、俺にウインクを一つ投げ掛けて去っていった。

 そして最後にシュナも。


「……あ……あの……アレクさん。……その……また……お会いしたいです」


 そう言い残して、この場を立ち去ったんだ。

 何だか台風が過ぎ去ったみたいな慌ただしさと脱力感に、俺は酔いも一気に覚めて一風呂浴びたい気分になっていた。……んだが。


「……ふぅん。……またね……ねぇ」


 騒動が治まった……なんてのは、どうやら俺の勘違いだったみたいだ。

 ……あれ? おかしいなぁ?


「ふむ。その辺りの事は、これから確りと話を聞く必要があるな」


 マリーシェの呟きに同調したのか、カミーラも深刻な雰囲気でそう口にした。


 明日は出発だというのに、結局その後にも俺はゆっくりとする事が出来なかったんだ。


一難去ってまた一難……。

厄介ごとってのは、常に立て続けに起こるもんなんだなぁ……。

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