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嵌められ勇者のRedo Life Ⅱ  作者: 綾部 響
6.禍殃とまみえて
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オーグルの脅威

襲ってきたゴブリンの一団の中に、一際デカい存在!

それは、ゴブリンの上位種であるオーグルまで加わっているって事だったんだ!

 ゴブリンの上げる奇声よりも更に野太く、腹の底に響き渡る様な叫声!

 そちらの方に目を向けると、そこには周囲のゴブリンよりも明らかに巨大な影が出現していた!


「な……何ですのぉ!?」


「オ……オーグルゥッ!? こいつら、オーグルに率いられていたのかっ!」


 押し寄せるゴブリンの群れを蹴散らす俺とカミーラ、マリーシェの背後から、シャルルーとセリルの悲鳴が聞こえた!

 いやシャルルーは分かるけど、セリルはそれくらい想像しておかないとだぞ?


 オーグルは、ゴブリンの亜種であり特異種だ。

 その体躯は、ゴブリンよりも大きい……なんてものじゃあない。

 ゴブリンの背丈は俺たちの腰より少し高い程度なんだが、オーグルの体躯は俺たちよりも遥かにデカいんだ!

 そして、その知能もゴブリンよりずいぶんと高い。誰も確認してはいないが、一説には人語さえ理解するとも言われていた。

 更にオーグルは、ゴブリンに輪を掛けて好戦的なんだ! 

 一説には悪戯の延長だと言われているゴブリンの襲撃も、そこにオーグルが加わると冗談事では済まされない。そしてそんな存在が群れに加わるだけで、ゴブリンの攻撃には幅が出てくる!

 こいつが、ギルドで確認された「黒い影の異形」の正体なのか!?


「カミーラッ!」


「分かっている!」


 オーグルのレベルは、ギルドでの公表では17から20だ。

 俺のレベルは11、マリーシェは13。

 ここでオーグルに単騎で(・・・)太刀打ち出来るとすれば、それはLv16のカミーラだけだった!

 それでも、まずはこのゴブリンの群れを蹴散らさないと意味はない……んだが!


「く……来るわよっ!」


 マリーシェの声が聞こえなければ、もしかしたら退避が間に合わなかったかも知れない!

 後方のオーグルは、近くにあった太い倒木を拾い上げると……こっちへ向けて投げ付けて来たんだ!


「う……うおっとぉっ!」


「きゃあっ!」


「くうっ!」


 俺たちは何とかそれを回避する事に成功する!

 でもその攻撃に巻き込まれた数匹のゴブリンは、それだけで息絶えてしまっていた! 滅茶苦茶な攻撃だけど、それだけに効果的だ!

 損害を意に介さなければ、ゴブリンの攻めに集中している俺たちに避ける事は困難だし、オーグルの動きに注視し過ぎれば今度はゴブリンに押されてしまう!


「これじゃあじり貧だ! カミーラ……行ってくれ!」


 こんな攻撃を続けられては、いずれ俺たちにも被害が出ちまう!

 ゴブリンの数も減らせるだろうが、それと秤に掛ける様な事ですらない!


「血路は……俺が開く! それとカミーラ、これを!」


 俺は取り出した「ボデルの実」を口にしながら、カミーラにも同じ実を渡したんだ!

 これは、一時的に攻撃力を高めるアイテムだ。

 カミーラには以前、倭甲冑「紅」シリーズと倭刀「閃」を渡しており、彼女は今もこれを装備している。この装備は、今の彼女の攻撃力と防御力のレベルを2つは底上げしてくれている筈だ。

 そして今渡したアイテムと併用すれば、少なくともオーグルと十分以上に渡り合えるだけの力を得るだろう。


「うむ、頼むっ!」


 応じたカミーラと前衛を交代する!

 そして俺は、もう(・・)溜め(・・)を済ませていた(・・・・・・・)

 すでにレベルが10を超えている今の俺なら、片手剣技が使えるからな!


「おおぉっ! 暴風斬りぃ(ラファル・セイフ)っ!」


 発動させた剣技により、俺は瞬時に無数の剣閃を放った!

 複数の敵を攻撃可能なこの技は、密集しているゴブリンどもを振るった剣撃により4、5匹巻き込み吹き飛ばす! そしてその後続も、吹っ飛んできたゴブリンに巻き込まれて混乱を起こしていた!

 それでも厚みのあるゴブリンの包囲網は破れず、オーグルまでの道もまだ通じちゃいない!

 それならば!


「はああぁぁっ! 無尽穿(セイフ・ディエス)っ!」


 それならば、立て続けに攻撃してやれば良い!

 今の俺には、剣技を連続で放つ事なんて出来ない。でもそれなら、使える者がすぐに攻撃すれば良いだけなんだ。

 なんの合図もしていなかったにも関わらず、マリーシェは俺の発想に追随してくれた!

 おかげで、かなりオーグルへの道が開けて来たんだが……まだ足りない!


「……参る!」


 それにも関わらず、カミーラは何の躊躇いもなくゴブリンの集団に駆け出した! そして彼女の眼は、真っ直ぐに標的だけを……オーグルだけを見つめている!

 それもその筈だ!


「……聖壁(ビーヴリア・シチート)!」


 後方のサリシュが力のこもった言葉を発すると、カミーラの前方に光の柱……いや、群がるゴブリンの集団を左右2つに分ける壁が出現したんだ!

 なるほど、流石はサリシュだ! もう呪文を唱え終えていたのか!


 青光の壁は元来防御系の魔法であり、聖なる(・・・)魔法の盾を出現させる。

 自分に悪意を向ける者を“邪”とみなし、その存在や攻撃を通さなくする魔法障壁だ。

 本来は、大きくても人の大きさ程度の盾を片手に1つ、合計2つ顕現し、それぞれの方向から来る攻撃を防ぐ効果がある。大きさは、術者の任意なんだが。

 それをサリシュは、ゴブリンの集団を隔てる壁として使用した訳か! しかもそれだけじゃあない!


「……んん。……なめんなやぁ……このぅ」


 サリシュが両手を広げる素振りをすると!

 その壁も2つに分割され、集うゴブリンどもを押し退け、丁度カミーラが進めるだけの通路を出現させた!

 サリシュはこの魔法で、カミーラの活路を作るつもりだったんだ。

 そしてカミーラが躊躇なく進んだ理由それは……最後はサリシュが何とかしてくれるって信じていたからだった。


「はああぁぁっ!」


 そしてカミーラの眼前にはオーグルまでの道が敷かれ、彼女は一直線に魔物の元へと到達し斬り掛かった!


「ゴアアァァッ!」


 これまでにない咆哮を上げて、オーグルがカミーラを迎え撃つ! いつの間にかその手には、腰に差していた巨大な剣を構えていた。

 カミーラの剣と、オーグルの剣が……噛み合う!


「くおおおぉぉっ!」


「ゴアアァァッ!」


 そしてその場で、激しい鍔迫り合いが展開された……んだが!


「カミーラァ! 退けぇ!」


 俺はその光景を見て、即座にそう指示していたんだ! それを聞いたカミーラは、大きく飛びのいてオーグルとの距離を取った!


「ちょっと、アレクッ! なんでカミーラの邪魔してんのよっ!?」


 そんな俺に向けて、マリーシェの非難の声が飛ぶ。しかしそんな不満の声も。


「そうだったな。すまん、アレク。助かった」


 カミーラの返答で解消される事になったんだ。

 俺はそれには答えず、目の前のゴブリンを倒す事に専念した。そして隣でも、マリーシェが同じ様に対処しているんだが。


「ちょっと。何でカミーラがお礼を言ってるのさ?」


 先ほどのやり取りが納得のいかないマリーシェが、不服そうな声で問い掛けて来た。

 ……まぁ、今は戦闘中だ。

 頭に血が昇っているだろうし、冷静に物事を考えろって方が無理だろう。


「いいか? カミーラは今Lv16で、オーグルの推定レベルは17から20。……分かるだろ?」


「……あっ!」


 そこまで話して、流石にマリーシェも気付いたみたいだ。


 ―――本当の(・・・)、俺たちの“力”ってやつをな。


 カミーラは勿論、マリーシェもサリシュも、俺の与えた武器防具で攻撃力や防御力が底上げされている。一瞬の交錯や魔法に加わる威力なんかでは、レベル以上の力を発揮する事が出来る筈だ。

 だから攻防だけを見れば、カミーラもオーグルと渡り合う事が出来るだろう。

 でも、力比べはダメだ。

 刃をかみ合わせて鬩ぎ合う鍔迫り合いなんて、レベルの差がすぐに出ちまう。

 力任せに押し込まれれば、どんな隙を見せてしまうのか分かったもんじゃあ無いからな。


「……そっか」


「俺の与えた武器防具やアイテム……。本来は、使わせるべきじゃあないかも知れないんだが、それでもお前達なら使い熟せると俺は考えてる。でも、まだまだ勘違い(・・・)しちまう事もあるか」


「……え?」


 事あるごとに注意を促して来たつもりだったが、油断するとまだ過信しちまうみたいだなぁ……。

 これじゃあ、「アクセサリー」を手渡すなんてまだまだ先だな。

 もっとも、普通に過ごして行けば「アクセサリー」を手に入れるなんて、もっとずぅっと先の話な訳だが。

 でも、少なくとも今はもう大丈夫だ。

 カミーラの動きも、力任せの攻撃から素早さを重視するものに変わっている。

 オーグルとのレベル差は歴然だけど、元来の素早さではカミーラも目を見張るものがあるからな。能力が拮抗しているなら……心配は無用だ。


「それより、カミーラの方へは1匹たりともゴブリンを行かせないぞ! 俺たちは、ここの奴らを全部引き付けるんだ!」


「……うん、そうね! 任せて!」


 カミーラがオーグルと渡り合えるのも、それが1対1だからだ。そこに横槍が入れば、途端に形勢が危うくなるだろう。

 俺たちは、更に気合を込めて残ったゴブリンどもを殲滅に掛かった!


 ……んだが!


「きゃああぁぁっ! エリン、エリィンッ! セリルゥ!」


 悲痛なシャルルーの叫びが、俺たちの視線をそちらへと引き寄せた!


 ……俺の“一抹の不安”が、最悪な形で当たる事に……なった。


周囲をつんざくシャルルーの悲鳴!

それが何を意味するのか……。

事態は、考えたくもなかった最悪の方向へと向かっていく!

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