宝くじを当てた男
ガチのホラーも好きですが、こういったドタバタのギャグっぽいショートショートが大好きで、よく書いております。筒井康隆や星新一が好きな方、ぜひ読んでみてください。
年末、日本でも有数の“当たる”宝くじ売り場で、1等賞金10億円のジャンボ宝くじを購入した。
身を切る思いで、50枚。
「これで1等が当たれば、人生をリセットできる」
会社をリストラされ、思い切って立ち上げた事業も失敗した男には、神頼みしか残されていなかった。
その夜。
寝入りばな、男の前に悪魔が現れた。
(これは夢か……?)
いぶかしむ男に向かって、悪魔はニヤニヤ笑いながらこう言う。
「オマエ、宝くじを買ったろう。それ、悪魔の力で1等を当てさせてやろうか? お茶の子さいさいなんだけど」
男は鼻で笑った。
「いい話だけど、どうせ裏があるんだろう。だってオマエ、悪魔だし」
悪魔は、我が意を得たりとばかりに強く頷く。
「察しがいいな! じつは宝くじを当てさせてやる代わりに、オマエの寿命をちょっといただきたいんだ。なーに、たいした年数じゃない。たったの5年だよ。5年、生きる時間が短くなるだけで、オマエは人生をリセットできるのさ」
男は考えた。人生80年としたら、それが75年になるだけだ。それだけ歳を食ってしまったら、5年くらい大差がないに違いない。
男は悪魔に言う。
「わかった。5年くらいくれてやるよ。そのかわり、必ず1等を当てさせろよ!」
悪魔はニヤニヤと笑いながら肯定した。「もちろん。悪魔、ウソつかない」。
そして、宝くじの当選発表の日。
悪魔の言った通り、男が買った宝くじは1等になった。
しかし男はその事実を、クルマに轢かれ、天国へと登る段階で知ることになる。男はガックリと肩を落としながら、悪魔に向かって毒づいた。
「くっそ……! 俺の寿命、あと5年しかなかったのかよ……! 確かに人生リセットになったけど、死んだらしょうがないじゃないか……!」