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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者よ、我を身に纏え!!

作者: 浅門汰斗

【再放送】設定を意図した形にリテイクしました(R7.2.23)

 *

「よくぞ来た、若者よ!」

「ファステ村のユーシャル・ファステです! 大魔王と戦うためにこちらに参りました!!」

「……で、来てくれて悪いんだけどさ。もう今月の『勇者支援事業』の予算はもうないのだ。ゆえに特に支給できるものはないが、この世界を滅ぼそうとする大魔王アムルゲート討伐に向かうのだ!」

「え? 装備は? 支給品は?」

「そんなものはないぞ」


 ユーシャル・ファステが、ブレイブ王国の謁見の間でそんなやりとりをしたのが、ほんの数時間前。


 今は、ブレイブ王国の北に少しのところにあるからヘッドンの森の最深部にいる。ヘッドンの森はこのあたりの若者が最初に訪れるべきと指導を受ける、いわゆる最初のダンジョンとされる場所である。それゆえ、森といいつつもだいぶ人の手が入っており、とってつけたような木製の椅子や小屋が乱立していた。またあっちこっちに様々な種類のごみや汚物が散乱しており、ユーシャルを非常にげんなりとさせた。



 だが、今はそれどころではない。

 ユーシャルの来ている安物の布の服は自身の血で薄汚れており、立っているのもやっとの状態であった。黒曜石のように美しい長い髪は血がこびりつき、白い肌は見る影もなく傷だらけだった。

 そして、彼女は襤褸のように力なく大樹に背中を預けながら、大きく息を吐く。つぅ、と額を赤い線が横切る。


「薬草は、これで使い切った……ボクの命もここまで、か……」


 額の血をぬぐうと、前頭部の傷に薬草を当て、布の服の袖を破ってほっかむりのように顔に巻き付け、顎の下で端を固く縛る。15歳の誕生日の夜、一念発起して近所のロバを盗み故郷を飛び出したのが2週間前。ブレイブ王国に流れ着いた。

 ブレイブ王国は魔王軍と戦う意志のある若者を手厚く支援してくれるという話で、なんにも戦うための装備がなくても大丈夫だろうと高をくくっていたが、実際に与えられたのは勇者候補であるという認定証明書のみ。そして、すぐにでも旅立つように背中を物理的に押され、ほぼ丸腰でヘッドンの森へとやってきたのだ。


 空気が震えるようなうなり声が、響き渡る。

 そして、赤く染まった視界には、黒く大きな影。

 このヘッドンの森を住みかとする凶暴な熊の怪物(モンスター)が眼前の背の高い草むらをかき分けて、ユーシャルの目の前に現れる。そしてユーシャルの姿を視界に捉えると、咆哮を上げながら一歩、また一歩とこちらに近づく。

 こいつは、鋭い爪牙と強靭な足腰で多くの冒険者の卵を殺してきたという。生き残ったとしても、致命的な怪我を負った者はここで心が折れて脱落したという。


 ユーシャルはというと、自前の布の服を身に着けているだけで、武器もそこらへんに打ち捨てらえていた棍棒が手の中にあるだけだった。尚且つ、これまでモンスターと戦った『経験値』というものも存在しない。ブレイブ王国までの道中も、自身の得意技「しのびあし」と「にげあし」ですべての戦闘を回避してきたのだ。ブレイブ王国にさえたどり着けば何とかなると信じて。

 ユーシャルは久々に、自身の死を覚悟した。いや、これはもう必然とすら思えた。

 死を受け入れた体が、ユーシャルを死へといざなうように、自然と歩を進めた。そして、巨熊の爪の射程へと入って――


『おい、そこのお前。まだ死ぬには早い。私の話を聞け』

「こ、この声。まさか、貴様、ハ!?」


 どこからか耳障りなキンキンという機械音が入り混じった低い声が振動と共に聞こえて、ユーシャルは足を止めた。その声の主を探すが、それは熊も同じだった。むしろ、ユーシャルに向けるより強い殺意を瞳に宿してうなり声を上げながら、周囲を見渡している。


「アンタは誰? 一体何処にいる?」


『ここだ』


 声に合わせて、頭上の木の葉の隙間から、何やら銀色の球体が、ぶらりとユーシャルの眼前に垂れ下がる。ユーシャルは、あまりに不意なことであったため、その場で固まってそれを凝視してしまった。


 黄金色の蔓のようなものでぶら下がったそれは、二対の螺旋状の突起が下部に生え、金色のふさふさとした毛が突起の間に生えそろっていた。そして、それはただならぬ瘴気を発しながら、怪しく蠢いていた。そして、蠢いていた銀色の球体の中央部に、巨大な眼球が一つ、かっと見開かれた。


 ひゃあっと、情けない悲鳴を上げながら、ユーシャルは飛び上がった。

 

「大魔王、アムルゲート。生きて、いたか。シブと、い輩ダ」


 熊はその球体を睨みつけながら、ゆっくりと、そして低い声で言う。どうやら、もはやユーシャルは眼中に入っていないようだった。


『生憎、貴様らの王である前に大魔王であるから、な。貴様らのような野良畜生とは、格が違う』


 球体は、回りながら宙に浮くと、中心の単眼(モノアイ)を爛爛とさせながら熊を威圧する。口角のないこの球体は、どうやら声を発するのではなく、角から発する魔力の流れで、空気自体を震わせて声のように響かせているようである。黒目が赤黒く光を放ち、結った顎鬚の房がいくつも揺れていた。


 そして、その球体の姿形を、ユーシャルは見た記憶があった。正確には、ユーシャルだけではなく、この世界に住む人間で、その顔を知らないものはいなかった。そして、熊がその名を呼んだことで、その疑問は確信へと変わった。


「あの角と、単眼(モノアイ)……そうだ、間違いなくアムルゲートだ……」


 それは、人間に敵対する大魔王の名であった。突如として魔王軍に出現し、瞬く間にその力で全ての魔物の頂点に立つと、魔王軍は急激に成長した。魔王軍はキカイと呼ばれる金属の魔法のようなカラクリを発明すると、それを用いて人間たちの国を滅ぼした。


 大魔王自身もその戦闘力は圧倒的で、相対した人間で生き残った者は一人としていなかったという。


 螺旋状の角は大気を切り裂き、単眼(モノアイ)から発せられる熱線は全てを焼き尽くし、その両腕から放たれる灼熱や吹雪そして稲妻などの強力な『魔法』は、いかなる人間の使い手をも超越した。

 それだけでなく、その身体から繰り出される剣術や拳法に対抗できる人間の使い手も同様になし。まさしくすべての超越者。最悪の絶対的絶望であった。


 そんな魔物界の大物が、どうしてこんな僻地に、しかも頭部だけの姿でいるというのか。


『いかにも。我はアムルゲート。この世の理を司る大魔王である』


 アムルゲートなる巨大な顔は、熊の怪物(モンスター)を睨むのをやめると、流し目をするように横を向きながら――とはいえ単眼の球体にすぎないので不格好であるが――それとは遥かに落差のある荘厳にして傲慢な口調で言葉を連ねる。


『こまごまと説明をするのもめんどくさい。我と手を組まんか? 具体的には我の肉奴隷にならんか?』


「断る! というかふざけているのかその言葉は!?魔王の誘いを人間であるボクが受けるわけないだろう! 道徳の時間の最初に解く問題レベルだ!」


『そうか、道徳の時間なんていうのが人間たちの世界にあるのか。ごんよ、よく状況を見てみろ』


 アムルゲートの視線の先には目を血走らさせ、牙を剥き出しにして、鋭い爪を光らせる巨大な熊が変わらず立ちふさがっている。


「ボクはごんでも狐でもないんだけど!? って……あいつはアンタを狙っているだろう?」


『我を殺したら多分お前もヤられるぞ。そうだよなマッスルベアー?』


「アムル、ゲートの、言うとおりだ。貴様の次は、この、薄肉の人間、ダ。せっかく、だシ、活け造り、ダァ」


 そうか、ならば逃げるしかない。

 ユーシャルが両足に力を籠めようとすると、アムルゲートはぎろりとこちらを睨んだ。


『逃げる? 悪いが今の我は、あの熊の通常攻撃一回で死ぬぞ。痛恨の一撃もいらん』


「ならさっさと死ね!! ボクはお先に失礼する!」


 自信たっぷりで堂々とした物言いにユーシャルは嚙みつく。大魔王として、それを自信満々に言うのはどうなんだといわれざるを得ない発言であるが、アムルゲートは冷静に現状を把握していた。

 それほどまでに、頭部のみになったこのアムルゲートは弱っているのだ。アムルゲートはユーシャルと熊の心を自身の能力で読み解きながら、自身が生き残るための手段を探していた。熊は、アムルゲートの声で攻撃の意志を高めたのか、全身を震わせてこちらを睨んでいる。


 そして、その手段は一つしかない。そう、アムルゲートは考えた。


『もう一度言うぞ。手を組むのだ、弱き人間よ。お前としても今は選択肢が二つしかない。今ここで人間としての道を全うして活け造りになるか、大魔王である我と組み、道を一度違えたとしてもやがて真なる勇者となるか、だ』


「でも、お前はさっきボクを肉奴隷って言ったよね? 絶対物語の佳境で裏切る流れよね?」

『それは言葉のあやだ。気にするな。それよりも物語とはなんだ? お前、自分が主人公属性とか思いあがりが過ぎないか?』

「だって、そういう流れじゃん! こういうピンチで魔王がコロリとかさ! なんか凄いアドレナリンでてきたんだけど!」

『……面倒な要素を省いてもう一度聞くぞ? 死にたいか、死にたくないか?』

「そんなの死にたくないに決まってるじゃあないか!」

『じゃあ我と手を組め……いや、我を使え。拒否権はないぞ』


言葉の応酬の末に、アムルゲートは痺れを切らしたかのように空気を震わせると、その球のようなボディが大きく膨張した。

「なっ……ちょっと何のつもりだアムルゲート!?」

勇者よ、我を身に纏え(アムル・ゲーション)!!』


 その言葉と共に、アムルゲートの側面部に巨大な亀裂が走り、ユーシャルは、その亀裂からアムルゲートの体に呑み込まれた。


「なんだこいつラ、長話してイルかと思っタラ……一体、何ガ……起こって、いるんダ!?」


 熊は、ユーシャルを飲み込んだアムルゲートが大きく波打って形を変えていくのをただ見ていることしかできなかった。



 赤い空に黒い煙が上がっている。歪な姿をした鳥のモンスターの無数の黒い影が耳障りな泣き声を一帯に響かせながら飛び交っていた。

 力の入らない自身の手足に、何とか気合を込めて立ち上がる。もはや、体力は限界だった。でも、生きようとする魂の力があれば、何とか動くことができるのだ。


「――おじさん? 何処にいるの!?」

 裏山に隠れたら、自分が戻ってくるまで出てはいけないと、昨日の晩に無骨な鎧を身につけた若い叔父に言いつけられたことなどとうに忘れて、彼女は麓の村――母親とともに一時的に滞在した母の故郷であるホーミズ村――へと向かい、裸足で坂道を駆け下りた。


 そこには、村ではなく、ただの死体置き場のようだった。置き場……というのはだいぶ優しい表現で、実際にはそれぞれ苦しんだように身をよじり黒ずんだ性別もわからないような燃え滓、全身をかみちぎられたり切り裂かれたりして原型も残っていないような肉片、首を落とされたままの姿で、立ち尽くした見覚えのある鎧の死体が散らばっていた。

 

 これは、彼女……ユーシャルの悪夢。かつて味わった絶望、恐怖、後悔。

 しかし、そんなユーシャルの思考は遮られる。背後から聞こえる言葉に。


『力が欲しいだろう? ならば与えてやる』


 赤黒い黒目を宿した単眼が浮かび上がる。ユーシャルの返答なぞ、聞こうともせずにそいつは言葉を連ねた。


『我が力が、そのままお前の力となる。目覚めよ――』


深い暗黒と、目が眩むような光が交互に自身を照らしたかのようにユーシャルは感じながら、『眼』を開いた。



「クソッ……まさか、こんな」


 熊は、舌打ちをしながら、球体の変幻の終わりを見届ける。


 ユーシャルを飲み込んだアムルゲートだった球体は、その姿を巨熊より一回りも大きな彫像のような人型の戦士へと変えた。

 別の世界における勝利の女神(サモトラケのニケ)をかたどったような、銀色の体の、左右非対称な羽根を持つ、美しく無機質な美貌の巨人であった。その腹部に不気味な赤い単眼が光っていること以外は、この者が聖なる祝福の下に生まれたといわれても信じられそうなほど、美しく神々しかった。


 『――――』

 

 銀の女神は、美しい歌声を響かせながら、ゆらりと体をマッスルベアーに向けた。

 構えのようなものはなく、その立ち姿は無防備そのものであった。

 しかし、熊はその筆舌しがたい異様さに威嚇の唸り声以外を上げることもできずにいた。


「グォオオオオオ!!」


 恐怖を押し殺しながら、殺意を込めた牙と爪を叩き込まんとその巨人に飛び掛かろうとした。しかし――


「なっ――」


 いきなり視界の大部分を喪失した上に、ほんの一瞬前まで自分が踏みしめていた重力の加護が足元から喪失する。


『愚かだな、巨大筋肉熊(マッスルベアー)


頭上から、声が響く。憎んでやまない大魔王の声が。


『だが、もう終わりだ。この"勇者"によって、お前は死ぬのだ』


「い――」


 嫌だ。只の下っ端モンスターとしてこんなところで惨めに死にたくなんかない。

 巨大筋肉熊(マッスルベアー)と呼ばれた個体は、そんな惨めな辞世の言葉を発する間もなかった。

 銀色の巨人は、敵を抱えたまま天高く飛び上がると、相手の頭部を一番下にしてその上に乗っかった。

 そのまま重力に従って地面に落下。その頭部は地面へ思い切り叩きつけられ、その頭蓋骨と首の骨を粉砕。瞬く間に絶命した。骨が砕け散る大音響が、森中に響き渡った。



『初めてにしてはよくやったではないか、人間よ』


 ユーシャルを体内から放出し、再び巨大な顔へと姿を変えたアムルゲートは、ユーシャルの顔を覗き込む。ユーシャルは巨大筋肉熊(マッスルベアー)の亡骸を茫然とした顔で見ていた。


「ボクが、やったの……これ?」


『……はて、初めてだから少し我が誘導したところはあったがなあ』

「そう、なの……? それなら納得だよ。やっぱり大魔王だものね、恐ろしく残虐なものだ」


『して、ユーシャル・ファステよ。命を助けた礼と思って、我の助けとなってくれないか?』


「……命の恩人なのは確かだから、聞くよ」


『――我、大魔王アムルゲートには七大魔王という部下がいる』


 話としてはこうだ。大魔王アムルゲートはある日、自身の部下の筆頭である七大魔王の強襲を受け、五体を割かれてしまったという。今、ここにいる頭だけはなんとか逃げ出したが、今みたいに魔王の手の者が命を狙っているという。


「部下に裏切られたって、どんだけアンタ人望無かったの? あっ人望っていうか魔物望?」


『……どうやら奴らは、かつての魔王軍の支配者である太古の冥府王を目覚めさせようとしているらしい。あ奴がこの世に解き放たれれば、世界中の生命体はたちまち命を失う。この世は冥府となってしまうのだ。故に我は奴らを止めねばならん……我は世界を滅ぼしたくはないからだ』


 アムルゲートの声音は大魔王であったというには、不釣り合いなくらいに深刻だった。ユーシャルは一度身を重ねたからか、この大魔王とやらに対しての敵愾心が薄れているように感じられた。気のせいなのか、何かしらの根拠があるのか。


「わかった。じゃあそのアンタを倒したって言う七大魔王をぶっ倒して、その冥府王とやらの復活を止めようってわけだ! やってやろうじゃないか!」


『受けてくれるのだな?』


「ああ。七大魔王を倒すために手を貸そう」


『感謝するぞ。ユーシャル・ファステ、15歳……』


 ユーシャルの手と、アムルゲートの触手のような顎鬚の先端がまるで握手のように交わる。弱き勇者候補と手負いの大魔王の同盟。後々の勢力図を一変させたこの同盟は今ここに結ばれた。

 しかし、段々とアムルゲートの触手状の髭がユーシャルの体に絡まっていく。


「ねえなにやってんの? というかさっきも思ったけど名前と年齢教えたっけ?」

『共に戦うために必要なことだ。あと、プロフィールはよく把握しなくては。年齢だけじゃない。身長、体重、スリーサイズ、経験人数、生理周期……』

「おい話聞けよ」

 アムルゲートは疑問の声に答えずに、髭をユーシャルの体に這わせていく。ユーシャルは羞恥心と不快感で震え、拳に力を籠める。

「ふ、ふ、ふ……」

『なぜだ? 健康管理は大切、だが? 定期的にやるんだぞ、これからもな』

「ふざけるな死ねええええええ!!」

『ブゴッ――――機能停止。機能停止。早急ニ回復ヲ……』


 ユーシャルは髭を引きちぎるとそのままアムルゲートに拳をかます。それがアムルゲートの瞳を直撃すると、HPが限りなくゼロに近づいた大魔王はそのまま地面に転がり、隙間から煙が上がる。

 ユーシャルは凶暴な表情で球体に馬乗りになるとそのまま何度も両の拳を眼下の球体へ振り下ろした。

 そこから数刻の間、硬いものをしこたま殴打したような重い打撃音複数、森の中でこだました。


 *


「ほう、ヘッドンの森にて巨大筋肉熊(マッスルベアー)を退治したか。装備品もないのによくやったものだな……えぇっと誰だったか? …………そうか、ユーシャルと申すのだな。それにしても」

「なんでしょうかブレイブ王?」

「その……なんだ? 大分煌びやかな鎧を着ているものだと思ってな。最初に来た時はみすぼらしい布の服だったと思うが?」


 ブレイブ王国の玉座で、ユーシャルはヘッドンの森の調査報告をしていた。その身体には血糊がついた布の服ではなく、黒のインナーに、魔法石が随所にあしらわれた魔法銀製の鎧のように見えた。

 ブレイブ王はユーシャルの話よりも、その鎧に関心を持っているようであった。


「こ、これはたまたま魔物を退治したら拾ったものでして、本当に運がよかったと思ってます」


 当然、それは嘘である。魔物自身が戦場に持ってくる財産などたかが知れている。そういったものは、魔物達の隠れ家や魔城に行かないとお目にかかるのは難しいし、そのような城に一番乗りするのは容易なことではない。


「……それはいいことを聞いた。ではユーシャルよ」

「はっ」

「このあたりは、獣魔王なる者が縄張りとして、我ら人間を食い物にしておる。あ奴の根城はここから遥か北の『死の霊峰』にある。さあ行くのだ、今すぐに!」

「御意。必ずや戦果を挙げて御覧に入れましょう」


 ユーシャルが玉座の間を後にするとき、彼女は気づかなかった。そこにいた人間たちが嫌な笑みを浮かべていたことを。そして、王が、大臣に言っている言葉にも。


「獣魔王様に伝えろ……(アムルゲート・コア)がそちらに向かうと、な」



 *


『なあユーシャルよ』

「どうしたんだいアムルゲート?」


 ユーシャルは鎧から『響く』声に応える。そう、ユーシャルが身に着けている鎧はアムルゲートが変幻したものであった。ユーシャルの貧弱な装備をカバーするため且つ、アムルゲート自身が隠密行動をとるためにはそれが最善であった。

 そのために、ユーシャルの身体データを隅々まで把握する必要があったのは彼女の不評を買ったのだが。


『一つ聞きたい。お前はたとえ自分が信じたものが脆くも崩れ去ったとして、また立ち上がることができるか?』


 いつか、彼女がそれに向き合う時が来るだろうと、アムルゲートは思った。いつかとは断言はできない。しかし、決して逃れることはできない。

 ユーシャルは、「うーん……」と少し思案して、答えた。


「ごめん、わからないや。でもさ」


 ユーシャルは白い歯を見せながら続ける。


「少なくとも、大魔王(アムルゲート)がいるうちは、大丈夫だと思うよ」


 まったく、会ったばかりの輩をそう信用するものじゃないぞとアムルゲートは答えたかったが、口を閉ざした。そのように言うことで、彼女の歩みを止めるべきではないと考えたのだ。


『ならばそれでよい、では――まずは第一歩、獣魔王こと、『タイガブロス』めを倒しに行こうぞ』


「応ー!」


 一人と一体は更に北へと歩を進める。





 機械仕掛けの銀の戦士は、知恵を以て蒼穹から来た。


 銀の戦士は、善悪の区別なく、求める者にその力を与える。


 銀の戦士が存在する限り、その部族の繁栄は約束される。


 銀の戦士は八つの銀の武装によってその機体を維持する。


 それらの銀の武装は、たった一つだけでも大いなる力をその使い手に与える。


 それらを別った時、世界に災厄が訪れるであろう。




 とある神託より引用。

6年前に適当に書いたものの設定をそれっぽく整理しました。正直小説として書くにはハードルが高いと改めて思ったので、これをもとにしてかつて投稿した作品のリメイクなどはやっぱりしないです。そのかわり、設定の整理を行った結果、よりいいお話の書き方が思いついたので、そういう形で実質リメイクとしたいです。

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