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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification10 lilin 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)は素顔を見せない
95/105

conclusion:社会的復讐鬼は素顔を見せない②

 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「よう、よく来たなあ大門……俺のために!」

「ええ……赤沢先輩!」


 悪魔の証明者たる大門と。


 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーたる赤沢は、こうして相対していた。


 今、この様子は。

 Tsubuyatterのライブ配信により、配信中なのである。


「しっかしよお……悪魔の証明だって? 何を証明するってんだ? もう俺がこの連続殺人事件の犯人だってことは分かりきってんだぞ?」


 赤沢はしかし、肩をすくめて言う。

 もはや大門が、改めて推理することなどないだろうと。


「いいえ! さっき電話口でも言った通りです。……あなたは、まだ全てを話してくれていません!」

「……ほう?」


 大門はしかし、相変わらず毅然として返す。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「九衛君……」

「大門君……」

「九衛さん……」

「九衛門君……」

「大門……」

「大門さん……」


 井野や、塚井ら女性陣。

 いや、世界のあらゆる所にいる人々がこの二人の対峙を息を詰めて見守っている。


「(九衛さん……私たち、今回もあなたを許せませんよ! でも……それでも、元気で帰って来てくれると信じていますから!)」


 塚井はそうした中、大門から彼のガラケーによるメールを受けた際のことを思い出していた。


 ――……という訳で、申し訳ありませんが道尾家のお力をお借りできるとありがたいです! またもご心配おかけして申し訳ありません。でもすみません……今は実香さんのために、赤沢先輩を救いたいんです!


 そんな文面であった。

 塚井はそんな彼に、文句の羅列メールでも送りつけてやりたい気分だったが。


 ――……分かりました。私がお嬢様や皆さんを、実香を説得します。但し、必ず無事で帰って来てください! それだけは、破ることを許しません!


 結局はそれだけを告げ、妹子や他女性陣を短時間で説得し道尾家使用人を手配したのだった。


 いや、手配したのは大門に対してだけではない。


「……ん、もしもし? ……分かった、ありがとう。」

「! 塚井、まさか。見つかったの?」

「ええ……越川さんの自供した場所から、無事見つかったそうですよお嬢様、皆さん!」

「……よかったあ!!!!」


 大門の推理を受け。


 塚井は、赤沢と同じく研究室メンバーにして負傷により入院していた越川の方にも使用人を行かせており。


 それにより()()()()を得ていたのだった。


 それは――


 ◆◇


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「そう、あなたは確かに犯人です。しかし……この事件は誰も犯人とは言えないということもできます。」

「……ほう?」

「なぜなら、この事件の犯人は……」


 再び、現場にて。


 大門はしかし、徐に赤沢に対し話し始める。












































「石和研究室の、全員だからです!」

「……ふん、何もかもやっぱりお見通しだったんだな。」


 大門のこの言葉に、赤沢は参ったとでも言いたげに両手を上げる。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「な!?」


 井野は、いやこの配信を見ている殆どの人は。

 大門のその言葉に、衝撃を受ける。


 石和研究室メンバー、全員が犯人?

 どういうことなのか。


 ◆◇


「九衛さん……」

「大門君……」

「九衛門君……」

「大門さん……」

「大門……」


 しかしその中でも、塚井たち女性陣は。


 尚も心配の眼差しを配信に向けつつ、それらの顛末は既に大門から聞いていたため他の人よりは落ち着いて配信に見入っていた。


 とはいえ、自分たちも。

 やはり最初にその旨を聞かされた時には、心底驚いたものだった。


 ◆◇


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「あなただけでなく、これまで社会的復讐鬼に殺されたと思われた全員は生きていますね? ……そう、これはいわゆる狂言殺人だったという訳です!」

「……ああ、その通りさ! この殺人はそもそも実在しない、ありもしない殺人だったんだよ!」


 配信は尚も続いており。

 大門は更に、赤沢を相手に話を続けていた。


 そう、田原も実際には本物ではないハンマーで自分自身を殴ってさも殺害されたように見せかけていただけであり。


 そのまま赤沢と同じく自室に保管しておいた自分の血をぶちまけて犯行現場のように演出し。


 やはり遺体でもない彼は、誰に運ばれるでもなく自分で変装し普通に歩いて部屋を出て行ったのだった。


 さらに、無理矢理入水自殺させられたのだと思われていた石和も。


 実際には海に飛び込んだ後で、あらかじめ浮かされていた浮き輪を掴み。


 それを使って上陸したというだけだったのだ。


「……そう、つまりこの事件はあなた方石和研究室メンバーでありもしない殺人事件を演じ。最終的にあなたがその居もしない殺人犯・社会的復讐鬼を演じて社会に指殺人され、社会に対して"無実の人間を追い詰めて殺してしまった"という罪悪感を植え付けて復讐することが()()()()目的だった。そうですね?」

「……ほう。()()、っていうことは。他の奴らは違ったって言いてえのか?」


 赤沢は大門の言葉尻を捉え、問い詰めるように言う。


「ええ。他の人は単に、この嘘の殺人事件を演じ終えたら世間に対して種明かしをするだけのつもりでした。……しかし。あなたは予定とは違う行動を取り、郡司さんたち三人を拉致するという暴挙に出た!」

「……ほう、そこまで分かってんのか!」


 赤沢は、嘆息する。


「はい、出なければ郡司さんがあんなメッセージを残すはずがありません! ……3734、というね!」

「郡司がメッセージを……? ……なるほど、3734(みんな未死)――研究室の、みんなはまだ死んでねえって意味か!」


 大門の言葉に赤沢は、虚を突かれたように言う。

 そう、ネットスラングでは"死"は氏とも書かれるが。


 市や4で表されることもあるのだ。


「それで気づきましたよ……あなたはこの偽の殺人をでっち上げて種明かしをするのみならず! あなた自身がその偽犯人になりすまし。その社会的復讐鬼という名のごとく、先ほども言ったようにこの()()()()()()復讐を果たそうとしていると!」

「ああ……ああ、そうさ!」


 大門の更なる言葉に、赤沢は吼えるように言う。

 それは歓喜か、自虐かは定かではない。


 しかし赤沢は、何にせよ清々しげである。


「全ては、あの日から始まってんだよ……孝雄の奴が吐いた嘘に踊らされて、俺や研究室の皆やこの社会の奴らが菜月を殺した、あの日からなあ!」

「……やはり、そうでしたか。」


 赤沢は更に吼える。

 これも大門が推理していたことだが、一年前の菜月の自殺。


 その発端となった孝雄の、彼女からいじめられていたという呟きは実はデマであった。


 彼は菜月の優秀さを妬み、そんなデマを流していた。


 しかし予想外に事件はネット上で過熱したことと、研究室メンバーからも頭からいじめをしていたと決めつけられ一方的に責められたことが原因で菜月は休学の憂き目にあい。


 それをきっかけとして罪悪感により孝雄は自殺。


 が、世間は菜月が彼を自殺に追いやったのだと決めつけて誹謗中傷の声が止まず、追い込まれた菜月はやがて本当に自分が人を殺したような錯覚に囚われて自殺。


 後に孝雄の遺書が研究室に隠されているのが発見され、菜月はまったくの無実だったことをメンバーは知る。


 級友の死に罪悪感と無力感を抱えた研究室メンバーは、復讐を決意したという。


「教授まで巻き込んで、ですか……そして罪悪感から来る自殺といえば。あなたも、菜月さんを特に追い詰めたという罪悪感によって今自殺しようとしていますね?」

「……ああ、そうさ! まあどっちにしろ、これの偽殺人の種明かしをするなんてことじゃあまだ生温い! 皆常に、ヒーローか悪者を求めてんだよ……だったら! おれがその悪者になってやろうじゃねえかあ!」

「っ! あ、赤沢先輩!」


 赤沢は、突如としてカメラに詰め寄る。

 顔がこの上なくアップになり映るが、彼はまったく気にした素振りは見せない。


「……さあ皆! まあ騙したのは悪かったが……どっちにしろもう遅え! 皆俺の処刑に投票しちまってるからなあ、残念ながら! さあて……これから処刑タイムだ!」

「! 赤沢先輩!」

「おっと、近づくなよ大門!」


 赤沢の言葉に大門は、彼に駆け寄ろうとするが。

 赤沢はそれを制する。


「赤沢先輩……」

「なあ大門……今、ほんとの死刑ってどうやるか知ってるか?」

「! そ、それは……」


 赤沢はそこで、きっと大門に向き直り彼に質問して来た。


「抜ける仕掛けになっている床の上に、首にロープがかけられた犯人が立たされて。最後は三人の刑務官がそれぞれのボタンを押して、そのどれかによって床が抜ける仕掛けで……まさか!」

「はーい、ご明察う!」


 大門は話の途中で、はっとする。

 しかし赤沢は嬉しそうに叫ぶや、次には傍らのPC画面を見る。


 そこには、赤沢が自身の死ぬ方法をアンケートしている呟きのブラウザが表示されているのだ。


「……うんうん、結果はこれか。よく投票してくれたねえ皆! あ、でもさ……別に、一番多い方法で死ぬたあ言ってねえよ? そう、これはオンライン死刑執行だ……だから、リアルの死刑と同じようにしねえとなあ!」

「あ、赤沢先輩!」


 赤沢は更にカメラに向かい叫ぶ。

 そう、彼は多くの票を集めたやり方で死ぬとは一言も言っていない。


「一番多い奴で死ぬかも知れねえが、二番目かもしれねえなあ! いいや、ドンケツの奴で死ぬかも知れねえなあ! そうだよ、リアルの死刑執行で三人も刑務官がいてボタンも三つもあんのは誰が殺したか分からなくするためさあ! ……俺も、そうさせてもらうわ、じゃあねー☆」

「赤沢先ぱ……」


 そう言うや赤沢は。

 カメラをぶち壊した。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ――マジで、ガチ?

 ――皆して狂言殺人? おいおい、そりゃないわー

 ――いやでも、嘘ってのが嘘って可能性あるくない?

 ――ああ、あのヒロトって人も仕込みかもねー!

 ――てか二人、どゆ関係?

 ――いやどうでもいいけど……どっちにしろ早く氏んでくださいマジで!

 ――せっかく投票したのに。



 ………………


 実香

 @Mika_T


 実香です。

 赤沢君、お願い本当に止めて!




 ◆◇


「け、警部! は、配信が!」

「くっ! 赤沢も九衛君も……最高にバカなことを!」


 赤沢がカメラを破壊したことで、配信は切れ。

 偽の現場にいた井野たち警察官は、歯軋りする。


 今は、塚井たちにより真の現場を教えられ。

 そこに、向かっている最中である。


「急げ、サイレンの音を最大出力で! 何としても、道を開けろってな!」


 井野は無駄と思いつつ、パトカーを急がせる。

 間に合ってくれ――


 ◆◇


「さあて……これが最終結果だ!」


 そして、真の現場では。


 赤沢はそう言い。

 大門に、PC画面を見せる。



 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


挿絵(By みてみん)


 29万票・最終結果


「赤沢先輩……もう止めてください! こんなことをやったところで……研究室の皆さんだって、何より菜月さんだって喜びやしませんよ!」


 大門は、尚も赤沢に訴え続ける。


「ああ大門……お前らしくもないな情に訴えるなんて! もういいんだよ、誰も喜ばなくたって……どうせ俺の自己満足なんだからな!」

「赤沢先輩い!」


 しかし赤沢には通じず。

 そのまま彼は、懐から何か――首吊り用ロープかはたまた毒か、ナイフか――を取り出し――


 と、その時。


「!? ぱ、パソコンから……ら、LINERか!」


 突如としてPC画面が、無料通話アプリLINERの着信を告げ。


 赤沢はその画面を――発信者の名前を見て驚く。


「み、実香さん……?」


 その相手は、実香だった。

 赤沢は振り上げかけた手を、ふと降す。


「……出てください、赤沢先輩。」

「……ああ。」


 赤沢は、カーソルを操作し。

 通話ボタンを押下する。


「もしもし、赤沢君! そこに大門君といるよね、生きてるの?」

「……実香さん。」


 赤沢はそこから聞こえる実香の声に。

 力なく、床に崩れ落ちる。


「赤沢!」

「赤沢先輩!」

「赤沢君! すまない……私は教員として失格だ……君たちを止める立場にありながら、容認してしまったのが悪かった……」

「! 教授、皆……」


 と、その時。

 かなり音質は悪いが、石和やその他研究室生徒たちの声も聞こえる。


「今入院中の越川さんを協力者に説得してもらい、他のメンバーの居場所を自供してもらいました。最終的に赤沢先輩を説得できるのは、実香さんや彼らだけですから……」

「ふふ……はははは!」


 赤沢は天を仰ぎ。

 嗚咽とも自嘲の笑いとも知れぬ声を、高らかに上げる。


「赤沢! 九衛君!」

「! 井野警部……」


 と、その時。

 井野たち警察官たちが、ようやく現場に駆けつけた。


「すみません、お伝えするのが遅くなってしまいました。」

「ああ、まったくだ! どうして君はいつもこう一人で……まあいい、被疑者確保だ!」

「はい!」


 井野は、大門への説教もそこそこに。

 部下たちに命じる。


「赤沢秀介! 研究室仲間との共謀による虚偽申告罪及び、世間を――ひいては我々警察を掻き回した公務執行妨害、並びに九衛大門氏への傷害容疑で逮捕する!」


 尚も赤沢は狂ったように笑っているが。

 無事、確保された。


 ――何だ、君らしくない終わり方だな。


「(ダンタリオン……いいんだよ、もう。これでこの悪魔の証明は終了だ……)」


 大門も、聞こえてきたダンタリオンの声に自嘲気味に笑い。


「! こ、九衛君!」


 そのまま、倒れ込んでしまった。

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