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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification10 lilin 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)は素顔を見せない
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conclusion:社会的復讐鬼は素顔を見せない①

「そ、社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャー……」

「は、はい間違いありません! 奴です!」


 警視庁捜査一課の部屋では。

 井野のスマートフォンに刑事たちが群がり食い入るように画面を凝視していた。


 無論、その目の先には。


「ようこそ、この社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーの一世一代の舞台へ! そう、これが……最後の舞台だ!」

「さ、最後の舞台だと!?」


 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーがTsubuyatterにて配信する、ライブ映像があった。


「では、お教えしましょう……社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャー、その正体は」


 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーは、徐に覆面を取る。











































「そう……死んだはずの、赤沢秀介でーす!」

「!? な、あ、赤沢だと!?」


 井野たち、この社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャー関連の捜査本部メンバーは驚くばかりである。

 それは死んだはずの、赤沢だったのだ。


「あ、赤沢君!?」

「そ、そんな嘘でしょ!?」

「な、何で!?」

「あ、赤沢さん!」

「そ、そんな!?」


 これを時同じくして見ていた、実香たち女性陣も驚く。


 そもそも、この配信のアカウントは。



 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓



 赤沢のものだったので嫌な予感はしていたのだが。

 実際に見れば、更に度肝を抜かれるというものだった。


 ◆◇


「赤沢先輩……」


 大門も時同じくして、社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャー――赤沢の配信を見ながら走っていた。


 恐らくはこれを実香たちも見ていて驚いているであろうことは、大門にも容易に察しがついた。


 無理もない、それは大門もそうだったからだ。


 ◆◇


「奇遇ですね……僕もあなたとお話ししたいと思ってました。」

「ほう……?」


 時は少しさかのぼり。

 大門が病院を抜け出したところで社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーからの電話を受けた時である。


「ええ、社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーさん。いえ……赤沢秀介さん!」

「……ふっ、やっぱり気づかれてたか。」


 しかし大門はそこで、彼に告げたのだった。

 すでに、正体はお見通しであると。


「どうやら気づいてくれたようだなあ、俺の残したメッセージの意味に!」

「ええ……あなたの残したメッセージ、未氏ですが。」


 大門は更に、詳細を話し始める。


「あれは当初、石和拓()()のことだと思われました。しかし……あれは、ネットスラングになぞらえた暗号だったんですよね?」

「……ほう?」

「氏、それは。ネットスラングのタヒねと同じく、氏ね――死ねの意味です。そうして頭に未――中高で習う漢文の再読文字の一つたる"未だ~ず"の意味が付けば。」

「……ああ、未氏(イマダシナズ)――まだ俺は死んでないって意味になるからな!」


 大門はダイイングメッセージ――いや、実際には赤沢はまだ死んでいないのでメッセージについてさらに説明する。


 赤沢はその言葉に、満足げな声である。


「あなたが殺された――と思われたあのライブ配信も。防刃チョッキを下に着込み、更に血糊或いは予め採取したご自身の血液を入れたパックをその中に入れて刃物を刺し。さも刺殺されたように見せかけたんですね?」

「ああ……やはりさすがだなあ大門! お前を見込んだ俺の目は、間違いじゃなかったみたいだぜ!」


 赤沢は更に満足げな声を漏らす。

 赤沢はそうして、自身の死ぬ映像をでっち上げた後。


 その後彼は自室に、あらかじめ少しずつ採取して保管しておいた自身の血をぶちまけて犯行現場を演出し。


 遺体でもない彼は、そのまま自分で変装し部屋を出て行方を眩ませたというのが真相だったのだ。


「……しかし、赤沢先輩。あなたはまだ、全てを話してくれた訳ではありませんね?」

「……ああ、そうさ。」


 が、大門のこの言葉により。

 赤沢の声は、少し低くなる。


「……ゴホッ、ゴホッ!」

「ああ、俺のせいで催涙ガス浴びた時の後遺症か……すまねえな、大門。」


 大門はしかし、咳き込む。

 それは今赤沢が言った通り、催涙ガスの後遺症である。


「いえ、いいんですこんなの……それよりも。今どこにいるんですか! 連れ去った皆さんはどこです? もう世間はあなたや他の研究室メンバーに十分すぎるほど注目していますよ、だから終わらせてください!」

「ああ、終わらせるさ……そうだなあ大門。特別待遇として、お前には見届け人をやらせてやるよ!」

「……見届け人?」


 そこで赤沢は、大門に告げる。


 彼曰く、これから()()()ライブ配信を行う。


 大門には自身の居場所を伝えてやるからそこに来いということだった。


「僕には……? それは、僕だけじゃないはずですよね赤沢先輩! 先輩が今しようとしている配信は、スマホの位置情報が不可欠なはずです! それで警察は必ず」

「ははは、心配要らねえよ大門! こっからはお前と俺の舞台にしてやる……他の奴にはレフェリーか執行人になる以外は許さねえ!」

「!? し、執行人?」


 大門は赤沢の言葉に、引っかかる。

 レフェリーは恐らく、配信を見る人間ということは分かる。


 だが、執行人とは?

 それに今大門自身が言ったように。


 警察は配信時のスマホの位置情報を握っているのだ、すぐに彼の居場所など突き止めるだろう。


 それなのに、大門だけに特別待遇とは?


「ああ、大門! いろいろ疑問だよな。……だが、その疑問の答えは、じきに分かるさ。とにかく、こっちに来いよ!」


 大門のそんな疑問を見透かしたように、赤沢は笑う。


 ◆◇


 そうして、現在赤沢によりライブ配信がなされている今に至る。


「赤沢先輩……待っていてください! 僕があなたを止めます!」


 大門は電車に乗りながら、尚もスマートフォンの画面に見入る。


 もはや彼を止められるのは、自分しかいないという一心だった。


 ――……本当に、そう思うかい? 本当に君なんかに、彼を止められると?


「(! ダンタリオン……)」


 しかしそこへ、やはりというべきか。

 ダンタリオンが、日出美の姿で現れる。


 ――まあ、私の導き無しに真相に辿り着いたことは褒めてあげよう! 


「(ふん、そうさ! 今回もこれからも、お前の力はいらない……僕は必ず、自力で解決してみせる! いや……お前の力じゃないにしても、やはり自力だけじゃ無理か。)」


 ――ほう?


 大門はダンタリオンと舌戦を繰り広げつつ、ふと目を移し。


 自分のズボンのポケットへと、左腕を突っ込む。


 ◆◇


「急げ、特定できた場所に向かうぞ!」


 一方、井野は部下たちを連れ警視庁舎を出る。


 大門の言う通り、彼らは配信時にサーバーへと送られるスマホの位置情報を手がかりに彼の居場所へと向かうのである。


「さあ……死ぬなよ赤沢!」


 井野は手元にある、自身のスマートフォンを見ながら苦々しく言う。


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「さあて……皆ー! すっごく俺のこと憎いでしょ? そうだねー、俺は自分の死を偽装して他の奴殺した悪い奴だもんね! だからさあ……皆に俺を殺せる権利をプレゼントするよ! 詳細は、この呟きの前に上げた呟きをご参照くださいな! さあさあ、どしどし受け付けるよ!」


 赤沢は、笑いながら言う。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ◆◇


「……は? 何よ、殺す権利をプレゼントなんて!」

「お、お嬢様……もしや、これでは?」

「……へ? ……!? こ、これって!」

「な、これは!」


 妹子たち女性陣も、配信内容に大いに戸惑うが。

 塚井が見つけた呟きの内容を見て、合点する。


 それは、以下のようなものである。


 ◆◇


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 さあ皆!

 私社会的復讐鬼を処刑して、英雄になるチャンスだよ☆


 処刑方法をお選びな↓


[ 首吊り ]

[ 服毒死 ]

[ 刺殺 ]


 0票・残り2時間


 ◆◇


 そう、赤沢はツブヤッターの投票機能を使い三種の選択肢どれかによって死ぬと明かしたのである。


 早い話が、オンライン死刑執行をさせてやるというのだ。


「駄目だよ赤沢君! ……くっ!」

「み、実香!」


 実香はそれに反応し。

 自身もTsubuyatterでの呟きにより、赤沢へメッセージを送る。




 実香

 @Mika_T


 十市実香です。

 赤沢君、もう止めて!





「実香……ん? こ、これは!?」


 塚井はそんな実香を心配するが。

 突如として、自分のスマホにかかって来た着信に驚く。


 ◆◇


 ――皆、これマジかな?

 ――まあ死んだって言ってる奴が生きてんだから間違いないっしょ!

 ――よし、今度こそ社会的復讐鬼氏ね

 ――俺、実際の死刑と同じ首吊りい!

 ――俺は刺殺! こんな奴苦しんで死ねばいい!

 ――いいぞ皆、もっとやれ!

 ――こんな悪は消えてくれてラッキー!


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「ふっ……おおおお! 皆、よくぞ投票してくれてるじゃん! コメントもどしどしお寄せいただきありがとう! そうだ……皆、俺を処刑して英雄になろう!」


 一方、赤沢は。


 ライブ配信のカメラに目を向けながらも、押し寄せる誹謗中傷メッセージ群に嬉々としていた。


 先ほどの実香のメッセージは、それらのメッセージ群に埋もれてしまい彼には届いていない。


「(さあ大門……お前が来る頃には俺は果てるぜ! うんうん、順調にこっちに向かってんな大門! 盗聴してる音声にも、特に異常なしっと!)」


 赤沢は心中では、傍らのPCに横目を向けながら大門のことを考えていた。


 そのPC画面は、大門のスマートフォンの位置情報を地図として映し出している。


 ――お前のスマートフォンには、自作のハッキングアプリを仕込んである! それでお前の位置情報も音声も筒抜けさ、だから……くれぐれも一人で電車で来いよ! お前がいるそこから、2時間ギリギリでここに着くようにな!


 大門と先ほど連絡を取った際に、赤沢が彼に告げた言葉だ。


 大門のスマートフォンは果たして、まだまだ赤沢の居場所よりも遠くに今ある。


 彼は律儀に、約束を守っているようである。


「(そうだ……かつて菜月が死んだ時と同じ、指で人を殺すって奴だな! まあ……今回は俺っていう悪い奴を、()()()()()()訳だが。さぞかし気持ちいいだろう、社会の皆さん!)」


 赤沢はそうして、PCの別のブラウザを開く。

 それは今、投票が行われている彼自身のアンケート呟きの画面である。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 さあ皆!

 私社会的復讐鬼を処刑して、英雄になるチャンスだよ☆


 処刑方法をお選びな↓


[ 首吊り ]

[ 服毒死 ]

[ 刺殺 ]


 28万票・残り1時間


「(そうだ……精々俺を処刑しろ! これで報いれそうだな菜月。今行って直接詫びを入れるさ……許してもらえねえだろうけどな!)」


 赤沢がそうして、次に思いを馳せたのは。

 かつて自殺した、菜月だった。


 ◆◇


「警部、着きました!」

「よし! 待っていろ赤沢……バカな真似は、私たちが止めてやる!」


 一方、パトカーを飛ばした井野たちは。

 赤沢のスマホの位置情報にあった、場所へと辿り着く。


 やはり警察には、居場所など簡単に分かる。

 だから大門と赤沢だけの舞台などには、ならないはずだ。


 そう、ならないはずなのだが――


「赤沢! ……なっ!?」

「い、井野警部ここは……?」


 が、"現場"に踏み込んだ井野たちは拍子抜けする。

 そこには。


「くっ! ……やられたようだ。」


 そう歯軋りする、井野の目の先には。

 ただただ、自動的に動くスマートフォンがあるだけだった。


 そう、配信に使われたスマートフォンは居場所とは別の所に置いてあり遠隔操作アプリと外付けカメラとの同期により動画は配信されていた。


 まさにスマートフォンの位置情報が送信されることを逆手に取り、警察を欺く手法である。


 ◆◇


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「おやおや……警察がダミーの配信場所に着いたみてえだ! 残念でしたー!」


 赤沢は、警察が踏み込んだ"現場"に隠しカメラと盗聴器を仕掛けており。


 その様を移すモニターをカメラに向けながら、警察を嘲笑う。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 さあ皆!

 私社会的復讐鬼を処刑して、英雄になるチャンスだよ☆


 処刑方法をお選びな↓


[ 首吊り ]

[ 服毒死 ]

[ 刺殺 ]


 29万票・残り5分


 アカシュー

 @aka_tsubuaccount


 皆ー!

 毎度お馴染み、社会的復讐鬼の公開処刑だよ↓


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「さあて……そろそろ開票時間だな! 皆お楽しみの……社会的復讐鬼()()処刑タイムだよ☆」


 赤沢は嬉々として、カメラに向かい戯ける。


 が、その時だった。


「……そこまでです、赤沢先輩!」

「ひ、大門!? な、何でここにいんだよ!」


 大門が突如"現場"――警察が踏み込んだダミーではない、正真正銘の赤沢の居場所へと突如踏み込み。


 赤沢は我が目を疑う。


 彼が見ているPC画面が、大門の位置情報が未だここではないことを告げていたからだった。


「ああ、それは……僕が隠し持っていたガラケーで呼んだ協力者にスマートフォンを渡しているからです! 僕自身はそのスマホを手放し、こうして赤沢先輩の所にやって来たという訳ですよ!」

「くっ……やれやれ、一杯食わされたか!」


 大門の言葉に、赤沢はため息を吐く。

 そう、先ほど塚井のスマホにあった着信は大門からのものだ。


 着信と言っても、それは大門が今言った通り彼秘蔵のガラケーからのメールであり。


 それを受けて塚井が手配した、道尾家の使用人が車で大門を迎えに行き。


 そのまま使用人は大門から彼のスマホを受け取って現場へ電車で向かい、大門自身は使用人の車を使いそれを飛ばして現場へと少し早く辿り着いたのだった。


 そう。

 毎度お馴染み道尾家の、七光を使って。


「さあ……これより、真の悪魔の証明を始めましょう!」


 大門は赤沢に、高らかに告げる。


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