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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification10 lilin 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)は素顔を見せない
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止まらない社会的復讐鬼

「隈なく探せ!」


 井野は埠頭にて、部下たちに命じる。


 捜索対象は、先ほど社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーによって入水させられる様が中継されていた中稲田大学石和研究室教授・石和である。


「井野警部!」

「おう、九衛君か!」


 と、そこへ。


 大門がやって来た。


 先ほど犯人から直々に犯行について聞かされ、更に先述の殺害光景の中継動画を見させられ駆けつけて来たのだ。


「あの、石和さんは!」

「ああ、まあ待て! ダイバーも今しがた捜索に入った所だ、そんなすぐには」

「け、警部!」

「って! も、もう石和氏は見つかったのか!?」


 大門を宥める井野だったが。

 ダイバーの報告に、驚く。


 ◆◇


「お分かりだと思うが……石和教授が今回の一連の事件の犯人たる社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーによって入水させられた。」

「はい……」


 所は変わり、中稲田大学の石和研究室にて。

 やはりというべきか残りの研究室メンバーが集められ、井野から話を聞かされていた。


「石和教授は、死んじゃったんですか」

「いや、まだ彼は見つかっていない! だからまだそう結論を急ぐものではないが……諸君には、引き続き気をつけてほしい。それと……これに見覚えは?」

「! そ、それは!?」


 井野は研究室メンバーを宥めつつ。

 証拠物件用の袋に入れられた状態の物を見せる。


 それは、眼鏡である。

 先ほど、ダイバーが見つけたものだ。


「い、石和先生の眼鏡です……」

「そうか……やっぱりな。」

「……」


 研究室メンバーはすっかり、意気消沈した様子である。


 さすがに、ここまで仲間や恩師を脅かされたことが堪えたようだ。


「……これより警察としても、次に狙われる可能性の高い君たちをそのままにはしておけない。よって、少しの間我々が警備するこの研究室で寝泊まりしてほしい!」

「……刑事さん……」


 そこで井野は、そう告げる。

 彼らを警護するのは、今言ったことばかりが理由ではない。


 意気消沈する彼らが、一人になることで絶望しきってしまうことを恐れた為でもあった。


「分かりました……じゃあ私、家に荷物取りに行きます!」

「あ、俺も。」

「俺も!」


 伊良部・佐波・郡司は、立ち上がる。


「あ……そうか。なるべく早く戻るんだぞ!」


 井野は三人を見送りつつ、声をかける。


 ◆◇


「ふう……犯人がまさか、石和教授まであんな風にするなんて……ん? 留守電か。」


 一方、大門は。

 探偵事務所に戻るや、事務所の電話に留守電が入っていることに気づく。


「何だろう、非通知? ……!? こ、これは!」


 大門は声を再生するが、驚き顔を上げる。

 それは。


「……やあ、九衛大門君。」


 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーの、声だったのだ。


 ◆◇


「な、何!? ほ、本当か九衛君!」

「はい、間違いありません! 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーは、残りの伊良部さんたち三人――その中でも、郡司さんを襲うと言って来たんです!」


 大門は走りつつ、井野に電話をかけていた。

 そう。


 先ほどの留守電はまさに、犯行予告だったのだ。


「あ、郡司さんのアパートが見えて……な!」

「? ど、どうした九衛君!」


 と、その時。

 郡司のアパート前に到着した大門だったが、そこにいたのは。


「ま、まさか……何でだよ! 何でお前が!」

「! な……まさかあなたは、社会的復讐鬼ですか!?」

「! こ、九衛君!」

「……ふん、来たか。」


 郡司と、フードと覆面で顔を覆い何やら機械変換したと思しき声の黒ずくめの人物――社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャー本人だった。


「……郡司さん!」

「……動くな!」

「……くっ。」


 しかし、大門が駆け寄ろうとするや。

 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーは郡司の首元にナイフを翳す。


「このまま邪魔しないで欲しいな……私の壮大な復讐劇を!」

「! こ、これは煙ま……ぐっ! ごほっ、げほっ!」


 そうして社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーは更に、大門に向かい球状のものを投げつける。


 それが地面で潰れるや、白い煙が上がる。

 火薬と催涙ガスを混在させた手製の爆弾だ。


 たちまち大門も、目が霞む。


「ではさらばだ……彼はもらって行くよ!」

「ま、待ちなさい! ぐっ……ごほっ!」


 大門が悶えてしゃがみ込む間に。

 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーは、郡司を抱えて逃走する。


「こ、九衛君!」

「す、すみません井野警部! 犯人は、郡司さんを拉致して逃走しまし、た……場所は郡司さんのアパート前です、さ、催涙ガスが撒かれていて危険ですから……け、警察の皆さんも気をつけて……」

「わ、分かった! もう君はいい、あまり喋らず動かず、大人しくその場で!」

「は、はい……ごほっ!」


 大門は尚も悶えつつ、井野に電話を続ける。


 ◆◇


「はあっ、はあ!」

「ち、ちょっとそこの方々! 廊下は走っちゃ駄目です!」

「あ、はいすみません!!!!!」


 大門が搬送された病院にて。

 日出美、実香、塚井、妹子、美梨愛の五人が看護師から注意を受けて返した言葉が響き渡る。


「ひ、ひーろーと!」

「き、九衛門君!」

「大門君!」

「九衛さん!」

「大門さん!」


 そうして五人は、大門の病室へと顔を出す。

 ところが。


「あ、あれ?」

「い、いない……?」

「いない、ねえ……」

「い、いませんね……」

「ど、どこに行ったんだろ……?」


 大門の姿は、そこにはなかった。


 ◆◇


「……そうですか、防犯カメラから車で逃走したことが分かりましたか……」

「ああ。ただ……車の行方は現在不明で。ナンバーも、何やらプレートにカバーがかけられていて判別は駄目だった。」

「そうでしたか……」


 手当を受けた大門は、未だ完治はせぬものの病院の公衆電話コーナーにいた。


 そうして今、井野と話していたのだ。


「……あの、伊良部さんや佐波さんとは。」

「ああ、やはり連絡が取れん……白昼だからと油断してしまったのが悪かったな、くう……」

「そんな……」


 更に問題は、郡司だけでなく。

 その二人もどうやら拉致されたようであり、井野も大門も歯軋りする。


「……まあ、こんな風に悔しがっても何にもならんな。それで九衛君、実は。郡司君はどうやら、何かメッセージを残したようだ。」

「! め、メッセージですか?」


 が、井野のこの言葉に。

 大門は、目を丸くする。


「ああ、彼は玄関先に固定電話とメモ帳を置いていた。そのメモ帳に書いてあったのだが」

「……な!」


 井野はそうして、郡司のメッセージを電話越しに伝える。


 ◆◇


「大門お! もう、こんな所に……あれ?」

「な……ま、またいない!?」


 そうして妹子ら女性陣は、電話コーナーへとやって来るが。


 既に大門の姿は、なかった。


「もう! 何よ何よ、妻の私とすれ違いなんて!」

「ははは……日出美ちゃんですらすれ違うなんてね。」

「大門さん、逃げ足速いよねえ。」


 日出美は悔しがり、実香はまだ元気のない様子であり。


 美梨愛は、周りを見渡している。


「まあでも、これはもしかしたらチャンスかもよ皆! ここは私たちが、九衛門君より早く謎を解いて彼を抜かすチャンス!」

「お、お嬢様……」


 妹子の言葉に、塚井は当惑する。


「さあて……これが赤沢さんたちのつぶやき画面のコピペよ! こんなこともあろうかと、用意しておいたの!」

「お、おお……や、やはり本気なんですね。」


 妹子はそこでハンドバッグより紙の束を取り出して皆に見せる。


 それは、彼女の本気度の現れではあった。


「……でも塚井。この草とかタヒねって何? タヒチに行けってこと?」

「……いやお嬢様!」


 解けるかどうかは別として。


「まったく……うーん、しかしこれはすれ違いでしょうか。それとも……」


 塚井は電話コーナー周りを見つつ考える。

 もしや、大門に避けられているのではと。


「すみません皆さん……今は、ゆっくり話をしている暇もないので許してください。」


 はたして。


 物陰に隠れながら、大門は電話コーナーを見つつ伝わるはずもない小声での謝罪をする。


 大門はやはり塚井の思った通りに彼女たちを避けていた。


「しかし、何だこれ……?」


 大門はふと、先ほど井野から話で聞いて書き取っていたメモを見る。


 3734。


 これが郡司が、拉致される前に残したであろうメッセージだという。


「3734……さ、な、み、し……? ……佐波さんが?」


 大門はそこで考え込む。

 佐波。


 殺された――と思しき田原に、赤沢に石和。

 彼らと同じ研究室メンバーで、同じく郡司や伊良部と共に拉致されたであろう彼が?


「ねーえ、塚井い!」

「お、お嬢様……」

「ああ妹子ちゃん、草っていうのは笑えるって意味だよ! 笑うをローマ字にした時に頭文字に来るwが、草に見えたから。」

「す、すごい! 実香さん物知り!」

「いやお嬢様……大抵の方は知っています。」

「な! そ、そうよ! 私だって知ってたもんねーだ!」


 その時。

 電話コーナーから、妹子たちの声が響いて来た。


「あ、遣隋使さんの声か……ははは……ん!?」


 が、大門はそこで。

 ふと、合点する。


 まさか――

 と、そこへ。


「!? す、スマートフォンが……っ! これは……もしもし。」


 着信があったために大門は、こっそりと病院から抜け出しつつもスマートフォンを右耳に翳す。


「……やあ。」

「あなたでしたか……奇遇ですね、僕もお会いしたいと思っていた所ですよ。……()()()()()()()()!」

「……ふん、やはり気づいたか。」


 それは、他ならぬ社会的復讐鬼からの電話だった。


 ◆◇


「!? み、皆ちょっと! これ見て!」

「ん? どうしたの日出美ちゃん……って、え!?」


 そうして、大門が社会的復讐鬼からの電話を受けた時から少し後のことだった。


 日出美は突然、自分のスマートフォン画面を他の女性陣に見せる。


「! え、こ、これって!」

「な、これ……」

「これは……」


 他の女性陣も、その画面の内容に驚愕する。

 それは。


「初めまして……いや、久しぶり、かな。僕は社会的復讐鬼だよ〜!」


 社会的復讐鬼の、ライブ配信だった。

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