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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification10 lilin 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)は素顔を見せない
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社会的復讐鬼の翻弄

 けんと

 @kosiken0512


 みんなー、僕は社会的復讐鬼。

 これは動画だよ↓


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「や、止めろ!」

「ああ、いい絵面だなあ……その顔は今に世界に配信されるから楽しみにしてな!」


 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーは逃げる越川を追いつつ。


 その手に握る越川のスマートフォンで彼を撮影する。

 それはついさっき越川から彼のTsbuyatterアカウントとパスワードの情報と共に、脅し取ったものだ。


「はあ、はあ……」

「ふふふ……さあ、もうどん詰まりだね。」

「……や、止めろ!」


 しかし越川は、逃げまわっていた住宅地の袋小路へと追い詰められてしまった。


「さあ……はい、チーズ!」

「う、うわあああ!」


 社会的復讐鬼はスマートフォンのカメラ越しに越川を見つめ。


 そのままナイフを、振り下ろす――


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ――うわ、何これ?

 ――マジで?

 ――被害者特定。こいつは中稲田の

 ――記事見つけた↓

 ――うわ、じゃあこれ自殺事件の復讐?

 ――いいぞ、もっとやれ!



 ◆◇


「ふうむ……よく、話してくれたな。」

「いえ……」


 ベッドで上体だけ起こす越川に、警視庁の警部たる井野は労りの言葉を掛ける。


 彼は肩を斬りつけられていたが、生きていた。


 そしてその斬りつけられる一部始終は、社会的復讐鬼に奪われた彼のスマートフォンとアカウントを使ったTsbuyatterで動画配信されていた。


 音小を大門が訪れてから、数日後。

 彼の前にはまた、依頼が舞い込んでいた。


 それは彼の中退した大学・中稲田大学(なかてだだいがく)の先輩だった赤沢秀介からの依頼。


 社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーが赤沢所属の研究室内パソコンに仕組んでいた動画について調べてほしいというものだった。


 大門はそれを引き受けることにし、研究室にやって来たのだが。


 その矢先に、同研究室所属の越川が社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーに襲われたという一報が入って来たのである。


「ダメです、今は話を聞いている最中で!」

「そんな、話を聞きたいのはこっちだって同じだよ!」


 と、その時。

 何やら病室の外で、警察官と誰かが揉めているのが聞こえる。


「! 赤沢さん!」

「? 何だ、知り合いか?」

「あ、はい……研究室の先輩です。」

「そうか……よし、入れてやれ……な!?」


 越川に尋ねつつ、井野は扉を開けて招き入れようとするが。


「! い、井野警部!?」

「こ、九衛君!」

「お久しぶりです♡」


 そこには赤沢のみならず、大門や実香の姿も。


 ◆◇


「まさか、大門や実香さんがサツと知り合いだったなんてな!」

「いや赤沢先輩、サツなんて不良言葉使わないでくださいよ!」


 病室に招き入れられた赤沢の言葉に、大門は彼を窘める。


「おほん! ……さて、君たちを引き入れたのは他でもない。この越川君を襲ったという社会的殺人鬼ソーシャルリベンジャーなる犯人について、お聞かせ願えないかな?」

「あ、はい……でも、赤沢先輩」

「いや、まあ大学は揉み消したが……ここは、話さない訳にもいかねえだろ。」

「……はい、そうですね。」


 井野に尋ねられ、大門は赤沢に一度窺いつつ答え始める。


 その社会的殺人鬼ソーシャルリベンジャーが研究室に、犯行予告とも取れる動画を残していたことを。


「ううむ……揉み消した大学も大学だな! 下手をすれば脅迫事件だというのに」

「すみません……」

「あ、いや別に九衛君のせいでは」


 井野の言葉に、思わず大門が謝罪する。


「そうだよ、大門のせいじゃねえよ! ……でもさ、越川。その犯人――社会的復讐鬼だっけ? 会った時さ、なんか心当たりなかったか?」

「え? 心当たり、ですか?」


 赤沢は大門を庇いつつ、越川に尋ねる。


「ああ……まあ言いづれえんだけどよ……」

「……えっと、赤沢君だったね? 君はもしかして……研究室の関係者に、この社会的復讐鬼なる者がいると踏んでいるのかな?」

「あ、はい……」

「! あ、赤沢先輩!」


 赤沢と越川の話に割って入って来た井野の言葉に、赤沢は少し話しづらそうに答える。


「そう考えても仕方ねえだろ? 孝雄と菜月の一件があったんだからよ!」

「? 孝雄と、菜月? ……ああ! そうか、かつてのSNS誹謗中傷で死んだ二人か!」

「! 井野さん、ご存知なんですか?」


 が、赤沢が越川に言った言葉に。

 井野は、はっとする。


「ああ、そうか……あの二人は、この研究室だったのか……」

「ええ……じゃ、刑事さん。分かるっすよね、俺たちは命を狙われる心当たりありまくりなんですよ!」

「う、ううむ……」


 赤沢の言葉に、井野は今度は言葉に詰まる。


「さあ早く調べてくださいよ早く!」

「わ、分かった……ではまず赤沢君、だったかな? 昨夜はどちらに?」

「え? お、俺を疑っているんすか?」


 が、赤沢は。

 捜査を進めろと迫ってすぐ、自分が犯人扱いされていることに驚く。


「いや、まあ事件が起きた時には全人類が容疑者のような者だから。まずは、身近な人物から当たろうと思ったまでだ安心してくれ。」

「そ、それは……」


 赤沢は井野の言葉に、目を逸らす。


「な、なあ大門!」

「……すみません赤沢先輩。一旦は取り調べに応じて下さい。」

「……そ、そんな……」


 赤沢は井野の言葉に動揺し、大門に救いを求める視線を送るが。


 大門は躊躇いつつ、赤沢に自身の考えを告げる。

 そう、確かに。


 一年前に孝雄と菜月が自殺したことに関する復讐が今回の動機だとするならば。


 研究室メンバーが真っ先に疑われても、無理はあるまい。


 そしてその研究室メンバーである赤沢も、当然対象にはなる。


「……うん。まあ今答えられないなら」

「失礼します! ……あ、どうも。」

「! あ、伊良部!」


 そこへ。

 恐らくは関係者ということで通されたのか、伊良部も病室へ入って来た。


 いや、それだけではない。


「失礼します。彼らのゼミを担当しています、教授の石和(いしわ)です。」

「あ、これはこれはご丁寧に……所轄警部の井野と申します。」


 伊良部の後ろから進み出て来たのは、少し小柄な中年男性。


 研究室の主でもある、中稲田大学情報工学部教授の石和拓未(いしわたくみ)である。


 更に。


「失礼しまっす! おお越川、元気そうじゃん?」

「バカ、これのどこが」

「そ、そうだよ田原君。それに」

「どれ見せてみろ、こう見えて俺は元々医者志望の」

「こら、君たち全員静かに! ここは病院だぞ?」

「あ、はいすみません……」


 後ろから湧いて出るように入って来たのは、ややチャラ目な学部四年生・田原一圭(たはらいっけい)に。


 気弱そうな院一年生・佐波大輝(さなみだいき)


 やや固い印象の体育会系たる院二年生・郡司三郎(ぐんじさぶろう)


 こうして、石和研究室のメンバーは出揃う。


 ◆◇


「何か……ごめんなさい刑事さん。」

「いや、むしろ皆さん揃っていただきこちらとしてはやり易い。……さて。昨夜はどちらに?」


 謝る伊良部を前に、井野は改めて事情聴取を始める。


「私は家で寝てましたけど……まあ一人暮らしでアリバイはないですね。」

「ええ、まあ。」


 伊良部の言葉を井野は、メモする。


「さて……次は」

「俺も、研究室で一人で呑んでたっす。アリバイはありません。」

「あ、ああ……分かった、ありがとう。」


 予想外に赤沢は、すんなりと明かし。

 井野はやや驚きつつもメモを続ける。


「俺も一人暮らしの部屋でレポート書いてたっすね〜!」

「ぼ、僕も一人で部屋で寝てました!」

「俺も部屋で、一人で筋トレを。」


 田原・佐波・郡司も続けて答え。

 郡司に至っては、鍛え上げられた右腕の力瘤を得意げに見せる。


 この筋肉こそがアリバイ証明だ、と言っているようにも見えるが。


 さておき。


「あ、ああ分かった……ええと、石和教授はどちらに?」

「ああ、私も一人で公園でタバコを。」

「公園で、ですか……」


 井野はそんな郡司にやや引きつつ、石和にも水を向ける。


 石和の話をメモしつつ、恐らく妻を恐れてか家で喫煙できなかったためだろうと考えていた。


 さておき。


「ううむ、ありがとうございます……では、私はこれにて。警護の警察官を病室前に配置しておきますので、越川君何かあればどうぞ。」

「あ、どうも……」

「お気遣い、ありがとうございます。」

「いえいえ、では。」


 井野は越川や皆にそう告げ、石和に礼を言われながら病室を出て行く。


 ◆◇


「でもびっくりしたよね〜、いきなり研究室メンバーが襲われるなんて!」

「……そうですね。」

「おやおや、思索タイムかな?」


 聞き込みの少し後。

 研究室メンバーが先に出た後で、大門も実香と歩いていた。


 病院を出て行きながら、実香は大門に話しかけるが。

 大門は考え事により、やや素っ気なく対応する。


 と、その時。


「……ん? ちょっと失礼します実香さん。」

「あ、電話? いえいえどうぞ!」


 とはいえ、実香は特に気を悪くした風でもなく。

 大門がスマートフォンで電話に出ることも快諾する。


「もしもし?」

「もひもひ、ひゃはいでひょ、ひゅうへもんふん!」

「はい? その声は……遣隋使さん?」


 大門は応答するが。

 何やらよく呂律の回らない声でかけてきたそれは、妹子の言葉だった。


「あっ、なにふんのよ」

「もしもし、九衛さんですか? どうも、塚井です。今のはうちのお嬢様(主人)の言葉でして、"もしもし、じゃないでしょ九衛門君!"とお行儀悪くもケーキを頬張りながら言っていまして」

「あ、なるほど……」


 塚井が妹子からスマートフォンを奪い代わって答える。


 そう、彼らは。

 大門らが理系のキャンパスに行っている間、文学部キャンパスのカフェテリアで待ちぼうけを(ついでにケーキも)食っていたのだった。


「貸してっ、塚井さん! ……ひーろーとー? 実香さんや女子大生に鼻の下伸ばしてたら承知しないからね!」

「うわ、日出美……何のことさ?」


 と、それを更に日出美が分捕り、釘を刺し。

 釘を刺された大門は、困惑するばかりである。


「……はあ、これだから大門は! もういいわよ、実香さんたちとハーレム作りに勤しんでいれば!」

「え? ち、ちょっと日出美?」


 大門が困惑している内に、電話は一方的に切れた。


「え? ち、ちょっ……ありゃ。」

「おやおや。日出美ちゃん嫉妬しちゃった〜?」


 スマートフォンから耳を離した大門に。

 実香はからかいの表情で、顔を近づける。


「うわ、み、実香さん近いですよ」

「いいじゃん、別に。」


 と、そこへ。


「! あ、で、電話ですね……も、もしもし!」

「……もう、いい所なのに!」


 大門にとっては渡りに舟とばかり。

 再びスマートフォンに電話がかかって来たことを好機とばかり、実香からすっと離れる。


 実香は珍しく、むくれる。

 電話の相手は、大方日出美か妹子か塚井か美梨愛だろう。


 大門も実香も、そう思っていたが。


「……実香さん、すみません。先に、文学部キャンパスに行ってもらえますか?」

「! え? ひ、大門君は?」

「……すみません、ちょっと用事が。」


 大門は急に神妙な顔つきで、実香にそう告げた。


 ◆◇


「……もしもし。」

「やあ、探偵さん。今どこかな?」

「今は……言われた通り、田原さんの最寄駅です。」

「……よし。」


 それから少し後、大門は。

 電車に乗り、()()の通り研究室メンバーの一人である田原一圭在住のアパート最寄駅を訪れていた。


 その()()の主及び、今の電話の主は。


「何をさせるつもりですか? ……社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーさん。」

「……ふふふ。」


 どうやって大門の番号を調べ出したのか、社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーだった。


 が、大門には社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーが情報を得た経緯について心当たりがあった。


 やはりこれは、あの石和研究室の誰かが――


「……ではこれから君に、いや、全世界の人に面白いものをお見せしよう! これから言うアカウントを、Tsbuyatterで検索してみたまえ……」

「!? つ、Tsbuyatter!」


 電話はそこで切れる。

 大門は言われるがままに、アカウントを検索する。


 1K

 @kitchen_plusone


 田原のアカウントである。


「これは……生配信!?」


 大門は最新のつぶやきを見て、驚く。

 それは、映像の生配信だった。


 ◆◇


 1K

 @kitchen_plusone


 みんなー、今度は社会的復讐鬼による生配信です♡


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「は、はあはあ……」


 画面前には、口をガムテープで塞がれ。

 前で両手を縛られた田原の姿が。


 そうして画面の中に。

 金槌が振り下ろされ、それは田原の頭に当たり。


 田原は、倒れ込み――



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ――え、これまじ?

 ――朝の別アカでの配信、あれマジだったらしい。

 ――ニュースでやってたね。

 ――今朝のやつ負傷で済んだらしいがこれ……死んでるよね?

 ――いや、ギリセーフじゃね?


 ◆◇


「田原さん! 先ほどお会いした私立探偵の九衛です! 田原さん!」


 大門は先ほどの配信から二十分後。

 田原のアパートの、二階にある部屋前へと、来ており。


 その扉を、ドンドンと叩いていた。


「くっ……こうなったら!」


 大門はそのまま、踵を返し。

 鍵を開けてもらうべく大家の部屋へ行き、大家を呼んで再びやって来る。


「……開きました!」

「ありがとうございます! ……えい!」


 鍵が開くや否や。

 大門は素早く扉を開け、踏み込む。


「田原さん! ……くっ、これは!」


 大門は踏み込むが。

 窓も鍵がかけられたワンルームのそこには、血溜まりこそあるものの。


 田原の姿は、既にどこにもなかった――

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