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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification10 lilin 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)は素顔を見せない
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訪問者K、H、M、T

『ハマタカ

 @dahama1234


 私はもう死にます。

 死にます。

 ↓こいつのせいで、死にます……


 かいつ

 @kaitsuaitsu 』


 ――こんな奴のために、死ぬことないよ!

 ――かいつ、お前がタヒね。

 ――キモいかいつ


 かいつ

 @kaitsuaitsu


 ごめんなさい。』


 ――謝って済むのなら、警察要らないんですけどー?

 ――最低いじめ野郎、屑。タヒね。

 ――こいつ、通報します。住所は……

 ――うわ、顔キモい。

 ――カス、いやカス未満。


中稲田大学(なかてだだいがく)の学生が死んでいるのが発見されました。亡くなったのは情報工学部四年生波間孝雄(はまたかお)さんです。警察は自殺と見て調べを進めています……」



 ――うわ、かいつ最低じゃん! この人殺し。

 ――いじめで人殺すとか、人間のやることじゃないよね〜!

 ――マジでかいつタヒね!

 ――お前が死ねばよかったのに


 かいつ

 @kaitsuaitsu


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 今すぐ消えます


「またも中稲田大学(なかてだだいがく)の学生が死んでいるのが発見されました。亡くなったのは情報工学部四年生貝塚菜月(かいづかなつき)さんです。警察は自殺と見て捜査を……」


 ◆◇


「ああ、踊るのが好きだねえ君たちは……将来はダンサーにでもなりたいのかな?」


 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)はその中で一人、社交ダンスのステップを見よう見真似で踏んでみる。


 が、すぐに立ち止まる。


「ああ、これから踊り続けるがいいよ……赤い靴を履いた女の子のように、死ぬまでね……」


 社会的復讐鬼(ソーシャルリベンジャー)はそう言いながら、スマートフォンの画面に目を落とす。


 やはり目に映りこんで来るのは、大量の誹謗中傷である。


 いわゆる、"指殺人"の――


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「えっと……こ、これが今回の依頼ですか実香さん?」

「そっ! まあ大門君。ここはさ、かつての先輩を助けるためだと思って!」

「え、ええ……」


 九衛大門探偵事務所にて。

 大門は実香からの依頼内容に目を通し、目を丸くする。


 音小を大門が訪れてから、数日後。

 彼の前にはまた、依頼が舞い込んでいた。


 大門が二年次に中退した大学・中稲田大学(なかてだだいがく)情報工学部のとある研究室に関する依頼内容に、彼は目を通していたのであるが。


「やあ石和(いしわ)研究室の諸君……我が名は社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャー。一年前の悲劇は忘れてはいないだろう? さあ……償いたまえ。」


 研究室の風景をバックに、何やら面で素顔を隠した自称・社会的復讐鬼ソーシャルリベンジャーがそう話している動画である。


 これが研究室の共用PCに入っており。

 大学は調査の結果、ただの悪戯と判断し。


 警察沙汰にはしないと決めていたのだが。

 大門のかつての先輩――かつてのサークル先輩でもあるこの研究室所属の院生が、実香を通じて彼に依頼をして来たのだった。


「そうですね……」

「ね、頼むよ大門君!」

「お、おほん! 実香さん、近すぎなんだけど?」

「おっと……いやだ、これは失敬♡」


 と、そこへ。

 自称・大門の妻たる日出美が、実香に苦言を呈する。


「ま、まあまあ日出美さん! 今はお仕事中ですし」

「お姉ちゃんも、内心穏やかじゃないんじゃない?」

「な!? そ、そんなことは」

「大丈夫よ、実香さんも塚井一筋だから!」

「いやお嬢様……一度おとなしくお黙り下さい。」

「ええ! 何でよ!」


 大門と実香が向き合う後ろで。

 妹子・日出美・塚井・美梨愛も、茶をしばいていた。


「あ……と、ところで九衛さん。こんなにくつろいですみません、ここはそれこそ執事喫茶店じゃないのに!」

「あ、あはは……いや、何も問題は」


 塚井はそこで、依頼主でもないのに我が者顔で事務所に居座る自分たちに関して詫びる。


「そ、そうよ塚井! ここはメイド喫茶なんだから!」

「いやお嬢様、ツッコミが頓珍漢過ぎます!」

「わ、私は妻なんだからいいんだからね!」

「うん、私もお姉ちゃんの妹だし♡」

「いや美梨愛、あんたも関係ないでしょ!」


 塚井の女性陣へのツッコミは、まだ続いた。


「おっほん! ……皆〜、そろそろ黙ってくれないとお姉さん、悲しいんだけどなあ♡」

「!? す、すいません!」

「……え?」


 が、実香がそんな女性陣を見兼ねて笑顔で言った言葉に、何故か大門が縮み上がる。


 それには女性陣も、思わず騒ぐのを止め彼の方を見る。


「ど、どうしたの九衛門君?」

「ま、まさか……みーかー! あんた九衛さんに変なこと」

「いや、あたしはみーんなを叱っただけなんだけどな♡」

「! ひ、ひいい! ごめんなさい!」

「ひ、大門?」

「あっちゃー……まあこういうときの実香ちゃん地味に怖いから仕方ないか。」


 実香の笑顔にさらに縮み上がる大門に、塚井と美梨愛以外は戸惑うばかりである。


 笑いながら怒る――大門にとっては実香のこの状態が、一番恐ろしいのだ。


 さておき。


「……ま、それはともかく! ……この一年前の惨劇って当然、()()だよね大門君……」

「あ、は、はい! ……()()ですね。」


 実香は笑顔を解き。

 深刻そうに、大門に問う。


 大門も、先ほどのテンションを未だ少しは引きずりつつ。


 こちらも深刻そうに、ふと考え始める。


「え……? な、何よ今度はあ! この妻を差し置いて!」

「あ、日出美さん……もしかしてこれでは?」

「……え?」

「ええっと……中稲田大学(なかてだだいがく)!? うわあ、頭いい所……で、殺人事件?」


 日出美はそんな二人のツーカーな様子に、嫉妬心を燃やすが。


 ふと塚井がテーブルに置かれていた新聞記事に気づき。


 そのまま妹子・日出美・塚井・美梨愛はその記事に見入る。


 それは、一年前に中稲田大学(なかてだだいがく)情報工学部で立て続けに起きた生徒の自殺だった。


 死亡したのは同学部四年の波間孝雄と、同じく四年の貝塚菜月だった。


 孝雄は彼のものと思われるSNS・Tsbuyatterのアカウントで、菜月からのイジメを明かしており。


 後に彼は自殺、そのことで受けたSNS上の誹謗中傷が原因で菜月も、後を追うように自殺するという痛ましい結果になっていた。


 しかし、大学側が半ば事件を揉み消したこともあり。

 結局この事件は、あまり深入りされることなく幕を閉じたという。


「うわあ……イジメかあ。」

「まあイジメやるような人は、このぐらいされて当然じゃない?」

「……こら、日出美!」

「!? ひ、大門……」


 が、その記事を読んでの日出美の言葉を。

 大門は叱責する。


「人が一人亡くなっているんだ、そんなことは言わないでくれ……」

「う、うん……ごめん大門……」


 日出美は大門に、謝罪する。


「まあまあ大門君。……まああたしたちはその死んだ生徒さん二人のお葬式行ったんだけど。二人とは直接面識なくて、あくまでサークルの大門君の先輩にしてあたしの後輩を通じての関係だったんだけどね!」


 実香は大門を宥める。


「……ごめん日出美。」

「い、いや別に!」


 逆に今度は、大門が日出美に謝る。


「……ごめん大門君。やっぱりこの依頼は嫌だよね! あ、あたしお断りしとくから」

「いえ……やります実香さん!」

「……まじ?」


 実香もそんな大門を慮るが。

 大門の予想外の反応に、驚く。


 ◆◇


「えっと……ここだね、石和研究室。」

「はい。……赤沢(あかざわ)先輩、お久しぶりです! 九衛です!」


 数日後。

 大門は実香と、研究室を訪れた。


「いないのかな?」

「! あれ? ……開いてますね。」

「……いやいやいや、大門君ヤバいよこれ! 明らかに事件フラグだって!」

「っ、実香さん?」


 と、扉を開けようとした大門を。

 実香はその腕にしがみつき止める。


 何やら肘に柔らかい感触があったが、大門はそれを邪な考えと即座に振り切り平静を装う。


「じ、事件フラグですか?」

「いや、だって定番でしょ? 訪ねた先で応答なし、扉は開いてる……それでもって開けたら室内には遺体と流血が! って。」

「いや実香さん……それはドラマや漫画の見過ぎですよ。」


 大門は実香の言葉に呆れつつ、また尚もある肘の感触に平静を装いつつ扉を開け始める。


「まあそうだね、これは小せ」

「実香さんそれ以上は言っちゃダメですよ! ……とにかく、そんなベタな展開ある訳が……」


 が、扉を開けた大門は。

 室内の様子に、固まる。


 そこには果たして、床に横たわる赤沢と流れる赤い液体が。


「……あった!」

「おお〜、すごいノリツッコミ!」

「言ってる場合ですか! は、早く救急車を」

「……ん?」

「! あ、赤沢先輩! よ、よかった……まだ息が」

「おやおや……久しぶりだなあ大門お!」

「うわああ! ……え? せ、先輩?」


 が、赤沢は徐に立ち上がり。

 大門は慌てるが、彼の身体には傷はおろか血痕もないことに気づき首を傾げる。


 ◆◇


「まったく、飲み明かした挙句床に倒れるなんて……相変わらず赤沢君らしいね。」

「まったく、相変わらず実香さんの言葉はきついわ! ……イテテ……」

「先輩、二日酔いですねそれ?」


 床を拭きながらの実香の言葉に。

 大学院二年生・赤沢秀介(あかざわしゅうすけ)は頭を押さえながら答える。


 先ほど床に流れていたのは、赤ワインだった。


「他の研究室メンバーは?」

「ああ、もうすぐ来るっすよ。俺一人昨日から留守番っす。」


 赤沢は尚も、実香に答える。

 と、その時だ。


「た、大変です赤沢先輩!」

「うわっ、い、伊良部(いらぶ)! 何だよ、どうしたんだよ!」


 同じく石和研究室所属の伊良部香織(いらぶかおり)が、急に扉を開けて入って来た。


 大門たちには、目もくれない。


「け、警察から連絡があって……こ、越川(こしかわ)君が!」

「……え?」


 が、香織の言葉に。

 赤沢は、思わず身を乗り出す。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「はーあ、遅くなっちゃった……うわっ!?」


 時は、前日の夜。

 石和研究室所属・学部四年生の越川健斗(こしかわけんと)が道を歩いていた時だった。


 そんな彼の前に、突如現れたのは。


「やあ……あの動画以来かな?」


 仮面をつけた人物――社会的復讐鬼だった。

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