conclusion:学校七不思議に八つ目はない②
「あ、開かずの間の場所……?」
笠倉は尚も、首を傾げている。
『魔法乱譚伝灯王』の撮影現場で起きた殺人事件の解決とその劇場版鑑賞より数日後。
HELL&HEAVENを訪れた女性陣だったが、ちょうど大門が外出する時というタイミングの悪い時であり。
菓子や茶を沢山用意したので、戻って来るまでそれで間を持たせてくれと大門は言い。
どこかへ行ってしまったのであった。
その間に女性陣たちの間では、大門と日出美の馴れ初めは何だったのかという話になり。
彼らの初めての出会いとなった、一年前の出来事について日出美は話していた。
これは日出美によるその話である。
「ええ。それこそ、国立さんが殺された本当の場所です! ですよね、丹沢先生?」
大門は尚も話を続ける。
大門は第一の教頭殺しの犯人として、非常勤の体育教師・丹沢がそうだと睨んでいた。
今回の事件において、早くから鍵を握っていると思われたのは音小の八不思議である。
『1.開かずの教室を開けると、神隠しに遭う
2.体育館で、霊がサッカーボールを蹴ってばかりいる。
3.とある階段は上がった時と下がった時の階数が違い、そこからは首が落ちてくる。
4.夜の印刷室では、下半身或いは上半身が切れた人の姿が互い違いに延々と印刷されていく。
5.家庭科室では、蛇口から血が流れ続ける。
6.理科実験室では、チョークが黒板にひとりでに文字を書き続ける。
7.音楽室で加藤さんが亡くなり、それ以来ピアノが勝手に鳴る
8.図画工作室で太郎さんが亡くなり、それ以来彫刻刀で何かを削る音が時折聞こえる。』
それは早くから、犯人が名乗る『八つ目の七不思議』という名からして元は七不思議だったことが示唆されていたのだが。
『1.体育館で、霊がサッカーボールを蹴ってばかりいる。
2.とある階段は上がった時と下がった時の階数が違い、そこからは首が落ちてくる。
3.夜の印刷室では、下半身或いは上半身が切れた人の姿が互い違いに延々と印刷されていく。
4.家庭科室では、蛇口から血が流れ続ける。
5.理科実験室では、チョークが黒板にひとりでに文字を書き続ける。
6.音楽室で加藤さんが亡くなり、それ以来ピアノが勝手に鳴る
7.図画工作室で太郎さんが亡くなり、それ以来彫刻刀で何かを削る音が時折聞こえる。』
実際に八つ目であったのは八番目ではなく、一番目であった。
更に言えば大門は、この七不思議はある暗号――開かずの間を示す暗号を表しているという。
「ど、どこなんですかそれは?」
持田も、大門に尋ねる。
「し、しかし九衛さん……これでどうやって、その場所が分かるというのですか?」
笠倉もまた、大門に尋ねる。
てっきり音楽室の分割に伴い増やされたと思われた八不思議目だったが。
この話はむしろ、八不思議の方に合わせる形で音楽室が分割されたというのが真相だった。
そしてそれができたのは、その時改装を指揮できる立場にいた校長の筧である。
しかし、上記の七つが正式な七不思議だとするならば。
これは、何を意味するのか。
「ええ、確かに。この八不思議であった時の七、八番目の真相が分かった今、一見するとこの七不思議には何の意味もありません。しかし……この七、八番目が『七不思議のうち別の話も分割されている』というキーワードだったとしたらどうでしょうか?」
「べ、別の話も……?」
「……」
「……」
持田と笠倉は互いに首を傾げ。
筧と丹沢は、黙りこくっている。
「僕が気になったのはここです。『1.体育館で、霊がサッカーボールを蹴ってばかりいる。』――サッカーボールって、蹴る以外に何がありましたっけ?」
「さ、サッカーボールですか……ええと、胸でトラップ……?」
「へ、ヘディングとか……?」
「ええ、ご明察です持田さん! この文は、『霊がヘディングをやっていない』――いや、ヘディングを物理的にできないということを意味しているんです!」
「!? え!」
大門の更なる問いに、笠倉と持田は益々首を傾げる。
ヘディングを物理的にできない?
物理的に、とはどういうことなのか?
「つまり……首がないためにヘディングができないのだとしたら? そしてその首の行方は……その七不思議の中に書いてありますね?」
「!?」
「あ……も、もしかして!?」
しかし大門のこの言葉に、笠倉と持田はようやく合点する。
そう、首の行方。
それは。
『2.とある階段は上がった時と下がった時の階数が違い、そこからは首が落ちてくる。』
「と、とある階段……ということはまさか!?」
「そう、この七不思議が示すものそれは……『体育館には上がった時と下がった時の階数が違う階段がある』という話が二つの話に分けられているということだったんです!」
「!」
「……」
「あ、あ……」
大門の言葉により、持田と笠倉は驚き。
丹沢は黙り込み、筧はその場にへたり込んでしまう。
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「は〜、やっぱり大門君かっこいい!」
「う、うん。そうだね実香……」
「そうね塚井……」
「そうだねお姉ちゃん……」
「あ! も、もう……だーかーら! 大門は私の旦那だって!」
翻って、現在のHELL&HEAVENでは。
日出美の上記までの話に、他の女性陣も聞き惚れていた。
「でも、その丹沢先生? が犯人だったとはねー!」
「そうだね実香ちゃん……ねえ日出美ちゃん、大門さんどこでそれに気づいたんだろ?」
「えっへん、よくぞ聞いてくれました!」
美梨愛の質問に日出美は、胸を張る。
「それは音楽室と図画工作室の事件の時、丹沢先生が言っていたあの言葉よ!」
「あ、あの言葉……?」
「あの時丹沢先生、うっかり開かずの間って口走ったのよ。それで大門は、ピンと来たんだって!」
「あ!?」
日出美の言葉に女性陣は、思い出す。
そう、あの言葉だ。
――開かずの間で教頭が殺されて、その後は理科実験室、家庭科室と、今夜は図画工作室と音楽室……もう、どうすればいいんでしょう……
あの時、開かずの教室ではなく開かずの間だと口走ったことで。
大門は第一の事件の際、教頭の国立が言っていた言葉を勝手に自分で変換したことにも気づいた。
――あ、開かずの間……開かずの間にいる!
あの時大門は知らず知らずのうちに開かずの間という言葉を、開かずの教室と変換してしまっていたのだった。
更に、何故その言葉を丹沢が知っているのかと考え。
彼女が教頭殺しの犯人であると気づいたらしい。
「なるほど……そんなことで丹沢先生が八つ目の七不思議って気づくなんて、さすが大門君だねー!」
「う、うん実香……でもあの暗号『七ナタ』――七ナ夕あるいは七夕の間にカタカナのナとか言われていたあの暗号ですが。あれはどう解釈すれば、丹沢先生になるんですか日出美さん?」
「ふふ……おーっほほほ! 実香さんも塚井さんも、まだまだ大門の正妻には遠いわね!」
「え?」
「ど、どういうことですか?」
しかし実香と塚井は。
自分たちの発言に対する日出美の高笑いに、首を傾げる。
「やっぱり気づいてないんだ? ……つーまーり! 丹沢先生は八つ目の七不思議じゃないってことよ!」
「ええ!?」
「な……ど、どういうことです?」
日出美の言葉に首を傾げたのは、今度は女性陣全員だった。
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「こ、こんな所に階段があったなんて……」
再び、一年前。
あの推理を披露した後、大門は一同を連れ。
体育館を訪れていた。
そうして壁を叩いて回り、隠し穴を見つけて階段も見つけた。
「ええ。では行きましょう。……まずは、上っていきます。」
そうして大門は、一人上って行く。
「一、ニ、三……上る時は、十三段ですね。っと!」
「! こ、九衛さん大丈夫ですか?」
上まで行った所で。
大門は何かにつまずいた模様である。
「あ、はい大丈夫です! ……さて、次は下りていきますね。さあ、皆さんも足元に注意して一段目に足をかけてから上がって来て下りましょう!」
「え……あ、はい。」
大門は事も無げに言い、次には皆を途中で伴い階段を下りて行く。
「一、ニ、三……」
「十一、十二、十三……な、じ、十四!? 十五、十六……」
しかし笠倉は下りて行く最中に。
話通り、本当に階段を上る時と下りる時で段数が違っているのだ。
「ええ、一番上の段が仕掛けを発動させるスイッチになっていたんですよ……一番下の段下の床が開いて、隠し階段が露になる仕掛けをね!」
「な! これは、そういうことだったんですね……」
大門の説明に、笠倉は納得した様子を見せる。
やがて。
「! あれは」
「ええ……扉を開けてください!」
「は、はい……」
階段を下り切った先にある扉を、大門の指示を受けた筧が開ける。
その中に筧、丹沢、笠倉、そして大門の順番で入って行く。
「!? く、何ですかこの臭い……っ!? う、うわあああ!」
笠倉は何故か漂っている腐臭に鼻を摘むが。
目の前にあるそれに気づき、思わず叫びを上げる。
「ええ、ここが開かずの間――教頭の殺害現場にして、あなたたちが隠匿して来た場所ですよね、筧校長と丹沢先生!」
「……」
「……はい。」
それ――白骨化死体を前にしても大門は冷静に、同じく何故か冷静な筧と丹沢にそう告げた。
◆◇
「ど、どういうことですか九衛さん……」
「……あと、これも見てください。」
「! これはき、金塊!?」
大門は更に、部屋に山積みされている木箱を開けて見せ。
それが菊紋入り金塊と知るや笠倉は、またも驚く。
「ええ、この菊紋からして旧日本軍の隠し財宝って訳です。つまりあの七不思議はこの開かずの間――宝の在り処を示していたんですよ。」
「な、何てことでしょう……ん? で、ではこの遺体は」
「ええ、それは」
「……動かないで! やっぱりあなたたちなのね筧校長、丹沢先生!」
「! え?」
「……やはり、あなたでしたか。」
しかし、その時だった。
大門の後ろから刃物を、全員に向ける人物がいたのだ。
「絵島先生が握っていたあのダイイングメッセージ――七ナタ。あれは一見すると暗号でしたが、絵島先生の掌に書かれていたものと合わせた時分かりました。あれは……犯人の名前をそのままカタカナで書こうとしていたものが、勢い余って上の部分が紙からはみ出してしまったものだって!」
「……ふん、なるほど。」
大門の言葉にその人物は、笑う。
「な……は、犯人――八つ目の七不思議は丹沢先生なんじゃ?」
「いいえ、丹沢先生はあくまで第一の教頭殺しの犯人です。あの紙に書かれていた『七ナタ』と、絵島先生の掌に書かれていた部分。合わせると『七ナ夕』……そう、あなたですね?」
「あっ!?」
「あ、あなたが……?」
「……そう、あなただったの。」
大門はその人物を見つめる。
「モチダ――持田先生?」
「……ええ。」
大門の言葉にその人物――持田は、首肯する。
◆◇
「も、持田先生が……?」
「く、国立教頭以外――し、科川先生や大庭先生、絵島先生や奏先生を殺したと?」
「ええ、彼女こそがあの怪文書の送り主にして今回の連続殺人のうち殆どを行った犯人・八つ目の七不思議です!」
「……」
大門の言葉に笠倉、筧、丹沢は固唾を呑む。
「で、ですが九衛さん! 最初の国立教頭はともかく……絵島先生と奏先生の時、図画工作室に私たちが行く時! 階段で持田先生と鉢合わせしなかったんですよ? どうやって」
笠倉は大門に尋ねる。
そう、図画工作室と音楽室の殺人の時だ。
拉致された日出美と犯人による電話を聞いた大門と笠倉は階段を上って図画工作室に行ったが。
その途中持田どころか、誰とも鉢合わせしなかった。
一体何故――
「ええ、それは偶然にも教頭殺しと同じ原理のトリックでした。持田先生は拉致した日出美に別の教室を図画工作室だと誤認させたんです。……図画工作室と分けられた、音楽室をね!」
「な……お、音楽室!?」
「……ふっ。」
大門の言葉に笠倉たちは驚き、持田はまた低く笑う。
「そう、あの音楽室は。壁にかけられた布の上にかけられた音楽家たちの肖像画と教卓のような形のキーボードがありましたが。その肖像画たちがかけられた布ごと一旦剥がして隠し、キーボードも蓋をして教卓のように見せかけ、棚には発泡スチロールか何かで出来た偽の石膏像を入れれば図画工作室に見せかけられるのではないでしょうか?」
「な、なるほど……」
笠倉は今一つ確信がないまま、大門の言葉から光景を思い浮かべる。
確かに、それは出来なくもなさそうだが。
「そしてもう一つ、日出美のその思い込みを加速させたのは。その偽図画工作室にうつ伏せで置かれていた偽絵島先生の遺体――奏先生の遺体でした。」
「! ま、円山さんは遺体を誤認してたってことですか?」
しかし大門の次の言葉は、またも笠倉を困惑させる。
「ええ、第二の殺人以降は。理科室に理系だった科川先生、家庭科室には家庭科の大庭先生――という殺人が続いていました。あれは、『各部屋で殺された教師はその部屋の教科に対応している』と日出美のみならず僕たちに思わせるための心理トリックだったんです!」
「き、教師と部屋の教科……た、確かに……」
「な、何てこと……」
笠倉たちは唸る。
確かにその通り。
言われてみれば知らぬ間に、そう思い込まされていたのは事実だったからだ。
「そうして日出美を気絶させたあなたは。音楽室を元に戻した後で日出美を発見された場所に運び、自分も何食わぬ顔で図画工作室に駆けつけた。……そうですね、持田先生?」
「ええ……そうです。でもよかった……あの怪文書を送ったおかげであの教頭がその丹沢に殺されて! それで私は確信した……私の大切な人――八代会人は自分の意思でいなくなったんじゃない、こいつらに殺されたって!」
「な……こ、校長たちが殺人!?」
「……」
大門と持田のやりとりを聞いた笠倉は、筧と丹沢を見る。
二人とも黙り込んでいた。
「……はい、その通りです。十年前私たちは、八代先生にその七不思議の暗号を解かせてこの金塊の在り処を突き止めさせたんです。でも、この開かずの間で私や今回殺された先生たちと筧校長と、八代先生は口論になりました……」
が、丹沢は白状し始める。
それは十年前、七不思議が八不思議になった時だった。
「でもそこで……私たちは彼を殺害してしまったんです。それで筧校長は遺体を、どこかに隠すと言ってくれて。私たちはこのことを、時効になるまで黙っていると決めました……」
「ええ、やっぱりそうだったんですね……そうして筧校長あんたは! あの人が自分で学校を辞めたように見せかけ、私にも偽装メールを送りつけた! 彼が天涯孤独だったのを利用して!」
「あ、あなた……まさか七海さんていう八代の恋人!?」
筧はそのやりとりに驚く。
「ええ、私は母の旧姓を名乗ってこの学校に赴任した! そうしてあの怪文書を送ってあなたたちを泳がせたけど……さっきも言った通り教頭が殺されたことで確信した! あなたたちが、会人を殺したってねえ!」
「や、辞めて持田先生!」
持田は筧の問いに答え、刃物を再び皆に向ける。
しかし、その時。
「……今さらだけど、ごめんなさい持田先生……」
「! た、丹沢先生……」
口を開いたのは丹沢だった。
「ええ、本当に今さらですね丹沢先生……あなた何? 教頭を殺して、さっきも懺悔みたいにして十年前の経緯話して、今もそうやって形ばかり謝罪して……そんなことやれば、自分は助けてもらえるとでも思ってんの!?」
「……ごめんなさい。」
「ふん、だから所詮は」
「丹沢先生は少なくとも、十年前のことを悔いていたと思いますよ持田先生!」
「!? ……ふん。」
しかし、そこへ。
大門は持田に叫ぶ。
「確かに、だからと言って彼女たちの罪は許されない。……けれど! 罪を悔いていなければあんな風に、教頭に名簿を握らせたりしません! あなたも分かっているでしょう? 教頭が丹沢先生の目を盗んであんな名簿を握るなんてできません、あれは丹沢先生があなたに! この七不思議を解かせるために残したんです!」
「くっ……」
大門は筧や丹沢、笠倉を自分の後ろに回らせながら持田に訴える。
「……ふん、それだって! 所詮はただ、自分が助かりたいがための懺悔ですよ……さあ、そいつらを私に差し出して下さい! さもないとあなたや笠倉さんも……こうですよ!」
「ひ、ひいい!」
「持田先生……」
「い、いやああ!」
持田はそれでも。
尚も刃物を大門たちに向け、今にも向かい来る勢いである。
と、その時だった。
「そこまでだ、持田瞳!」
「!? け、警部さ……っ!」
後ろから持田を取り押さえたのは、警部の祭だった。
「……ナイスタイミングです、祭警部!」
「まったく……警察使いの荒い奴め!」
「こ、九衛さんもしかして……」
大門と祭のやりとりに笠倉は、合点する。
そう、大門は自分のスマートフォンを祭のそれと通話状態にし。
別室で警察に、待機してもらっていたのである。
「さて持田瞳……音小での連続殺人、および殺人未遂の現行犯で逮捕する!」
「くっ……うわあああ!」
持田には手錠がかけられ。
その場に彼女は、泣き崩れる。
「……さて、話は全て聞かせてもらったよ。筧清子、丹沢育美! 十年前のその遺体の主――八代会人の殺害と死体遺棄の容疑で、任意同行を求める。」
「……はい。」
「……行きます。」
筧と丹沢も、諦めて連行されていく。
「……これで、悪魔の証明は終了です。」
大門もようやく、一息吐いた。




