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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification9 paymon 学校七不思議に八つ目はない 
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図画工作室

「いやあ、どうですか昼間の学校は?」

「ええ、これが本当の小学校なんだなって感覚ですね……」


 笠倉と共に大門は。


 前日の一件――教頭国立の殺害事件で休校となった音小を訪れていた。


 大門の言葉とは裏腹に休校となっているので生徒はおらず、あまり本来の学校の姿とは言えないがさておき。


 時は、現在より一年前の話に遡っている。


魔法乱譚伝(マジックランタンでん)灯王(ランプキング)』の撮影現場で起きた殺人事件の解決とその劇場版鑑賞より数日後。


 HELL&HEAVENを訪れた女性陣だったが、ちょうど大門が外出する時というタイミングの悪い時であり。


 菓子や茶を沢山用意したので、戻って来るまでそれで間を持たせてくれと大門は言い。


 どこかへ行ってしまったのであった。


 その間に女性陣たちの間では、大門と日出美の馴れ初めは何だったのかという話になり。


 彼らの初めての出会いとなった、一年前の出来事について日出美は話していた。


 これは日出美によるその話である。


「……ふう。」

「おや、持田(もちだ)先生。」

「あら、笠倉さん。」


 と、その時。

 大門の笠倉の前に、保健室から養護教諭の持田瞳(もちだひとみ)が現れる。


「あの、笠倉さん」

「ああ、九衛さんは初めてでしたね。こちらは保健室の持田先生です。」

「あ、初めまして。笠倉の調査同行をしております私立探偵の九衛と申します。」

「あら、こちらこそ初めまして。持田です。」


 大門は持田に、挨拶をする。


「九衛さんには調査の同行をお願いしてましてね!」

「そうなんですか、まあ……あんな怪文書が送られてきたのでは仕方ないですね。」

「ははは、ええまあ。」


 持田もどうやら怪文書のことは知っているようであり。


 笠倉とは、苦笑しつつ話していた。


「うーん……」


 大門はそんな彼らの傍らで、ふと考え込んでいた。

 国立の遺体が握っていた、あの名簿。


 1鵜川(うがわ)勇人(はやと)

 2安斉(あんざい)花緒(かお)

 3(いつき)雅美(まさみ)

 4加藤凪(かとうなぎ)

 5小俣(おまた)駿太(しゅんた)

 6江畑(えばた)智紀(とものり)

 7加藤太郎(かとうたろう)

 7加藤太郎(かとうたろう)

 8木村慎二(きむらしんじ)

 9葛葉紀子(くずはのりこ)

 ・

 ・

 ・


 かつて――いや、この時間軸ではのちにか。

 菖蒲郷で遺書の内容を覚えていたように、一度目を通しただけで覚えていたあの名簿を、大門はまたも思い浮かべていた。


 あれは、八不思議の実情を表した暗号ではないかと大門は踏んでいる。


 もしや、あれは――


「九衛さん、九衛さん?」

「……っ?」

「だ、大丈夫ですか? 私が見ましょうか?」

「あ……す、すみません! ちょっと考え事をしてしまっていまして。」


 ふと笠倉の呼びかけに大門が気づけば。

 笠倉と持田が、心配そうに大門を見ていた。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「なるほど……これが、その時の名簿なのね。」

「すごいですね、こんなに事細かく覚えているなんて。」

「おーっほほほ! これも、愛の力が為せる技よ!」


 時は、現在のHELL&HEAVENにて。

 日出美は今話に出て来た手がかりとなる名簿を書き出して見せていた。


「でも日出美さん、この名簿はあの教頭先生が亡くなられた時には見られなかったはずですよね?」

「ああ、まあこれは……大門が真相を話す時皆に見せたものを覚えていたのよ!」

「な、なるほど……」


 塚井の言葉に、日出美は目を逸らしながら答える。


「ん? ちょっと待って……はーい、日出美先生! 十市さんから質問がありまーす!」

「あ……あら、実香さん、じゃない十市さん! 何かしら?」


 実香はそこで、小学校の話であることに擬えてか。

 生徒のように、日出美に質問する。


「はいはい! えっとね、教頭先生の亡くなった次の日は休校だったんでしょ? 何で、その日学校に来た大門君の様子を知っているの?」

「ふふん……おーっほほほ!」


 実香の質問に、日出美は更に高笑いする。


「お姉ちゃん、日出美ちゃんもしかして。」

「そ、そうね美梨愛。……日出美さん、また九衛さんを尾行していたんですね?」

「おーっほほほ!」


 日出美は塚井の質問に、肯定の高笑いを返す。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ありがとうございます……主人のために。」

「あ、いえ……」


 涙ぐみつつ受付をしている国立の妻に、大門は少々決まり悪げに頷く。


 時間はまたも、一年前。


 葬儀場に大門は、笠倉や持田と共にいた。

 看板には『故国立大樹儀告別式』と書かれている。

 国立の死から数日が経ち、通夜の日が来たのである。


「しかし人の死というのは……やはり嫌ですね。」

「ええ、そうですね……」


 大門は笠倉の言葉に、感じ入る。

 今までも、そしてこれまたこの後もずっと間近で目の当たりにすることになる人死にであるが。


 幾度目の当たりにしても、無論慣れることなどない。

 いや、慣れることなどあってはならない。


 そう、慣れることなど――


「……うっ!」

「!? こ、九衛さん!」

「だ、大丈夫ですか?」


 国立の死の翌日と同じく。

 大門に、笠倉と持田が心配そうに駆け寄る。


 大門の頭に浮かぶは、あの光景。


 激しく雨が打ちつけ、自分で発する声すらよく聞き取れないある夜。


 一人の男は、とある森の中。

 ある男――否、女かもしれない――を執拗に追い回していた。


 追っている方の男も、追われている方の人も。

 同じくフードを目深に被り森を這いずりまわっている。


 あの時の、光景である――


「はあ、はあ……す、すみません……」


 大門は何とか、自身を落ち着ける。

 と、その時である。


「どう、丹沢先生? 科川先生に繋がるかしら?」

「だ、ダメです! 繋がりません。」

「そう……なら、仕方ないわね!」


 何やら会場の外が騒がしく、見れば。

 そこには、音小の校長筧や体育教師丹沢ら国立の死んだ時にもいた教師たちが走り出している所だった。


「あの! 丹沢先生、いかがされました?」

「あ、瞳先生! それが……科川先生と連絡が取れなくて……」

「え?」


 持田も駆け寄り、丹沢に尋ねていた。

 科川といえば、やはり国立が死んだ時学校にいた教師だ。


「! 待ってください、皆さん……音小に向かっていますか?」

「! え、ええ……」


 大門も駆け寄り、尋ねる。

 教師たちは、誰だったかな? と言わんばかりの顔だ。


「あ、すみません……私立探偵の九衛と言います。廃校後の校舎引き取りをされる会社の笠倉さんから、調査同行を頼まれまして。」

「あ、そうでしたか……」


 大門の言葉に、教師たちは納得した様子だ。

 そのまま葬儀場の近くにある小学校へと急ぐ。


「(まさか、科川さん……いや、そんなこと考えても仕方ない。とにかく走らないと!)」


 大門は祈っていた。

 が、それも虚しく。


「きゃああ!」

「し、科川先生……」


 校舎の一角――理科室で。

 科川の遺体が発見されたのだった。


 ◆◇


 さらに、その翌日。


「きゃああ!」

「お、大庭先生!」


 今度は家庭科室で、教師大庭の遺体が発見された。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ふんふん、なるほど……あれ? 開かずの教室の次に……理科室、家庭科室? ええっ、あれ?」


 再び、現在のHELL&HEAVENにて。

 実香は先ほどの名簿と同じく、日出美の手により書かれた八不思議の紙を見て首を傾げる。



『1.開かずの教室を開けると、神隠しに遭う


 2.体育館で、霊がサッカーボールを蹴ってばかりいる。


 3.とある階段は上がった時と下がった時の階数が違い、そこからは首が落ちてくる。


 4.夜の印刷室では、下半身或いは上半身が切れた人の姿が互い違いに延々と印刷されていく。


 5.家庭科室では、蛇口から血が流れ続ける。


 6.理科実験室では、チョークが黒板にひとりでに文字を書き続ける。


 ・

 ・

 ・』


「……どういう順番なのかな、これ?」

「ああ、それは……っていけない、ネタバレするところだった!」


 実香の言葉に日出美は、出かかった言葉を飲み込む。


「何々日出美ちゃーん、お姉さんに話してごらん?」

「い、いや……そんな訳には」

「ち、ちょっと実ー香ー! 日出美さん困ってるでしょ?」


 日出美にニコニコしながら迫る実香を見て、塚井は慌てて彼女を止める。


「でもそうねー、塚井。これ順番通りでもなさそうだし……」

「そ、そうですねお嬢様。」

「あ、待って。確かに順番通りじゃないけど……もしかして次って。」

「そ、そうその通り美梨愛ちゃん! ……次は、これに纏わる事件よ!」


 妹子と塚井の話に割り込んだ美梨愛の話に、日出美は八不思議の書かれた紙を指差す。


 その指差された先は。


『・

 ・

 ・

 8.図画工作室で太郎さんが亡くなり、それ以来彫刻刀で何かを削る音が時折聞こえる。』


「え……いきなりこれ!?」

「そう。そしてこの事件を目撃させられたのは……他ならぬ私なの。」

「!? え、ま、まさか!?」

「そう、あれは大門を先回りして夜の校舎に潜入した時だったわ……」


 日出美は驚く女性陣に、更に続ける。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「まったく、大門ったら! 先に私が着いちゃったじゃないのよ……ん? 何、この音……?」


 またも、一年前。

 何某かのやり方で大門と笠倉が図画工作室のすぐ下の階で夜待つよう指示された情報を仕入れた日出美は。


 先回りする形で夜の校舎に侵入していたが、そこで何やら物音を聞く。


「ここかしら……!? きゃあああ!」


 同じ階の声のする方に向かうと。

 日出美はそこで犯人らしき人影を目にし、思わず悲鳴を上げる。


 そして――


「……ん? ここは図画工作室? 私、寝ちゃってたのかしら……! きゃああ!」


 ふと自身が気を失っていたことに気づき、更に電気がついておらず薄暗い中でも棚の彫像などを見て図画工作室に自身がいることにも気付いて目覚めるが。


 すぐに傍らにあるものを見て、またも日出美は悲鳴を上げる。


 それは――


「え、絵島先生!?」


 うつ伏せに寝かされた、遺体だった。

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