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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification9 paymon 学校七不思議に八つ目はない 
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八不思議

「な……ば、馬鹿な!」


 大門は教室――"開かずの教室"の中で、ただただ佇んでいた。


 ――あ、開かずの間……開かずの間にいる!


 確かに教頭の国立は、そう言ったはずだが。


 その教室は、もぬけの殻だ。


 時は、現在より一年前の話に遡っている。


魔法乱譚伝(マジックランタンでん)灯王(ランプキング)』の撮影現場で起きた殺人事件の解決とその劇場版鑑賞より数日後。


 HELL&HEAVENを訪れた女性陣だったが、ちょうど大門が外出する時というタイミングの悪い時であり。


 菓子や茶を沢山用意したので、戻って来るまでそれで間を持たせてくれと大門は言い。


 どこかへ行ってしまったのであった。


 その間に女性陣たちの間では、大門と日出美の馴れ初めは何だったのかという話になり。


 彼らの初めての出会いとなった、一年前の出来事について日出美は話していた。


 よってここで、"開かずの教室"にいる大門はその一年前の彼である。


「はあ、はあ! こ、九衛さん、足早過ぎますよ……」

「! か、笠倉さん……」


 背後より声が聞こえ、振り返れば。

 この小学校――音小の施設の廃校後の引き取り先企業の社員・笠倉が息を切らしながら入って来ていた。


 若い大門とは違いやや年配だからか、彼よりも体力面で少し厳しいものがあったようだ。


 彼らは音小の校長筧に呼ばれて夜の学校敷地内に入り。


 校庭で待っていた所に、笠倉の会社へと廃校後の本校舎を使わないよう脅迫する旨の怪文書を送っていた犯人――八つ目の七不思議を名乗る人物からの電話を受け。


 教頭の国立が殺されそうになっている声を聞かされ、大門は慌てて電気の点いていた"開かずの教室"にやって来たのだが、この有様という訳である。


「あ、そう言えば開かずの教室なのに入ってこれちゃいましたね……」

「あ、そう言えば。……まあ、開かずの教室というのはただの呼び名で、実際には鍵さえあれば開くらしいんですけどね!」

「へえ、それはそれは……ん!? ま、待てよ……」

「? こ、九衛さん?」


 笠倉と談笑となっていた、大門であるが。

 ふとあることを思い出し、考え込む。


 そして。


「笠倉さん……この校舎に入る時、誰かとすれ違いませんでしたか?」

「え? い、いえ……」

「くそっ!」

「こ、九衛さん!」


 大門はそれを聞くや、一目散に駆け出し。

 そのままその校舎の玄関まで、たどり着く。


「はあ、はあ……くっ、犯人はもう!」


 大門は一旦そこで立ち止まって息を整える。

 既に犯人はあの開かずの教室――のみならず。


 この校舎を出て行ったというのか。

 教頭の国立を連れて。


「でも遺体……いや、国立教頭を引きずって行ったのならそう遠くへは行けないはずだ!」


 大門は遺体と言いかけて縁起でもない言い方だと悟り。


 首を横に振り、また走り出す。


「まだ国立教頭は、死んだと決まった訳じゃない!」


 それはもはや願望に過ぎないと分かりつつも、大門は校舎の外へ国立や犯人を探しに行く。


 と、その時だった。


「きゃああ!!」

「!? こ、この声はまさか!」


 突如上がったけたたましい悲鳴。

 その声の主に心当たりがあった大門は、声の方向へと急いだ。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「なるほど……その悲鳴の主は、日出美さんだったんですね?」

「えっへん、その通り!」


 時間軸は現在。

 HELL&HEAVENで上記の内容を語っていた日出美は、塚井からの質問に対し胸を張って答える。


 もっとも塚井は、ここは威張るところじゃないだろとツッコミたくなるが。


 さておき。


「あれ? でも待って……今の話には日出美ちゃん、出て来なかったよ? なんで大門さんたちが、夜の学校に来てから開かずの教室に行くまで詳しく知ってるの?」


 美梨愛が首を傾げる。


「おーっ、ほほほ! 美梨愛さん、このミセス九衛を舐めないでって言ったでしょ?」

「あ、そっか! 校内で日出美ちゃんの声が聞こえたということは……」


 実香はそこで合点する。

 つまり大門たちが校内に入ってからずっと、彼らを尾けていたということだ。


「いやあ、さすがの行動力だね日出美ちゃん!」

「おーっほほほ!」


 実香のおだてに、日出美はすっかり調子に乗っている。


「しかし日出美さん……小学生が夜遅くに出歩いているとは。あまり褒められたものではありませんね……」

「な!? も、もう……大門みたいなこと言ってえ! やっぱり塚井さん、大門みたい!」

「え? わ、私が九衛さんみたいですか……?」


 塚井のコメントに対し、日出美がいつかと同じ嫌味を言う。


 塚井はそれに対して、これまたいつかと同じく少し喜ぶ。


「うん塚井、やっぱり分かりやすいね……」

「うんお姉ちゃん、やっぱり気持ち悪い……」

「な! み、実ー香ー! 美梨愛!」


 が、それを見咎めた親友と妹からは容赦ないツッコミが入り。


 塚井は顔を真っ赤にして二人を咎める。


「な!? つ、塚井さんそんなつもりで言ったんじゃないから」

「いや、だから……何で九衛門君と塚井が似てるって言われて塚井が喜ぶの?」

「お、お嬢様……失礼ながら、一旦大人しくお黙り下さい。」

「ええ!? 何でよ!」


 が、それにより場は混乱してしまう。


「だーかーら! 大門は私の旦那なんだからね!」

「! あ、すみません……」


 しかし日出美のこの剣幕が、最終的には女性陣を黙らせた。


「お、おほん! まあいいわ……何はともあれ、大門は()()()()()、助けに来てくれたの!」

「おお、日出美ちゃんいい顔してるね……」

「うん、実香ちゃん。」

「塚井、なんか私白馬の王子様が見えるんだけど……」

「ええお嬢様、私もです……」


 日出美の次の言葉に、女性陣の目にも白馬の王子様化された大門が見える。


「ええ、そうよそうよ! あの時の大門は、まさに王子様だった……」


 日出美はうっとりとした表情で、また語り出す。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「日出美……」

「ひ、大門お!」

「……とにかく、これ以上は見ちゃダメだ。」


 再び、一年前。

 学校敷地内、体育館の近くには日出美が見たものは教頭・国立の遺体だった。


 大門は日出美を抱きしめ、せめてこれ以上遺体を彼女に見せないようにした。


 が、その時だ。


「!? これは……?」

 

 大門はそこで、国立の手に何やら紙が握られていることに気づく。


「ひ、大門……?」

「日出美、まだ目は瞑っていてくれ。……ちょっと、離れるよ。」

「う、うん……」


 大門は日出美から離れて、手を伸ばし。

 その紙を、指紋を着けないよう気をつけながら手に取る。


1鵜川(うがわ)勇人(はやと)

2安斉(あんざい)花緒(かお)

3(いつき)雅美(まさみ)

4加藤凪(かとうなぎ)

5小俣(おまた)駿太(しゅんた)

6江畑(えばた)智紀(とものり)

7加藤太郎(かとうたろう)

7加藤太郎(かとうたろう)

8木村慎二(きむらしんじ)

9葛葉紀子(くずはのりこ)


「なんだ、これは……ん? 加藤、太郎!?」


 どうやら名簿らしいということは分かったが、大門はそれが何を意味するのかしばし分からなかった。


が、何故か重複して書かれている加藤太郎という名前を見た時ようやく分かった。


『7.音楽室で加藤さんが亡くなり、それ以来ピアノが勝手に鳴る


 8.図画工作室で太郎さんが亡くなり、それ以来彫刻刀で何かを削る音が時折聞こえる。』


「七不思議……いや、八不思議か!」


 大門は一人、静かに叫ぶ。

 と、そこへ。


「ど、どうしたんですか!」

「き、きゃああ!」

「き、教頭!」


 先ほどの日出美の悲鳴を聞きつけ、やって来たのは。


 現れた順番に述べると非常勤の体育教師丹沢育美(たんざわいくみ)、同じく非常勤の家庭科教師大庭家子(おおばやかこ)


 常勤教師科川理(しながわおさむ)・同じく非常勤の図工教師絵島一也(えじまかずや)・同じく非常勤の音楽教師奏泰(かなでやすし)


 そして最後に校長たる、筧だった。


 ◆◇


「皆さん、始めまして。埼玉県警捜査一課警部の祭と申します!」


 祭司(まつりつかさ)は、自身の警察手帳を見せる。

 遺体発見より少し後。


 警察の現場検証が始まっていた。


「君が、第一発見者だね?」

「あ、はい……」


 祭は、日出美に声をかける。


「待って下さい、刑事さん。」

「おや? 誰だい君は?」


 そこへ大門が、笠倉と共に現れる。


「私が――この校舎を廃校後に引き取る美術展主催会社社員・笠倉が、そのための調査同行をお願いした私立探偵の九衛大門さんです。」

「初めまして、九衛大門です。」


 笠倉の紹介と共に、大門も自己紹介をする。


「うん、なるほど……しかしね、私立探偵の九衛さん。ここからは我々警察の仕事であってね、君の出る幕じゃないんだ。」


 祭はあからさまに、大門を煙たがっていた。


「いえ、確かに遺体の第一発見者はそこの女の子なんですが……私と九衛さんもある意味、事件の目撃者でして。」

「!? 何?」


 笠倉の言葉に祭は、驚く。

 大門は先ほど、犯人と思しき八つ目の七不思議から笠倉に電話があってからの話をする。


 そうして開かずの教室に行ってみれば、部屋はもぬけの殻であり。


 日出美の声を聞きつけ、遺体を発見した話もする。


「ううん……つまり何か? 遺体がその、校舎の開かずの教室とやらからここに瞬間移動したというのか? ……ははは! くだらない。」


 祭は笑い飛ばす。


「まあ、信じていただけないかもしれませんが……これは、お渡しします。」

「ん? 何だこれは。……名簿?」


 大門はそんな祭に構わず。

 国立の手に握られていた名簿を、手渡す。


「そういえば筧校長、私たちに何の御用だったんですか?」

「え? 何のお話です?」

「え!?」


 しかし笠倉は、筧に呼び出した用を尋ねるが。

 筧は覚えがないという顔をする。


「まさか……僕たちを筧校長になりすまして、犯人が呼び出したのかもしれません。」

「な!? 私たちを目撃者に仕立てるためにですか?」


 大門はそこで、合点する。

 元から犯人に、自分たちはおびき寄せられたということか。


「何だって? 犯人――八つ目の七不思議か?」


 祭もそこで、口を挟む。


「ええ、それで犯人に呼ばれた私たちは開かずの教室に行き! そこで見たんです!」


 笠倉はまたも、祭に訴える。

 先ほど祭が一笑に付した内容である。


「ううむ……し、しかし」

「祭警部! 先ほど遺体を運んだと見られる台車と、遺体を包んでいたと思われる布が見つかりました!」

「! 何だと!」


 祭が口籠る中。

 部下の警察官は、そう告げる。


 つまり、遺体はやはりここへ運ばれて来たということだ。


「しかし……あの時間で開かずの教室からここに遺体を運んで来るのは、まず無理でしょうね。」


 が、大門は推測する。

 仮に時間があったとしても、あの校舎の出入り口で開放されているのは玄関だけで非常口は閉まっている。


 つまり、校舎から出て来たとすれば確実に大門や笠倉と鉢合わせることになる。


「ああ、だから不可能だと言っている! ……まあ、遺体を発見した時の状態は大体聞けた。そこのお嬢さんはもう帰そうじゃないか。」


 祭は戸惑いつつも、もう日出美に用はないと告げる。

 これで彼女に尋問させまいとする大門の思惑は、ひとまずは果たされた。


「……いや、待て! 補導しなければならんな、こんな時間に小学生が……ってあれ!?」


 祭はふと、日出美のことに思い当たり。

 彼女に問おうとするが。


 既に彼女の姿は、なかった。


 ◆◇


「大丈夫かい?」

「う、うん……ていうか、子供扱いしないでよ!」


 日出美の姿は、大門と笠倉と共にあった。

 家まで送られているのだ。


「まあこれに懲りて……二度と、深夜の学校に忍び込むなんてことはしないように!」

「……はあい。」


 大門の言葉に日出美は、一応は納得した様子を見せた。


「(これがもし、八不思議に見立てた殺人だったとしたら……今後もまたこんな殺人が起きなければいいけど……)」


 しかし大門のこの懸念は、実現してしまうことになる。



 ◆◇


「せ、先生!」

「!? そ、そんな……」


 次の日の夜、音小の理科実験室に入って来た、大門が見たものは。


 教師科川の、変わり果てた姿であった。


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