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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification9 paymon 学校七不思議に八つ目はない 
81/105

開かずの教室

「まったく……どこからどこまで聞いていたのさ?」


 大門は事務所のドア前の階段踊り場で、当時小学校6年生の日出美に尋ねる。


「ふふふん……ぜ・ん・ぶ聞いちゃったもんね〜!」

「……はあああ……」


 大門は多少なりとも覚悟をしていたものの、日出美の言葉に頭を抱える。


 やれやれ、どうしたものか。


魔法乱譚伝(マジックランタンでん)灯王(ランプキング)』の撮影現場で起きた殺人事件の解決とその劇場版鑑賞より数日後。


 HELL&HEAVENを訪れた女性陣だったが、ちょうど大門が外出する時というタイミングの悪い時であり。


 菓子や茶を沢山用意したので、戻って来るまでそれで間を持たせてくれと大門は言い。


 どこかへ行ってしまったのであった。


 その間に女性陣たちの間では、大門と日出美の馴れ初めは何だったのかという話になり。


 彼らの初めての出会いとなった、一年前の出来事について日出美は話していた。


 よってここで話している大門と日出美は、その一年前の彼らということになる。


「ううん……分かった。とにかく一度、家に帰りな。」

「ええー!? 何でよお!」


 が、大門は日出美に帰るよう促す。

 日出美はその言葉に、すっかりむくれてしまう。


「後日、親御さんと一緒に来てくれ。その時、話をしよう?」

「ええー!? 何よ、何で三者面談みたいに! ……ん? ……うん、分かったわ。」

「? あ、ああ……まあ、分かってくれたならいいや。さ、今日は早く帰った帰った!」

「はーい! じゃ、また後日!」


 日出美は先ほどのむくれが嘘のように素直になり、そのまま元気よく、階段を駆け下りて行く。


 大門はその変わり様がどうも気になったが、一安心した。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「なるほど……九衛さんはその時、未成年者だから夜遅くならないように、日出美さんを帰したんですね?」


 現在のHELL&HEAVENにて。

 日出美の話を聞いて塚井は、その時の大門の行動を分析する。


「ええ、まあそうね……もー、人を子供扱いして! 前に私を早く帰してた、塚井さんみたいじゃない!」

「え……? 九衛さん、私みたいですか?」

「ええ、そうよ! あの時、大門が拉致られた時私を未成年者だからとか言って帰した塚井さんみたい!」

「……こ、九衛さんが、私みたいですか……」


 日出美からしてみれば、ただの嫌味だったが。

 大門と自分が似ているという彼女の発言に、塚井は少し喜ぶ。


「おやおや塚井、嬉しそうだね〜!」

「な、べ、別に!」

「お姉ちゃん、何か分かりやす過ぎて気持ち悪い。」

「ええ!? ち、ちょっと美梨愛!」


 実香と美梨愛は、塚井をからかう。


「あ……!? ち、ちょっと塚井さん! そ、そんな意味で言ったんじゃないんだから誤解しないでよね!」


 日出美も自分の言ったことの意味に気づき、慌てて訂正する。


「え? 何で九衛門君と塚井が似てるって言われて塚井が喜ぶの?」

「いやお嬢様……分からないならいいです!」

「ええ? 教えてよお!」


 約一名、分からない者はいたようだが。

 さておき。


「お、おほん! ……とにかく、それで()()後日大門の事務所を訪れたの!」

「へえ……ん? あれ、()()?」


 日出美は話を続けるが。

 実香は日出美のその言葉に、ふと違和感を覚える。


「日出美さん……確か、親御さんと来てほしいと言われていたはずでは?」


 塚井も違和感に気づき、日出美に問う。


「ふっふーん……甘いわ、皆!」


 日出美は悪戯っぽく笑い、勝ち誇ったように胸を張る。


「まさか日出美さん……」

「なるほど、親御さんとって部分はガン無視か……」

「う、うーん……いいの、それ?」

「まあ妹ちゃん、お姉ちゃんの言葉を借りるなら『褒められたものじゃない』んじゃない?」


 女性陣はやや引いた目で、日出美を見る。


「おーっ、ほほほ!」


 日出美はそんな彼女たちの真意を知ってか知らずか、これまた勝ち誇ったように笑う。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「まさか……一人で来られちゃうとはね。」

「当たり前よ!」


 大門の言葉に日出美は、勝気に返す。

 再び時は一年前。


 笠倉が来てから数日後。

 親御さんと来てくれ、という大門の言葉とは裏腹に日出美は、女性陣の呆れた通り一人で来ていた。


 客用に出されたオレンジジュースを、日出美はちゅうちゅうと吸っている。


 大門としては親に注意してもらいたかったのだが、その望みは脆くも打ち砕かれてしまった。


「おほん! ……まあいいや。じゃあ、単刀直入に言うけど。悪いことは言わないから、あのことについては忘れてほしい!」

「ぶっ! ……え、何でよ!」


 大門が切り出した話に、日出美は飲んでいたジュースを吹き出し。


 大門に、抗議する。


「ここは、大人として言わなきゃいけないが! ……まず、小学生の出る幕はない。子供の悪戯かもしれないが、場合によっては本当に悪意を持った人の仕業かもしれない! 危険なんだ、そんなことに巻き込まれたら」

「その時は! あんたが……大門が守ってくれるんでしょ?」

「!? はあ……いきなり呼び捨てか円山さん……」


 大門は説得しようとするが。

 またも日出美の言動に、調子を狂わされた気分である。


「その、円山さんて止めて! 私は日出美って名前があるんだから!」

「そ、そうか……日出美、さん?」

「敬称要らない!」

「う、うん……日出美?」

「はい、合格!」


 今度は名前呼びを強要され。

 今の呼び方に至ったのだった。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「いやいや、ちょっと待って! へえ……()()()()()()()、名前で呼ぶんだ九衛門君は?」

「えっ、ちょ、妹子さん!」

「お、お嬢様お落ち着き下さい! 九衛さんが日出美さんを名前で呼んでいたのは私たちが最初に彼に会っていた時からですし! 私だって、名前では呼ばれていません!」


 再び、現在のHELL&HEAVENにて。

 妹子が日出美の名前呼びに大門が至ったエピソードに反応して日出美に掴みかかり始めたため。


 塚井が、必死に止める。

 妹子はこの中で、唯一の渾名呼びだからであろう。


 さておき。


「ま、まあ日出美ちゃん……ところで! 大門君からはその後なんて言われたのかなあなんて!」


 実香は、話題を逸らそうとする。


「あ、は、はい! まあ、その後粘り強く説得されたんですけど……トー然、私は聞く耳持たずで撥ね付けてやりました!」

「は、はあ日出美さん……」


 日出美のその後の言葉に、塚井は妹子を抑えつつ呆れる。


「でも! そのおかげで大門、音小の調査の仕事引き受ける気になったみたいですよ?」

「……え????」

「ふふふ……」


 が、日出美のこの言葉には。

 女性陣は今度は、揃って首を傾げる。


 日出美が聞く耳を持たなかったおかげで、大門が仕事を引き受ける気になった?


 一体、どういうことなのか?


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「はい、笠倉です。……あ、これはこれは九衛さん!」

「お仕事中のところ、申し訳ありません。……実は、先日のご依頼受けさせていただこうと思いまして。それで、こうしてお電話を。」

「! ほ、本当ですか!」


 三度、一年前。

 大門は笠倉に、依頼受諾の旨を電話していた。


 日出美が事件に首を突っ込む前に、事態をどうにか改善しようという想いからだった。


「で、では早速なんですが……すみません、今夜空いていませんか?」

「あ、はい……え、夜、ですか?」


 大門は笠倉に、思わず聞き返す。


 ◆◇


「……分かったわね? 何が何でも、()()()()だけは守るのよ?」

「はい……しかし校長。そろそろ教えてくれませんか、()()を、どこに隠したのか。」


 音小の校長である筧から電話を受けているのは教頭の

 国立大樹(くにたちだいき)だ。


「それは……言えません。私は、あれを墓場まで持っていくと決めましたので。」

「そうですか。……しかし、まさか()()と同じ隠し場所ではないでしょうな?」

「!? ……と、とにかくあなたには関係ありません! 何が何でも、あなたはこの()()だけ守っていればそれでいいんです!」


 電話は筧により、一方的に切られた。


「ふん、図星か……まったく、あのババアは問い詰めても何もなさそうだが。」


 国立は悪態を吐きつつも。

 手元にある紙を見て、笑う。


 それは他ならぬ、大門が笠倉に見せてもらったあの"八不思議"が記された紙だった。


 ◆◇


「ああ、夜でも最近は暑いですね……」

「そうですね……しかし、こんな時間に呼び出しなんて。」


 その日の夜、音小の校庭にて。

 大門は笠倉と共に、警備の人に入れてもらい。


 こうして待ちぼうけを食っていた。


「ええ、校長の筧さんが……何か、話したいことがあると。」

「ん? 笠倉さん、スマートフォン鳴ってません?」

「え? あ、ああそうですね……もしもし?」


 と、その時だった。


「……やあ、校庭にいるね?」

「え?」

「!? ち、ちょっと貸して下さい!」


 笠倉のスマートフォンにかかって来た電話から、何か機械で変換されたような不自然な声音が聞こえ。


 嫌な予感がした大門は、スマートフォンをもぎ取る。


「誰ですか、あなたは?」

「おや? 君こそ誰かな?」

「ああ、そうでしたね……僕は九衛大門、どこにでもいる、普通の悪魔の証明者です。」

「悪魔の証明者? ……まあいいだろう。私は八つ目の七不思議。」

「!? や、八つ目の七不思議?」


 大門は声の主の名乗りを聞き、驚く。

 八つ目の七不思議。


 それはまさに、あの怪文書の送り主ではなかったか。


「その八つ目の七不思議が、何の御用ですか?」

「ふふふ……面白いものを聞かせてあげよう。」

「え?」

「た、助けてくれえ!」

「!? あ、あなたは?」


 八つ目の七不思議の声の後に。

 聞こえて来たのは、男性の素の声。


「わ、私は教頭の国立だ……こ、殺される、助けてくれ!」

「! こ、殺される? な、何を言ってるんですか国立さん!」


 大門は国立の言葉に驚く。


「こ、九衛さん! こ、殺されるってどういうことですか?」

「わ、分かりませんが……国立さん、今どこに?」

「あ、開かずの間……開かずの間にいる!」

「あ、開かずの間? ……あ! そうか!」


 国立の言葉に大門は、ふと思い当たる。

 そう笠倉から見せてもらった、あの音小の七不思議――もとい、八不思議の一番目だ。


 ――『1.開かずの教室を開けると、神隠しに遭う』


「開かずの教室です! 開かずの教室はどこですか?」

「あ、はい! 開かずの教室は……」

「ああ、ちょうどそこから見た校舎の、明かりが点いている教室さ。」

「! 八つ目の七不思議……そうか、あそこか!」


 大門が電話口に聞こえた八つ目の七不思議の言葉通り、見てみれば。


 そこには、暗くなっている校舎の窓の内明かりの点いた教室が一つだけ見える。


「くっ!」

「あ、九衛さん!」

「た、助け……ああああ!」

「く、国立さん!」


 大門は走り出す。

 が、国立の叫び声が電話口から聞こえる。


「く、どこだ!」


 慌てつつも大門は、校舎に入り階段を駆け上がって行く。


 そして、一つだけ明かりの点いている部屋を見つけ。


「ここか! ……くう、国立さん!」


 ドアを突き破らん勢いで開け、駆け込む。

 が。


「く、国立さん……?」


 何とそこには。

 国立の姿も、犯人の姿もなく。

 ただ無人の教室に、明かりが点いているだけであった

 ――

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