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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification9 paymon 学校七不思議に八つ目はない 
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訪問者K、K

「まったく……九衛門君に何があったのかしらね。塚井い?」

「さあ、私も」

「お姉ちゃん、寂しそうだね?」

「な! べ、別に!」

「おやおや塚井、ツンデレじゃん?」

「な! み、実ー香ー!」


 HELL&HEAVENにて。


 妹子・塚井・美梨愛・実香は茶と菓子を味わいながら、だべっていた。


 ドアには、『本日貸切』の札が。


「ち、ちょっとお! いつも言ってるでしょ、大門は私の旦那なのお!」


 日出美は他の女性陣に対して叫び、口を尖らせる。


魔法乱譚伝(マジックランタンでん)灯王(ランプキング)』の撮影現場で起きた殺人事件の解決とその劇場版鑑賞より数日後。


 HELL&HEAVENを訪れた女性陣だったが、ちょうど大門が外出する時というタイミングの悪い時であり。


 菓子や茶を沢山用意したので、戻って来るまでそれで間を持たせてくれと大門は言い。


 どこかへ言ってしまったのであった。


「はいはい! そうだね、そう言えば♡」

「あー、実香さん! その顔は馬鹿にしてるなー!」


 実香の遇らうような口ぶりに、日出美は更にムキになった態度を見せる。


「いやだけど塚井! 13歳の日出美ちゃんと……えっと、23歳の九衛門君が夫婦なんて」

「い、いやお嬢様……それは確かに現実には」


 妹子が本気で日出美と大門とのことにツッコミ出したことに対して、更に塚井がツッコミを入れる。


「ムッキー! もう、何よ何よ、皆私を子供扱いしてえ……私は大門と出会って一年経つの! 高々数ヶ月の皆とは」

「え? あたし4年経つよー!」

「……負けたー!」

「ちょっと実ー香ー! そこは負けて差し上げないとダメでしょ?」

「いや、勝たせればいいってもんじゃないから塚井さん!」

「あ、す、すみません……」


 場はどんどん、混乱していく。


「ま、まあとにかく日出美ちゃん! その、大門さんとの結婚記念日とかいつなのかな〜なんて!」


 話題を変えようとしてか、美梨愛が口を開く。


「! あ、あ〜結婚記念日ね……うーん、()()()かな?」

「え、日出美ちゃん、女の子の日が結婚記念日?」

「いや実香! まだ初潮来てないでしょ日出美さんは!」

「いや塚井さん、来てないって私一度も言ってない! もう来てるっつーの!」

「あ、か、重ね重ねすみません日出美さん!」


 が、実香のボケに塚井が珍しく決まらないツッコミを返してまた場は混乱してしまう。


 差し詰め塚井の、ツッコミのスランプといった所か。

 さておき。


「お、おほん! とにかく……いいわ、聞かせてあげる! 私と大門の、()()()()について!」

「おお!」

「つ、塚井い、ある意味夢にまで見た話かも……」

「うん妹ちゃん、私もかな!」

「って、美梨愛ちゃん! ごめん、塚井は不束な姉の方だから!」

「いやお嬢様、それはお嬢様のおっしゃる台詞ではありません!」

「ああもう! 聞きたいの、聞きたくないの?」

「はい、聞きたいでーす!!!!」


 日出美の言葉に他の女性陣は、未だ戯れつつも。

 居住まいを正して"聴く"姿勢を見せる。


「……うん、まあ合格ね! では。あれは、私が小学校6年生の時――」


 それは、一年前の話だった――


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「怪文書……ですか?」

「はい……これなんですが。」


 大門は自宅兼事務所となる『九衛大門探偵事務所』で、顧客と向き合っていた。


 そのサングラスをかけた男の顧客――名をば、笠倉敦武(かさくらあつむ)となむ言いける――は一枚の紙を大門に差し出す。


『今すぐ廃校後の校舎利用を止めろ。さもなくば音頃沢(おところざわ)小学校に惨劇の幕が下される。


 八つ目の七不思議』


「八つ目の七不思議……? 七不思議に八つ目……どういうことです?」

「その怪文書の差出人名でしょうが……詳しくは何も。」


 笠倉も、首を横に振るばかりである。


 笠倉の勤める、美術展主催会社・株式会社アートホリデーはその怪文書にある小学校・音頃沢(おところざわ)小学校の廃校後に当学校の施設を使用することになっているのだが。


 その矢先にこんな怪文書が届いたという。


「何も心当たりがないんですか?」

「うーん、あまり言いたくはないのですが……」

「何か?」


 笠倉は首を捻りつつ、やや言葉を濁す。

 大門もそんな彼に対して、首を傾げる。


「どうもこの文書は、大人のものとも限らなさそうなんですよ……そこで、前に学校側に聞いた話を思い出しまして。」

「と、おっしゃいますと?」

「実は……廃校に反対している在校生の児童もいるとも聞いていまして。もしかしたら、そういう児童の仕業かなと……」

「児童、ですか……」


 子供の悪戯ということか。

 しかしそうだとしても、引っかかる箇所が。


「あの……この、怪文書の最後にある『八つ目の七不思議』というのは?」

「おお、今まさにそれを話そうと思っていました!」


 笠倉は手を打ち、待っていましたとばかりに身を乗り出す。


「は、はあ……」

「あ、すみません……実は、そのことについても学校側に聞いたんですが。どうやらあの音頃沢小学校には、所謂"学校の七不思議"があるようでして。」

「! 学校の七不思議、ですか……」


 大門は笠倉の前のめりさに、若干引きながらも。

 彼のその話には、今度は大門が前のめりになる。


「おお! さすがは悪魔の証明者さんだ、やはり興味を持ってくださいましたか……これがその内容なんですが。」


 笠倉はそんな大門に笑いかけ。

 先ほどの怪文書とはまた別の、もう一枚の紙を差し出す。


 そこには。


『1.開かずの教室を開けると、神隠しに遭う


 2.体育館で、霊がサッカーボールを蹴ってばかりいる。


 3.とある階段は上がった時と下がった時の階数が違い、そこからは首が落ちてくる。


 4.夜の印刷室では、下半身或いは上半身が切れた人の姿が互い違いに延々と印刷されていく。


 5.家庭科室では、蛇口から血が流れ続ける。


 6.理科実験室では、チョークが黒板にひとりでに文字を書き続ける。


 7.音楽室で加藤さんが亡くなり、それ以来ピアノが勝手に鳴る


 8.図画工作室で太郎さんが亡くなり、それ以来彫刻刀で何かを削る音が時折聞こえる。』


 そう、書かれていた。


「学校の七不思議……これは、"八不思議"と言うべきものですね……」

「あはは、そうですね。これはむしろそう呼ぶべきでしょうか。」


 大門はまじまじと"八不思議"の書かれた紙を見つめる。


 その"八不思議"の記述の中にも、更にとっかかりを覚える箇所が。


「加藤さん、太郎さん……これは、過去の在校生か先生ですかね?」

「ああ、それは私も気になっていたんですが……あの学校では昔、殺人事件があったというもっぱらの噂でして。」

「!? さ、殺人事件!?」


 笠倉の話に大門は、今度は驚く。


「はい、突如暴漢が学校に忍び込んで生徒たちを殺害したのだとか……この八不思議も、その事件があって以来語られるようになったそうなんです。」

「い、いつ頃の話ですか?」

「それが……すみません、音頃沢小学校――音小は100年以上の歴史ある学校で、全部は調べ切れず終いでした。私が調べた限りでは、直接的にはそんな人たちはいないようですが……」

「そうでしたか……」


 中々眉唾物と言える。

 しかし、俄然関心は掻き立てられた。


 これも、"悪魔の証明者"たる所以だろうか。


「それで、僕に調査に同行してもらいたいと?」

「ええ。まあ、さっきも言いました通り児童の悪戯ならいいんですが……すみません、如何せん心細くて。」

「……少し、考えさせてください。」


 ◆◇


「へえ、九衛門君そんな依頼を……じゃ、その音小? が日出美ちゃんの母校?」

「はい、まあ。」


 再び、HELL&HEAVENにて。

 日出美の話に女性陣は、真剣に聞き入っていた。


「でも、その依頼を九衛さんが受けられた時。日出美さんはまだ彼とはお知り合いじゃなかったんですよね? その時のお話は後で九衛さんから聞いたんですか?」


 塚井は、先ほどの話で引っかかっていたことを聞いてみた。


 しかし聞いてみつつ、塚井は『後で大門から聞いた』ということも違うのではないかと薄々感じていた。


 日出美の今の話には、妙な臨場感があったからだ。


「ふふふん、後にミセス九衛となるこの女を舐めないで頂戴!」

「お、おお! 日出美ちゃん今日は何か逞しいね……」

「おーっ、ほほほ!」


 日出美はすっかり気をよくした様子で、他の女性陣たちに笑いかける。


「まさか日出美さん……外からそのお話立ち聞きしていたんですか?」

「おーっ、ほほほ!」


 塚井の質問に日出美は、肯定の笑いを返す。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「まったく……なんでこんな所に小学生の女の子がいるんだ?」


 笠倉を見送った後。


 大門は扉の裏にいたピンクランドセルの少女の姿を見て、首を傾げる。


 その少女は無論。


「女の子、なんて名前じゃないもん! 私は」

「はいはい、じゃあ男の子かい?」

「そういうことじゃあなくて! 私は円山日出美(まるやまひでみ)って名前があるの!」

「ああ、はいはい……で、その円山さんが何の御用かな?」


 日出美に大門は、遇らうように接していた。

 面倒くさいという気持ちが強かったのだ。


「……うちの学校、廃校させるの?」

「……君も、廃校反対派か……」


 ―― 廃校に反対している在校生の児童もいるとも聞いていまして。


 先ほど笠倉から聞いた話を、大門は思い返した。


「……廃校させるのは、あくまで少子化の影響からだよ。別に、あの会社さんが潰すわけじゃ」

「でーも! 反対する人他にもいるんでしょ、怪文書なんか送られて来たんだから!」

「……さっきの話、聞いてたのか……」


 大門は日出美の言葉に、ため息を吐く。

 いよいよ、本当に面倒くさい事態になったなと。


 ◆◇


「ええ、そうよ。私たちがやったことを誰かが嗅ぎつけたんだわ。……何とかしなければ。」


 その頃自宅で、何やら憂いを帯びた顔で電話を掛ける人物がいた。


 音小の校長である、筧清子(かけいきよこ)だ。

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