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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification1 incubus 夢魔がいない
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当たるべからざる夢

「すみません、急にお話を聞かせてくれだなんて。」

「いえ、私は別に。……一体、何のお話をすれば?」

 部屋を急に尋ねてきた大門、妹子を前に、月木は首をかしげる。


 既に、道尾家の別荘を訪れて早数日が過ぎている。

 月木に対する犯行予告ともとれる"予知夢"を妹子が見せられてからは二日経過した。


 予知夢に反して第一の犠牲者・比島が出た後、大門はどうにか事件を探ろうと月木の下へ来たのだが。


「失礼します! お、お嬢様……」

「!? 塚井、どうしたの?」

 大門たちが月木の部屋へ来ていくらもしないうちに、塚井も月木の部屋へやってくる。


「す、すみません……ノックもせず」

「ううん、いいのよ。そんなに息を切らして、どうしたの?」

「そ、それが……は、八郎様が!」

 その言葉には、大門も妹子も月木も驚く。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「後ろから、一突きですか。」

「近衛君、もういい。後は、恐らく呼べるようになる警察の捜査を待とう。」


 簡単な現場検分を終えた大門は、修に促され八郎の部屋を出る。


「まさか、白昼堂々と襲われて殺されてしまうとはね。」

「ええ……今回は、誰にもアリバイはありませんね。」


 大門はため息をつく。


「八郎さんも、犯人ではなかったということなのね……」

「ええ、まさか自分の背中の手の届かない場所を一突きにするなんて、できるとも思えませんからね。」


 八郎の部屋の外に他の道尾家の面々といた未知のつぶやきに、大門は返す。


「mom……じゃあ犯人は、誰なんだろう?」

「そうだな、月木さんを殺しそうな人といえば八郎だけだったが。……誰だろうねえ。」


 修はにやりとしつつ周りを見渡しながら言う。


「ちょっと、修。身内が亡くなっているというのに、その笑いは何なの?」

「ああ、これは失礼……()()()、身内が亡くなっていると言いますのにね。」


 一応は謝罪の言葉だが、その言葉ヅラとは裏腹に修の口角はまだ上がったままだ。


「修! その顔をどうにかしなさいと」

「まあまあ、未知さん。……でも修さん、差しでがましいようですが。人が亡くなっているのに笑うというのは、さすがにどうかと」

「ああ、すみません!」


 未知の言葉を遮った大門の言葉に、修は少し語気を強くして返す。


「いや、すまないお姉さん……修。父親として恥ずかしいぞ。」

 長秀もようやく、息子を咎める。


「ああ、すみません。……まあそれより、早く犯人を見つけなければね。」


 修はやや、ご機嫌斜めな表情は崩さずにまた話し始める。


「あの、近川君、だったかな? 月木さんに随分とご執心のようだが彼は第一の比島殺しも、この八郎殺しもアリバイはないよね?」

「ええ、そうですね。」

「それは、少しおかしくはないか。」


 修は疑問を呈する。

 大門は首を傾げる。


「どういう意味ですか?」

「いやあ、アリバイがないとはつまり、月木さんと妹子の警備に参加しなかったということだろう? どうして月木さんにご執心の君が、彼女の警備をしなかったのかと思ってさ。」


 修の目には、やや底意地の悪い光が宿っている。(いつもか。)


 そうして彼の目の先には、近川が。


「黙ってないで何とか言ったらどうだい? 近川君。」

「……僕は、彼女の味方です。」

「何?」

「僕は、彼女の味方です!」


 小さかった近川の声がいきなり大きくなり、その場にいた一同は皆驚く。


「な、何だ! はしたない。」

「修。」

「すみません、坊っちゃま……しかし。僕は彼女の味方。それだけは、どんなことがあろうと事実です!」

「近川さん……」


 近川は胸を張って言う。

 月木も感慨深そうに、近川を見る。

 しかしその言葉は、先ほどの修に対する答えにはなっていない。


「何だ? 肯定も否定もしてないじゃないか、自分が犯人かもしれないということについて! この期に及んで、お茶を濁そうというのか。」

「修!」

「お父さん。 この男は今のところ、犯人第一候補ですよ? ……ようし、君が犯人じゃないのか、証明してもらおうじゃないか。」


 今回ばかりは父の咎めにも動じず、修は言葉を続けた。




 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「ようし。これだけ厳重に見張れば、下手は打てないな。」

 修はにっと笑う。


 近川は自室に、見張りを相当数周囲に配置した上で軟禁されることになった。


「近川さん。……すみません、私のために。」

「いや、いいんだ。……じゃあまた。」


 名残り惜しそうに近川と月木はアイコンタクトを交わす。

 そうこうするうち、近川の自室のドアが閉まる。





「本当に、大変なことになったなあ……」

「すいません遣隋使さん……僕がいながら。」

「いいの。……本当にごめんなさい、九衛門君。」


 妹子は深々と、頭を下げる。

 妹子の自室にて、二人は話していた。


「そんな、遣隋使さ」

「ごめんください! 近衛君はいるかな?」


 ドアの向こうからにわかに、修の声がする。


「はい、います。」

「すまないね。妹子、入っていいかな?」

「ええ。……どうぞ。」


 修は承認の声を聞くと、ズカズカと入り込む。


「うん近衛君。仲が良いとは言え、女性の部屋に入り浸るのは」

「いいの、私が呼んだから。」

「いやいや、そこは遠慮もなしかい?」


 修は苦々しげに言う。

 妹子は少し、食ってかかるように反論した。


「まあそうですね、僕という男は。……それで、御用向きは?」

「いやあ、もしかしたら聞きたいんじゃないかと思ってね。……今回の事件について。」

「!?」


 突然の言葉に大門は、面食らった。


「えっ? それはつまり」

「まあ、いろいろ聞きたいだろ? 今回狙われている月木君や、さっきの近川君と死んだ二人のつながりとか。」


 修はイスに勝手に座り込み言う。


「えっと……そうですね。では、単刀直入に。……その亡くなられた二人と月木さん、近川さんを繋ぐ共通点はもしや、八郎さんの奥さんでは?」

「さすが、ご明察だ。」


 修はわざとらしく、拍手して見せる。


「そして、これも僕が思うになんですが……八郎さんの奥さん、八重子さんはもしや」

「いいや、それは病死だ。」


 これは、大門の予想に反する。


「実際、八重子叔母には多額の保険金があったが……それも本人が契約したものだしね。八重子叔母は元々、持病がある上に身体も弱かった。それで結婚も、あの歳までしなかった訳だが……よりにもよってようやく踏み切った結婚が、あんな男とはね。」


 修が付け加える。

 その話は本当らしく、妹子もこくりと頷く。


「なるほど……身体が弱く持病……病死ですか。」

「おや、何が引っかかるかな?」


 何やら呟く大門を、修が訝しむ。


「あ、いえ。……なるほど。犯人の動機は、八重子さんの復讐かと思っていたんですが……ないかなあ。」

「ううむ……まあ、何にせよほっとしているよ。あの八郎が死んで、犯人の近川もあんなで。」

「ちょっと!」


 妹子は修に、今度こそ本当に食ってかかる。

 しかし、修はさらりとそれを躱す。


「まあ妹子、それは道尾家全ての認識さ。……その意味ではむしろ、近川君には感謝しないとな。」


 吐き捨てるように言うと、修は出て行く。


「……ごめんなさい、私の従兄が。」

「いいえ! むしろ、情報があってよかったですよ。……しかし、八重子さんの復讐という線はこれで固まりましたね。」

「そうね、固ま……え!? 何で? なくなったんじゃ?」


 この言葉には妹子も、驚愕する。


「いいえ、人を意図的に病死させる……それは、不可能ではありません。」

「え? まさか、毒を?」

「半分合っていて、半分外れてますね。毒そのものを盛ったりしたらおそらく、運が悪ければその場で死んでしまい犯行がバレてしまいますよ。」

「それは……確かに。」


 妹子は考え込む。

 何はともあれ、これで動機ははっきりした。



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「ううん、しかし……どうしたものか。」

 湯に浸かりながら、大門は思索を巡らせる。


 結局、湯に浸かる時が彼にとっては尤も思考が研ぎ澄まされる時らしい。


 大門自身も、それを噛み締めていると。

「分かったの?」

「うわっ! 」


 いきなり響く声に、振り向き見れば。

 そこには、日出美が。


 しかし。

「……うん、ダンタリオンだな?」

「……同じ手には引っかからないか。」


 やや悔しさを滲ませつつ、日出美一一ダンタリオンは大門の姿になる。


「何の用だ?」

「ははは……気がかりだねえ。あの、月木ってお嬢さんのこと。」

「……当たり前だ。」


 大門はつれなく返す。


「しかし……殺される以上にあの子、自殺しないか心配だねえ。」

「自殺? ……そうだな。」


 大門は、ふと思い出す。

 妹子から聞いた、月木が今にも消えてしまいそうだったという話を。


「何とかできないのかい?」

「……遣隋使さんもいるし、大丈夫だろ。」

「ふうん。案外ドライなんだね。」

「!? ……ふん。」


 大門は今のダンタリオンの言葉に、大きく心を揺さぶられる。



 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「……近川さん……」

 月木は一人、自室で佇む。


 比島、そして八郎。

 一一八重子に対し罪を犯した者たち。


 だがそれは、自分も同じだった。

 もはやどんな罰も、厭わない。


 そう、思っていた時だった。



 刹那、近川の部屋から悲鳴が聞こえた。



 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「近川さん!」


 真っ先に駆けつけたのは、大門だった。


「こ、近衛……さん。」

「喋らないでください! 傷口が」

「いい、です……早く、犯人を……」


 近川は腹を抑えながら、窓を指差す。

 窓はガラスが割れて開き、夜空が見えて風が吹き込んでいた。


 犯人は、窓から出入りしたか。


「くっ!」

 大門はドアから部屋を飛び出す。


「行くぞ! 逃すな!」


 近川の周りを固めていた警護の人たちも、大門に続く。

 せっかく見張っていた近川が刺されてしまった。犯人は絶対に捕まえなくてはという心持ちである。


 ここは二階にある。

 窓から出ることはさすがに危ない。


「他の警護の人も呼べ! 逃すな!」

 後ろに続く警護の人が、騒ぐのが聞こえた。


 それに合わせ、二階にいる警護の人たちが騒ぐのが聞こえた。


「近川さんが襲われたらしい! 犯人は窓からだ。」

「何!?」

「そのまま窓の外に逃げたって!」

「追うぞ!」


 人の多くが外に向かう犯人を追う列に、合流していく。

 たちまち近川の部屋の周りから人は、いなくなる。





「駄目です! 見つかりません。」


 屋敷の外の暗がりを探す、警護の人が叫ぶ。

 他も同様だ。素早く逃げたか。


「近川さんが気がかりですね……戻りましょう!」

 大門が皆に、呼びかける。




「皆さん!」

「近衛さん!」


 大門たちが外から戻り、近川の部屋へ急ぐと。

 既に他の使用人や、道尾家の人々も来ていた。


「ち、近川さんは」

「彼は……もうだめだ。」


 中から出てきた、修が首を横に振る。


「ち、近川さん……!?」

「月木さん! しっかり!」


 その声に大門が振り返ると。

 そこには、倒れこむ月木と、それを抱き抱える妹子が。


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