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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification8 iblis 銀幕の悪魔は実在しない
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エピローグ

「お前は俺……? 何の話だ?」

「はははは! いいだろう……俺は、お前だよ!」


 そう言うと鬼火王(ウィスプキング)は、手元のウィスプキンよりリリージーンを取り出して魔法陣衣を解除する。


 その姿は。

 他ならぬ、優龍自身の姿だった。


「俺はお前から作られたゴーマンドの使い魔――ゴースコマンド・ダークヒーローだ!」


 ◆◇


「俺の願い――英雄になどなりたくないという気持ちがお前を生み出したということも事実だ。それは認めよう……だが! お前は、俺にはなれない。……俺の方が、強いからだ!」

「くっ……おのれええ!」


 鬼火王(ウィスプキング)は、灯王との一騎討ちの末。


 敗れ去った。


 ◆◇


「ふん、これはこれは……少しずつ、お前の願いに近づきつつあるのかな?」

「おや? ……誰かと思えばまたあんたかい、魔王さん。」


 クラウンが手にする髑髏のような魔法ランタン・コブランタン。


 そこから徐に聞こえて来た声の主・魔王にクラウンは声をかける。


「ああ、私はお前たちの側にいる! いつでもな!」

「"ibligiin,magiin."」


 その時。

 コブランタンに装填されていたと思われる魔炎陣から詠唱が響き、クラウン付近の地面から何やら影が湧き出る。


 それはさながら、頭頂部から生えてそのまま湾曲し襟足に先がある角を備え。


 その他やつれたような黒い顔や身体に、襤褸のような皮膜を備えた翼を付けた姿。


 それぞ、魔王である。


「さあて……これから面白くなるのか、クラウン?」

「ああ、お見せしてやるさ……この文字通りの茶番劇が、有終の美を飾る瞬間を!」

「ははは、楽しみにしているぞ……」


 クラウンの言葉に魔王は、高笑いをする。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「あー、見終わった!」

「うーん、やっぱり自分たちが作った映画を見るって最高だね♡」

「うん、それもそうだけど! 何より……こうやって公開されたことが奇跡だったよね! あんな事件あった後じゃ。」

「そうだね、美梨愛……」


 劇場版『魔法乱譚伝(マジックランタンでん)灯王(ランプキング)』。


 その公開を劇場にて見届けた妹子・塚井・実香・美梨愛・日出美は。


 劇場のロビーで余韻に浸っていたが。


「まあ、大門が事件を解決したからだよね……って! 大門ぉ? 大門はどこぉ!」


 日出美は大門に呼びかけようとするが。

 大門は、いなかった。


 劇場版の撮影と並行しての、テレビ版撮影現場にて。

 スーツアクターたちのアクションシーンや顔出し俳優のシーンのロケーション撮影を終え、撮影所に戻って来た大門たちスタッフ一行だが。


 撮影所で待機していたはずのスーツアクター・樫澤は遺体となり発見された。


 そうして警察が呼ばれ現場検証が行われ。

 更に撮影現場をうろついていたオタク三人組、亀井・鳥越・京極も取り調べを受けた後。


 樫澤の死亡推定時刻――すなわち、灯王と戦闘員ゴーシェルとの戦闘シーン撮影が終わった直後から姿が見えずアリバイのないスーツアクター・相田が重要参考人であるとされた。


 が、警察が引き上げた直後だった。


 ――……初めまして、私が魔王です。


 それは、採石場の風景をバックに気絶していると思しき相田に刃物を向けるフードを目深に被った人物――曰く、魔王が。


 相田のスマートフォンからメッセージアプリ・LINERを使うことにより灯王役のスーツアクター引井に、テレビ電話をかけて来たのである。


 それを受けた引井とメイン監督・杉山や助監督の甲斐谷、さらに相田のスーツアクター仲間である引井や鎌田とロケバスに乗り込み。


 その様子を見て不審がった大門も同じくそのロケバスに乗り込み、採石場に向かった。


 しかし、採石場には犯人・魔王の姿も相田の姿もなく。


 そのまま撮影所に戻った大門たちだったが。


 撮影セットを置いている建物の近くで、腹を刺されて事切れた相田が発見されたのである。


 しかし、そんなさなか大門は真相に辿り着き犯人を暴いた。


 その後は先ほども美梨愛が言った通り、当然とも言うべきか劇場版の公開が危ぶまれるが。


 妹子曰く"道尾家の七光り"で、何とか公開には漕ぎ着けて今に至るのだった。


「ああ九衛門君なら、お手洗いだって!」

「ええ!? 大きい方、小さい方?」

「いや日出美ちゃん、気にするのそこ!?」


 そうして、ここにはいるべき人間――事件を解決した大門自身がいない。


「もしかしたら……感極まって、男泣きしてんのかもね!」

「え? な、泣いてる!?」

「こら、実香! 日出美さん本気にしちゃってるでしょ!」


 実香が戯れ半分に言った言葉を日出美が真に受けたのを見て。


 塚井は、実香を咎める。


「あははは、ごめんごめん日出美ちゃん! 勝手にあたしがそう思ってるだけだから気にしないで!」

「え!? あ、はい……」

「はあ、まったく……」


 相変わらずの親友に、塚井は頭を抱える。

 が、その一方で塚井は。


 大門が感極まって泣いているという話も、あながち間違いではないかもしれないと思える部分もあった。


 ―― あなたがこの作品を汚したことを――汚すようなやり方で復讐を望んだことを、僕はどんな理由があったって許しません!


 大門が推理後、犯人に啖呵を切った時のあの言葉を思えば。


 彼が特撮というものを、どれだけ好きだったかが窺い知れるからだ。


「あの時の九衛さん、特にかっこよかったな……」

「え? 何塚井〜! 大門君のお惚気?」

「!? え、今声に出てた?」


 実香に冷やかされ、塚井は思わず赤面し口を塞ぐ。


「な!? だ、ダメよ塚井い〜、あんたには実香さんがいるんだから浮気しちゃ!」

「いや、実香さんは関係ないけど……大門は私の旦那よぉ〜?」

「い、いやお嬢様、日出美さん! 私は浮気なんか」

「お姉ちゃん? ダメだよ、抜け駆けは〜!」

「こ、こら美梨愛! あんたまで」


 妹子と日出美、さらに美梨愛に袋叩きに遭い。

 塚井は必死に弁明する。


「こらこら、皆! そんなに塚井虐めちゃだめだよ。……それに、今回の事件解決の時の大門君が特にかっこよかったのは事実だし!」

「う、うんそうね実香さん……」

「そ、そうね……それは認めるわ!」


 実香はそんな妹子や日出美を確かめつつ。

 塚井と同じ光景を思い浮かべ、浸り出す。


 大門が犯人に掴みかかった時。

 あれこそ愛するものを汚された怒りというべきもの。


 大門は個人的な感情を露わにしたことがあまりなかったために、彼女たちには新鮮な出来事ですらあった。


「大好きな特撮を汚された怒りなんて……さすが、あたしが見込んだ男だねえ♡」

「ち、ちょっと実香さん!」

「大門は私の旦那だっての!」

「うーん、実香ちゃん! 妹ちゃんの言う通り実香ちゃんにはお姉ちゃんがいるんだからそれで満足じゃない?」

「ええ? いや、塚井じゃ物足りないよ!」

「ち、ちょっとどさくさに紛れて! 美梨愛、実ー香ー!」


 女性陣は、口々に大門について語り合い争っていた。


 ◆◇


「はあ……何で、あそこで感情を露わにしちゃったかな……」


 一方、大門は。

 トイレの個室で一人、女性陣の推測とは違い泣いてはいなかったが。


 犯人に掴みかかった時のことを彼は、これまた女性陣の推測と違い誇りはせず恥じ入っていた。


「大門……確かに、あんたのポリシーに反するとも言えるし、従っているとも言えることだったね〜!」

「!? うわ、ひ、日出美! どこから」


 が、その時。

 どこからともなく日出美が、ひょっこりと姿を見せる。


 しかし、大門はどこから入って来たのかと尋ねかけ。

 ふと、考え直す。


「いや……毎度お馴染みダンタリオンか!」

「ははは……まったく、日に日に騙し甲斐がなくなって来るなあ!」


 日出美――いやダンタリオンは、冷笑を大門に返す。

 確かに、もはや毎度お馴染みと言った所か。


「だけど、今回も感謝して欲しいな! 私のヒントがなければ君は、また事件を解決できない所だったんだから!」

「ふん……まあそうだな、それは否定しない……」


 ダンタリオンにそう言われては、大門も返す言葉がない。


「何やら……落ち込んでいるようだね。」

「べ、別にそんなこと!」

「いや、落ち込んでいるのではなく……自分の()()が見え隠れしたことに慌てているのかな?」

「!? ……ああ、それは……そうだな。」


 またもダンタリオンの言葉に、大門は返す言葉がない。


 そう、あの時。

 探偵は事件解決を優先すべきであり、私情を挟むべきではないという理性。


 その理性を、感情が上回ってしまった。

 その行動に対し、ダンタリオンの言う()()が垣間見えてしまったのではと思ったのは事実だ。


 頭に浮かぶのは時々見るあの夢についてのこと。


 とある森の中。

 ある男――否、女かもしれない――を執拗に追い回していた。


 やがて、追う方は追いつき。

 執拗に、追われていた方に拳を食らわせる。


 追われていた方が地に伏し、降参の意思表示として手を上げても。


 この攻撃は続いた。

 追われていた方は、ひたすらに頭を手で守り地に伏せて堪える――


「!? はあ、はあ……」

「ははは……自分の本性は、やはり受け入れがたいか……」


 ダンタリオンはいつの間にか耳元に移動し。

 大門に追い討ちをかけるがごとく、囁く。


「本性、か……」

「ああ、そうさ……まあ、もしかしたらあの娘たちは受け入れてくれるかもしれないけどね。」

「受け入れる、か……そんなこと、してもらいたいとは思わない……!」


 ダンタリオンは女性陣を引き合いに出すが。

 大門は彼女らは関係ないとばかり、反論する。


「おやおや……一度は自分勝手なことをして彼女らに激怒されたにも関わらずかい?」

「それは……」


 が、ダンタリオンはまたも大門を黙らせる。

 かつての人狼ゲームの際はそうだった。


 あの時女性陣に泣かれたことを、無論大門自身も忘れてはいない。


「……まあ、私がとやかく言うことではないか。後は、君自身で考えて選ぶがいいよ……」

「それは、どういう……?」


 ダンタリオンの言葉に、大門が振り返ると。

 既にその姿は、なかった。


「ひーろーとー! お腹の具合大丈夫?」

「安心なさい、九衛門君! いざとなれば道尾家のかかりつけ医、選り取り見取りよ!」

「大門君、ゆっくりでいいよ!」

「大門さーん!」

「ちょっと皆さん! そんなに叫ばれたら九衛さん恥ずかしいですよ!」


 トイレの外から女性陣が、呼びかけて来ている。


「あ、すみません! すぐ行きます!」


 大門は立ち上がる。


 ――まあ、もしかしたらあの娘たちは受け入れてくれるかもしれないけどね。


「あの人たちには……知られたくないよ……」


 大門は先ほどのダンタリオンの言葉を思い返し。

 頭を横に振りながら、トイレを出て行った。

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