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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification8 iblis 銀幕の悪魔は実在しない
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conclusion:銀幕の悪魔は実在しない①

「何なんだい、一体?」


 東影撮影所の一室にて。

 大門により呼ばれていた井野を始め、監督の杉山・助監督の甲斐谷・スーツアクターの引井、鎌田が集められていた。


 劇場版の撮影と並行しての、テレビ版撮影現場にて。

 スーツアクターたちのアクションシーンや顔出し俳優のシーンのロケーション撮影を終え、撮影所に戻って来たスタッフ一行だが。


 撮影所で待機していたはずのスーツアクター・樫澤は遺体となり発見された。


 そうして警察が呼ばれ現場検証が行われ。

 更に撮影現場をうろついていたオタク三人組、亀井・鳥越・京極も取り調べを受けた後。


 樫澤の死亡推定時刻――すなわち、灯王と戦闘員ゴーシェルとの戦闘シーン撮影が終わった直後から姿が見えずアリバイのないスーツアクター・相田が重要参考人であるとされた。


 が、警察が引き上げた直後だった。


 ――……初めまして、私が魔王です。


 それは、採石場の風景をバックに気絶していると思しき相田に刃物を向けるフードを目深に被った人物――曰く、魔王が。


 相田のスマートフォンからメッセージアプリ・LINERを使うことにより灯王役のスーツアクター引井に、テレビ電話をかけて来たのである。


 それを受けた引井とメイン監督・杉山や助監督の甲斐谷、さらに相田のスーツアクター仲間である引井や鎌田とロケバスに乗り込み。


 その様子を見て不審がった大門も同じくそのロケバスに乗り込み、採石場に向かった。


 しかし、採石場には犯人・魔王の姿も相田の姿もなく。


 そのまま撮影所に戻った大門たちだったが。


 撮影セットを置いている建物の近くで、腹を刺されて事切れた相田が発見されたのである。


 しかし、そんなさなか大門は真相に辿り着いていた。

 そうして呼ばれたのが、彼らだったのだが。


「! あ、九衛君か……もしもし? え? テレビ電話に切り替えてくれって?」

「! て、テレビ電話?」


 そうこうするうち、井野のスマートフォンには大門からの着信が。


 それは奇しくも、あの相田のスマホからの着信があり採石場に皆向かった時と同じだ。


 そう、奇しくも、のはずだったのだが。


「な!? そ、そこって!」


 引井はその背景を見て、絶句する。

 それはまごうことない、あの採石場の光景であった。


「こ、九衛君! 君、今採石場にいるのか?」

「あはは……いや、そうじゃないんですよ。」

「!? な、何い?」


 しかし井野の質問への大門の言葉に、今度は全員が驚く。


 採石場にいない?

 では、どこにいるというのか。


「では皆さん……ひとまず、僕がこれから言う所に来てください。」


 ◆◇


「皆さん、ようこそ!」

「こ、これは……?」


 井野を始めとして、杉山・甲斐谷・引井・鎌田は大門に指定された場所にやって来て驚く。


 そこは。


「ば、バディ(要するに相○)の撮影セット?」


 あの相田が遺体で発見された現場の近く、人気刑事ドラマ・バディ(要するに相○)の撮影セットの置かれたスタジオだった。


 そして、そこには。


「ええ、そしてこちらをご覧ください!」

「な……そ、それは!?」


 更に皆が、驚いたことに。

 そこには大門と。


「す、スクリーンが……」

「ええ、その通りです! これはフロントプロジェクションと言いまして。背景のスクリーンに映像を投影し、合成する技術です。」

「……」


 大門の背後には、大きなスクリーンに投影された採石場の光景が。


「私たちが、手伝いました!」

「あ、君たちは九衛君の……」

「ええ、妻です♡」

「初めての女です!」

「ち、ちょっと実香!」

「えっと……い、依頼主です!」

「えーと、依頼主の執事の妹です♡」

「は、はあ……」


 更に井野が、困惑したことに。

 その撮影をセッティングしていた日出美・実香・塚井・妹子・美梨愛が進み出た。


 ◆◇


「し、しかし九衛君。スクリーンを人の後ろにしたりしたら、スクリーンに影が映り込んでしまうんじゃないか……?」


 井野は、更に訪ねる。

 が、大門はその質問を待っていたとばかりに。


「ええ、ご明察です! そう、確かに映像が投影されたスクリーンを背景にしただけでは影が出来てしまいます。……しかし、そうならないようにそれが使われているんです!」

「そ、それ?」


 その回答に井野が、大門の指差した方を見れば。


「こ、これは……マジックミラーか!」


 それは、このバディの取調室セット。

 そこに使われている、マジックミラーだった。


 さらにその斜め後ろ左側に、背景となる映像を映すプロジェクターがある。


 光はそこからマジックミラーに反射され、スクリーンに投影されており。


 さらにマジックミラー越しに、スマートフォンがスクリーン前の大門を映していた。


「このマジックミラーがプロジェクターからの光と、僕を照らす光の軸を一致させてスクリーンに影が映ることを防いでいるんです。」

「な、なるほど……ではまさか。」


 井野は再び、スタジオ中を見渡す。

 もはや、言うまでもないかも知れないが。


「そう、あの時……引井さんの元にかかって来たテレビ電話。あの時、採石場にいるかに思われた犯人・魔王と被害者の相田さん。彼らは」


 大門もまた、スタジオを見渡してから。


「……このバディのセットがある、スタジオにいたんです!」

「な、何てことだ……」


 杉山も甲斐谷も、引井も鎌田もスタジオを見渡す。


「それじゃあ犯人は、誰だって言うんだ?」


 引井は、大門に尋ねる。


「ええ、その前に。ここにいる四人は、第一の事件――樫澤さん殺しの際にはアリバイがある。そうでしたね?」

「あ、ああ……」


 引井は大門の言葉を受け、杉山・甲斐谷・鎌田を見渡す。


 確かに、引井自身も含めて第一の殺人では皆アリバイがある。


「うむ、九衛君。樫澤氏が殺害された時はこの相田殺しの時とは逆に、彼らは撮影の舞台となった採石場にいた。この東影撮影所内に待機していた樫澤氏を殺害するなんて、不可能なはずだ。」


 井野が補足説明をする。

 撮影現場となった採石場とこの東影撮影所は片道一時間はかかる。


 僅かな時間で往復するなど、やはり不可能のはずなのだが。


「ええ、その通りです。但し……本当に樫澤さんが、この東影撮影所にいたならですが。」

「! ほ、本当にいたなら?」


 大門のその言い方に、杉山や甲斐谷・引井・鎌田が首を傾げる。


「ええ、もし……樫澤さんが、採石場にいたとしたならどうでしょうか?」

「!? さ、採石場にだって!」


 が、またも場は沸き立つ。

 採石場にいた?


「ど、どういうことなんだ?」

「ええ……井野警部、あれは持って来てくださいましたか?」

「あ、ああ……これを。」

「ひ、大門それ!」


 引井の質問に、大門は敢えてその場では答えず。

 井野に、頼んであったものを出させる。


 それは、あの時撮影現場を盗撮していた亀井・鳥越・京極が。


 その盗撮に用いていて大門が押収した、ビデオカメラだった。


「ええ、これはいつもの亀井さんたちが撮っていたカメラです。一度は警察に、証拠品として自主提供していたんですけど。今回は皆さんに見ていただきたいシーンがありまして、持って来てもらいました。」

「え? 見ていただきたいもの?」


 甲斐谷は、首を傾げている。


「見ていただきたいシーンは……あの毛野さん顔出しシーンの前の、スーツアクター操演シーンです!」

「ふむ……ん?」


 大門が再生を始めると、その画面を他の皆も覗き込む。


 問題のシーンが、始まった。


 引井が操演する灯王がランプキンを振り回す。


 が、あるカットではランプキンを開いて中の魔炎陣を取り替え。


 ブレードモードからガンモードに変わったランプキンにより戦闘員ゴーシェルを薙ぎ倒して行く。


 なぎ払われたゴーシェルは、吹き飛んだり。

 ある者はバック宙をして倒れたり。


 また、ある者は折り重なったりと、さらに"やられる"演技を熱を籠めてこなしていく。


「な、なるほど……しかし、これが何だと言うんだ?」


 引井はそのシーンを見て、大門に尋ねる。

 すると。


「ええ、その中でも問題のシーンは……ここです。」

「!? ここは……」


 大門は一通り、シーンを見せた上で。

 あるシーンまで巻き戻しをし、そこで一時停止させる。


 そのシーンは、なぎ払われた戦闘員ゴーシェルのやられシーンのうち。


 やられたゴーシェル同士が、折り重なったシーンである。


「こ、ここが何だって言うんだ?」


 次に質問したのは、鎌田だった。


「この瞬間かは分かりませんが……少なくともこのシーンと同じ状況で、樫澤さんは殺害されたと思われます!」

「!? か、樫澤がこれと同じ状況でだと?」


 その大門の言葉には、特に引井が声を大きく上げる。


「ええ、あの時。密かに採石場に来た樫澤さんは……相田さんに成り代わる形で戦闘員ゴーシェルを操演していたんです。」

「! か、樫澤があの時!?」


 またも特に驚いたのは引井だった。

 まさかあの現場に、樫澤がいたとは。


「そうして犯人・魔王は今お見せしたシーンと同じく、機を見て折り重なる形で樫澤さんをヘルメットの隙間にあらかじめ仕込んであった針をねじ込む形で毒を注入して殺害したんです!」

「な、何だと……?」


 続けての大門の言葉には、皆青ざめる。


「そ、そうか……だから被害者は首筋から遅行性の毒物を……」


 井野は青ざめながらも、遺体の状況を思い出し説明する。


「さ、撮影中に殺人が……?」

「そんな……」


 杉山と甲斐谷は、特に青ざめていた。

 まさか、あの現場に樫澤がいて。


 撮影中という衆人環視の環境で殺されていたなどと。


「じゃ、じゃあまさか九衛門君……」

「犯人は、まさか……」


 妹子や実香も青ざめながら、見た相手は。


「ち、違う! 俺じゃない!」


 見られた相手、引井も同じく青ざめつつ否定する。

 そう、先ほど。


 灯王を操演しつつ、戦闘員ゴーシェルを倒す演技をして――


「いや、待ってください! 引井さんは犯人じゃありません。」

「! こ、九衛さん……」


 が、大門はすぐに否定する。


「あの状況で毒針を刺せたのは、恐らくは同じく戦闘員ゴーシェルを操演していた人物――そう、あなたですね?」

「!? な……」


 大門はすかさず、()()()を睨む。


 それは。











































「鎌田佳樹さん!」

「!?」


 鎌田だった。


「(魔王……この神聖な場を荒らしたこと、絶対に許しません!)」


 そして大門は今回の事件に、かつてないほどの怒りをもって臨んでいたのだった。


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