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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification8 iblis 銀幕の悪魔は実在しない
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訪問者K

「よし。……さあて、『魔法乱譚伝(マジックランタンでん)灯王(ランプキング)』の一話を見てみるか。」


 犯人はそう言うと、動画サイトで公認アップロードされている同作品の第一話動画サムネイルをクリックする。


 ◆◇


 かつて魔法は、人と共にあった。

 だが、魔法の一亜種・錬金術から派生した新たな学問が次第に隆盛となった。


 その名は科学。

 やがて科学は、魔法と対立する。


 世に言う『魔法戦争』である。

 しかし、最初こそ優勢だった魔法に対し、科学陣営は最終兵器を作り出す。


 その名はマーキュラス。

 蒸留器型のそれは、そこから産み出される怪物・ゴーマンドの力により現実世界の魔力を全て亜空間に飛ばしてしまい魔法陣営を瞬く間に無力化してしまった。


 そうして魔法の優位性は失われ、魔法使用には制限がかけられた現代に至る――


 ◆◇


「おら、そこの列横入りさせてくれや!」

「ええ……そ、そんなこと!」

「ああ⁉︎ やんのかおら!」

「うっ……どうぞ。」

「よしよし……ありがとう。」


 人気菓子店前に出来た行列に並んでいた青年はチンピラらに脅され、仕方なく彼らに道を譲った。



「……はあ。何で俺はこんなに勇気がないんだ……俺に勇気があったなら……!」

「あったなら、どうする?」

「……うわ!」


 青年は目の前に現れた謎の男に、驚いて腰を抜かす。

 シルクハットにスーツを着こなし杖を携行している若い男だ。


「あ、あんたは……?」

「俺? 俺は、クラウンてんだ。よろしく!」

「は、はあ……」


 青年は、クラウンと名乗るこの男の真意を図りかねる。


「まあいいや……君は、勇気を欲しがっているのかい?」

「あ、ああそうだ! さっきだってそれさえ有れば」

「でも! 君は見た所気弱そうだし……そうはなれなさそうだね〜!」

「くっ……」


 クラウンの言い方は癪に触る。

 しかし青年は、言い返すことができない。


「……しかし、いいだろう! そういう現実とかけ離れた願いほど、"究極の願い"には近づくんだ。……俺なら、君のその願いを叶えてやることができるが……さあ、どうする?」

「何⁉︎ ……叶えてほしいに決まっている! 早く!」

「……よおしよし。……だってさ、ジャヴァウォング!」

「……あいよ!」

「う、うわあ!」


 願いを口にした青年に、クラウンは笑いかけ。

 自分の背後に、声をかける。


 そのクラウンが呼びかけた先の光景を見て、青年が驚く。


 そこには例の、マーキュラスが宙に浮いている。


 その中に鎮座する、何やらゴーストのような姿をした人工生命体・ゴーマンド・ジャヴァウォングが呟く。


「"勇敢になりたい"……いいだろう、その願い聞き届けたり! …… ゴーマンド・ジャヴァウォング! ゴースコマンド・ブレイブ!」

「う、うわあ!」


 たちまち青年は、ゴーマンドの使い魔たる怪人・ゴースコマンド・ブレイブへと変化を遂げる。


 ゴーマンドは人類に奉仕する使い魔・魔法陣人(マジーン)とは対照的に、人類を使い魔に変えてしまう恐ろしい存在である。


「よおし……さあ、その願いを叶えな!」

「……勿論だ!」


 ゴースコマンド・ブレイブは手にしている盾から剣を抜く。


 ◆◇


「一気に決める!」

「ああお客様、待ってくださいよ!」


 南優龍(みなみまさたつ)は目の前のゴースコマンド・ブレイブを前に叫ぶ。


 その後を追いかけてくるのは魔法の技術者である魔炎技師(マエンジニア)、マルク・ゼオライトだ。


 魔法によるなんでも屋を営む優龍は、マーキュラスが保管されていた省庁・科学省から盗まれた事件捜査を同省から依頼され。


 手掛かりを掴むためマーキュラスと縁深いゴーマンドの使い魔と今、対峙しているのである。


「俺は勇気を手に入れた! ……だから、力だけの威張っている奴らを、この勇気で成敗するんだあ!」


 ゴースコマンド・ブレイブは叫ぶ。


「ふふっ……ははは! 力で威張っているだけだと? お前もそれに成り下がっただけなのに、自覚なしとはな!」

「何い?」

「本物の勇気って奴を、教えてやろう!」


 優龍は右手を掲げる。

 手に持つは手の平サイズの魔法情報処理エンジンたる焼印型変身アイテム・魔炎陣(マエンジン)だ。


「"灯王(ランプキング)リリージーン、マジーン!"」


 魔炎陣の一つ・灯王リリージーンの魔炎陣を、回して絵柄を揃えることにより起動させる。


 魔炎陣より刻まれている魔法陣が、炎により浮かび上がる。


 たちまち予め刻まれている呪文が詠唱され、さらにそれを優龍は、マルクが持つ魔法を発動させる為のジャックオランタン型のアイテム・ランプキンに装填する。


 こうすることで、かつて亜空間に飛ばされた魔力が固まって出来た異世界・仮装現実世界(かそうげんじつせかい)から魔法が引き出されるのである。


 するとたちまち。


「う、うわ!」

「!? この、姿は?」


 たちまち優龍は、ランプキンから出てきたゴースト型使い魔・灯王リリージーンに憑依され素体・灯王開放陣衣(リリージーニー)の姿に。


 そして、マルクは。


「お、俺……ランプキンになっちゃった!」


 驚いたことに、ランプキンからマントが生えたような姿・ランプキン魔法陣衣(マジーニー)の姿に。


「さあ魔炎技師、勇気が何か思い知らせるぞ!」

「もう、説明も聞かずに勝手に進めて……お客様は勇敢じゃなくて、ただの無鉄砲ですから!」

「どうでもいい、そんなことは!」


 ランプキン魔法陣衣の姿のマルクからは恨み言が返るが、優龍は歯牙にもかけない。


 そして。


「"灯王リリージーン、ウィジーン ロジーン?"」


 ランプキンの中の灯王リリージーンは、変身待機音を鳴らし続けている。


「うわあああ! お、お客様! 次はこのランプキンの」

「そんなもの、阿呆でも分かる!」

「う、うわ痛っ! もっと優しく」

「……開放!」


 優龍は自らの周りを飛び回るランプキン魔法陣衣を勢いよく捕まえ、そのままダイヤルになっているランプキンの蔕の部分を回す。


「"『リリース キング オブ マジック!』ロジーン!

 灯王リリージーン マジーン!"」


 その瞬間変身音が鳴り、ランプキン魔法陣衣のマントが灯王開放陣衣に装着され。


 魔法陣衣(マジーニー)灯王(ランプキング)が爆誕した。


「くっ、あんた……何者なんだ!」

「ただの魔法使い、その一言で納得しろ!」

「何?」


 ゴースコマンド・ブレイブは優龍への問いの返答に、首を傾げる。


「これが……魔法陣衣か!」

「うわっ、お客様! 前、前!」

「まあいい、邪魔をするなら叩き斬る!」

「ふんっ!」


 ランプキンから響くマルクの声に促され、優龍は素早く前から来る敵の攻撃を躱す。


「くっ、避けるな!」


 ゴースコマンド・ブレイブは文字通り勇者のごとく構える盾から剣を引き抜き斬りかかる。


「お客様! 魔炎陣を替えてください!」

「! これか!」


 マルクの指示に従い、優龍は腰のホルダーから魔炎陣の一つを取り出す。


「"ブレージーン、マジーン!"」


 たちまちランプキンには仮面状のパーツ・ランパーツが装備され、そこより刃が生える。


 剣戟の魔法・ブレージーンである。


「くっ……なら!」


 ゴースコマンド・ブレイブは、どこからともなく銃・バズーコマンドを取り出す。


「バズーコマンド・ゴーシェル!」


 ゴースコマンド・ブレイブが呪文詠唱と共にバズーコマンドを連射すると。


 たちまち放たれた弾丸たちは、(本作における戦闘員ポジションである)最下級使い魔・ゴーシェルに変化する。


「なっ!」

「ふん、雑魚共を沢山出した所で!」


 マルクはランプキン越しにこの光景を見て少し怯えるが、優龍は尚も歯牙にかけずランプキンの刃を振るう。


 ◆◇


「くっ、この!」

「どうした? 口ほどにもないな!」


 追い詰められたゴースコマンド・ブレイブは、優龍に挑発され歯軋りする。


「くっ……俺は勇気を、手に入れたんだあ!」

「くっ! これは!」


 しかし、ゴースコマンド・ブレイブが突如魔力を燃え上がらせ、優龍ら灯王は間合いを取る。


 ゴースコマンド・ブレイブは擬似魔法陣・ゴースコードを足下に展開し。そこより大量の魔力を、仮装現実世界から引き出している。


 かつての魔法戦争時に現実世界から魔力を、亜空間に飛ばした時とは逆のやり方だ。


「くっ、お客様あれは! 魔力の暴走です!」

「ああ、そのようだな!」


 ランプキンからマルクの声が響き、優龍はうなずく。

 本人の現状からかけ離れた願いを抱けば抱くほど、本人には制御し切れないほどの魔力が引き出され。


 最悪自滅してしまう恐れがあるのである。


「"灯王リリージーン、マジーン! 灯王リリージーン、ウィジーン ロジーン?"」

「……大開放!」


 優龍は灯王リリージーンを、再起動し。

 灯王リリージーンに尋ねられるがままに、必殺技コマンドを詠唱する。


「"『リリース オール マジック!』ロジーン!

 灯王リリージーン マジーン!"」


 灯王リリージーンもコマンドを認識し、必殺技のエネルギーを貯め始める。


 たちまちランプキンの前には、滾る炎により描かれた魔法陣が浮かび上がる。


「ふん、俺の勇気がそんなものでえ!」


 ゴースコマンド・ブレイブも負けじとばかり。

 より魔力を引き出そうとする。


「……はっ!」


 優龍は容赦なく、ゴースコマンド・ブレイブめがけ必殺技を発射する――



 ◆◇


「……終わったか。」


 優龍は自分が倒したゴースコマンド・ブレイブの素体になっていた青年を見下ろす。


「俺は……勇敢になりたいんだ!」


 青年はまだ、力に執着し。

 自分の近くに転がっているゴースコマンドになるためのモノクル型アイテム・ゴースコープに手を伸ばす。


「ゴーマンド・ジャヴァウォング! ゴースコマンド・ブレイブ!」


 再び変化の呪文も、唱える。


「くっ、まだ!」

「いや。」


 これに、ランプキンの中のマルクは慌てるが、優龍は知っていた。


 そのゴースコープは先ほど灯王の必殺技で既に大ダメージを受けており、砕け散ってしまうと。


「うう……うああ!」


 果たして、ゴースコープは青年が手に取るや、砕け散ってしまう。


 青年は悔しさのあまり、泣き出す。


「ふん、そんなものに頼って楽しようとするからだ。」

「お、お客様!」


 青年に追い討ちをかけようとする優龍を、マルクは咎める。


「……気休めにもならないだろうけど……この魔法陣人を使って見てくれ。」

「……え?」


 打ちひしがれる青年に、マルクは魔炎陣を一つ差し出す。


「さっき君が倒される時、その魔力の一部を制御して作った魔炎陣さ。」


 マルクはそう言うや、その魔炎陣を起動させランプキンに装填する。


「"エンカレッジーン、マジーン! エンカレッジーン、ウィジーン ロジーン?"」

「……激励。」

「"『エンカレッジ ヒム』 ロジーン! エンカレッジーン、マジーン!"」


 マルクは勇気付けの魔法・エンカレッジーンにコマンドを詠唱する。


 するとランプキンから抜け出た、これまたゴースト型の使い魔・エンカレッジーンより光の粒が、青年に降り注ぐ。


「あ、あれ? 何か……元気出たかも!」


 青年は少し、立ち直った様子だ。


「そう、まあその程度しかできないけど……魔法はいきなり、大きなことを期待しちゃいけない。小さなことから、コツコツとさ! ……この魔炎陣は、君に上げるよ。」

「は、はい! あ、ありがとう!」


 青年はマルクから魔炎陣を受け取ると、走り出していく。


「あんなことじゃあ……勇敢になれるのは何年先なことやら。」

「むう……いいじゃないですかお客様! 立ち直ったんだから!」

「ま、それが関の山だな。」

「(く……この人苦手だな〜!)」


 優龍の冷たい言葉に、マルクは膨れる。


 しかしこの後マルクは、自身が所属する魔炎技師のギルドである魔法工房・和田島(わだじま)の所長・和田島から魔法陣衣・灯王がマルクなしでは起動しないことを知らされ。


 止むを得ず、優龍の事務所に客先常駐するしかなくなってしまったのである。


 ◆◇


「所詮、あの程度か。……まあ臆病者にしては、勇敢だったな。」


 戦いを遠くから見ていたジャヴァウォングは、こう零す。


「まあまあ……ま、とにかくこれで一歩前進さ。」


 その傍らにいるクラウンは、青年をフォローする。


 クラウンはゴーマンドの部下や使い魔ではなく、対等な協力者らしい。


「さあ、早く終わらせようぜ……この文字通りの、茶番劇を!」


 クラウンはジャヴァウォングに、そう宣言する。


 ◆◇


「……よし。これが自分のこれから演出する舞台だ……犯人として。」


 犯人は、にやりと笑う。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「よし……はあ、やっぱり第一話は何度も見ちゃうな。」

「ちょっと、ひーろーとー!」

「……おっと!」


 自宅兼事務所の、九衛大門探偵事務所にて。


 大門は階下から聞こえる日出美の声に、時計を見る。

 灯王の第一話を見返す内、時間を忘れてしまっていたが。


 待ち合わせ時間に、もうなっていた。


「ごめんなさい皆さん! 今行きます!」

「はあい!!!!!!」


 階下から女性陣の声が、聞こえて来る。


「さてと。……では。」


 戸締りをし、出かける。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「すいません、九衛さん。」

「あ、いえいえ! 皆さんが協力してくださった映画ですし。」


 塚井は運転しつつ、大門に謝る。

 大門はそれを、フォローしている。


「まあその通り! また道尾家の七光りにあやかったもんね!」

「そ、妹子ちゃんのおかげ♡」

「おおっ、実香さんもっと言ってえ!」

「わ、私も大門の妻として頑張ったんだから!」

「そ、日出美ちゃんのおかげ♡」

「み、実香さん! もっと言って!」

「ねえ実香ちゃん、私は?」

「うん、美梨愛ちゃんのおかげ♡」

「おおっ、ありがとう!」


 車の中はすっかり、女性陣の褒められ合戦である。


 乗っているのは運転している塚井と、大門・実香・妹子・日出美・美梨愛。


 彼らが向かうは、先ほどまで大門が視聴していた特撮番組・『魔法乱譚伝灯王』の冬映画試写会である。


「僕こそすみません……自分の趣味に付き合わせた挙句、撮影まで協力してもらってしまって。」


 大門は皆に詫びる。


「いやあ、何の何の!」

「そうですよ九衛さん。私たちは好きでやってるだけですから。」

「そうだよね〜、あたしたちは大門君が好きで」

「え?」

「だあー、実香! 運転中!」


 実香の台詞に大慌ての塚井は、彼女を咎める。


 大門への好意を自覚したからといって、いやだからこそ、彼にはまだ知られたくないという気持ちが塚井にはあった。


「そうよ実香さん! 塚井だけは実香さんが好きで」

「いや妹子さん?」

「お嬢様……」

「え?」


 妹子の相変わらずの勘違いに、日出美と塚井は意を削がれる。


「いやあごめんごめん塚井!」

「でも、お姉ちゃん、大門さん。……よかったよね〜! あんな事件起きたら、本来上映中止だよ?」


 実香が謝る後に、美梨愛が続けて言う。


「そうですね、美梨愛さん。……ま、今回も遣隋使さんには感謝しないと。」

「え? ……あ、あはは! 道尾家の七光りは舐めたもんじゃないでしょ!」


 大門の礼に、妹子は顔を赤らめ胸を張る。

 そう、この映画は。

 あんな事件のせいで、上映の危機だったのだ。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「はい、ではこれより……『劇場版 魔法乱譚伝灯王 デッドオアトリート! 大魔法パーティー』のクランクインとなります! 皆さん、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


 時は、今から4ヶ月ほど前。

 早朝。

 都内某所にて、撮影はスタートした。


 その座組みの、中には。


「おーい、九衛君! ケータリング、もう手配しちゃって くれ!」

「はい!」


 撮影する、東影撮影所(とうえいさつえいじょ)

 そこで趣味と実益を兼ねて、副業としてアシスタントのアルバイトをする大門の姿が。

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