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悪魔の証明終了〜QED evil〜  作者: 朱坂卿
certification7 suarra 魔女狩り村に火葬場はない
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エピローグ

「つーかーいー! まだあ?」

「お嬢様、恐れながら男も女も度胸です! ここはおとなしく、根気よくおやり下さい。」

「……はあ、腰があ!」


 塚井家の畑にて。

 草抜きに悲鳴を上げる妹子を、塚井は諫める。


 滝日村で起きた、連続殺人事件。


 第一には、塚井の見合い相手である塚光家の屋敷での、納屋に始まり母屋まで巻き込んだ放火殺人事件。


 ここで発見された遺体は、見合い相手の御曹司・国明の実父たる陽太だとDNA鑑定で判明する。


 第二には、塚井共々大門が拉致され、目撃者に仕立て上げられた、教会の密室放火殺人事件。


 この事件では塚光家のメイド・鳥間郁美が撲殺死体となり発見され、直前まで犯人によって電話をさせられていた塚井の心に影を落とすことになった。


 しかし、事件の真相は。

 またも例によって、大門の活躍により暴かれた。


 塚井は大門の方針により、長らくその真相は知らないままだったが。


 犯人である、塚光陽太が息子である国明に真相を話し。


 国明の口から、ようやく塚井にも知らされたばかりだった。


 見合い所ではなくなっていた彼女は、東京帰りを前に家業を他の女性陣たちと手伝っている所だった。


 見合い話をもともと断ろうと思っていた塚井にとっては、ある意味これは願ったり叶ったりだったのだが。


 やはり悲惨な目に遭った見合い相手の国明や、殺された彼の父やメイド、そして母の幼なじみのことを思えば。


 その心は、晴れやかではなかった。


「よいしょ、よいしょ!」

「あ……」


 そこへ、塚井は台車を引いて来る大門と出くわす。


「あ……え、えっと塚井さ」


 が、大門が声をかける前に。

 塚井は恥ずかしげに、ぷいとそっぽを向き。


 そのまま、畑ではなくビニールハウスの方へ行こうとする。


「……許して、くれないか……」


 大門は少し萎れた様子で、台車を母屋へと引いていく。


「塚井。」

「! み、実香……」


 と、塚井の方を実香が引き止める。


「つ、塚井……実香さんと何かあったの?」

「いや、妹子さん! この状況はどう見ても大門と何かあったでしょ!」


 相変わらずズレた見方をしている妹子に、日出美が突っ込む。


「……だって」

「分かってる。まあ……結局大門君が約束破ったんだし、大門君が悪いかな……」


 珍しく言い訳めいた言い方をしかける塚井に、実香が言う。


 あの人狼ゲームの一件時、心配した塚井に頬を平手打ちされた大門は。


 金輪際、危険なことはやらないと塚井や他の女性陣に誓ったのだが。


 今回、結局犯人と対峙しナイフで刺されかかっていた。


 無論、これは約束破りに当たる。


「それだけじゃなくて……九衛さんは私にも事件の真相を」

「塚井! それについては……あたしは大門君が正しいと思うよ。」

「……実香まで。」


 塚井は、大門が国明だけでなく彼女にも事件の真相を話さなかったことを怒っていた。


「そうですよ、塚井さん! 大門は、塚井さんが国明さんから事情を知るようにって」

「それが水臭いって言うんですよ!」

「! つ、塚井さん……」


 日出美の言葉に、塚井は大声を張り上げる。

 確かに、結局は大門の計らい通り。


 逮捕された陽太から、事情を知った国明から更に、塚井に事件の真相が伝えられたのだった。


 大門の計らいは分かっているつもりだが、やはり気持ちとしてはどうしても受け入れられない塚井であった。


 と、その時。


「真尋。今、国明さんがお見えなんだけど……」

「あ、お母さん……え!?」


 母がやって来て放った言葉に、塚井は驚く。



 ◆◇


「真尋さん。」

「……国明さん。」


 塚井家の母屋の近く。

 塚井は、国明と会う。


 事件について話して以来、数日振りである。


「すみません急に……」

「あ、いえ……その、国明さんは大丈夫ですか?」


 塚井はまず、国明の身体や心を気遣う。


「ええ、おかげ様で! お優しいんですね、ご心配ありがとうございます。」

「あ、いえそんな……」


 国明からは元気な返事が返る。

 塚井は安心しつつも、これ以上何と声をかければよいか分からなくなってしまった。


 が、国明は話を途切れさせるまいとしてか。


「……あの、ま、真尋さん……いいですか?」

「……はい。」


 改めて、話を続ける。


「僕は、ずっと考えていました……父が、塚光陽太がしでかしたことについて。……僕は、父に……そんなことして欲しくなかった。」

「……国明さん。」


 国明は涙声で言う。

 戸籍上の父、血縁上の異母兄を父と呼んで。


「確かに、祖父のしたことは許されることじゃない。けれど……父のしでかした、無関係の人たちを巻き込むというやり方も許されることじゃない。いくら、僕のためでも。」

「……そうです。」


 塚井は、国明の言葉を敢えて全肯定する。

 ここでそんなことない、と言えば国明には少しばかりの慰めにはなるかも知れないが。


 そんなことは国明が望んでいないだろうと思ったから。


 何より、大門ならそうするだろうと思ったから――


「……真尋さんにそう言ってもらえると嬉しいです。」

「……え、嬉しい、ですか?」


 塚井は国明のこの言葉に、驚く。

 彼なら、せめてもの慰めを求めて来るだろうと思っていたからだ。


「……父が言っていました。国明はもう立派な大人だから、どうか彼自身に決めさせてやってくれって、あの探偵さんに言われて目が覚めたって。」

「! こ、九衛さんが……」


 塚井は更に驚く。

 あの時大門は、塚井や他の女性陣との約束を破り危険な現場に飛び込みながらも。


 必死に、事件だけでなく親子の蟠りも解消しようとしていたのだ。


「僕もそう言われて、もう大人にならないといけないって思いました! 父や祖父の罪とも、向き合わなきゃって……そう思えたのはあの探偵さんのおかげですね。どうかあの探偵さんに、お礼を伝えておいて下さい!」

「あ、はい! 必ず。」


 塚井は、内心国明の大門への感謝を自分のことのように喜ぶ。


 そう、やはりそれでこそ大門だと思った。


「それで……塚井真尋さん。」

「……! は、はい。」


 国明はそこで急に真顔になり、塚井をまっすぐに見つめる。


 塚井の方がどきりとしてしまったほどだ。


「真尋さん……僕は、家族の罪と向き合いながら……何十年かかるか分からないですけど、きっと家を建て直しますから! だから……僕とどうか、結婚を前提にお付き合いをしていただけませんか?」

「国明さん……」


 国明の言葉に、塚井は俯く。

 国明の気持ちは、確かに嬉しい。

 しかし、やはり言わねば。


「……ごめんなさい、国明さん。」

「……そ、そうですよね。すみません、僕なんか」

「いえ、違います!」


 国明が自己を卑下しようとし、塚井は慌てて止める。


「え……?」

「すみません私がお断りする理由は、国明さんが嫌いだからじゃありません。」


 塚井は息を吸い込む。


「……私、好きな人がいるんです。」

「好きな、人……」


 塚井は顔を赤らめ、俯く。

 言いつつ、塚井自身も改めて実感した。


 今は、まだ大門には怒っているが。

 やはり、彼が好きなのだと。


 だが国明にはさぞかし、不服だろう。

 塚井はそう思い、ちらりと国明を見る。


 しかし、その国明から返ってきた言葉は。


「……九衛さん、でしたっけ? あの、探偵さんですか?」

「! ……はい、そうです。」


 見事に言い当てられ、塚井は思わず顔を上げる。

 国明は少し悔しげではあるが、笑みを浮かべている。


「なるほど……確かにあの人じゃ敵わないな。僕じゃ。」


 国明は自嘲気味に笑う。


「……ごめんなさい。」

「いや、いいんですよ。それは、真尋さんの……気持ちの問題ですから。」


 塚井の謝罪に、国明は目を逸らして言う。

 その目には、薄っすら涙が。


「国明さん……」

「あ、すいません……真尋さん。僕、いつか自分に寄り添ってくれる人を探します。だから真尋さんも、九衛さんへの想いを実らせてください!」

「! は、はい……」


 塚井は国明の変わりように驚く。

 あそこまで頼りなさげであった男が、今やこんな頼もしいことを言うのである。


「今の国明さんなら……きっと見つかりますよ。」

「はは……ありがとうございます。」


 塚井は、振った自分が言うことではないなと思いながらも言う。


 それほどに、国明の変わりようには驚いたのである。


 ◆◇


「あ、塚井!」

「すみません、遅れてしまって。」


 妹子に促されつつ、塚井は大門の車に乗り込む。

 既に他の女性陣も、大門も車に乗っていた。

 国明との話の翌日。


 一行は帰ろうとしていた。


「それじゃ、忘れ物はないですか?」


 大門は皆に呼びかける。


「あ、すみません私……」

「! あ、塚井さん。」


 が、塚井が手を上げる。


「え? 何塚井、ブラでも忘れた?」

「ちょっと! 九衛さんの前で!」


 茶化してきた実香に、塚井が突っ込む。


「おほん! ……すみません、私九衛さんに言い忘れたことが。」

「! え?」


 塚井は気を取り直し、大門に言う。

 忘れ物とはそっちだった。


「え? 何々塚井〜?」

「どうしたんですか?」


 この様子に、妹子はにやにやしながら。

 日出美は訝しみながら尋ねる。


「あの……こ、今回は本当にありがとうございました九衛さん!」

「あ、いえそんな……いつも塚井さんにも、色々お世話になってますし。」

「九衛さん……」


 塚井は大門のこの言葉に、顔を赤らめる。

 そして、礼の後は。


「ええと九衛さん……す、少し前のことですが……こ、九衛さんを叩いた挙句! き、急に好きでもない女からキスされるなんて迷惑極まりない想いをさせてしまい申し訳ありませんでした!」

「あ、いや……た、叩かれたのは自業自得ですし。て、照れはしましたけど、大丈夫ですよ!」


 塚井の謝罪に、大門は宥めの言葉を返す。


「それに……別に、塚井さんのこと好きですし。」

「……ええ!?」

「ぐっ!」

「ゴホッ!」

「ゲホッ!」


 大門の爆弾発言に、塚井は更に顔を赤らめ他の女性陣は皆噴き出す。


「ち、ちょっと塚井〜! 駄目よ、あんたには実香さんというお相手があ!」

「いつもならその妹子さんの言葉否定する所ですけど……他人の旦那にい〜!」

「お、落ち着いて下さいお嬢様、日出美さん!」


 塚井は尚も激しく紅潮したまま、妹子と日出美を宥める。


 尤も、落ち着いて下さいという塚井自身が内心全く落ち着いていないのだが。


 さておき。


「おっほん! ……大門君。それは単に、嫌いじゃないって意味だよね?」

「あ、はいそうです……」

「え!」

「え!」

「……え?」


 すっかり興奮し切った他の女性陣とは対照的に、実香の努めて穏やかにした言葉に大門は頷く。


 それに対して女性陣の動きが、止まる。


「な、なあんだ……単に嫌いじゃないって意味か〜!」

「そ、そうよね! 塚井には実香さんという相手がいるもんね〜!」

「いや、まあ……はい、そうですね。」


 日出美と妹子もようやく落ち着く。

 塚井も、がっかりを含んだ感情により落ち着く。


 確かにあの大門が、こんな大胆に愛の告白をしてくる訳がないか。


 先ほどまで少しは期待した自分が、馬鹿のようだった。


「ところで、塚井? ……さっきの、好きでもない女からのキスって、それはあたしも含んでるかなあ〜?」


 実香は先ほどの落ち着きとは裏腹に、今度は突っかかる。


「あ! す、すみません九衛さん! う、うちの親友が、あ、あとうちの主人が……あと日出美さんがキスしてしまって!」

「いや、結局謝るんかい!」

「ちょっと、何で謝るのよ塚井!」

「そうよ! 妻なんだからね!」


 はっとして他のメンバーの分も謝る塚井に、実香・妹子・日出美は総ツッコミである。


 相変わらず日出美が()()()でない件はさておき。


「い、いや……別にいいです! 皆さんのこと、嫌いじゃないですし。」

「おおっ♡」

「き、嫌いじゃない……ってことは?」

「も、勿論妻だし!」


 そして大門のこのセリフには、妹子・実香・日出美がときめく。


「皆さん面白くて大好きですよ。」

「うおおっ♡」

「だ、大好きい!」

「もうっ、大門ったら♡」

「はあ……九衛さん。」


 塚井はため息をつく。

 実香はともかく、妹子や日出美が勘違いしないかと大いに不安である。


 まあ、自分も勘違いしていたかとまたも自嘲気味な思いになる塚井であった。


 そしてこの後、誰が一番好きかという議論になるのだがそれはさておき。


「お邪魔しまーす!」

「ああ、どうぞ……って、美梨愛さん!?」

「!? み、美梨愛!」


 そこへ、車の中に入って来た者が。

 塚井の妹・美梨愛だった。


「ええ! み、美梨愛ちゃんどうして?」

「ああ、元々私東京の大学行ってるから(まい)ちゃん!」

「えっ!? そ、そうなの!?」


 妹子に美梨愛は答える。


「すみません、九衛さん!」

「不束な娘たちですが……何卒よろしくお願いします!」

「ちょ、お母さん!」

「いやいや、それじゃお嫁に行かすみたいですよオジ様、オバ様?」


 今しがた見送りにやって来た塚井父と母の言葉に。

 塚井と実香は突っ込む。


「あ、はい……安全にお送りします。」


 大門は真面目に答える。


「じゃ、頑張ってね真尋!」

「う、うん……何か引っかかるけど。」

「いろいろとありがとうございました!」


 母からの言葉に違和感を感じつつも、塚井は笑顔で返し。


 そのまま、一行を乗せた車は東京へと向かう。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ふう、皆さん寝られましたか……」


 高速道路にて渋滞に遭い。

 停車している中、大門は後部座席を振り返る。


 助手席の実香も含め、女性陣は皆夢の中だ。

 と、その時。


「ひーろと!」

「うわ! ……日出美、起きていたのか……」


 後部座席から声がした。

 大門が驚き見ると、日出美が起きている。


 が、次の瞬間。


「……何ちゃって!」

「!? お前……ダンタリオンか!」


 日出美が戯けたかと思えば。

 次には大門の姿になる。


 ダンタリオンが、日出美の座る位置に自身を投影しているのだった。


「また、騙されたね!」

「ああ……不覚にも全く気づかなかったよ。」


 ダンタリオンと大門のこのやりとりは、聞きようによっては一昔前に流行ったお笑いコンビのコントのようだがさておき。


「まあ、ふざけるのはこのぐらいにして……よく今回は、私の導きもなく真相に辿り着いたね。」


 ダンタリオンは真顔になり、大門に言う。


「ああ……元から、お前の力なんて」

「ははは、よく言う! これまでの推理不敗神話は、私の力を使った腐敗神話のくせして!」

「くっ……声が大きい!」


 ダンタリオンが大声で騒ぎ、大門は慌てる。

 これでは、皆起きてしまう――


 しかし。


「ははは、まったく君は! 私の声は君にしか聞こえないんだから、どんなに大声出しても構わないだろう?」

「くっ……ああ、そうだな。」


 ダンタリオンは大門を嘲る。

 大門は歯軋りするが、ここはダンタリオンの言う通りである。


「……まあいいや。でもね、私は……そろそろ君を、試さないとと思っているんだよ?」

「!? な、何! ……っ!」


 ダンタリオンの言葉に、大門は驚くが。

 ダンタリオンの姿は、一瞬にして消える。


「くっ……どこに」

「……焦るなよ、いずれ来るんだから、それから対処すればいいことさ。」


 ダンタリオンの声は、その捨て台詞を残し聞こえなくなる。


「……ん、どうしたの大門君?」

「……こ、九衛さん?」

「なあに、九衛門君?」

「大門?」

「九衛さん?」

「あ、皆さん起きちゃいましたか……」


 大門が呆けていると。

 女性陣が、起き出す。


「あ、大門君! ほら、前!」

「え……あ、すみません! 行かなきゃ!」


 実香に促され、いつの間にか空いていた前へと続く高速道路に、大門は車を再発進させる。


「大丈夫ですか? 私適当な所で代わります。」

「あ、ありがとうございます!」


 塚井が気遣いの言葉をかけ、大門は礼を言う。


 ―― そろそろ君を、試さないとと思っているんだよ?


 大門はダンタリオンの言葉が引っかかりつつも、サービスエリアまで車を走らせる。

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