conclusion:魔女狩り村に火葬場はない②
「で、では犯人は……国明氏だと?」
西原は、大門に恐る恐る尋ねる。
滝日村で起きた、連続殺人事件。
第一には、塚井の見合い相手である塚光家の屋敷での、納屋に始まり母屋まで巻き込んだ放火殺人事件。
ここで発見された遺体は、見合い相手の御曹司・国明の実父たる陽太だとDNA鑑定で判明する。
第二には、塚井共々大門が拉致され、目撃者に仕立て上げられた、教会の密室放火殺人事件。
この事件では塚光家のメイド・鳥間郁美が撲殺死体となり発見され、直前まで犯人によって電話をさせられていた塚井の心に影を落とすことになった。
しかし、大門はこれらの真相を解き明かし。
西原の指揮により警察官が大量動員されている。
そこで西原は、第二の密室放火殺人事件の真相について大門から聞かされた後。
更に第三の事件・比賀祐司第一の事件・塚光邸の納屋及び母屋の放火殺人事件の真相をも聞かされる。
それは。
「ええ……比賀さんの握っていた春蘭――すなわち、ジジババの花! その雄蕊――すなわちジジの部分を握っていたのですから、この花が示すのはジジ。そして種。つまり……国明さんは、その祖父・劉禅さんの子供です!」
大門は、もう一度言う。
「ああ……だから! この一連の事件は、国明氏の犯行かと聞いているんだ!」
西原は再び聞く。
ダイイングメッセージが国明のことを指しているのならば、犯人は国明ではないのか?
しかし、大門は。
「いえ、違います! 国明さんは犯人じゃありません。」
「……何?」
西原は拍子抜けする。
あれは、犯人を示すダイイングメッセージではなかったのか?
「……まず、振り返ってみてください。第一の塚光邸放火殺人事件。あの一件で遺体の身元は、どのようにして鑑定されたんでしたっけ?」
「そ、それは国明さんのDNAとの続柄を……ん!?
ま、まさか!」
西原は、今の大門の言葉により。
ようやく納得した。
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「……そう、僕はその比賀さんによるダイイングメッセージにより、あなたの正体に気づきました! ……炎の処女は、あなたですよね?」
「……」
再び、大門が炎の処女と対峙する時に戻る。
炎の処女は、目を逸らしている。
「塚光陽太さん!」
「! ……ふん、これまでか……」
炎の処女――第一の事件で死んだはずの陽太は、自嘲気味に笑う。
そう、祐司のダイイングメッセージが示していたもの。
それは第一の事件で納屋から発見された遺体――陽太と断定された遺体が、実は劉禅であったという事実だった。
「あなたは塚光邸放火殺人に際し、わざとDNA鑑定させることによりこのトリックを成し遂げたんですね? ……あの遺体は、"国明さんの生物学的な父親"――すなわち、あなたなのだと偽装するトリックを!」
大門は更に続ける。
「……先ほど西原さん――長野県警の刑事さんにこのことをお話しした時、彼女は言いました。"そのトリックが成り立つには、遺体の一部を意図的に残す必要があったんじゃないか?"と。」
「……それに対しては、どう答えた?」
今度は陽太が、大門に尋ねる。
「あの事件では、"偶然にも"納屋に使われていた石綿が遺体に降り注ぎ、遺体の一部が燃え残った。……警察は当初、そう断定していました。しかし、それが偶然でないとしたら?」
「……ほう。」
陽太は大門の返しに、ため息を吐く。
「つまりあなたはあらかじめ、劉禅さんの遺体の一部に石綿を振りかけておいたんですね? ……後で納屋が焼け落ちた時、納屋の天井裏から石綿が遺体に降り注ぐことを計算に入れた上で。」
「……その通りさ。」
陽太は大門に、怒るでもなく誇るでもなく。
ただただ無機質に答え、その場に座り込む。
「そして、もう一つ分かりました。……26年前の、あなたの奥さん――潮音さんの自殺は」
「ああ……あの男が――俺の父、劉禅が無理矢理潮音を!」
「……はい。」
大門は陽太の話に、暗い表情を浮かべる。
国明が戸籍上祖父であるはずの劉禅と、潮音の子というのはやはりそういうことだったか。
「……俺は、潮音が死んだ時。そのことを知らなかった……一年前に、彼女の日記を読むまではな!」
「!? 日記が?」
大門は驚く。
潮音が、そんなものを残していたとは。
「彼女の日記には……劉禅の悪行に一人苦しんだ日々や、俺に打ち明けられず結果的に裏切ってしまったことへの謝罪が書かれていた! そして文末には俺に対する最後の一文が書かれて締め括られていて……」
陽太は、泣き始める。
そのまま地に四つん這いになり、声を詰まらせるが。
次には。
「その時、俺は誓った! ……あの劉禅を、汚らわしい魔物を! この手で、葬り去ってやると!」
「……なるほど。」
大門は淡々と、その言葉に耳を傾ける。
そして、こう尋ねる。
「……しかし! 第二・第三の事件はどうなっているんです? 比賀さんは年齢的に、その潮音さんの事件と何か関係はあってもおかしくはないですが。まさか、国明さんと歳がそこまで違わない鳥間さんに、潮音さん事件との関係があるとは思えませんが?」
「……分かっているんだろ? 名探偵さん。」
大門の問いに、陽太は尚も泣きながら答える。
「ええ。……今、日記については初めて知りましたが。僕が既に推理した、第二・第三の事件の動機から察するに……日記の最後にはこう書かれていたのでしょう。"国明のことはどうか、よろしくお願いします。"と。」
「……ああ、そうだ!」
陽太はその言葉に、今度は叫ぶ。
「鳥間郁美……あの女も! 比賀祐司も! どうやってか知らないが潮音の自殺の動機を……国明の出生の秘密を知っていた! あの女は特に……そのことで劉禅を脅迫していた! あいつらを生かしておけば……いつか国明が!」
「……陽太さん。」
「そうだ……あいつらだけじゃない! 今ここに……もう一人いたな!」
「くっ! ……陽太さん!」
陽太は大門を睨み。
ナイフを取り出すと、彼に襲いかかる。
「お前も……国明の秘密を知った! お前も……お前も……生かしてはおけない!」
「やめろ、動くな塚光陽太!」
「!? け、警察!?」
しかし、陽太が気づけば。
周りは、警官隊に囲まれていた。
「県警の西原だ! そこの探偵から離れろ!」
「くっ……そういえば警察にも、国明の秘密を……!」
陽太は、先ほどの大門との話を思い出す。
西原――今目の前にいる刑事の女に。
遺体は確かに"国明の生物学的な父親"ではあるが、それは陽太ではなく劉禅なのだと話していたという。
「おのれ……名探偵! まさか、お前このことを国明にまで!」
陽太は、大門を睨む。
警察に話しているとなれば、国明にも――
もう、この男は生かしてはおけない。
そう思い、大門を改めて睨みつけた時だった。
「……陽太さん! 目を覚まして下さい!」
「!? な、何、だ……?」
陽太は大門に言葉を遮られ、はっとする。
大門は続ける。
「そんなことで……そんなことで潮音さんが喜ぶと、本気で思っているんですか!」
「……当たり前だ! 潮音の意思を……せめて、国明の意思を俺は守らなければ……!」
「そのために、鳥間さんや比賀さんは殺せても……ここにいる警察官たちは殺せませんよ!」
「くっ……そ、それは……」
陽太は揺らぎ始めていた。
確かに、多勢に無勢。
この場で警官隊を自分一人で殺し尽くすなど、到底無理だろう。
「それに……もし、国明さん本人まで知ったら! 国明さんまで殺すんですか!」
「くっ……う、ううう……」
大門の言葉は、更に陽太に追い討ちをかけた。
そうだ。
この秘密を守るために、秘密を知った者を殺すのならば。
それは、国明本人に知られた時に、彼を――
「……すまなかった。」
「……確保しろ!」
陽太が無抵抗になった所で、西原は警官隊に叫ぶ。
たちまち警官隊が、陽太を確保する。
「……21:30、塚光陽太! 塚光劉禅、及び鳥間郁美と比賀祐司殺害! 並びに殺人未遂の現行犯にて逮捕する!」
西原の読み上げと共に、陽太の手には手錠がかけられた。
「……これで、ひとまずは悪魔の証明終了ですね。」
大門も、息を吐く。
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「……父さん!」
「……国明。」
パトカーの車内へと、連行されて行く最中。
陽太の目の前には、国明の姿が。
「父さん……生きてたんだね!」
「……何?」
陽太は国明の言葉に、拍子抜けする。
まさか。
「探偵さん……あんた、まさか。」
陽太は、少し離れた所にいる大門に聞く。
すると。
「ええ、国明さんには……まだ事件の真相まではお伝えしていません。同じく、彼のお見合い相手である塚井さんにも。」
「……何!?」
陽太は再び、国明を見る。
国明は、不思議そうに陽太を見る。
◆◇
そう、大門が真相に気付いた後で、旅館の食堂にいた国明と塚井の下に行った時。
大門は彼らに、所謂"これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明”が終了したことを告げる。
しかし、大門は塚井と国明にはそれだけ告げ、後は詳しく話さないまま。
二人を食堂に残して立ち去ったのだった。
「ち、ちょっと九衛門君! 何を」
「すみません……これは、国明さんと塚井さんには」
「えっ……?」
実香や日出美、妹子ら女性陣はこのことに、大きく戸惑ったが。
大門は、彼女らにも事件の真相は話した上で塚井と国明への口止めをお願いした。
その上で、自分が犯人と対峙している時には塚井の側にいてやってほしいともお願いしており、今塚井は旅館にて女性陣に付き添われている。
◆◇
「……後は、あなたの口から国明さんに話して下さい。」
「し、しかし……」
陽太は、国明から目を逸らす。
会わせる顔がない、とも言いたげだ。
「もう、国明さんも立派な大人です。……後は、彼自身に決めさせてあげてください。」
「……うむ、ありがとう……」
陽太は涙ぐむ。
国明はそんな陽太に、ゆっくりと歩み寄る。
「……国明。」
「うん、父さん。」
「……話したい、ことがあるんだ。」




